上 下
72 / 241

第七十二話 強化ゴブリン集団 対 猛る炎

しおりを挟む

 ――ロナウド視点――

 ゴブリンの王様の咆哮によって強化された、ゴブリン九匹。
 筋肉は隆起しているし、赤いオーラを纏っている。
 目付きも鋭くなっているし、息が荒い気がする。
 こんなゴブリン達を強化するという能力は、今まで聞いた事もないからどれだけ強化されているかわからない。
 さってさて、どうするかな?
 俺は剣を地面に突き立て、コートの内ポケットに右手を入れた。コートの中に忍ばせている暗器や魔道具をいつでも取り出せるようにしている。

「「「ギィッッ!!」」」

 おっと、三匹が同時に攻撃を仕掛けてきた!
 俺は三匹を瞬時に視認した後、一番先に俺へ攻撃をしてきそうな奴を確認した。
 三匹の内、中央の奴が先に攻撃を仕掛けてくるだろうな。手に持った棍棒を思いっきり頭上に振りかぶっている。
 とりあえず中央の敵の攻撃は、半身になって回避しようとしたが、さっきより攻撃速度が上がっていた。振り下ろした棍棒の速度は俺の予想を遥かに越えていた。
 
「うおっと!?」

 半身での回避では被弾してしまうと判断した俺は、半身になった瞬間に軽く後方へ飛んだ。
 俺の脳天目掛けて振り下ろされた棍棒は空を切り、地面に叩きつけられた。
 しかし、威力が半端なく、棍棒は地面にめり込んだ。

 うわっ、通常のゴブリンとは段違いな膂力だな……。
 おっと、そんな無駄な事を考えてる暇はない!

 俺は右方向から襲ってきている強化ゴブリンに視線をやると、こいつも俺の脳天を叩き割ろうとしている。
 だがまだ振り下ろされるまでに時間はかかるだろうな。
 俺は懐からとある暗器を取り出し、それをゴブリン目掛けて鋭く投げる。
 それはくるくると回転し、奴の腹部に浅く刺さる。
 実はこれは、柄がなく、全部が刃となっている珍しい投擲ナイフだ。被弾箇所によっては殺害が可能だが、俺はそういった目的で使用していない。

「ギャヒッ!?」

 軽く悶絶するゴブリンだが、浅いせいか動きは止まらない。
 まぁ仕留める為に投擲した訳じゃない。
 このナイフの刃には、毒が塗ってある。
 刺さってから約十秒で効果が発揮する、《パラライズパイソン》という魔物から抽出した即効性がある毒を塗ってある。
 このゴブリンの攻撃を回避したら、半日は麻痺して動けなくなる。
 俺は二匹目のゴブリンの振り下ろし攻撃を回避し、速攻で最初のゴブリンに視線をやり、次の攻撃動作に入っていたので奴の顔面に蹴りを入れる。
 鼻が折れた音と感触がした。
 奴は倒れて鼻を抑えて悶絶している。これでちょっとは時間を稼げたはずだ。

 俺は地面に突き刺さったままの剣を回収し、三匹目のゴブリンと向き合った。
 ゴブリンの王様のおかげで膂力が上がり、重そうな棍棒をまるで木の枝のように振り回して攻撃してくる。
 まさに怒濤の連続攻撃!
 だが甘い。実戦経験を相当積んでいる俺からしたら、動作が丸見えだ。
 俺は一歩も引かず、その場で半身にしたり体を仰け反らせたりして攻撃を回避する。
 そして、奴の懐に潜り込めるチャンスを待っていた。
 
 痺れを切らした正面のゴブリンは、両手で棍棒を握って水平に全力で振ってきた。
 それを待ってたぜ!
 俺は中腰にかがんで攻撃を回避した直後、地面を蹴ってゴブリンの懐に入った。
 剣を奴の腹中心に深く突き刺し、そのまま俺自身の体を回転させると同時に剣を水平に薙いだ。
 剣の刃は中の内臓を切り裂きながら、脇腹から外に飛び出した。
 勢いよくゴブリンの赤い血が吹き出し、地面を濡らした。

