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第二部
5.KingのK
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*誤字脱字訂正しました&ちょっと加筆しました*
********************************************
急な仕事でデートをキャンセルしたいと東条さんに謝罪のメールを送った翌日。
いつも通り9時に事務所に到着すると、中から瑠璃ちゃんの叫び声が聞こえてきた。ゴキブリでも出たのだろうか。
疑問符を浮かべながらそろりと扉を開ける。
「おはようございまー・・・」
中を窺って最初に目に飛び込んできたのは、黒いソファに悠々と座りコーヒーをご馳走になっているゴシックパンクな服装の男。そして目をハートにさせて頬を紅潮させている瑠璃ちゃんだ。今にも感極まって泣きそうなくらい傍目からわかるほど瑠璃ちゃんは憧れの人を見る顔をしている。そして私が入ってきたことに気付くと、すかさず小走りで走ってきた。瑠璃ちゃんよ、ヒールで走るのは危ないぞ。
「麗さん~!あああ・・・!」
「うん、落ち着こうね瑠璃ちゃん」
緊張と動揺のしすぎで呼吸困難に陥りそうな瑠璃ちゃんをなだめると、勢いよく後ろを振り向いてから再び私に向き合った。
「AddiCtのKが・・・!!キングのKがいます~!!」
きゃー!と両頬を手で覆いながらかわいく悲鳴を上げる姿は、まさしくファンと呼べるだろう。そういえば瑠璃ちゃんのミーハー魂をすっかり忘れていた。彼女はアイドルが好きすぎて隠し撮りやらいろいろ公には自慢できないスキルを身につけたんだっけ。身近なアイドルはクラスの人気者や学校に一人はいる有名なイケメン。そしてバイトを始めてからはインディーズバンドにハマり、今はおっかけ活動は彼氏もいるし仕事もあるしで休止している。そこで培われた技術はなかなか使えるけど、使いようによっては犯罪すれすれだよね・・・。
そしてキングのKとはK君の呼び名である。後から知ったんだけど、どうやらAddiCtのメンバー名はそれぞれトランプと同じアルファベットを使っているらしい。すなわち、キングのKにクイーンのQ、ジャックのJにエースのA。この4名がバンドメンバーだ。ちなみにジャックにはジョーカーの意味もあるとか(全て瑠璃ちゃん情報)。それぞれベースやキーボード、ドラムを担当し、ボーカルのK君はギターも弾く。歌いながら楽器も演奏するとか私には無理だわ。どっちか一つでいっぱいいっぱいになるよ。
「おはよう麗。土曜ぶり」
カチャン、とコーヒーをソーサーに戻したK君がソファから立ち上がった。
「土曜ぶりー・・・って、何でいるの?K君。」
黒と白のモノクロを基調としたゴスパンな格好のK君は、ここらへんではそこそこ目立つだろう。ここは原宿じゃないし、いくら顔を帽子やサングラスで隠してもアイドルのオーラは遠目からでも目立つ。サングラスを外したK君の瞳は今日は黒だった。この前の紫のカラコンはつけていないようだ。そういえばメッシュもいれていない・・・1週間以内に髪を真っ黒に染めたようで、何だか鴉みたいだと思ってしまった。
そしてこのマイペースなアイドルに流されないようちゃんと話の主導権は握らないと。きっと困ったことになる予感がひしひしとする。まずは何しに来たか説明してもらわねば。
「ちょっと麗さん!AddiCtのKにタメ語ですか!?しかも名前呼び・・・なんてうらやましい~!」
今にもずるいと罵られそうな中で、K君が一言「コーヒーありがとう。おいしかったよ」と瑠璃ちゃんに声をかけた。その言葉に感激した瑠璃ちゃんは、満面の笑みでこくこく頷いている。ああ、もう声も出ないのか。
私はK君の前に置かれたもうひとつのカップに気付いた。カップが二つってことは、もしかしてそれは鷹臣君の?はて、それなら彼はいまどこにいるのだろう。
「ここの室長なら今電話入ったから席はずしてるよ」
相変わらず人の心を正確に読むスキルに長けているK君は、あっさりと私の質問に答えてくれた。だからね、人の心の声を勝手に読んではいけないって。
