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第一章 渋谷観光編

第十七話 二人の最強と刑事による、強盗退治

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 ――警視庁捜査二課警部、佐々木 達哉(三十歳独身)視点――

 さて、どうやって銃口をこちらへ向けさせようか……。
 見たところ強盗六人覆面をしているが、やけに口調が今時の若者っぽい。
 不良が銃を手にして、強盗に手を出しましたってな感じでな。
 きっと銃という最強に近い武器を手に入れちゃ、舞い上がるわな。
 その証拠に……

「ほらほら、早くぅ金出せよぉ! 一生遊べる金をよぉ!!」

「あははは! そうすりゃ仕事なんてしなくていいもんね!」

「学校なんて行かなくて済むし、何かあったら銃があるし、なんとでもなるって!」

 一部自分が学生である事をばらしている。
 舞い上がり過ぎだろ。
 なら、こりゃ安い挑発で激昂してくれるな、恐らく。
 なら甘い夢を見ているおバカさん達を煽るか。

 行動を移そうとした時、頭の中に声が響いてきた。

『銀行出たら、ゲーセン行こうよ! アタシ三人でプリクラ撮りたいな』

『おっ、いいね! いい思い出になると思うよ』

『プリクラというものが何かはわかりませんが、面白そうですね。行きましょう行きましょう!』

『後、あっくんとその……二人っきりのも撮りたいなぁって……』

『も、もちろん、大歓迎だよ』

『ふふ、やったぁ』

『お熱いですねぇ、二人とも』

 ええい、こんな緊急事態なのに緊張感がない奴等だ!
 《念話》でいちゃついていやがる!
 こちとら下手すりゃ死ぬかもしれないのに、何故そこまでお気楽なんだよ。
 由加理という子もすっかり怯えてないし!

 では、まずは先制攻撃だ。

「なぁ、お前ら。本当に一生その金で暮らせると思ってるのか?」

「ああん? 何だてめぇは」

 おお? 本当にこんなので乗ってくれたよ。
 本当にただ舞い上がったバカみたいだな。
 よし、この調子でガンガン行くぜ!

「よぉく考えた方がいいぞ? 日本の警察は優秀だ。逃げ切ると思ってるのか?」

「はは、てめぇこそバカだろ! これがあれば警察だって目じゃねぇよ」

 覆面強盗の一人がそう言って銃をちらつかせてくる。
 あぁ、こりゃ本格的なバカだ。

「俺らは知ってるんだぜぇ? 警察ってのは銃を一発でも発砲したら理由書を書かねぇといけねぇんだってな。だからマッポは発砲を躊躇うって!」

 あぁ、それは正しい。
 どんなに正当性があったとしても、一回でも発砲したら弾丸一発につき一つの理由書を提出する必要がある。
 それがかなり面倒なんだよなぁ。

「そんな縛りがねぇ俺達は、撃ち合いには有利なんだよ!」

 何と浅はかな考え方。
 その先を一切考えていない。
 なら、現実を突きつけてやろう。

「いやぁ、ここまでバカだと呆れを通り越して笑えてくるな」

「は? 何言っているんだよ」

「まずお前らが持っているトカレフの装弾数は最大八発。それがフルで入っているとして、六人合計で四十八発程度しかないって事だ。まぁ何も考えずにバカスカ使っていたらあっという間に弾切れだな」

「そんなのマッポぶっ殺して弾奪えばいいだろうが」

「さらに輪をかけてバカなんだな。弾の種類が違うから、警察が所持している弾丸はトカレフには使えない」

「なっ」

 そこ、驚くのか。
 とんだド素人だし、売った奴も使い方教えなかったのか?
 ……教えないか。

「逆に購入となるとさらに金が掛かる。どうせお前らみたいなバカばかりだと、足元見られて値段をかなり上げられるだろうがな」

「……てめぇ、さっきから俺達をバカにしやがって」

「バカをバカにして何が悪い?」

「いい加減に――」

 よしよし、いい具合に暖まって来たな。
 舞い上がっていた気持ちが引いて、焦りの色が見えてきた。
 そして、このタイミングで正体を明かしてやる。

「ちなみに、俺がそのマッポだよ。全員大人しくしろ」

「なっ、てめぇマッポか!!」

 気配でわかる。
 全員の銃口がこっちを向いた。
 素人なのはわかるが、やっぱり生きた心地しねぇ!
 早く何とかしてくれ、あっくんにアデル!!
 そして、頭の中で声がした。

