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能力者と犯人
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「お嬢様、ソフィア様がお越しです」
カーラの声に私はハッと我に帰った。なんやかんやと色々ありソフィア様を護衛騎士にする話が止まっていたのだ。
「わかったわ。お通ししてちょうだい」
「かしこまりました」
カーラが去ってからしばらくするとものすごい勢いで扉が開かれる
「アーデルハイド様!!!!」
ソフィア様が叫びながら私の前に立つと手を握って来た。
「ご無事でしょうか? お怪我をされたと聞いて気が気ではありませんでした」
ソフィア様の真剣な眼差しに私はコクコクと頷いた。
「ご、ご心配をお掛けしました。でもこの通り元気にしております」
ソフィア様は明らかにホッとしてから今度は私の後ろに視線を移す。
「ベルナンド様が騎士の誓いを立てられたと聞いております! ですが、この方はお嬢様をお守り出来なかった方ではありませんか! それよりも私がお側にいるべきでしたわ」
明らかな敵視の視線を泰然と受け流しながらベルナンド様がにっこりと微笑んだ。
「これはこれは辺境伯令嬢、ご機嫌よう。貴女様の御意見はごもっともではありますが、それでも今我が主の騎士は私だけです」
ベルナンド様はそういうと私の肩に手を置いた。ソフィア様は両手をグッと握りしめると顔を上げた。
「……私も騎士の誓いを捧げれば貴方だけではありませんね」
「ソ、ソフィア様!! やめて下さい」
なんだか二人の意地の張り合いのような会話に思わず口を挟む。
「いいえ、アーデルハイド様の護衛騎士を申し出たのは私の方が先なんです。それなのに!!」
私は私の背後で得意満面なベルナンド様をひと睨みするとソフィア様の手を握る。
「ソフィア様、お気持ちだけいただきます。ありがとうございます。ですが、ソフィア様にはあの事件のことを手伝って頂きたいのです。騎士の誓いを受けると私の身の安全が優先されてしまいますのでそれでは調査が滞ります。更にソフィア様は女辺境伯を目指すお方です。決して私などに誓いをしてはいけませんわ」
私がソフィア様に力説するとソフィア様もグッと考えくれたようだ。
「……わかりました。私は護衛兼調査担当騎士としてお側に居させていただきます」
「よ、よろしくお願いします。ベルナンド様もソフィア様と常に協力して下さい」
「かしこまりました。お嬢様」
ベルナンド様は一歩下がると胸に手を当てて頭を下げた。
ソフィア様も納得はしていないようだが渋々と頷いてくれたのを確認してから私は二人をテーブルに誘う。
「兎に角、今日は色々な情報を整理しましょう。いいですね」
「はい」
「はっ!」
私達はテーブルに腰を下ろすとカーラがスッとお茶の支度をしてくれる。未だにカーラは怒ったままだが侍女としては完璧なのだ。
私は紅茶を一口飲むとソフィア様に話を向ける。
「あの、ソフィア様、この間の件は如何でした?」
「カタリーナ様のことは確認して来ました」
ゴクンと私の喉が鳴る。
「カタリーナ様は確かにあの日体調不良でお休みされていました。お屋敷の侍女にも確認したので間違いはないと思います」
「そう……」
カタリーナ様の容疑は晴れたということだ。でも、お茶会の態度はあまりに不自然だった。
「ただ、あの婚約披露パーティーの前から少し様子がおかしかったようです」
「え? どんな?」
「何度か護衛や侍女も連れずに外出したそうなんです。侯爵家の姫にしては異例なことですわ」
「護衛もつけずに? 確かにおかしいわね。どこに行ったかはわかったのかしら?」
「それが本当にわからないらしいのです。勿論目に見える護衛はついていきませんでしたが、通常であれば隠れて護衛するはずなのですが、その日のことは誰も覚えていないというのです」
「また、覚えていないのね」
