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家族の形
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「あなた達は……」
怪しい仮面を被った男達が二人私に目を向けていた。
「これはこれは可愛らしいお嬢様。お目覚めですか?」
仕草や言葉使いは存外丁寧だ。
「ここは?」
「かわいそうになぁ。こんな女なら死ぬ前にいい思いしたっていいんじゃないか?」
下卑た笑いに寒気がする。
「やめろ。観客は処女の生贄をお望みだ」
「悪趣味なこった。ほら、立てよ」
足を縛られていた紐は解かれ、手を縛っている紐をグイッと引かれる。
「やめなさい。痛いわ」
「痛いわだってよ。お嬢様は違うね。いくら親に殺されそうでも公爵令嬢ってことかよ。いいねぇ」
私はグッとお腹に力を入れて精一杯胸を張った。
「無礼ですよ。一人で歩きます。案内なさい」
「へえへえ。アニキ本当に手出しちゃダメかよー。どうせ殺すんだろ?」
「我慢しろ! もう時間なんだよ」
アニキと呼ばれた男が私の前に立った。
「じゃあこちらに来てもらいましょうか?」
私はキッと睨むと頷いた。
地下室から出ると男はそのままエントランスに向かった。儀式の会場は公爵家ではないらしい。
見たこともない粗末な馬車に連れて行かれた。
「乗れ!」
「わかりました」
私はギシギシ鳴る馬車に乗り込むと硬い座席に腰を下ろした。
「動くなよ」
男が私の頭から何かを被せる。これで何も見えなくなった。
私の胸に絶望感が漂う。
何故手紙を出したんだろう。お兄様のことがあったとしても今じゃなかった。多分お兄様のことを理由にしてもお父様とお母様に会いたかったんだ。あの夢のような日常が戻ってくると思って冷静になれなかったんだ。そのせいでベルナンド様も危険な目に遭わせてしまった。
良く考えればよかったのよ。何故お兄様が私をお父様達に会わせなかったのかを。きっとあの様子を見て私を引き離してくれていたんだ。あんな風になったお父様やお母様のことを隠して王宮では私の為に笑ってくれていた。
きっと、凄く無理して笑ってくれていたんだ。
私は馬車に揺れながら自分しか見ていなかった愚かさに嫌気がさした。
ベルナンド様だけでも助けないと!心の声を聞くように耳を澄ましてから質問する。
「ねえ、どこに向かっているの?」
「…………」
『まさか旧教会だとは思ってねぇな』
「一緒にいた方は偶々会っただけなの。巻き込みたくないわ」
「…………」
『この女の次はあの男だな』
「答えなさい!」
「どこに向かっているかは言えんな」
「男はお前の後に殺されるだろうな。まだ、あの家にいるが」
『……』
私が向かうのは旧教会。ベルナンド様は公爵家で拘束中ね。
ベルナンド様がまだ公爵家にいるのなら希望はあるかもしれない。きっとお兄様が王宮にいない私を探してクラウス様に確認するだろう。そして、街歩きしていなかったら、そうしたら、きっと公爵家に……。
カーラがお兄様にお父様に手紙を出したことを話してくれるだろう。ベルナンド様だけでも助かるかもしれない。
その為には私が足掻いて足掻いて儀式の時間を引き伸ばすんだわ!
私はグッと顔を上げた。何も見えないが足は自由だ。
ガゴン
「お、おい!! 何しやがる!!」
運良く男に当たったようだ。
「飲み物を頂戴」
「なっ! 必要ないだろ!」
「喉がカラカラだったら、悲鳴なんて上げられないわ」
観客が私の悲鳴を欲していることを思い出したのだ。
「チッ」
男が御者と話をしているとすぐに停車した。
「少し待ってろ」
『あの店から水を運ぶか。仕方がねーな』
成る程、近くにお店があるらしい。私は男が扉を開けるのと同時にその体に向かってタックルした。
「やぁぁぁ」
ドンっ!
「おい! 何しやがる」
私がぶつかったことにより男と共に馬車から転がり落ちる。
「助けて!!!!」
私は強かに肩を地面に打ち付けたが声の出る限りの大声を上げる。
「クソ! 黙れ!」
「いやーーー!!」
私の髪の毛がグイッと引っ張られる。
「やめろ!!」
バシィ!
男が私の頬を思いっきり叩くとそのまま抱えられて馬車の床にドンと放り投げられる。
口の中に血の味が広がるが無常にもバタンと馬車の扉が閉まり慌てたように馬車が動き出した。
「このアマ! 舐めた真似しやがって!」
男は床に寝転がったままの私をバンっと蹴るとそのまま背中に足を乗せた。
このまま旧教会に向かうということなのだろう。きっとさっきの騒ぎを聞きつけた人が騎士に知らせてくれるはず。そうすればクラウス様が気づいてくれるはずよ。いくら今ギクシャクしていたとしてもクラウス様は助けてくれる。
今更ながら体のあちらこちらがズキズキと痛む。
そして、心は置いてけぼりだ。今出来ることはない。すると何故という疑問が頭に浮かぶ。
何故、お父様とお母様はあんな風になってしまったの?
何故、私ばかりこんな目に遭わなくてはならないの?
何故、生贄になんてならなくてはならないの?