『ありがとう、刑事さん!』

『後少しの辛抱ですよ』

 すると、いつの間にかあっくんが俺の目の前の強盗を蹴り飛ばしていた。

「ぐえっ」

 後方でも短い悲鳴が聞こえた。
 アデルか?
 なんて考えていると、すでにあっくんが二人目を殴って気絶させているし、背後からも二回目の短い悲鳴。
 見逃さないようにあっくんの姿を見ていると、姿が消えた。

(なっ、消えた!?)

 二人目を殴った瞬間に姿を消したのだ。
 いや、消したんじゃない。
 目に見えない速さで移動しているんだろう。
 こんな事を考えている間にすでに三人目の腹部を殴って気絶させており、背後からも三回目の悲鳴が聞こえた。

『終わったよ、刑事さん』

『ご協力感謝します』

 はっと我に帰って辺りを見渡すと、六人の強盗は気絶していた。
 しかし、あっくんとアデル、そして由加理という女の子の姿もなかった。
 どうなっているんだ?
 まるで最初から存在していなかったようだ。

(おい、三人共何処行った!?)

 俺は念話を試みたが、返事は帰ってこない。
 念話を切られてしまったのだろうか。
 一体、俺は白昼夢でも見ていたのか!?
 確かこの後ゲーセンに行くとか言っていたな。今からなら探せるか?
 いや、そんな暇はない
 まず、今日は手錠はないから何かしらで強盗達の自由を奪って、現場を落ち着かせてからパトカーを要請。
 それと、この状況をどう話すかを考えないといけない。

(二人の男が、約一秒程で六人を制圧した、なんて報告出来るか!)

 ああっ、何て奴等に関わってしまったんだろう。
 まぁ俺の手柄にはなるだろうし、良い事なんだろうけどな。
 聞こえるかどうかわからんけど、お礼は言っておこうかな。

(ありがとうよ、二人共)







 ――アタル視点――

(聞こえてるよ、刑事さん。どういたしまして)

 僕達三人は、強盗を制圧した直後にアデルさんの《テレポーテーション》で外に出た。
 だって、あのまま中にいたら事情聴取で時間を取られて、いつ解放されるかわからないからね。

「あっくん、本当に抜け出してきて大丈夫だったの?」

 由加理ちゃんが僕の腕にしがみついたまま、ちょっと不安そう。
 また由加理ちゃんの胸が僕の腕に当たっている!
 良き感触なり!

「大丈夫大丈夫、僕らの事なんて、どうやったって報告できないし信用してくれないよ」

「そ、そうだけど……」

「とにかく安心していいよ」

 僕は由加理ちゃんの頭を撫でて落ち着かせる。
 照れているのか、下を向いている彼女がすごく可愛い。
 やっべぇ、向こうに戻りたくねぇ!!

「さぁアタルさん! 私は是非げーせんとやらをこの目で見てみたいです!!」

 あっ、現実に引き戻されちゃった。
 まぁいいや。
 僕もこの二年間でどういうゲームが出ているかを確認したいからね。僕自身も結構楽しみだったりするんだ!
 後、プリクラも撮りたいしね。

「さぁさぁ、行きましょう行きましょう!!」

「ちょ、押すなよアデルさん!」

「慌てなくてもゲーセンは逃げないですよ、アデルさん!?」

 あっ、銀行にお金振り込まれているか確認できなかったな。
 まぁいいや、帰りにちょこっとコンビニのATMで確認すればいいしね。

 僕達は、アデルさんに急かされながら、ゲーセンへ向かった。
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