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第二章 冒険者活動編
第46話 田舎者弓使い、スポンサーを得る 其の二
しおりを挟むエリッシュの言葉が、すとんと胸に落ちた気がした。
村を出て二ヶ月だが、度々自身の知識のなさを痛感させられていた。
常識という点もそうだが、自分が知らない事が一気に押し寄せてきて、受け止められずにいた。
ではどうやったら知識を身に付けられるか、それがどうしてもわからなかったのだ。
もがけばもがく程絡まってくる蜘蛛の糸かの如く、どんどんジレンマに陥っていく。
だが、自分の弓の腕なら何とかなるだろうと、なあなあで今日まで来てしまっていたのだろう。それを痛感したのが、ハリーとの試合だった。
今の自分は、頭打ちなのだ、と。
リュートは学校の存在も知らず、リュートが住んでいた村以外の人間は、大抵は大小関わらず学校が用意されていて最低限の教育を受ける。
リュートの場合は文字書き以外は全て、狩りの事を全て費やしてきていた。
それは村でなら通用するのだが、こうやって外の世界に出て上を目指すなら、今のリュートだと完全に頭打ちなのだ。
エリッシュは、最大の弱点である知識の部分を支援してくれると言っている。
まさにリュートにとっては渡りに船だ。
これは乗っかるしかない。
「……エリッシュはどう支援してくれるだ?」
「今現在の私の考えでは、私の部下に講師経験がある者がいるので、それを君に貸し与えよう。噂で聞いたのだが、君は王国兵士を目指しているんだよね?」
「んだ」
「なら、約十ヶ月後に王国兵士の試験があると考えたら、基本的毎日勉強しないと身に付かないと思う。仕事が終わった後、夜でもいいから寝る前まで勉強をするというサイクルを、毎日続けるんだ」
つまり、それ程やらないと王国兵士にはなれない。
そう言われているように感じた。
実際にはそうかもしれない。
リュートも「王国兵士には大学並みの知識が求められる」という話には聞いていたが、そもそも大学がどのレベルなのかもわからないので、話を聞いてもあまり納得は出来ていなかった。
しかし、十ヶ月間毎日勉強しないといけない程に知識が求められると聞いて、ようやく納得が出来た。
紅茶を楽しむ等の自分の時間を殺してでも知識を詰め込まないと、王国兵士にはなれないのだと、今気が付いた。
そして、そこでようやくリュートの中に危機感が生まれた。
「正直冒険者の仕事は過酷だと思う。仕事が終わった後、息抜きでもしないと気が休まらないだろう。しかし、君の場合は王国兵士になりたいという夢がある。ならば、最短で王国兵士を目指すなら、息抜きすらしている時間はないのだよ、君の場合はね」
「……そっか」
「それを踏まえた上で、決めてほしい。かなり厳しいし辛いよ、勉強は。それを毎日やる覚悟はあるかい?」
エリッシュの問いに、リュートは少し考える。
勉強というものがどれだけ辛いのかは全くわからないが、それでも夢は捨てきれない。
王国一の弓使いの証でもある聖弓を自分の物にしたい、この野望は日々膨れ上がっている。
王国兵士になるというのは、聖弓を得る為の通過点でしかないのだが、その通過点に入るのもまた難しい。
王国兵士というのは、それ程までに高い能力を求められているのだ。
なら、血反吐を吐いてでも、この話に乗るしかない。
リュートはエリッシュの目を真っすぐ見ながら、言った。
「エリッシュ、オラのスポンサーになってほしいだよ」
「……私好みの、いい眼だっ!」
エリッシュは右手を差し出してくる。
リュートはその手を右手で取り、固い握手をする。
こうして、リュートの弱点を補ってくれるパートナーが今、誕生した。
当然、エリッシュにも他にも思惑があるのだろう。
それを踏まえてでもリュートにはメリットしかない。
ここからは詳しい条件などを詰めていき、双方納得した上で書面で契約が結ばれた。
条件は以下の通り。
一.リュートに対して、全面的な大学レベルの知識支援を行う。
二.他の依頼がない限り、エリッシュの依頼を優先して欲しい。当然その依頼には別報酬を出す。
