黄泉がえり令嬢は許さない

波湖 真

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犯人捜査

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「では、私はここに倒れていたのですね?」
私は第一発見者となる騎士から話を聞いていた。
クラウス様の護衛騎士は少し緊張しているようだがあの日の見たままのことを話してくれる。更にはわたしが倒れていた場所に横たわりこんな感じですと実演して見せてくれる程の力の入れようだ。
きっとクラウス様が口添えしてくれたのだ。
「はい、こちらにこのように横たわっておいででした」
「頭はどちらを向いていたかしら?」
「仰向けに倒れておいででしたので階段の方を向いておられました」
私はうんうんと頷いてメモを取る。
私が落下しながらも階段の方を見た記憶は正しかったようだ。誰もいなかったが。
「私は落ちたばかりだったのかしら? それとも暫くここで倒れていたのかしら?」
「事故に遭ったばかりだと思います。見てはいませんが、悲鳴を聞いたような気がしますので。それで私は駆け足で向かってアーデルハイド様を発見しました。アーデルハイド様は意識がないようでした。そこで私はクラウス殿下を呼びに走った次第です」
「悲鳴を? その時にこの場には誰かいましたか?」
「…………だれ……も」
「え?」
「あっいえ、誰もおりませんでした。ですが、私の証言を裏付けることはできません。通常は私も二人で行動するのですが、殿下の側を二人とも離れることはできませんでしたので私は一人でした」
一瞬心ここに在らずという雰囲気が漂ったが直ぐにテキパキした態度に戻ってその時のことを詳しく話してくれる。その合間合間にチラチラと私の背後を気にしている。何故なら私のすぐ後ろにはお兄様とベルナンド様が警戒心MAXで立っているので、プレッシャーが凄いのだろう。
「お兄様、ベルナンド様、あの、お静かに…….」
「話してはいないよ、アーデル。おかしな事を言うね」
確かに言葉は発していないが態度が語りすぎて騎士がびくついてしまうからやめてほしい。
「俺達はうるさいか?」
ベルナンド様が騎士に向かって確認するが騎士はブンブンと音がするほどに首を横に振った。
「と、と、と、とんでもございません」
それが圧力というのですという言葉を飲み込んで騎士の話を一通り確認したところで実況見分は終了した。私達の周りにも野次馬が集まってきていた。ガヤガヤして来たところで騎士には職務に戻ってもらうことにする。これだけ周りにも見せつければ犯人にも届くだろう。
私は満足して頷いた。
更には騎士の心の声にも特に不審なところは見られず、クラウス様が言っていた通り私が来ないことを不審に思ったクラウス様に命じられて様子を見に行ったら私が大階段下に倒れていたで間違いないらしい。ただ…………
ぺこぺこ頭を下げながら立ち去る騎士を見送って「うーん」と首を傾げる。
「何か気になるのかい?」
お兄様が心配そうに私のことを覗き込んできた。
「はい。確かにクラウス様が言っていた通りなんですが、私が控室からいなくなってから、ここで倒れているのを発見されるまでの空白の三十分について全くわかりませんでした」
するとベルナンド様が階段の上を見上げながらうなずいた。
「確かにな。ここからアーデルハイド嬢がいた控室までどんなにゆっくり歩いても五分もかからない。それが三十分もの間ここに放置されていたとも考えづらいし、騎士も悲鳴を聞いている。ということは落ちる前に何かあったとしか考えられない。君はその三十分間について本当に心当たりがないのか?」
私は目を閉じる。あの日のことは何となくボヤッとしているのだ。
「私の記憶では控室から真っ直ぐにこちらに向かったはずなんです……」
私が頭に手を当てて呟くとお兄様が私の背中に手を当てた。
「大丈夫かい? 疲れたのなら少し休もう」
「大丈夫ですわ。でも、侍女は具合が悪くなり、私はボヤッとした記憶しかなく、騎士は悲鳴は聞いたが落ちたところは見ていないと言う。何かがおかしいの。それに……」
騎士が口籠もった時に聞こえた微かな心の声に違和感を感じていた。
『だれも……だれか……いた……いなかつた?』
あの時以外は聞こえなかった声だ。何かあるのかもしれない。
「それに?」
私が途中で言葉を切って考え込んだのでお兄様が心配そうに顔を覗き込んできた。
「何でもありませんわ。それでは二階に上がってみましょう」
「手を」
サッとお兄様が手を差し出すと私はその手を取って大階段を上がった。
確か記憶では二階の踊り場から突き落とされたはずよ。
私は二階の踊り場に立つとくるりと後ろを振り返る。一階に向かって広がる階段は立っているだけで恐怖を感じる。
「高いわ」
二階とはいえ、ホールのある建物なので、一階の天井が異様に高いのだ。それに伴って階段も通常の二倍はありそうだった。
「まぁ、そうだ。でも、これが三階から落ちていたら、仮死状態では済まなかったな」
ベルナンド様の声に私達は今度は三階を見上げる。三階は特別な時に王室関係者のみが使用できることになっているので今日は上がることはできないのだ。
「そうですね。三階から落ちていたら、本当に死んでしまったかもしれません」
「アーデル……」
寂しそうなお兄様の声に私は少し戯けるようにお兄様を見つめる。
「それでも、私は死ななかったのですわ」
ニコッと笑った私を見てお兄様の肩から力が抜けるのを感じた。
そして、踊り場から左右の通路を見渡した。この大階段は踊り場から左右に伸びた通路があり客室が広がっているのだ。
「あの日はどなたかここに滞在されていたのかしら?」
「客室か……。確か隣国の王を筆頭に何人かが滞在していたはずだ。だがあの日は既に会場にいたな」
「そうですか……」
私は長い通路の先に目を向けたが全く見覚えはなかった。
「そろそろ部屋に戻ろうか?」
お兄様の一言で私達は大階段を下りる。いや、下りようとしたが出来なかった。
階段上の踊り場で足が止まってしまった私をお兄様とベルナンド様が振り返った。
「アーデルハイド嬢、どうした?」
階段を下りようとしているのだが足がすくんで動けない。そのうちガタガタと震え出す。
「も、申し訳ありません。足が……すくんで動けません」
ハッとしたお兄様が慌てて戻ってくると私を抱き上げる。
「すまない、お前への配慮が足りなかったね」
「お兄様、すみません。多分騎士から話を聞いて体が勝手に反応してしまったの。気持ちは大丈夫なのに、体が……」
「いいんだよ。それだけショックだったんだから。ほら、目を閉じておいで、直ぐに下まで運ぶからね」
「はい、ありがとうございます」
私はふぅーっと息を吐くとお兄様にもたれかかる。大丈夫だと思っていたが、かなりダメージを受けていたことがわかった。
「リヒャルド、ここへ」
ベルナンド様は先に階段を下りて、私の車椅子を持って来てくれたようだ。
私はお兄様が慎重に階段を下りて、私を車椅子に座らせてくれるまで目を開けることは出来なかった。階段は登ることは出来ても下りられない。新たな発見だった。
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