「まあいいや。それでK君は何か私に用?」
バッグをデスクに置いて、ソファへに近付く。応接室じゃなくてそもそもなぜ事務所のソファに座っているのだろう?そこは私達が寛ぐ用で、客用のソファは応接室にあるのに。
疑問に答えてもらう前に扉が開き、鷹臣君が姿を現した。相変わらずワイルドな美形だと我が従兄ながら一瞬目を奪われそうになる。三十路を過ぎた男の人は女子高生から見たら十分おじさんだというのに、鷹臣君は発言はオヤジだけど見た目は若い。実はちゃんと腹筋も割れているし、鍛えられた体躯と鋭い眼差しから大人の色気が漂うのか、よく美女を引き連れて虜にしているのをちゃんと知っている。仕事とか言ってたけど本当かどうか怪しい。
って、私三十路を過ぎたらおじさんなんて言ったけど、それは東条さんにも当てはまるのか!?いやいや、東条さんは若いよ!全然鷹臣君なんかよりオヤジじゃないよ!30にも見えないし、それに司馬さんなんて35歳だけど寡黙でストイックな雰囲気がセクシーって小鳥さんが騒いでいた。
「・・・麗。お前何か俺に対して失礼なこと考えただろ」
「え!?やだな、何言ってるのさ鷹臣君。女子高生からしたら三十路を過ぎればおっさんなのかなって考えてただけで、世間一般に鷹臣君が当てはまるかどうかは自分次第・・・痛い、いひゃひゃ!」
バイオレンス反対!
頬を思いっきりひっぱられた。くそ、鷹臣君め、自分がおっさんだという自覚があるから怒るんだな。
「話の途中で悪かったな。それで麗来たから用件聞かせてもらえるか」
ボスン、とソファに座った鷹臣君の真向かいにK君が再びソファに座る。私邪魔か?とも思ったけど、すぐに座るように促された。なるほど、やっぱり私も当事者ですか。
「うん。麗一日レンタルしてもいい?」
「いいぞ」
間髪をいれずに鷹臣君があっさりと了承した。って、ちょっと待ったあ!!
「おかしいでしょその流れ!理由も聞かずにOK出すボスがどこにいるのさ!?」
レンタルって私はDVDか何かか。
しかも私本人に直接訊くならまだしも、何故鷹臣君が私の了承を訊かずに即答する。納得いかない!
「麗。今更俺に普通やら世間一般の常識を求めんじゃねーよ。手遅れだから」
「そこはえばれないよね!?」
ダメだ!この人は話にならん。
私は斜向かいに座るK君に直接訊ねた。
「で、一日レンタルしてどうするの?私、結構高いわよ」
足を組み返して不敵に微笑みながら大人の魅力アピール・・・って、鷹臣君。隣から呆れと憐れみに似た眼差しやめてくれない?微妙に傷つくから。
「大したことじゃないけどね。ちょっと人手が足りなくなって。急に悪いんだけど、うちのPV出てくれない?」
「は?PV?」
プロモーションビデオって、あれか?カラオケとかでも良く見るよね。メンバーが歌いながらどこかで撮影を撮ってて・・・って、ちょっと待て。今それに出ろって言った?
「無理。幻聴じゃなかったら撮影に出ろって言われた気がするけど無理って言っておく!」
手をバツにして拒否る。そんな君達人気バンドのPVに一般人で普通の凡人が出るものじゃないよ!恥をかくのは君達だ。そして私の黒歴史にもなりえる。それはごめんだ。
「幻聴じゃないけど。大丈夫、出るといってもエキストラの一人だから。台詞も勿論ないし、ただその場にいるだけで」
「エキストラ?なら同じ事務所の新人さんとかもっと出たい人たくさんいるんじゃない?わざわざ私を誘わなくても」
むしろ皆さん大興奮してボランティアしてくれるでしょう。ギャラなしでもいいから生で歌声聴いて近くでメンバーを拝見したいってファンなら思うはず。新人なら顔が売れるいいチャンスだ。私がそのチャンスを潰してしまうのはやっぱり気が引ける。
「丁度予定が入ってたり時間が合わないんだよ。それに全く知らない人間を使うのは嫌だし、たまたま社長に麗のこと言ったら是非会って見たいって興味持っちゃって」
だから誘いに来たんだよね。
ずず、と熱々のコーヒーを飲んだK君は淡々と語った。何て迷惑なことをしてくれたんだ。私に興味をもつのは勝手だけど、巻き込まれるのは困る!
