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第百七十三話 殺戮者モード!
しおりを挟む『二人は止まらない! まるで二つの赤髪が赤い閃光のようになって、舞台を縦横無尽に動き回り、敵をばったばったと倒していくぅ!』
『……いやはや、本当にあの二人は凄まじい。《猛る炎》は魔法を使えないにも関わらずあの強さですからね、尊敬します』
『しかし、ハル侯爵は誰一人操れなかったと言われるユニーク魔法を、自在に操っていますね! それも驚愕です!!』
『彼の場合、《猛る炎》程の純粋な地力は少し足りていないですが、魔法で補っていますし、何よりオリジナル魔法を生み出す発想力があります。それは十分にハル君の強さとなっています』
『なるほど!』
隊長さんから何やらそのような評価を頂いて、少しくすぐったい気持ちになるなぁ。
確かに剣の実力を見ると、俺は父さんに届いていない。
だけど、俺がここまで生き残れているのは、紛れもなく俺の音属性の魔法のおかげだ。
本当にこの魔法には感謝の言葉しかないわ。
「ハル!」
ふと、父さんが俺を呼ぶ。
「わかってるって!」
俺が一瞬考え事をしてぼーっとしていた所を攻撃しようと敵が俺に向かってきていたので、父さんが叫んだんだろう。
だが大丈夫、敵が近づいてきているのはサウンドボールで足音を拾っているから、しっかりと認識している。
「アーリア姫様は渡さぬ!!」
随分と豪華絢爛という言葉に相応しい、貴族らしい格好をしていらっしゃる。
戦いにくくないのかな?
相手は右手に持っている木剣を振り下ろしてきた。
俺は瞬間的に相手の懐に潜り自分の背中を相手の腹辺りに当てる。そして敵の右手を掴んで背負い、そのままの状態で一瞬体勢を低くして前屈みの状態になる。
すると、相手は俺を中心にして宙を舞い、そのまま地面に背中から叩きつけられた。
一本背負いだ。
「がはっ!?」
柔道だと相手が怪我をしないように腕を引っ張ったりして衝撃を和らげるが、今回は純粋な戦闘なので全力で叩きつけてやった。
相手は悶絶して立ち上がる事は出来ないようだ。
おっ、後ろから斬りかかろうとしている奴がいるな?
まぁ大丈夫なんだけどね!
「食らえぇぇぇぇっ!」
「させるか!!」
「ぐあっ!!」
尽かさず父さんが飛び蹴りを放って、敵を倒してくれた。
父さんのフォローが入るの、わかってたから対処しなかったんだけどね。
「ったく、俺の援護を期待してたな?」
「おう!」
「真面目にやれ。あまり数減らせてないんだぜ?」
「それもそうな……。なら、ぼちぼちスイッチ入れるか」
俺は両耳にサウンドボールを吸着させる。
久々の《ミュージックプレイヤー》だ。
俺はどうやら感受性が豊からしく、音楽を聴きながら戦うと性格すらもその曲に合わせて変わってしまう。
なら、今回は激しい曲にするか!
とりあえず四曲位をセットして、再生!
流れ始めたのは、《スレイヤー》の《Raining blood》だ。
スラッシュメタルというジャンルの中で四天王と言われている《スレイヤー》は、スラッシュメタルを語る上では外せないだろう。
元々あるへヴィーなサウンドに加えて、さらにハードコアを追求したジャンルで、曲が気持ちいい位にスピード感が溢れている。
演奏もまさに一流で、曲を聴いただけで俺はワクワクが止まらなくなる。
この一曲は俺がかなり好きな曲で、全身の血が沸騰したんじゃないかと思う程の高揚感を得られる。
そうなったら、俺は――――
「誰にも止められねぇぜ!?」
俺は近くの敵に対してラリアットを繰り出した。
ちょうど相手の首に綺麗に入り、「ぐへっ!」と苦しそうな悲鳴を上げ、そのまま地面に倒れて気絶してしまった。
……ちっ、まだ生きていやがる。
『おおっと、ハル侯爵が何か舌打ちした!?』
『……アレを使い始めたか』
『ドーン様、アレとは?』
『彼の魔法の中にどんな曲をも流す、《ミュージックプレイヤー》というものがあります。ハル君はその曲に合わせて性格ががらりと変わってしまう体質らしいです』
『えっと、つまり今の侯爵の状態は……?』
『激しい曲を聴いている事が予想されるので、かなり好戦的且つ獰猛になっているでしょう。私達はあの状態を《殺戮者モード》と呼んでいます』
はっ? 殺戮者モード?