私はチラリとベルナンド様に目を向ける。すると彼もコクンと頷いた。やはり何某かの能力者が絡んでいるということだろう。しかも、精神に影響を与える系の力だ。
「わかりました。この件は一度私が預かります」
「はい。お役に立てず申し訳ありません」
「そんなことはありませんわ。ソフィア様にはこれからも助けていただきたいのです」
「そう言っていただけると嬉しいです」
私は一度息を吐いてから胸に手を当てた。
「それでは、今度は私が話す番ですね」
そう言ってから私はあの生贄事件についてを詳しくソフィア様に説明した。途中ベルナンド様も淡々とクラウス様の行動について捕捉してくれ、何とかあの事件の詳細を話した。
「……というわけで今は能力者についてお兄様が確認しているというところですの」
「お辛い結果ですね。胸中お察しいたします」
「大丈夫ですわ。私には兄もクラウス様もベルナンド様も……そして、ソフィア様がいますもの」
「アーデルハイド様……」
ソフィア様が感極まったように立ち上がると私の前に跪く。
「アーデルハイド様、先程の私の役割にひとつ追加させて下さい」
「何かしら?」
「私は確かに騎士の誓いは立てません。何故なら私は騎士である前に、協力者である前に貴女の友人でいたいのです」
「ソフィア様……」
「お辛かったですよね。怖かったですよね? 心細かったですよね? やり切れない怒りもあることでしょう」
ソフィア様はそう言うとふわりと私を抱きしめた。
「嫌なことは一緒に話しましょう。私は貴女の友として共におります」
「ソフィア様……」
私はふわりと抱きしめられたままソフィア様の肩に顔を埋める。そうか、私はあの事件があってからずっと気を張ってた気がする。目まぐるしく変わる環境に、どんどん更新される情報について行くのがやっとだった。そして、全てのひとが当事者であった為、誰もが自分の事でいっぱいいっぱいで今初めて自分の気持ちに目を向けられた気がする。
「あ、ありがとう……ございます」
ソフィア様の肩に落ちた一筋の涙は少しだけ私の心を軽くしてくれたのだった。
カーラの声に私はハッと我に帰った。なんやかんやと色々ありソフィア様を護衛騎士にする話が止まっていたのだ。
「わかったわ。お通ししてちょうだい」
「かしこまりました」
カーラが去ってからしばらくするとものすごい勢いで扉が開かれる
「アーデルハイド様!!!!」
ソフィア様が叫びながら私の前に立つと手を握って来た。
「ご無事でしょうか? お怪我をされたと聞いて気が気ではありませんでした」
ソフィア様の真剣な眼差しに私はコクコクと頷いた。
「ご、ご心配をお掛けしました。でもこの通り元気にしております」
ソフィア様は明らかにホッとしてから今度は私の後ろに視線を移す。
「ベルナンド様が騎士の誓いを立てられたと聞いております! ですが、この方はお嬢様をお守り出来なかった方ではありませんか! それよりも私がお側にいるべきでしたわ」
明らかな敵視の視線を泰然と受け流しながらベルナンド様がにっこりと微笑んだ。
「これはこれは辺境伯令嬢、ご機嫌よう。貴女様の御意見はごもっともではありますが、それでも今我が主の騎士は私だけです」
ベルナンド様はそういうと私の肩に手を置いた。ソフィア様は両手をグッと握りしめると顔を上げた。
「……私も騎士の誓いを捧げれば貴方だけではありませんね」
「ソ、ソフィア様!! やめて下さい」
なんだか二人の意地の張り合いのような会話に思わず口を挟む。
「いいえ、アーデルハイド様の護衛騎士を申し出たのは私の方が先なんです。それなのに!!」
私は私の背後で得意満面なベルナンド様をひと睨みするとソフィア様の手を握る。
「ソフィア様、お気持ちだけいただきます。ありがとうございます。ですが、ソフィア様にはあの事件のことを手伝って頂きたいのです。騎士の誓いを受けると私の身の安全が優先されてしまいますのでそれでは調査が滞ります。更にソフィア様は女辺境伯を目指すお方です。決して私などに誓いをしてはいけませんわ」
