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第百九十話 いざ、大学へ!
しおりを挟む「ハル、明日大学の貴族科に入学するんだよね?」
入学する前日の夜、俺の屋敷でバンド練習をがっつりした後の休憩中に、レイスから話し掛けられた。
練習に入る前に、メンバーに大学に入学する事を伝えたんだ。
その後すぐに練習に入ったから、こういう質問をする暇がなかったんだよね。だから休憩中の今、レイスは聞いてきたんだと思う。
「おう、入学するな。半年って期間だけど」
「君は半年って数字に縁があるね」
レイスはくすくすと笑いながら言った。
言われてみればそうだなぁ、音楽学校の時も半年間の留学だったしな。
半年って結構長い期間だけど、好きな事を学んでいたから本気であっという間だったんだよなぁ。
今回は全く好きではない事を学びに行く訳だが、三人の嫁とずっと一緒に暮らす為だ。
だから真剣に学びに行く予定だ。
でもきっと長く感じるんだろうなぁ。
「でもハルっち、チャンスじゃん!」
ミリアが汗を吹きながら楽しそうに言った。
「チャンス? 何の?」
「だって色んな貴族と友達になれるんだよ!? 絶対いいじゃん!」
そうなのかなぁ。
貴族の友達って、人をしっかり選ばないと面倒な事になりそうなんだよな。
生まれも育ちも貴族であるオーグに無言の視線を送ると、それに気付いて答えてくれた。
「ハル、どうせ貴族間の《友達》とは、腹に大きな一物を抱えているから面倒そうだなって思っていただろう?」
「いや、さすがにそこまでは思ってねぇよ……」
「そうか。だが、あながちその感想は間違ってはいない」
へぇ、間違ってねぇのか。
レイスにレオン、ミリアも興味があるようで、オーグの言葉に耳を傾ける。
「貴族の《友達》とは、国で例えるなら《同盟》と意味は等しい。貴族間でも表立ってはやらぬが争いが存在するから、友達になって争いは止めましょうねという程度の関係だ」
「戦争みたいな感じか?」
「いや、国で貴族間の戦争は禁止されているし、破ったら罰せられるから全く行われない」
「じゃあどうやって争うんだ?」
「様々な方法がある。例えばパーティを開催して粗を探して糾弾したり、服装や屋敷の豪華さ等をつついてきたり、相手の見栄の質を陥れる感じだな」
「しょぼっ!!」
貴族の争い、意外にショボかった!!
ついつい口に出してしまったが、オーグも苦笑する。
「私もお前達と出会って考えが改まったが、本当にくだらない争いをしていると思う。だが、貴族は見栄と権力が全てだ。見栄を落とされたら権力も削ぎ落とせる。そうやって没落させていくのを狙っているのだ」
「へぇ」
「お前が前の戦争の時にやった、文化侵略だったか? あれと似たようなものだ。武力による介入ではなく、別の要因で崩壊へと導いていくものだからな」
なるほどね、見栄と権力が全ての貴族のみが出来る争いって訳か。
俺が前の戦争でやった文化侵略も、ヨールデンに娯楽がほとんどないから出来た侵略だしな。
「大学の貴族科は、少しでも貴族の世界で長く生き残れるように学ぶ場所なのだ。主に歴史やテーブルマナーに式典でのマナー、口調など徹底的に学ぶ。ほぼ訓練に近いな。後は領地経営学もあるから、それも学べるな。後は一番はコネクション作りだな」
コネ作りはいいとして、式典でのマナーかぁ。
前世でのマナーは少し身に付けているけど、この世界で通用するかどうかわからない。
これは思った以上に気合いを入れて勉強しないといけないな。
するとオーグが、頬を掻いて明後日の方向を見ながらぼそりと呟いた。
「ま、まぁ、私とハルの場合は、ど、同盟とかではなく、気の許せる友人だと……思っている」
「お、おう……」
そんな照れ臭そうに言うな!
俺まで照れるだろうが!!
お互い照れているという訳のわからない状況の中、レオンが空気を振り払うかのように口を開いた。
「でもハルが侯爵かぁ。オレも敬語にした方がいいのかな?」
「やめろ、レオンの敬語とか気色悪くて寒気がして、そのまま寝込んで重体になっちまう」
「ひどくねっ!?」
実際、こんなチャラ男に畏まられたら、本気で気色悪い!
俺の反応を見て皆が笑う。
うん、こいつらとはずっと付き合っていきたいなって心から思う、気の許せる友人達だ。
「さて、じゃあ練習再開するぞ!」
『おうっ!』
この日は、日付が変わるまで練習をした。
仕上がりはかなり良い感じだ。
やっぱり、最高のバンドメンバーだよ、本当に。
近々俺達は移民してきた人達の為ともあるが、他の人達に対してのライブを開催する。
親父達が住んでいる城の中庭は、五千人位が入れるスペースがあるらしいが、多分移民達に向けてとなると絶対に足りない。
そこで、魔道具を使って三ヶ所の公園に、ライブの中継を行う事になった。
大規模のライブになる俺達は、緊張はしているものの同時に楽しみで仕方なかったんだ。
さて、明日はついに入学だ。
大学はどんな所なのだろうか、王都に住んでいたが、前を通る機会は全くなかったからわからないんだよなぁ。
そちらも楽しみにしておこうか!
「ハル君、準備はいい?」
「おう、準備は良いぜ、リリル。そっちはどうだ?」
「私は大丈夫だよ、ハル君」
「僕も大丈夫だ、ハル」
「わたくしは準備万端ですわ、ハル様」
俺達は支給された制服を着ていた。
紺のブレザーに白のチノパンツだ。左胸には大学の紋章らしきものが刺繍されている。
そして女性陣の制服は、白を基調とした制服だ。
所々紺のラインで白を強調していて、スカートは膝のちょうど真上程の丈だ。
いやぁ、リリルもレイもアーリアも、大変似合っていて素敵すぎてムラムラしてきてしまう!
そういえば最近気付いたのだが、俺は性欲が強いらしい。
カロルさんやレオン、レイスに聞いてみたら「マジか!!」と驚かれた。
逆にそんなに驚かれるとは思わなくてびっくりなんですけど……。
おっと、話は逸れたな。
「んじゃ、登校するか!」
「うん! 何か村の学校の事を思い出すね」
「僕も同じ事を思ったよ! また皆で学校に行けるなんて思ってみなかった」
「わたくしは皆様と一緒に学ぶのは初めてですから、非常に楽しみですわ!」
リリルとレイは昔話に花を咲かせ、アーリアはサングラスの位置を直しながら昔話に聞き入っている。
三人共、本当に楽しそうだな。
この笑顔は、しっかりと守らないといけないな。
俺達は、一緒に屋敷を出た。
さぁ、大学でも楽しんでやろうじゃねぇか!!
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