黄泉がえり令嬢は許さない

波湖 真

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能力者と犯人

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「それでは、王太子婚約者であるグランデカール公爵令妹拉致監禁及び殺人未遂事件について報告を」
私はやっと起き上がれるようになり、今日はクラウス様の執務室で行われる報告会に参加することになった。
あの事件から既にひと月が過ぎていた。事件は表向きは黒魔術に傾倒したカルト団体が起こした事件として処理されて私は可哀想な被害者となっている。
グランデカール公爵家の名前は公にされず、お父様は黄泉がえった娘が拉致監禁されたことによる心労で倒れて公爵の位を息子に譲って引退したことになった。
その結果、王国随一の公爵家は王家に更なる忠誠を誓い、お兄様も近々国の重要な政務に着くことが決まった。
表向きは全て解決したこの事件の真相を話すため、今日の会議には少人数の参加となっている。
クラウス様、お兄様、ベルナンド様、そして、私だ。
報告者はあの時あの場にいた騎士達で、私を殴りつけたあの男達は地下牢に入っているらしい。
「は! 王太子殿下。それでは今まで分かったことをお話しいたします」
そう言って騎士が話した内容は醜悪なものだった。あのカルト団体は今までもターゲットとなる貴族を見つけると巧みに近づいて絡めとり寄生して自分たちの儀式などを行なっていたらしい。
「酷い……」
思わず漏らした言葉に騎士が頷いた。
「ターゲットに選ばれた貴族は悲惨なものです。全ての財産を巻き上げられ、儀式の主催者として何かあった時にはスケープゴートとなります。その上、今回のように身内を生贄として捧げた者もいたようです」
「確かに最近はなかったようですが、過去には、同じように生贄がいたと言っていました」
私があの場で聞いたことを話した。
「おぞましいな」
「許せません」
「…………」
あの日以来ベルナンド様は無口になった。責任を感じているらしい。お兄様は当然だと言うけれど私は何も言わないベルナンド様に目を向けた。
ベルナンド様がグッと手を握ると私に顔を向ける。そしてツカツカと私の前に立つと膝をついた。
「アーデルハイド嬢」
「は、はい」
「私は貴女様を危険に晒した情けない護衛です」
「いえ、そんな……」
「あの時殿下と公爵がいらっしゃらなかったと思うと身が縮みます」
片膝をついたベルナンド様はその姿勢のままさらに頭を下げた。
「大変申し訳ありません。私を信頼できないのは重々承知ですが、貴女に騎士の誓いを捧げることをお許しいただけないでしょうか?」
「え?」
私はビクッとしてクラウス様とお兄様を交互に見つめる。
二人がニヤニヤしていることを見るとこれは既に既定路線ということだ。
騎士の誓いは護衛騎士よりも拘束力が高い。今はクラウス様の命で護衛しているベルナンド様が自らの意思で私の護衛をすると言うことなのだ。例えば必要があればクラウス様にも剣を向けることを意味する。
それでもクラウス様も満足そうに頷いているのは気のせいでは無い。自分の判断、自分の意思で私のためだけに動く騎士が私には必要だと考えたと言うことだ。
騎士の誓いを拒否する事は相手に最大の侮辱を与える行為だ。
私は胸の前の手をグッと握った。
「許します。貴方を私の騎士として受け入れます」
ベルナンド様は剣を抜いてそのまま私に掲げた。
「臣、ベルナンド、アーデルハイド様に剣を捧げます」
一部始終を見ていたクラウス様とお兄様は手を叩いている。
報告に来た騎士も驚きを隠せない。でも、こうなったらやるしかない!
私はベルナンド様の件を手に取ってベルナンド様の肩に置いた。
「受け取りました」
「ありがとうございます」
ベルナンド様は剣を私から受け取る立ち上がり、そのまま私の斜め後ろに立った。あたかもそこが定位置のように。
「早速始めるのか?」
クラウス様が揶揄うように話す。
「当たり前だ。お嬢様は俺の主だ」
「まあ、ベルナンドなら信頼できるからな。妹をよろしく頼むよ」
お兄様は安心したようにベルナンド様の背中をポンポンと叩く。
「リヒャルド、お前も気をつけろよ。もし万が一お嬢様を監禁しようとしたら公爵だろうと切るぞ」
「ハハハハ、肝に銘じるよ」
「よし、余興は終わりだ。それで、何故グランデカール公爵家がターゲットになったのだ?」
クラウス様が話を元に戻した。
「それがよくわからないのです。誰かが仲介したようなんですが、皆その人のことを覚えていないんです」
「それはどういうことだ?」
「覚えていないと言うか漠然としているというか。その話になると全員首を傾げるのです。誰かいたけれど誰かわからないと言う状態です」
「なんだそれは!」
「おかしいだろう!」
クラウス様とベルナンド様が不満を告げるがお兄様だけが何かを考えていた。
「お兄様? なにか?」
「ああ。クラウス様、確かに両親も同じような反応でした。その時はその正気では無いと思い諦めましたが、関わったもの全てが同じというのは解せませんね」
「まさか!」
「ああ、ベルナンドの推測通りだと思う」
「え? なんですか?」
私は二人で納得しているクラウス様とベルナンド様を見つめる。
するとクラウス様がゆっくりと噛み締めるように呟いた。
「能力者が絡んでいるとみて間違い無いだろう」
能力者。王国の極一部の人に生まれ持って現れる能力のこと。多くは王室関係者及び貴族から生まれるが平民に生まれることも有り得る。もちろん子供が生まれた時に能力チェックを受け、リスト化されているが平民の中にはチェックされないものも多くいると言われている。
そんな能力者が絡んでいるとなるとことが大きくなる可能性が高い。
「リヒャルド、至急国内の能力者リストを取り寄せてくれ。その中に幻惑などの精神に及ぼす能力者を探す」
「わかりました」
「ベルナンドは今までの業務を引き継いで来い。その後はアーデル専属護衛騎士だ」
「わかった。お嬢様、暫し離れることをお許しください」
そうしてベルナンド様も執務室を出て行った。残ったのは私とクラウス様だ。私はクラウス様に向き直りその顔を見つめたのだった。
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