私がソフィア様に力説するとソフィア様もグッと考えくれたようだ。
「……わかりました。私は護衛兼調査担当騎士としてお側に居させていただきます」
「よ、よろしくお願いします。ベルナンド様もソフィア様と常に協力して下さい」
「かしこまりました。お嬢様」
ベルナンド様は一歩下がると胸に手を当てて頭を下げた。
ソフィア様も納得はしていないようだが渋々と頷いてくれたのを確認してから私は二人をテーブルに誘う。
「兎に角、今日は色々な情報を整理しましょう。いいですね」
「はい」
「はっ!」
私達はテーブルに腰を下ろすとカーラがスッとお茶の支度をしてくれる。未だにカーラは怒ったままだが侍女としては完璧なのだ。
私は紅茶を一口飲むとソフィア様に話を向ける。
「あの、ソフィア様、この間の件は如何でした?」
「カタリーナ様のことは確認して来ました」
ゴクンと私の喉が鳴る。
「カタリーナ様は確かにあの日体調不良でお休みされていました。お屋敷の侍女にも確認したので間違いはないと思います」
「そう……」
カタリーナ様の容疑は晴れたということだ。でも、お茶会の態度はあまりに不自然だった。
「ただ、あの婚約披露パーティーの前から少し様子がおかしかったようです」
「え? どんな?」
「何度か護衛や侍女も連れずに外出したそうなんです。侯爵家の姫にしては異例なことですわ」
「護衛もつけずに? 確かにおかしいわね。どこに行ったかはわかったのかしら?」
「それが本当にわからないらしいのです。勿論目に見える護衛はついていきませんでしたが、通常であれば隠れて護衛するはずなのですが、その日のことは誰も覚えていないというのです」
「また、覚えていないのね」
私はチラリとベルナンド様に目を向ける。すると彼もコクンと頷いた。やはり何某かの能力者が絡んでいるということだろう。しかも、精神に影響を与える系の力だ。
「わかりました。この件は一度私が預かります」
「はい。お役に立てず申し訳ありません」
「そんなことはありませんわ。ソフィア様にはこれからも助けていただきたいのです」
「そう言っていただけると嬉しいです」
私は一度息を吐いてから胸に手を当てた。
「それでは、今度は私が話す番ですね」
そう言ってから私はあの生贄事件についてを詳しくソフィア様に説明した。途中ベルナンド様も淡々とクラウス様の行動について捕捉してくれ、何とかあの事件の詳細を話した。
「……というわけで今は能力者についてお兄様が確認しているというところですの」
「お辛い結果ですね。胸中お察しいたします」
「大丈夫ですわ。私には兄もクラウス様もベルナンド様も……そして、ソフィア様がいますもの」
「アーデルハイド様……」
ソフィア様が感極まったように立ち上がると私の前に跪く。
「アーデルハイド様、先程の私の役割にひとつ追加させて下さい」
「何かしら?」
「私は確かに騎士の誓いは立てません。何故なら私は騎士である前に、協力者である前に貴女の友人でいたいのです」
「ソフィア様……」
「お辛かったですよね。怖かったですよね? 心細かったですよね? やり切れない怒りもあることでしょう」
ソフィア様はそう言うとふわりと私を抱きしめた。
「嫌なことは一緒に話しましょう。私は貴女の友として共におります」
「ソフィア様……」
私はふわりと抱きしめられたままソフィア様の肩に顔を埋める。そうか、私はあの事件があってからずっと気を張ってた気がする。目まぐるしく変わる環境に、どんどん更新される情報について行くのがやっとだった。そして、全てのひとが当事者であった為、誰もが自分の事でいっぱいいっぱいで今初めて自分の気持ちに目を向けられた気がする。
「あ、ありがとう……ございます」
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