「何躊躇ってんだお前。演技の勉強したいってずっと言ってたじゃねーか。いいチャンスだろ」
「それはそうかもしれないけど!勉強するのといきなりカメラの前に出るのは別でしょ!?急に言われても無理だって」
「台詞がないんなら問題ないだろ。貴重な経験が出来るのに何を躊躇う必要がある?」
尤もな意見に思わず声が詰まる。確かに誰でも体験できるわけじゃないし、生の撮影現場を見れるなんてかなりレアだ。演技の勉強をしたいのは事実。万が一の時はったりも通用するように、ちょっとくらい勉強したいと思ったのはこの前のテロ事件より前からだ。
私がそれでも踏み切れないでいると、K君が「そういえば」と話を変えた。
「あの東条さんとはあれからどうなったの。仲良くなった?」
いきなり話が飛んだ。何てマイペースなんだ、K君は。
「うん、まあ一応・・・?」
顔がにやけそうになるのを堪える。聞いて欲しいけど訊かれるのも恥ずかしい。
「へえ。良かったね。恋人同士になれて」
「ありがとー。恋人っていうかもう(仮)婚約しちゃったんだけど」
「は?何その(仮)って。結婚を前提に付き合うのとどう違うの」
うん、そこだよね。結婚前提のお付き合いでも同じだと思うよ、私も。
「恋人以上、婚約未満?結婚するか同棲するかって言われて、流石に同棲は弟いるし無理でしょ。でも交際期間なしで結婚も躊躇うし、かと言っていきなり婚約もどうかと・・・」
「だから(仮)がつくのね」
その通りでございます。
呆れたような驚いたような顔をしたK君はすぐに興味深げに瞳を細めた。頬杖してふーんと呟きながら私をじっと見つめる。
「マジでテントウムシのサンバ歌うのがすぐになりそうだね。楽しみにしててよ」
結婚式ソングで有名と教えてもらったのでK君の言っている意味がようやくわかった。思わず顔が赤くなる。どこか非現実的な結婚が、式を挙げるって想像しただけでこう・・・何だろう、やっぱりちょっと恥ずかしいって言うか!何気に純白なウエディングドレスは乙女共通の夢だと思う。タキシードを着た東条さんを想像しただけでかっこよすぎて悶えそうになるよ。
「それなら尚更その東条さんを捕まえておく為に、うちのPV出てよ」
いきなり話が戻った。尚更でどうしてその結論になるのか意味がわからない。
「付き合い始めでラブラブでも、いつトンビが現れて油揚げ攫われるか分からないよ?好きな人のためにも自分磨きを怠ったらダメだと思うな」
ちょっと待て。誰がトンビで油揚げだ。
「自分磨きって・・・内面と外見って事?」
身だしなみに気をつけて、知識や教養ももっと身につけろって事?
今一何が言いたいのかピンとこない私は訝しむ。
「見た目だけじゃなくてね。輝いている人って積極的にいろんな経験をしている人が多いよね。そういう人には自然と目がいっちゃう物なんだよ。麗が新しいことにチャレンジしてがんばる姿は輝く人に近付くんじゃないの?」
私がキラキラした人になるにはいろんな経験が必要で、臆せずチャレンジする私に東条さんは惚れ直してくれる、そーゆー事?
