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第二百四十話 ミュージカル始動! その2
しおりを挟む「よく来てくれた、トールさん。さあ、座ってくれ」
「すまんな、ウィード公爵」
今応接室で俺の向かいのソファに座っているのが、トール・ディクソンという演劇家だ。
四十七歳というこの世界では高齢ながらも、未だに数々の演劇を成功させている演劇界の重鎮だ。
一時期爵位をやる話も出ていたが、生涯現役でいたいから貴族は御免だと良い話を蹴った変人としても有名だ。
……うん、とても親近感が湧くな。
さて、彼が何故俺の屋敷に来ているかと言うと、三年前にお城でのライブを観に来ていたらしく、俺達のライブを観て演劇に使えると思ったそうだ。
そこからは何度も俺の所に来ては自身が思い浮かべている構想を熱弁していた。
最初は適当にあしらっていたが、いつしか俺が彼の熱意に負けてトールさんの手伝いをする事にした。
そう、トールさんは自力でミュージカルの構想を思い立ったんだ。
俺とトールさんは、細かいところを打ち合わせをした。
まぁほぼ最終確認って感じなんだけどね、それでも多額の支援もしたからしくじる訳にはいかない。
一時間ほどトールさんと最終確認をして済ませた後、お互いに紅茶を飲みながら休憩をしていた。
「しかし、ウィード公爵に相談して本当によかった。音楽家の手配や作曲家まで用意してくれるとは思わなかった」
「ははっ、そう言ってくれて何よりだよ」
「まあ、君の事だ。何かしらの思惑があるんだろう?」
トールさんの指摘に笑って誤魔化すが、大当たり!
最近うちがかなり儲け過ぎているので、とある懸念点が出てしまったんだ。
まぁ他の貴族達がでっち上げを流してるんだけどね。
内容は「力を付けてクーデターを起こし、自身が王位につくつもりじゃないか?」だ。
冗談じゃない、誰があんな七面倒な役職に就くか!
でも嘘だと言っても信じない輩もいる訳で、俺は行動で示す事にした。
まず音楽家や作曲家の手配を、王都にある音楽学校に一任した。当然依頼料もウィード家から出した。
音楽学校は国が直接管理しているので、音楽学校の利益は国益に直結する。こうすることで、「ウィード家は王家と仲良くしたいんだよ」という露骨なアピールが出来る訳だ。
それ以外にも俺が利益総取りしているつもりはないアピールが他の貴族達にも知れ渡れば、結局は根も葉もないデマだった事がわかるんだ。
最後は現国王であるジェイド兄貴と友好の握手を交わせばあら不思議、俺を蹴落とそうと粗探ししてた貴族達は何も言えなくなるんだ。
貴族は見栄とメンツで生きている、俺みたいな自由人以外はこれだけで何も言ってこないのさ。
公爵である俺にこれ以上突っかかっても、ただ損をするだけだしね。
「でさぁ、俺もその演劇観ないとダメ?」
「ダメだ! 貴殿が観る事によって宣伝効果が生まれるのだ!」
「そうなのはわかる、本当わかるんだけどさぁ……」
「公爵、今更怖じ気づいたか?」
「いやいや、そうじゃないさ。むしろこの演劇は俺も絶対成功させてぇさ」
「ならよいではないか」
「うーん、だってさぁ……」
俺が何故こんなに劇を観るのを渋っているか。
その理由は、演劇のストーリーにある。
「何が悲しくて、自分の過去を綴った演劇観ないといけないんだよ……」
そう、俺自身の英雄譚と言う名の過去の暴れっぷりを披露する劇だった……。
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