何故、何故、何故……
今まで我慢していた涙が目に溢れる。私は声を立てないように静かに涙を流したのだった。
怪しい仮面を被った男達が二人私に目を向けていた。
「これはこれは可愛らしいお嬢様。お目覚めですか?」
仕草や言葉使いは存外丁寧だ。
「ここは?」
「かわいそうになぁ。こんな女なら死ぬ前にいい思いしたっていいんじゃないか?」
下卑た笑いに寒気がする。
「やめろ。観客は処女の生贄をお望みだ」
「悪趣味なこった。ほら、立てよ」
足を縛られていた紐は解かれ、手を縛っている紐をグイッと引かれる。
「やめなさい。痛いわ」
「痛いわだってよ。お嬢様は違うね。いくら親に殺されそうでも公爵令嬢ってことかよ。いいねぇ」
私はグッとお腹に力を入れて精一杯胸を張った。
「無礼ですよ。一人で歩きます。案内なさい」
「へえへえ。アニキ本当に手出しちゃダメかよー。どうせ殺すんだろ?」
「我慢しろ! もう時間なんだよ」
アニキと呼ばれた男が私の前に立った。
「じゃあこちらに来てもらいましょうか?」
私はキッと睨むと頷いた。
地下室から出ると男はそのままエントランスに向かった。儀式の会場は公爵家ではないらしい。
見たこともない粗末な馬車に連れて行かれた。
「乗れ!」
「わかりました」
私はギシギシ鳴る馬車に乗り込むと硬い座席に腰を下ろした。
「動くなよ」
男が私の頭から何かを被せる。これで何も見えなくなった。
私の胸に絶望感が漂う。
何故手紙を出したんだろう。お兄様のことがあったとしても今じゃなかった。多分お兄様のことを理由にしてもお父様とお母様に会いたかったんだ。あの夢のような日常が戻ってくると思って冷静になれなかったんだ。そのせいでベルナンド様も危険な目に遭わせてしまった。
良く考えればよかったのよ。何故お兄様が私をお父様達に会わせなかったのかを。きっとあの様子を見て私を引き離してくれていたんだ。あんな風になったお父様やお母様のことを隠して王宮では私の為に笑ってくれていた。
きっと、凄く無理して笑ってくれていたんだ。
私は馬車に揺れながら自分しか見ていなかった愚かさに嫌気がさした。
ベルナンド様だけでも助けないと!心の声を聞くように耳を澄ましてから質問する。
「ねえ、どこに向かっているの?」
「…………」
『まさか旧教会だとは思ってねぇな』
「一緒にいた方は偶々会っただけなの。巻き込みたくないわ」
「…………」
『この女の次はあの男だな』
「答えなさい!」
「どこに向かっているかは言えんな」
「男はお前の後に殺されるだろうな。まだ、あの家にいるが」
『……』
私が向かうのは旧教会。ベルナンド様は公爵家で拘束中ね。
ベルナンド様がまだ公爵家にいるのなら希望はあるかもしれない。きっとお兄様が王宮にいない私を探してクラウス様に確認するだろう。そして、街歩きしていなかったら、そうしたら、きっと公爵家に……。
カーラがお兄様にお父様に手紙を出したことを話してくれるだろう。ベルナンド様だけでも助かるかもしれない。
その為には私が足掻いて足掻いて儀式の時間を引き伸ばすんだわ!
私はグッと顔を上げた。何も見えないが足は自由だ。
ガゴン
「お、おい!! 何しやがる!!」
運良く男に当たったようだ。
「飲み物を頂戴」
「なっ! 必要ないだろ!」
「喉がカラカラだったら、悲鳴なんて上げられないわ」
観客が私の悲鳴を欲していることを思い出したのだ。
「チッ」
男が御者と話をしているとすぐに停車した。
「少し待ってろ」
『あの店から水を運ぶか。仕方がねーな』
成る程、近くにお店があるらしい。私は男が扉を開けるのと同時にその体に向かってタックルした。
「やぁぁぁ」
ドンっ!
「おい! 何しやがる」
私がぶつかったことにより男と共に馬車から転がり落ちる。
「助けて!!!!」
私は強かに肩を地面に打ち付けたが声の出る限りの大声を上げる。
「クソ! 黙れ!」
「いやーーー!!」
私の髪の毛がグイッと引っ張られる。
「やめろ!!」
バシィ!
男が私の頬を思いっきり叩くとそのまま抱えられて馬車の床にドンと放り投げられる。
口の中に血の味が広がるが無常にもバタンと馬車の扉が閉まり慌てたように馬車が動き出した。
「このアマ! 舐めた真似しやがって!」
男は床に寝転がったままの私をバンっと蹴るとそのまま背中に足を乗せた。
このまま旧教会に向かうということなのだろう。きっとさっきの騒ぎを聞きつけた人が騎士に知らせてくれるはず。そうすればクラウス様が気づいてくれるはずよ。いくら今ギクシャクしていたとしてもクラウス様は助けてくれる。
今更ながら体のあちらこちらがズキズキと痛む。
そして、心は置いてけぼりだ。今出来ることはない。すると何故という疑問が頭に浮かぶ。
何故、お父様とお母様はあんな風になってしまったの?
何故、私ばかりこんな目に遭わなくてはならないの?
何故、生贄になんてならなくてはならないの?
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