・・・それはちょっと、魅力的かも・・・。
真剣に考え込んだ私にK君は「そろそろ時間がだから行くね」と言ってソファから立ち上がった。
「まだ時間はあるから考えておいて。日曜の朝までに返事頂戴。撮影は来週の火曜だから」
帽子を被ってジャケットを着たK君が手を振りながら去っていく。机の上にいつの間にか置かれていた彼のプライベートな名刺を手にとって、私は鷹臣君に話しかけられるまでじっと連絡先を眺めていた。
************************************************
K再登場です。そして彼もまた自分の思い通りに相手を振り回す子のようです・・・そんなキャラばっかりですみません(汗)
補足ですが、麗の事務所日は火&木、東条セキュリティー出社日は月・水・金です。基本はこの3日で、たまにずれますが。何故月水金かと言うと、週末前と週末明けの合計4日間、白夜が麗に会いたいからだけです(笑)
*レンタルビデオからDVDに変更しました。さすがに今時ビデオはないかな、と(汗)
引き続き誤字脱字の報告をよろしくお願いします♪
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急な仕事でデートをキャンセルしたいと東条さんに謝罪のメールを送った翌日。
いつも通り9時に事務所に到着すると、中から瑠璃ちゃんの叫び声が聞こえてきた。ゴキブリでも出たのだろうか。
疑問符を浮かべながらそろりと扉を開ける。
「おはようございまー・・・」
中を窺って最初に目に飛び込んできたのは、黒いソファに悠々と座りコーヒーをご馳走になっているゴシックパンクな服装の男。そして目をハートにさせて頬を紅潮させている瑠璃ちゃんだ。今にも感極まって泣きそうなくらい傍目からわかるほど瑠璃ちゃんは憧れの人を見る顔をしている。そして私が入ってきたことに気付くと、すかさず小走りで走ってきた。瑠璃ちゃんよ、ヒールで走るのは危ないぞ。
「麗さん~!あああ・・・!」
「うん、落ち着こうね瑠璃ちゃん」
緊張と動揺のしすぎで呼吸困難に陥りそうな瑠璃ちゃんをなだめると、勢いよく後ろを振り向いてから再び私に向き合った。
「AddiCtのKが・・・!!キングのKがいます~!!」
きゃー!と両頬を手で覆いながらかわいく悲鳴を上げる姿は、まさしくファンと呼べるだろう。そういえば瑠璃ちゃんのミーハー魂をすっかり忘れていた。彼女はアイドルが好きすぎて隠し撮りやらいろいろ公には自慢できないスキルを身につけたんだっけ。身近なアイドルはクラスの人気者や学校に一人はいる有名なイケメン。そしてバイトを始めてからはインディーズバンドにハマり、今はおっかけ活動は彼氏もいるし仕事もあるしで休止している。そこで培われた技術はなかなか使えるけど、使いようによっては犯罪すれすれだよね・・・。
そしてキングのKとはK君の呼び名である。後から知ったんだけど、どうやらAddiCtのメンバー名はそれぞれトランプと同じアルファベットを使っているらしい。すなわち、キングのKにクイーンのQ、ジャックのJにエースのA。この4名がバンドメンバーだ。ちなみにジャックにはジョーカーの意味もあるとか(全て瑠璃ちゃん情報)。それぞれベースやキーボード、ドラムを担当し、ボーカルのK君はギターも弾く。歌いながら楽器も演奏するとか私には無理だわ。どっちか一つでいっぱいいっぱいになるよ。
「おはよう麗。土曜ぶり」
カチャン、とコーヒーをソーサーに戻したK君がソファから立ち上がった。
「土曜ぶりー・・・って、何でいるの?K君。」
黒と白のモノクロを基調としたゴスパンな格好のK君は、ここらへんではそこそこ目立つだろう。ここは原宿じゃないし、いくら顔を帽子やサングラスで隠してもアイドルのオーラは遠目からでも目立つ。サングラスを外したK君の瞳は今日は黒だった。この前の紫のカラコンはつけていないようだ。そういえばメッシュもいれていない・・・1週間以内に髪を真っ黒に染めたようで、何だか鴉みたいだと思ってしまった。
そしてこのマイペースなアイドルに流されないようちゃんと話の主導権は握らないと。きっと困ったことになる予感がひしひしとする。まずは何しに来たか説明してもらわねば。
「ちょっと麗さん!AddiCtのKにタメ語ですか!?しかも名前呼び・・・なんてうらやましい~!」
今にもずるいと罵られそうな中で、K君が一言「コーヒーありがとう。おいしかったよ」と瑠璃ちゃんに声をかけた。その言葉に感激した瑠璃ちゃんは、満面の笑みでこくこく頷いている。ああ、もう声も出ないのか。
