上 下
4 / 22

第四話 異世界の戦闘に遭遇

しおりを挟む

 外に出ると、草原が広がっていた。
 太陽が頭上に上がっているから、恐らくは十二時位なのじゃろうな。
 確か、さっきまでは夜だったはず。異世界は儂らの世界とは時間帯がずれているようじゃ。
 
「うぅむ、地平線まで草原ではないか……。しかも草が腰まで伸びておるから、歩くのは一苦労しそうじゃ」

 絹代さんの幽霊らしき物体によって突然異世界に放り込まれた儂は、後ろを振り返ってみた。
 部屋と思われたものは、木造の小屋であった。
 草原の中に不自然に建っているこの小屋、少し不気味にも感じる。
 見渡す限り草、草、草。木が一本も視界に入らぬ草原。
 儂はおもむろにポケットから絹代さんの手紙を取り出す。
 手紙の裏には、簡単な地図が書いてあった。
 小屋から出て真っ直ぐ進み、草原を抜けた先に鉱山周辺に出来た町があると言う。
 ちなみに、絹代さんの懐かしい字体で「草原に紛れて金品を巻き上げる盗賊がいるから、気を付けて下さいね? 貴方なら問題はないでしょうけど♪」と書かれていた。

「何故、草原で盗賊がおるんじゃ……」

 確かに腰まで草が伸びているから潜みやすいと思うが、こんな所に潜んでいても利点はないだろうに。
 いくら考えても疑問は拭えなかった故、儂は町を目指して歩き始めた。
 しかし草が体に絡み付いてなかなか動きにくいし、何より歩きにくい。
 簡易的な地図でしか書かれていないため、どれ位歩けば辿り着くかなんて皆目検討付かなかった。
 鉈等の刃物類は一切持ち合わせていないので、歩行速度はどうしても遅くなってしまう。
 だが、驚いた事に息が切れない。
 老体だからそろそろキツくなるだろうと思うたが、十五分程歩いたがまだまだ余裕がある。

 さらに歩く事約十五分。
 鉱山らしき山がようやく見えてきた。
 それでもまだ距離はある。これは気合いを入れて進まなければいけないようじゃ。
 すると、草原の中に作られて道に出た。
 石などで整備されておらぬが、人が四人並んで歩ける程度の広さに草を刈り取っており、足跡も無数付いている事から高い頻度で使用されている道だとわかる。
 ならば目的地の鉱山の町へ続く道を作ってくれればいいのにと、心の中で愚痴を溢した。

「ふぅ、流石にしんどいわ……。ちょっと休憩するかの」

 道の端にちょうど良い腰掛けになりそうな石が置いてあったので、儂は「どっこいしょ」と言いながら座った。
 
 ふぅ、異世界に来たおかげか、妙に身体が軽く感じる。
 まだ戸惑いはあるが、魔法やらスキルやらを使う強者と戦える世界なのだ。
 絶対、素晴らしい世界に決まっている。
 だがまずはこの世界に対する知識を入れないといけないから、とにかく人と交流せねばなるまいな。
 後は路銀も稼がねばならない。ならどのように稼げばいいかもしっかり把握しなくてはならない。

「まぁ、あのまま腐って死ぬより、スリリングな異世界を楽しむのもまた一興かの」

 風が吹く。
 あぁ、心地よい風じゃ。
 あぁ、そしてこの血の香りが――――

「血の香り!?」

 随分と久々に嗅いだこの独特の臭い。
 儂は風上に視線をやる。
 じっと見ると、道の向こう側で集団が何やら争っている様子。

「ふむ、ならば早速見学といこうかの」

 何の情報もなしに、いきなり戦いに乱入するのは愚の骨頂だ。
 情報無くして必勝も無し。特に魔法とスキルという、未知の存在があるのだ。勝つのであれば、それらを正確に知る必要がある。
 儂は戦いにおいては負けるつもりは一切ない。
 故にもし盗賊に襲われていて罪の無い人が犠牲になろうとも、自分が死んでしまっては本末転倒。
 ある程度の犠牲も覚悟で、まずは情報収集をする事にした。

 腰を低くして、足音を立てないように踵からゆっくり足裏全体で踏み締めるように歩く。
 呼吸は極力大きく吸わず、空気を吸う量を少なくして近付いていく。
 そうする事で気配は薄れ、気付かれにくくなる。
 草原の中を進むと、草の音で気付かれてしまう為に道を進む。
 徐々に争っている音が聞こえてくる。
 剣と剣が打ち合っている音、断末魔、叫び声。そして、爆発音。

「爆発音!? もしや、魔法というものか?」

 儂は歩を早める。
 そして、ようやく争っている所を明確に見える位置まで距離を詰める事が出来た。
 さてさて、魔法とスキルを是非とも見せてもらおうかの。

「はっはーっ!! さっさとその馬車を俺達に渡しな! じゃないと死んじゃうぜ!?」

「くそっ、今日に限って《赤鬼盗賊団》に襲われるとは……!」

 状況としては、馬車を囲んで三人の傭兵らしき人物が、西洋の両刃の剣――確か、ブロードソードと言ったかの?――を正眼――体の中心で剣を構える姿勢――の構えを取っている。彼らの足元には、恐らく事切れているであろう二つの死体が転がっていた。傭兵と同じ格好をしているから、彼らの仲間であろう。
 そしてさらに彼らを取り囲むように六人の赤いバンダナを巻いた、どう見てもゴロツキとしか思えない連中がいた。
 奴等は片手に短剣を持っており、いやらしい笑みを浮かべている。
 しかし奴等の足元にも三つの死体が転がっている事から察するに、この盗賊団の腕は大した事がないと伺えた。
 何故なら、人数的に不利な場合、相当な技量がない限りは袋叩きにあって一人も倒せずに殺されてしまう。
 しかしどうだ、盗賊団には犠牲者が出ているではないか。
 盗賊団が弱いのか、それとも傭兵達の方が強いのかはわからぬが、どちらにしてもこの盗賊団は大した事はない。

 すると、盗賊団の一人が三人の中で一番体格がいい傭兵に斬り掛かる。
 ついに、異世界での戦闘が見られる。
 儂の心は、未知の戦闘を見る事が出来る事実に歓喜していた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない… そんな中、夢の中の本を読むと、、、

無職で何が悪い!!―Those days are like dreams―

アタラクシア
ファンタジー
銀色の蝶が海辺を舞い、角の生えた狼が木を貪る。誰もが思い浮かべるようなファンタジーな世界。通称『ネリオミア』。これはそんな世界で巻き起こる、長くて壮大な冒険譚である――。 ちまちまと日銭を稼いで暮らしていた少女ヘキオン。突然失踪した父親を探すために旅を続けていたヘキオンだったが、ある日ウルフィーロードという魔物に襲われてしまう。 命の危機が眼前にまで迫った時――ヘキオンの前にある男が現れた。木の棒を携え、ウルフィーロードを一瞬で消し飛ばした男。その名は――カエデ。世界を揺るがす運命の出会いであった。 ひょんなことから一緒に冒険することとなったヘキオンとカエデ。道中で出会う様々な人々。そして強力な敵。 二人の旅はどうなっていくのか――。 ヘキオンの父親は見つかるのか――。 隠されたカエデの過去とは――。 ――摩訶不思議な冒険ファンタジーを刮目せよ。 毎日19時更新予定!

処理中です...