黄泉がえり令嬢は許さない

心の雪解け

66最終回

「クラウス王太子殿下並びにアーデルハイド・グランデカール公爵令嬢のご入場です」
その日私達は三度目の婚約披露パーティーを迎えていた。もう一度言おう。三度目だ。
流石に準備もあっという間に行われて最速での婚約披露パーティーとなった。私が身につけているのはクラウス様との一緒に選んだドレスだ。今回は二人でお互いの物を対になるように仕立てられている。三度目ということで招待客も見慣れた顔ばかりだが、そこには笑顔のお父様とお母様がいた。それだけでも私の胸がいっぱいになる。お父様はお兄様にそのまま爵位を譲られて今はのんびりと過ごしている。そのおかげか一時やつれていた顔が昔の面影に戻りつつある。
お母様もニコニコと微笑んでお父様と笑い合っているのことが私の胸を一杯にする。
「行こうか？　アーデル」
「はい。クラウス様」
私達は再び赤いカーペットの上を真っ直ぐに歩いた。そして、国王陛下の前に着くと頭を下げて礼を取る。
「よく参った。歓迎する」
国王陛下の威厳ある声に身が引き締まる。相変わらず私は国王陛下が苦手だが、クラウス様はもっと昔から苦手だったと聞いて少し気持ちが軽くなった。
「ありがとうございます。国王陛下」
「ありがとうございます」
「二人の婚約をここに認める。今後の我が国の将来は其方達に任せよう」
国王陛下はそう言うとなんと壇上から降りてきた。
「へ、陛下！」
流石のクラウス様も慌てている。
「この日を私は待っていた。今日とは言わないが其方達の婚礼の日に私は王位をクラウスに譲ることにした。ここにいる皆が証人だ」
そう言って国王陛下は私達の前に立つと周りを見渡した。
「クラウス、私は自分が間違っていたとは思わん。だが、時代にそぐわないかもしれぬとは考える。だから、お前に託す」
真摯な陛下の言葉に私とクラウス様は顔を見合わせて頷いた。
「光栄にございます」
「光栄にございます」
私達が再び礼を取ると会場から歓声が上がった。
「おめでとうございます！」
「おめでとうございます！」
「おめでとうございます！」
波ように広がった祝いの言葉に会場が包まれる。
「クラウス、何か言うことはないか？」
国王陛下の言葉にクラウス様が顔を上げる。そして、私の手を取ると一歩前に出た。
「ありがとう。私はここにいる全ての者に告げる。良き王、良き国を目指す」
「わー」
「クラウス殿下、万歳！」
熱気に包まれた会場でクラウス様は私の耳に唇を寄せた。
「あと、良き夫も良き父も目指すよ」
「クラウス様、私も良き伴侶となります」
結局クラウス様は私から能力を回収しなかった。クラウス様曰く、一緒にいるから必要ないし、私の助けになるならこのままでいて欲しいということだった。
私は少し持て余し気味の能力だが隣にクラウス様がいればきっと上手く活用できると信じている。
そう、常に隣いれば問題ないのだ。
私は歓声に包まれてにっこりと微笑んだ。
色々あった婚約披露までの道だったが、今思えば最初にそのまま婚約していたらきっと今のような気持ちにはならなかったはずだ。
何故なら私の胸の中にはクラウス様の隣に立つ覚悟がしっかりと刻まれている。
だからこそこの場で笑えるのだ。
隣で笑顔で手を振っているクラウス様が私の手を取った。
私のその手を握り返す。
これからもいろいろなことが起こるだろう。きっと嫌なこともあるはずだ。それでも、私はこの手をしっかりと掴んで進もうと心に決める。
だって二人ならなんでも乗り越えられると知っているから。
私は大好きな人の手をそっと握り返したのだった。