私はK君の前に置かれたもうひとつのカップに気付いた。カップが二つってことは、もしかしてそれは鷹臣君の?はて、それなら彼はいまどこにいるのだろう。
「ここの室長なら今電話入ったから席はずしてるよ」
相変わらず人の心を正確に読むスキルに長けているK君は、あっさりと私の質問に答えてくれた。だからね、人の心の声を勝手に読んではいけないって。
「まあいいや。それでK君は何か私に用?」
バッグをデスクに置いて、ソファへに近付く。応接室じゃなくてそもそもなぜ事務所のソファに座っているのだろう?そこは私達が寛ぐ用で、客用のソファは応接室にあるのに。
疑問に答えてもらう前に扉が開き、鷹臣君が姿を現した。相変わらずワイルドな美形だと我が従兄ながら一瞬目を奪われそうになる。三十路を過ぎた男の人は女子高生から見たら十分おじさんだというのに、鷹臣君は発言はオヤジだけど見た目は若い。実はちゃんと腹筋も割れているし、鍛えられた体躯と鋭い眼差しから大人の色気が漂うのか、よく美女を引き連れて虜にしているのをちゃんと知っている。仕事とか言ってたけど本当かどうか怪しい。
って、私三十路を過ぎたらおじさんなんて言ったけど、それは東条さんにも当てはまるのか!?いやいや、東条さんは若いよ!全然鷹臣君なんかよりオヤジじゃないよ!30にも見えないし、それに司馬さんなんて35歳だけど寡黙でストイックな雰囲気がセクシーって小鳥さんが騒いでいた。
「・・・麗。お前何か俺に対して失礼なこと考えただろ」
「え!?やだな、何言ってるのさ鷹臣君。女子高生からしたら三十路を過ぎればおっさんなのかなって考えてただけで、世間一般に鷹臣君が当てはまるかどうかは自分次第・・・痛い、いひゃひゃ!」
バイオレンス反対!
頬を思いっきりひっぱられた。くそ、鷹臣君め、自分がおっさんだという自覚があるから怒るんだな。
「話の途中で悪かったな。それで麗来たから用件聞かせてもらえるか」
ボスン、とソファに座った鷹臣君の真向かいにK君が再びソファに座る。私邪魔か?とも思ったけど、すぐに座るように促された。なるほど、やっぱり私も当事者ですか。
「うん。麗一日レンタルしてもいい?」
「いいぞ」
間髪をいれずに鷹臣君があっさりと了承した。って、ちょっと待ったあ!!
「おかしいでしょその流れ!理由も聞かずにOK出すボスがどこにいるのさ!?」
レンタルって私はDVDか何かか。
しかも私本人に直接訊くならまだしも、何故鷹臣君が私の了承を訊かずに即答する。納得いかない!
「麗。今更俺に普通やら世間一般の常識を求めんじゃねーよ。手遅れだから」
「そこはえばれないよね!?」
ダメだ!この人は話にならん。
私は斜向かいに座るK君に直接訊ねた。
「で、一日レンタルしてどうするの?私、結構高いわよ」
足を組み返して不敵に微笑みながら大人の魅力アピール・・・って、鷹臣君。隣から呆れと憐れみに似た眼差しやめてくれない?微妙に傷つくから。
「大したことじゃないけどね。ちょっと人手が足りなくなって。急に悪いんだけど、うちのPV出てくれない?」
「は?PV?」
プロモーションビデオって、あれか?カラオケとかでも良く見るよね。メンバーが歌いながらどこかで撮影を撮ってて・・・って、ちょっと待て。今それに出ろって言った?
「無理。幻聴じゃなかったら撮影に出ろって言われた気がするけど無理って言っておく!」
手をバツにして拒否る。そんな君達人気バンドのPVに一般人で普通の凡人が出るものじゃないよ!恥をかくのは君達だ。そして私の黒歴史にもなりえる。それはごめんだ。
「幻聴じゃないけど。大丈夫、出るといってもエキストラの一人だから。台詞も勿論ないし、ただその場にいるだけで」
「エキストラ?なら同じ事務所の新人さんとかもっと出たい人たくさんいるんじゃない?わざわざ私を誘わなくても」
むしろ皆さん大興奮してボランティアしてくれるでしょう。ギャラなしでもいいから生で歌声聴いて近くでメンバーを拝見したいってファンなら思うはず。新人なら顔が売れるいいチャンスだ。私がそのチャンスを潰してしまうのはやっぱり気が引ける。
「丁度予定が入ってたり時間が合わないんだよ。それに全く知らない人間を使うのは嫌だし、たまたま社長に麗のこと言ったら是非会って見たいって興味持っちゃって」
だから誘いに来たんだよね。
ずず、と熱々のコーヒーを飲んだK君は淡々と語った。何て迷惑なことをしてくれたんだ。私に興味をもつのは勝手だけど、巻き込まれるのは困る!