三.項目二の依頼に不満がある場合、断る権利をリュートは有している。また断ったからと言って、支援の打ち切りはしない。代わりに月に一度はエリッシュと面談をする事。
四.上記項目を違反した場合、違反者は冒険者ギルド立ち合いの元、金銭的罰則を受ける。
最後の項目四に関しては、主にリュートを守る為の項目で、エリッシュ側に対する負担が大きい。
だがそれ程までして、エリッシュはリュートの依頼優先権を得たかったのだ。
リュートは拇印を、エリッシュは銀で装飾された判子を書類に押し、その契約書は冒険者ギルド預かりとなり、無事契約が完了した。
「君はきっと、私の支援でもっと上へ行けるだろう。もしかしたら、最速で金等級に行けるかもしれない。いや、むしろそうあってほしいと願っているよ!」
帰り際、エリッシュにそのように言われた。
だから、リュートも返した。
「なら、なってみせるだよ」
リュートの返しに驚いた表情を見せつつ、エリッシュは満足げな笑顔を見せる。
「いいね、やはり冒険者はそれ位ギラついてないと! 最近の冒険者は見ていてつまらないからね」
そう言って、エリッシュは去っていった。
エリッシュが去った後、ハーレィは深い溜息を付いた。
「ふぅ、何とか話がまとまってよかったよ」
「んだな、オラにとっても非常にありがてぇ話だった」
「いや、そうじゃないんだ」
ハーレィはソファに腰掛け、語り始める。
「あの方は結構何度も冒険者に対してスポンサーに名乗り出た事はあったんだ」
「そうなんか?」
「ああ。だが、スポンサー契約に至ったのはリュート、君が初めてなんだよ」
「……それは、上を目指すっちゅう気概がないからかえ?」
「その通りだ。その度に『冒険者ギルドは、いつの間に冒険者をあんな保守的な考えにするようにしたんだ?』と言われ続けててね。リュートのおかげでようやく少し気が楽になったよ」
「ふぅん?」
確かにリュートから見て、上を目指す冒険者は非常に少ないなと感じていた。
最近だと《竜槍穿》や、多人数協力依頼で一緒になった《鮮血の牙》位だ。
後はその日の酒や娼館に行ける金が手に入ったらそれでいいという者ばかりだ。
だからリュートは敢えて、《竜槍穿》や《鮮血の牙》みたいな上昇志向のメンバーとしか、積極的に交流はしていない。
その為エリッシュの言い分には共感を覚えていた。
「さて、後二組スポンサーに名乗り出ている方達がいる。しかも今日面接希望だから、この後会ってもらうぞ」
「……まだ続くんけ?」
こうして、残り二組ともスポンサー契約を済ませ、合計三組のスポンサーを得る事となった。
知識を支援してくれるエリッシュ。
いつも通っていたカフェと王都一と言われている武器屋が、金銭面で支援してくれる事になった。
銀等級で、ここまでスポンサーが付いている冒険者はなかなかいない。
リュートは現段階で、王都中が注目している冒険者の筆頭株となったのだった。
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〇高い能力を求められる王国兵士
王国兵士になるには、学力・武力・礼儀が非常に重要視される。
少し前までは誰でもなれたのだが、素行が悪い者が非常に入って来てしまった為、最近になって高いハードルが設定された。
おかげで気楽に徴兵が出来なくなってしまったのだが、その反面能力が高いが故に兵士の損耗率が大幅に減ったのだ。
今獣人と小競り合いをしているが、王国兵士の質が非常に高い結果、死亡率が月に多くて五人程度で済んでいるし、素晴らしい時は死亡者ゼロの時もある。
また、実力で兵士になれている為、癒着や賄賂といった不正も滅多になくなったという実績もある。
更に学力を求めた事によって、災害時等で壊れた家屋を兵士がしっかり計算した上で設計・建築を行えるので、大工の手伝いも可能なのだ。
こうした事から、国民からは王国兵士は尊敬され、頼れる存在となっている。
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