「ギャベッ、ギギィ……」

 腹を半分切り裂かれたゴブリンは、内臓をボトボト地面に落としながら前のめりに倒れて動かなくなった。
 ここで足を止めてはいけない!
 俺はダッシュでさっき顔面に蹴りを見舞ったゴブリンに近寄る。
 奴は起き上がって俺に襲いかかろうとしていたが、動作が遅かったので先に俺が奴の喉元に剣を突き刺してやった。
 ゴブリンの口から息が漏れる音がしたのを確認した直後、俺は剣を引き抜かないままコートの中から深緑色をした掌位の大きさの石を取り出した。

「魔道具、三秒後発動。《ペブルグレネード》!」

 俺はこの《ペブルグレネード》と呼ばれる魔道具を、ゴブリンの王様とその周辺にいるゴブリン達に向かって投げた。

「三、二……」

 この魔道具は、五秒まで指定発動できる爆弾だ。
 ただし爆風によって殲滅するのではなく、石の中心で小爆発を起こし、内部から細かく破壊された石が爆発の勢いによって周辺にばら蒔かれる。
 勢いよく周囲に飛び散った小さな石つぶての威力は、ゴブリン位だったら体を貫通までとはいかないが内臓まで達する程になっており、一気に殺害までにいかなくても行動不能に陥れる事が出来る優れものだ。

「一!」

 俺は喉を貫いて絶命しているゴブリンを盾にして、ペブルグレネードの爆発に備えた。
 バンッと小さな破裂音がした後、複数のゴブリンの悲鳴が聞こえた。
 そして盾にしているゴブリンの死体にも衝撃が俺に伝わった。いくつかはこいつの体に石つぶてが突き刺さったんだろうな。
 俺は喉に刺さったままの剣を引き抜き、死体を蹴り飛ばした。
 すると、ゴブリンの王様以外は全員死んでいるか戦闘続行不可能な状態になっていた。
 あるゴブリンは額に石つぶてが被弾し、そのまま絶命。あるゴブリンは両目が潰されてしまっている。
 運が悪すぎるゴブリンもいて、どうやら石つぶてが密集していたんだろう。それらが太ももに被弾したようで、皮一枚繋がっている状態だった。
 そしてゴブリンの王様は、仲間を盾にしたようで、無傷だった。盾にしたゴブリンは絶命している。

「仲間を盾に使うなんて、独裁政治やってるどこぞの国の王様と同じ事やってるな」

「貴様、人間ノ分際デ、俺ノ部下達ヲココマデ倒ストハ……」

「その人間如きにここまでコテンパンにされてるお前は、きっと無能な王様だな」

「貴様……俺ヲ侮辱シタナ?」

「ああ、したさ。お前達に見下される筋合いはないしな」

「ナラ、オ前ニハ惨メナ死ヲクレテヤル!」

「ふっ、やれるものならやってみな」

「ギィィィィィィッ!!」

 ゴブリンの王様からも赤いオーラが吹き出す。
 くっ、とてつもない威圧感だ。
 まるでドラゴンと対峙した時のような感覚だぜ。
 まぁ、ドラゴン程じゃないけどな。

 さて、奴の手には棍棒じゃなくてロングソードが握られている。
 しかも新品だ。
 ったく、《武力派》の奴が買い与えたな?
 本当に余計な事しかしない、迷惑な連中だぜ。

 さぁ、ここからは未知の敵との戦闘だ。
 気を抜かずに戦おうか!
しおりを挟む
感想 250

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

辺境領主になった俺は、極上のスローライフを約束する~無限の現代知識チートで世界を塗り替える~

昼から山猫
ファンタジー
突然、交通事故で命を落とした俺は、気づけば剣と魔法が支配する異世界に転生していた。 前世で培った現代知識(チート)を武器に、しかも見知らぬ領地の弱小貴族として新たな人生をスタートすることに。 ところが、この世界には数々の危機や差別、さらに魔物の脅威が山積みだった。 俺は「もっと楽しく、もっと快適に暮らしたい!」という欲望丸出しのモチベーションで、片っ端から問題を解決していく。 領地改革はもちろん、出会う仲間たちの支援に恋愛にと、あっという間に忙しい毎日。 その中で、気づけば俺はこの世界にとって欠かせない存在になっていく。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

処理中です...