「何躊躇ってんだお前。演技の勉強したいってずっと言ってたじゃねーか。いいチャンスだろ」
「それはそうかもしれないけど!勉強するのといきなりカメラの前に出るのは別でしょ!?急に言われても無理だって」
「台詞がないんなら問題ないだろ。貴重な経験が出来るのに何を躊躇う必要がある?」
尤もな意見に思わず声が詰まる。確かに誰でも体験できるわけじゃないし、生の撮影現場を見れるなんてかなりレアだ。演技の勉強をしたいのは事実。万が一の時はったりも通用するように、ちょっとくらい勉強したいと思ったのはこの前のテロ事件より前からだ。
私がそれでも踏み切れないでいると、K君が「そういえば」と話を変えた。
「あの東条さんとはあれからどうなったの。仲良くなった?」
いきなり話が飛んだ。何てマイペースなんだ、K君は。
「うん、まあ一応・・・?」
顔がにやけそうになるのを堪える。聞いて欲しいけど訊かれるのも恥ずかしい。
「へえ。良かったね。恋人同士になれて」
「ありがとー。恋人っていうかもう(仮)婚約しちゃったんだけど」
「は?何その(仮)って。結婚を前提に付き合うのとどう違うの」
うん、そこだよね。結婚前提のお付き合いでも同じだと思うよ、私も。
「恋人以上、婚約未満?結婚するか同棲するかって言われて、流石に同棲は弟いるし無理でしょ。でも交際期間なしで結婚も躊躇うし、かと言っていきなり婚約もどうかと・・・」
「だから(仮)がつくのね」
その通りでございます。
呆れたような驚いたような顔をしたK君はすぐに興味深げに瞳を細めた。頬杖してふーんと呟きながら私をじっと見つめる。
「マジでテントウムシのサンバ歌うのがすぐになりそうだね。楽しみにしててよ」
結婚式ソングで有名と教えてもらったのでK君の言っている意味がようやくわかった。思わず顔が赤くなる。どこか非現実的な結婚が、式を挙げるって想像しただけでこう・・・何だろう、やっぱりちょっと恥ずかしいって言うか!何気に純白なウエディングドレスは乙女共通の夢だと思う。タキシードを着た東条さんを想像しただけでかっこよすぎて悶えそうになるよ。
「それなら尚更その東条さんを捕まえておく為に、うちのPV出てよ」
いきなり話が戻った。尚更でどうしてその結論になるのか意味がわからない。
「付き合い始めでラブラブでも、いつトンビが現れて油揚げ攫われるか分からないよ?好きな人のためにも自分磨きを怠ったらダメだと思うな」
ちょっと待て。誰がトンビで油揚げだ。
「自分磨きって・・・内面と外見って事?」
身だしなみに気をつけて、知識や教養ももっと身につけろって事?
今一何が言いたいのかピンとこない私は訝しむ。
「見た目だけじゃなくてね。輝いている人って積極的にいろんな経験をしている人が多いよね。そういう人には自然と目がいっちゃう物なんだよ。麗が新しいことにチャレンジしてがんばる姿は輝く人に近付くんじゃないの?」
私がキラキラした人になるにはいろんな経験が必要で、臆せずチャレンジする私に東条さんは惚れ直してくれる、そーゆー事?
・・・それはちょっと、魅力的かも・・・。
真剣に考え込んだ私にK君は「そろそろ時間がだから行くね」と言ってソファから立ち上がった。
「まだ時間はあるから考えておいて。日曜の朝までに返事頂戴。撮影は来週の火曜だから」
帽子を被ってジャケットを着たK君が手を振りながら去っていく。机の上にいつの間にか置かれていた彼のプライベートな名刺を手にとって、私は鷹臣君に話しかけられるまでじっと連絡先を眺めていた。
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K再登場です。そして彼もまた自分の思い通りに相手を振り回す子のようです・・・そんなキャラばっかりですみません(汗)
補足ですが、麗の事務所日は火&木、東条セキュリティー出社日は月・水・金です。基本はこの3日で、たまにずれますが。何故月水金かと言うと、週末前と週末明けの合計4日間、白夜が麗に会いたいからだけです(笑)
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