あんま舐めた事言ってると絞めるぞ、隊長さんよぉ!
っと、隊長さんまで攻撃目標にしちまう所だったぜ。
さて、さっさと終わらせるぞ!
俺は次の標的を見つけて、走り始める。
「ひ、ひぃぃぃぃっ!」
標的が怯えている。
何と失礼な! 人の顔見て怯えてんじゃねぇよ!
「う、うわぁぁぁぁっ!!」
近づけない為に出鱈目に木剣を振り回しているが、今の俺には通用しないぜ?
全ての太刀筋はしっかり見えているんだからな。
俺は奴の攻撃をきっちり回避し、そのまま側頭部にハイキックを当てる。
ふっ、綺麗に入ったぜ。
敵はそのまま膝から崩れ落ち、うつ伏せ状態で気絶した。
そのままもう一度腹に蹴りを入れたかったが、ハイキックが綺麗に決まったから見逃してやるぜ。
『さ、《殺戮者モード》のハル侯爵、あまりにも笑顔が邪悪だぁ!! やばい、やばすぎる!!』
『俺達もあの状態に何度痛い目に合わされたか……』
『あれは、やばいですね』
『ええ、やばいです。味わってきますか?』
『慎んで遠慮させていただきますよ、ドーン様』
実況さんと隊長さんはドン引きしているが、観客はさらに沸き上がる。
いいねいいね、会場はさらに盛り上がってきたねぇ!!
よっしゃ、この世界に来て初めての試みだが、今の俺の運動能力なら絶対出来るぜ!
えっと、獲物獲物。
あっ、一人と目が合った。
「う、うわぁぁぁぁ……!」
「逃げるんじゃねぇぞ、こらぁ!!」
逃げる敵を追い掛けては捕まえて、一発腹にパンチを入れて前屈みになった瞬間、敵の背後に回り込む。
そして抱き抱えてそのまま体を後方に持ち上げるように反らす。
「ジャーマン・スープレックスだぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「や、やめてぇぇぇぇぇっ!?」
やめてだと?
喧嘩そっちから吹っ掛けておいて、今更やめてとはどの口が言うんだコラ!!
まぁやめるつもりはサラサラないから、そのまま後頭部辺りに叩き付けた。
少し加減をしてやったから、死にはしないだろうよ。まぁ下手したら後遺症は残るかもしれんが、その時は俺に喧嘩を売った事を後悔しやがれ!
『な、なんだ!? 変な技を繰り出したぁ!?』
『俺、あんなの教えてないぞ……』
『という事は、ハル侯爵のオリジナル、という事でしょうか!?』
『恐らく……。しかし、派手なだけで実用性は皆無でしょうね』
『それでも会場はさらに白熱しております!! 何かすごい熱気で、私は汗が滲み出てきましたよ』
ここからはダイジェストでお送りしよう。
超へヴィーなサウンドを聴いて凶暴化した俺は、派手な技で敵を倒していった。
ジャイアントスイングだったりシャイニングウィザードなり、俺が知っている限りのプロレス技を叩き込んでやった。
段々気持ちはプロレスラーの気分になっていき、何故か《ミュージックプレイヤー》には悪役プロレスラーとして知られる《スタン・ハンセン》の入場曲である、《Sunrise》が流れていた。バラエティの喧嘩シーンとかで流れている、あの曲だ。
何故かテンションが上がって、「アイアム・レッドウォーリアーっ!!」とか叫んでしまっていた。
まさに会場はプロレス会場そのものとなっていた。
俺が技を仕掛ける度に客は盛り上がる!
そして俺が調子に乗って、客に対してアピールをする!
なるほど、プロレスラーはこの瞬間が快感なんだなって思った。
そして会場は「ハル・ウィード、ハル・ウィード!!」という歓声が止まらない。
あはははは、これはテンション上がるわ!
そんなこんなで、ついにラスト一人だ。
死屍累々の中で立っているのは、俺と父さん、そしてレイブラント君だった。
『さぁ、ついに残り一人まで追い詰めたぞ、ハル侯爵!! 倒す度に観客に対してアピールをしていたのは、余裕の現れか!?』
『いや、あれは単純に調子に乗っただけでしょう』
隊長さん、実況さんに対して冷静なツッコミを入れているけど、俺が技を決める度に「いっけー、そこだぁぁぁぁぁっ!!」って叫んでいたのは聞き逃してないからな?
さて、ラストワンになったレイブラント君はと言うと――――
「は、はははははははは」
引き吊った笑いを浮かべて放心していた。
はい、御愁傷様。
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