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第百八十一話 誕生、音楽レーベル!
しおりを挟む打ち合わせという名の下ネタ談義が終わった後、俺はカロルさんと二人きりで話し合っていた。
内容としては大真面目で、今後の俺とカロルさんについてだった。
「俺としてはさ、これからもカロルさんとは付き合っていきたいんだよね。是非うちの専属商人になってくれね?」
カロルさんとは随分と懇意に付き合ってきたからね、正式に契約して手放したくないって思っていたんだ。
この世界には専属商人っていうのがあって、商人と貴族がそういう契約をする事で優先的に商品を売ってもらえるように出来るっていうものらしい。
貴族によっては完全にその商人には自分の家以外には商品を売るなって縛るとこもあるみたいだけど、俺はそのつもりはない。
どちらかと言ったら、俺の頭の中で考えているとある商売をするには、カロルさんの力が必要不可欠なんだ。
「ふふ、そういうと思っていましたよ」
「おっ、なら話は早い! 契約でいいか!?」
「残念ながら、どんな契約内容か聞いていない時点で契約を結ぶなんて、商人としては愚の骨頂ですよ?」
あっ、そりゃそうだな。
なら、俺の思い付いている商売の構想を言ってみるか。
「実はさ、俺はとある事を始めようと思っているんだ。それにはカロルさんの力が必要不可欠なんだよ」
「ほほぅ、つまりその計画に私が一枚噛めると?」
「一枚噛めるどころか、ほぼ任せるような感じだな」
「……ふむ、私に任せると。大体ハルさんが私に任せる時は、かなりの大仕掛けですよね」
「ははっ、流石わかってるじゃんか!」
そうなんだよ、大仕掛けなんだよなぁ、今回の商売は。
「カロルさん、俺は《レーベル》を立ち上げようと思う」
「れ、れーべる? 何の事ですか、それは?」
この世界にはない言葉だから、カロルさんはわからなくて当然だな。
レーベルとは、簡単に言えばレコード会社の事を指す。もしくは、その会社のブランド名でもあったりする。
CDを個人で製作する事は非常に大変で、且つそれを流通させようとするものなら個人だけでは不可能に近かったりする。
レーベルっていうのはアーティストと契約してCDを製作・流通させ、売上の数パーセントをアーティストに支払うという仕組みなんだ。
よってアーティストはそのレーベルの社員ではなく、あくまでレーベルにとっては取引先になる訳だ。
もちろん売上が少なかったらアーティストに金は支払わないから、メジャーデビューをしても音楽だけで食っていけるアーティストは少ないという。
今回レーベルと立ち上げる理由としては二つ。
一つは、俺達のバンドである《親友達》のCDを流通させる為のブランドとして、利益を独占出来る会社的なものが必要だったからだ。
この世界では流通させようものなら、他の商会とも手を組まないといけないらしい。しかも結構な額を要求されるのだとか。
ならば流通をレーベルでやってしまおうという考えに至ったんだ。
将来的には他の国にも輸出していきたいと考えているが、まずは国内の提供を充実化させたいと思う。多分海外への輸出に関しては俺の考えは足りなさすぎると思うから、カロルさんに任せたいとも思っている。
二つ、アーティストを辞めた場合の事を考えた場合の保険だ。
アーティストっていうのは、長く続けられる人は続けられるが、意外と職業寿命としてはそうは長くない。
身体的な理由もそうだけど、家庭事情だって出てくるだろう。
もし辞めてしまった場合、当然収入は無くなってしまう。もしかしたらミリアはレイスとの子供を身籠る可能性だってある。そうなったらミリアは産休するから、バンドは活動休止になって収入が無くなってしまう。まぁミリアがいなくても活動出来るようにはするけどね。
そこで、他のアーティストを育成してレーベルで囲い、俺達のバンド以外の収入を作ろうという訳だ。
もしレイス達が何かしらで辞める事情が出てきたら、社員として雇ったりして給料を支払えるようにしたいんだ。
当然ながら俺は、商売に関しては全くのド素人。
この計画が上手く行くかどうかもわからない。
だからこそ、この計画を上手くいくように持っていく為に、カロルさんの力が必要なんだ。
俺はこの事をそのまま伝えた。
するとカロルさんは、顎に手を添えて深く考えているようだった。
「……成る程、音楽家を商品にする訳ですか」
「聞こえがわりぃなぁ。間違っちゃいないけど」
この世界の音楽家は、自営業なんだ。
自身の音楽を発表する場を、自身が営業して見つけて公演、そして収入を得る。
貴族に取り繕ってお抱えの音楽家になろうとしたりと、なかなか苦労がいる。
当然運も必要だし、強力なコネや如何なる手も使ってでも勝ち取るという信念も必要だ。
だから、音楽家の商品化というのは、まぁ間違ってはいない。
「俺には流通の知識はこれっぽっちもない。だから、それをカロルさんに任せたいんだ」
「……そうなると、私の立場はどのようになるのでしょうか?」
「ああ、そこは要相談で決めたいんだけど、俺の中では取締役として席を用意しようと思ってる」
