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第二章 冒険者活動編
第37話 殲滅戦の後
しおりを挟む地獄の多人数協力依頼が終わって、約一週間が経った。
元々あの地獄の経験がある《竜槍穿》は、今でも精力的に活動をしている。
彼らは十分な資金が貯まったようで、メンバー全員が《ステイタス》持ちになった。
《竜槍穿》は更に上を目指しているらしく、《超越級》を視野に入れて依頼を沢山受けているようだ。
そしてダンジョンにも挑戦しているようで、今の所順調のようだ。
《鮮血の牙》と《ジャパニーズ》に関しては、この一週間姿を見ていない。
相当ショックだったのだろう、冒険者ギルドでは一切姿を見かけなかった。
そしてリュートに関しては、《竜槍穿》と同じく精力的に依頼を受けていた。
たまに《竜槍穿》のリーダーであるハリーと話をしたが――
「お前の心臓、強過ぎだろう……」
と、呆れが混じった乾いた笑いを浮かべていた。
リュートとしては既に割り切っていたので、立ち止まっている時間が勿体無いと思っていた。
経験点も十分に溜まってきたので、もう少しで銀等級に昇格出来るから自分の事を優先したのだ。
ある意味、自身を優先するドライな性格とも取れるだろう。
だが、リュートには王国兵士になって、国一番の弓使いになって聖弓を手に入れるという野望がある、正直精神的に疲弊しているが立ち止まっている暇はないのだ。
しかし、一つだけ変わった事がある。
リュートはあまっているゴブリン討伐の依頼は、積極的に受けるようになった。
正直経験点的にも報酬的にも、リュートにとっては雀の涙で、もっと酷く言えば遠回りをしている事になる。
だが、それでも構わなかった。
あのような惨状を事前に防止する為に、依頼の片手間でゴブリンを駆除していた。
このようなリュートの行いに、冒険者ギルドは彼にとてつもない感謝をしていた。
そして、ついに――
「リュートさん、おめでとうございます! 銀等級へ昇格する為の経験点が溜まりました! 明日から昇格試験を受けられますが、如何なさいますか?」
柔らかそうな金髪のセミロングを揺らし、頬を赤く染めつつ最上級の笑顔で受付嬢――彼氏なしの二十二歳、リュートを狙っている――が告げる。
受付嬢の言葉を聞いた、周囲にいた冒険者達が「おお」と感嘆の声を上げた。
「すげぇ、もう銀等級の試験受けられるのかよ」
「あいつが冒険者になってから、たった二ヶ月手前位だぜ? 本当凄すぎるぜ」
「流石は《孤高の銀閃》だな」
「俺も、ああなりたいものだ」
《孤高の銀閃》。
これが本人が知らない間に付けられた二つ名だ。
基本的に依頼で他パーティと一緒になる以外はソロで活動をし、放つ矢は銀の閃光の如く速く鋭く突き刺さる事から、このような二つ名になったのだった。
依頼達成率も一切失敗無し、むしろ依頼で求められている以上の成果を残す為、経験点の特別加算が増されている程だ。
同じ冒険者なら、憧れない訳がない。
その腕前もさる事ながら、田舎者丸出しの訛りを除けば非常に好感が持てる人柄の為、彼へ嫉妬心から来る喧嘩の吹っ掛け等は一切無くなっていた。
周囲の冒険者達が感嘆の声を漏らした後、静寂が空間を支配していた。
リュートの返答を皆、待っているのだ。
「勿論、受けるだよ。早い方がええから、明日で大丈夫だ!」
そしてリュートの迷いがない返答に、冒険者達の感嘆の声は先程より大きくなる。
もしかしたら、王都最速の銀等級昇格者が現れるかもしれない。
そんな歴史的瞬間に立ち会えるのだから、冒険者達も興味ありまくりだった。
「では、明日の正午に私の所に来てください。試験会場へご案内いたします!」
「ありがとお。あんたにゃいつもお世話になってるだ、本当ありがとお」
リュートから優しい微笑みを頂き、受付嬢は嬉しさのあまり気絶しそうになる。
だが、受付嬢もプロだ、気をしっかり持って踏ん張った!
「で、でわ、明日、お待ちしておりましゅぅ」
「……わかっただ(噛んだ?)」
急に蕩け切った表情をし始めた受付嬢に違和感を覚えつつ、リュートは立ち去る。
立ち去る際、リュートの凛々しい姿に多くの女冒険者達がよろけて立てなくなる位に魅了していく。
リュートは、無意識的に強烈なフェロモンを周囲にばら撒き、多くの女性を蕩けさせていったのだった。
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〇リュートのイケメン度
リュートは生まれつき容姿に優れている。
それだけではない、一緒に依頼を受ければ頼りになるし、卓越した技術や能力も兼ね備えている。
そして、気遣いも出来るし人柄も良い。
過去にイケメンに色々な意味で痛い目を見た女冒険者も、いつの間にか彼と関わる事で「リュート様」と言わせる位に蕩けさせてしまう程。
最初は田舎者丸出しの訛りに引っ掛かりがあるものの、その内全く気にしなくなる。
むしろ、彼の個性でもある。
今、女冒険者やギルド職員の女性全員が、リュートガチ恋勢だったりする。
男冒険者に関しては、あまりのモテ具合に嫉妬をしていたのだが、話してみると気さくで気遣いが出来る彼に対していつの間にか尊敬を抱くようになり、冒険者として憧れを抱くようになる。
更には、女性達から誘われていても断り、真摯に依頼を優先する姿は、まさに冒険者の鏡と言える存在だった。
リュートは、男女共に好かれる、真のイケメンなのだ(ショウマ、タツオミ談)。
だが、彼の女難は尽きない。
無意識的に惚れられているので、最近はリュートの精神は女性関係で摩耗していっている。
少しずつだが、女性に対して恐怖心が芽生えてきていた。
女性達のアピールは、悉く失敗しているのだ。
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