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第十四話 人助けで魔道具を得る
しおりを挟む「本当に、本当にありがとうございました!」
「いやいや、たまたま通り掛かっただけじゃよ」
助けた彼女が、深く頭を下げてお礼をしてくれた。
謝る度に栗色のポニーテールが上下に激しく揺れている様が、見ていて本当に面白かった。
「私はアンナっていいます。アンナ・バルフェルトです。お名前をお伺いしてもいいですか?」
「儂は、リューゲン・サイトーという」
「リューゲンさんですね、変わったお名前ですね! 後口調もおじいさんみたいです!」
「よく言われるよ」
アンナという少女から、満面の笑みが溢れた。
うん、やはり女性は笑顔が素晴らしいの。
顔立ちは幼さが残っているが、元気一杯といった感じの笑顔がとても好感が持てた。
「でもリューゲンさん、よくアルカナがゼロでこれに勝てましたね?」
アンナが地面で気絶している、先程儂が倒した男を指差した。
これこれ、人を指で指すんじゃありません。
そして、儂のアルカナがゼロだと知ると、周囲からどよめきが上がった。
「そんな、馬鹿な」とか「アルカナの差は絶対なのに、ゼロで秒殺……?」等と言っていた。
儂は人間が行う事に絶対は存在していないという考えじゃから、放つスキルにも必ず欠点や弱点があって、見切れぬものは存在しないと思っている。
儂の技量に対する自信は、五十年以上も磨き上げた我が流派があるからじゃけどな。
さて、この子の問いには適当に答えるか。
「何もさせなきゃ良いだけじゃよ」
「……その何もさせないというのが、普通出来ないんですけど」
そうかのぉ?
しっかりと鍛練を積んでいれば、この世界の人間だったら誰でも出来そうな気がするが。
少しアルカナやスキル、魔法に捕らわれすぎていて、対策方法を疎かにしている傾向にあるようじゃな。
だが、これ以上説明しても世界の常識を覆すのは簡単ではないとわかっている為、それ以上は言わなかった。
「そうだ、リューゲンさん! 是非よかったら私の露店の商品をプレゼントさせてください」
「いやいや、そんな事せんでもええよ」
「だめです! 私の気が収まりません! さ、行きましょ!」
アンナが儂の手首を掴んで、引っ張りながら歩き始める。
何というか、思い立ったら猪突猛進な性格なんじゃろうな。
「こ、これ! そんなに急かすでない!」
急かすなと言っても減速せずにそのまま早歩きで進むアンナ。
結構せっかちでもあるのかもな?
歩く事一分で、彼女の露店に到着した。
こじんまりとした露店に、幼い男の子が立っている。
店番なのだろうか?
「アーク、ただいま!」
「姉ちゃん、遅いぞ! どうせまた買い食いしてたんだろ」
「今回はしてないって!」
「……今回?」
「やべっ」
どうやらこの二人は姉弟のようじゃな。
しかし、姉より弟の方がしっかりしているように見える。
いや、恐らく事実じゃな。
「で、姉ちゃん。そこの男性は誰? 姉ちゃんの彼氏――な訳ないか」
「ちょっと、なんで違うってなるのよ!」
「だって、ガサツな姉ちゃんに、そんな格好いい人が彼氏になる訳がないしね!」
「アーク、ちょっと表に出なさい」
「もうここは表なんだけどねぇ」
「その減らず口、塞いでやる!!」
アンナの弟のアーク、こやつの方が口は上手いようだ。
ただ、仲が悪いようには感じない為、これがこの二人の平常運転なやりとりなんだろうなと思った。
しかしこのままだとこの二人のやりとりを見るだけで、無駄に時間が過ぎていってしまう。
儂はアンナのポニーテールを握って引っ張った。
すると、アンナの口から「ぐえっ」という声が漏れた。
「何するんですか、リューゲンさん!」
「喧嘩は後でやってくれぬか? 儂に何かくれるのじゃろう?」
「この男性、じいちゃんみたいな喋り方で面白いな!」
ああ、なかなか話が進まぬのう。
面倒な人種に関わってしまった。
「リューゲンさん、私達の露店は《魔道具屋》なんです!」
「魔道具……」
確か、弟子から借りた漫画で見た事があるな。
魔法の力が込められた道具、だったかな?
そんな大層高価そうな物を露店で販売しているのか。
陳列されている商品を見てみると、指輪の形をしている物があったり、ネックレスだったりと、アクセサリーの形をしている物が多く飾られていた。
商品の隣に値札らしき紙が置いてあったので、ポケットから図書館で頂いた五十音と数字が書かれたメモを取り出し、それを見ながら文字を読んだ。
すると、最低でも銀貨五枚。一番高い物では金貨二枚となっている。
なかなか高価なものだった。
「それで、助けてくれたお礼に、とっておきの魔道具を差し上げます!」
「うちの姉ちゃん、ガサツだけど魔道具作成に関しちゃなかなかの腕なんだぜ!?」
「ガサツって言うな!」
ほう、これらの商品は全てアンナの手作りか。
まだ若いのに頑張っているのだなぁ。
「それで、今回リューゲンさんへのプレゼントは、こちらです!」
「おい姉ちゃん! それ目玉商品だろ!!」
「いいの、怖い男から守ってくれたお礼です!」
「……はぁ。俺はしーらねっ!」
アンナに渡されたのは、銀色のネックレスじゃった。
一つ違うのは、赤い宝石のような物が付けられていた点。
宝石の奥で光が揺らめいていて、非常に不思議な感じがしている。
一目見ただけで、相当価値があるものだとわかる。
「いや、これは確かに素晴らしい貴金属じゃ。受け取れぬよ」
「気にしないでください! ちなみにこれも魔道具ですから!」
「ふむ、どんな効果なのかの?」
「効果は、別空間に制限なく持ち物を保存できる魔道具、その名も《収納空間》です!」
この世界、ちょいちょい英語が出てくるのぉ。
これは偶然なのか?
明らかに偶然ではない気がする。
しかし、制限なく持ち物を収納出来るのか。
青い狸ロボットが使っているポケットのようなものじゃな、きっと。
そう考えるとかなり有用な魔道具じゃな。
果たして、これはいくらの物だったのだろうか。
「アンナ、ちなみにこれはいくらなんじゃ?」
儂の問いに答えにくいのかモジモジしていると、アークが溜め息を付いて代わりに答えてくれた。
「白金貨一枚だ」
白金貨?
またわからぬ物が出てきたが、恐らく金貨より価値は上なのじゃろう。
もし手に入れる機会があったら、また価値を確認しよう。
兎に角、こんな高価なものは貰えない。
儂は突っ跳ね返そうとしたが、アンナも一歩も引かなかった。
そんな押し問答は長くは続かず、儂が折れる形となった。
「わかった。では有り難く頂くよ」
「はい! 本当にありがとうございました!」
儂は早速この魔道具を首にぶら下げて、手に持っていた本を赤い宝石の前に持っていった。
すると、赤い宝石にずるずる吸い込まれていき、完全に宝石の中へと入ってしまった。
「取り出す時は、宝石の前に手を置いた状態で収納されている物を想像して取り出すイメージをしてください。すると出ますよ! 元々ない収納物なら、何にも反応しません」
早速試してみたら、アンナの言う通り本が手元に出てきた。
これはかなり便利じゃな!
「有難う、アンナ。大事に使わせてもらうぞ」
「えへへへ」
アンナの嬉しそうな満面の笑顔が眩しい。
その笑顔が見れただけで、儂にとっては充分な報酬なのじゃがなぁ。
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