「……ほぼ商会の代表みたいなもんですね。そうなると、貴方は?」
「俺は取締役の上席の、代表取締役兼看板音楽家ってとこかな?」
「……自分で看板音楽家って言いますか。事実ですけど」
つまり、カロルさんは社長、俺は会長っていう感じの立ち位置にしようと考えているんだ。
この世界には会社とか会長、社長という概念とか言葉がないから、取締役とか代表取締役っていう表現になっているんだけど。
「しかし、ミュージックディスクやプレイヤーだけでそこまで利益は出せそうにないと思うのですが……」
「その点については、大丈夫。実はさ、オーグには話してあるんだけど、あいつの所で作っている楽器をうちのレーベルで販売しようと思っているんだ」
「…………それにどういった利点があるのですか?」
「自意識過剰のように聞こえるが、恐らく俺達のバンドは成功する。そこで、俺達が使っている楽器と同じ楽器をレーベルで取り扱うのさ」
「! そういう事ですか! 成る程、看板音楽家としての名声を使う訳ですね」
成功を収めたアーティストにはファンが付く。そのファンの中には同じくアーティストとして憧れを持つ人もいる。
今からバンド活動を始めようと思った時、憧れのアーティストが使っている楽器が販売されていたらどうだろうか。
そりゃ買うだろうよ。
俺だって、好きなアーティストのレプリカモデルが販売されたら、速攻で購入した程だからな。
俺が前世で死ぬ直前だと、海外のメーカーに発注してレプリカを作って貰うファンだっている程だからな。
俺達のバンドが人気になればなる程、レプリカモデルは売れていくだろう。
「他にも、音楽の専門学校を運営しようと思う」
「それはアーバイン様と対立しようという事でしょうか?」
アーバインは王立の音楽学校を運営している。
確かにそういう意味として取られてもおかしくないよな。
だけど、違うんだよな。
「あいつの学校っていうのは、本気で音楽家になろうとしている人達が入学しているだろ? 俺が考えている学校は、別にそれで飯を食っていこうと考えていない人向けの学校だ」
「? 音楽家にならない人向け?」
「ああ。趣味で音楽を始めたいって思っている人向けの学校さ。だから学費もリーズナブル。当然初心者向けの楽器の商品も提供する予定だし、発表できる場所の運営も考えているさ」
俺の考えている専門学校は、所謂音楽教室だ。
だから本気でプロになろうとはしていないけど、趣味で始めたいと思っている人に対しての学校だ。
これはアーバインとも提携しようと思っているのだけれども、もしプロになりたいと思った場合は、アーバインの学校に紹介状を送る事も考えていたりする。
つまり、協力関係を結んで、同じ土俵だけど敵対関係にはならないようにする仕組みだ。
そしてちょっとお金を用意すれば、誰でも簡単なライブが出来る、所謂ライブハウスを運用する事も考えている。
それなりに大規模な商売になるから、カロルさんの力は必要不可欠なんだ。
「……かなり規模が大きいですね」
「当然、全てを同時にやるって訳じゃないさ。優先順位を決めていって、一つずつこなしていく予定だ。じゃあ上手くやるにはどうしたらいいか? コネもしっかり作っていて信頼できるカロルさんと契約するしかないと思い至った訳だ」
「それだけ私を買って頂いているのですね」
「勿論! 今の俺があるのはカロルさんのおかげでもあるんだぜ? だから、俺は貴方といいパートナーでいたいんだよ」
「普通、貴族というのはいきなり金額を積んでくるんですが」
「カロルさんは金だけじゃ動かないって、知ってるからさ」
「お見通しですか」
「ああ、お見通しだ! 面白い商売だし、成功したらかなり利益が出ると思うぜ?」
「確かに、今まで試みのない商売ですからね、非常に挑戦し甲斐がありそうですね」
カロルさんの眼光に鋭さが増す。
この人、商売においてはかなり命を張っている。
まさに一流剣士の商人バージョンといったところか。剣士は相手が強いと自ずと試さずにいられない性分だ。彼はそういった危うさを持っている。
だが、危ういからこそ、果敢に新しい事にチャレンジ出来る人だとも思っている。
俺の目には、狂いはなかった。
「では、何処にサインをすれば宜しいですか?」
「ありがとうよ、カロルさん! 契約書はこれで、注意事項を読んで問題なかったらサインしてくれ」
「はい、それでは拝見します。……………………はい、問題なさそうですね」
「一応確認する。本当に問題ない?」
「問題ありませんよ。細かい報酬等はしっかり詰めていきましょう」
「ああ、これからもよろしくな、カロルさん!」
「こちらこそ、宜しくお願いします、ハルさん」
お互い満面の笑みで、力強い握手をした。
心強い味方を手に入れたし、音楽活動もきっと上手くいくはずだ。
ここから、俺の歩みは加速していくだろう。
こうなったら俺は、もう止まらない。
見てろよ全世界!
俺の、いや、俺達の音楽で世界中をビックリさせてやるからな!
覚悟しておけよ?
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