黄泉がえり令嬢は許さない

波湖 真

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王宮生活

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お茶会に戻った私たちは、再び人の波の中に飲み込まれた。壇上から降り、クラウス様の手を取ったままエスコートされる。周りからは好奇の目と祝福の目と一部不審な目を受けながら歩く。
「おめでとうございます!!」
そういう言葉の裏で別のことを考える人々。
『あらやだ。呪われないわよね』
「おめでとうございます」
『こんな不健康さで大丈夫かね』
「いやーよかったですね。これで安泰です」
『怖い怖い。悪魔付きだからな』
クラウス様と笑顔でお礼を言いながらも顔が引き攣る。すると私の手を取っていたクラウス様がギュッと強く握って来た。
そうか、クラウス様も色で悪い事を考えている人は見えるのね。それに今まではクラウス様が一人で耐えていたこと。
その時、会場の一角から私に対するものではない心の声が聞こえて来た。
『元サヤということね』
『カタリーナ様はさぞ残念な事でしょう』
『自分が婚約者になるなんて言ってましたもの』
『浅ましいことね』
私はそちらを見てから足を止めた。カタリーナ様が一人で佇んでいる。
「あの、クラウス様」
「どうしたんだい?」
「少し一人であちらに行ってもよろしいですか?」
私の視線の先を確認したクラウス様が僅かに顔を顰める。
「あまりお勧めはしないが」
「友人ですの」
私はクラウス様をじっと見つめる。
「……わかったよ。私はここで待っている」
私はほっと息を吐くと微笑んだ。
「ありがとうございます」
クラウス様が一度強く手を握ってから、私の手を離す。私はもう一度クラウス様に頷いて見せるとカタリーナ様の元に向かった。
「カタリーナ様」
ハッとしてカタリーナ様が顔を上げた。そして、膝を折って頭を下げる。
「アーデルハイド様、この度はおめでとうございます」
『なんで! なんで生き返ったのよ!!』
「ありがとうございます」
カタリーナ様は顔を上げて私を見つめる。その瞳に宿るのは怒りのようだ。
「お幸せそうで何よりですわ」
「まだ、体調は整わないの。でも、ゆっくりとお話ししたいわ。遊びにいらして。今は王太子宮に滞在しておりますの」
『王太子宮!! 悔しい! 悔しい! 悔しい!』
「まぁ、愛されておいでですのね。本当にアーデルハイド様がお戻りなって私も嬉しいですわ」
「ええ、本当に。カタリーナ様には色々お聞きしたいの。今度招待状を送りますわ」
「はい。楽しみにしております」
そう言ってもう一度頭を下げたカタリーナ様に私も軽く頭を下げる。
「では、また」
そう言ってクルリと踵を返した。
『嫌いよ! 大っ嫌いよ!』
後ろから響く心の声は怨嗟の言葉。それでもカタリーナ様とは会って話さなければならない。
「お待たせいたしました」
クラウス様の元に戻った私は彼に手を差し出した。
「大丈夫か? 凄い色しているぞ。彼女」
「大丈夫です。今度王太子宮にお招きしてもよろしいでしょうか?」
「彼女をか?」
「はい」
「一体どうして?」
私の手を引きながら不思議そうに尋ねる。
「友人でしたが、今は……容疑者の一人ですの」
「え?」
「私が死んで彼女は喜んでいました」
「本当か?」
「はい」
「……わかった。私は同席しない方がいいのだろう?」
「はい。私だけで会います」
クラウス様は周りの人に笑顔を振りまきながら何か考えているようだ。
「ベルナンドはどうだ?」
「え?」
「君の護衛だ。騎士達はまだ前回の嫌疑が晴れていないからな。ベルナンドならば剣の腕も立つし、冷静で頭もまわる。更に人当たりもいい」
「でも……」
「何も話す必要はない。あいつは自分で理由を見つける男だ」
クラウス様の言葉には信頼が溢れている。それを見て私は頷いた。
「わかりました」
その時背後から物凄い声が響いた。
『死ね!!!!』
私はハッとして振り向いたが、後ろにはたくさん人がいて皆楽しそうに談笑している。
「どうしたんだ?」
クラウス様が背後を見渡すが何も不審な者はいなかったようだ。
「変な色は見えないが……」
「そうですか……」
再び前を向いて歩き出す。
『殺してやる!! 今度こそ!!』
物凄い音量で目の前がクラクラする。
「おい? どうした?」
グッとクラウス様の手を握りしめた私を心配そうに覗き込む。
『死ね! 死ね! 死ね! 死ね!』
頭が割れるほどの心の声は周りの音楽も談笑の笑い声も何もかもを飲み込んだ。私はぎゅっと目を閉じてなんとか能力をコントールして心の声を締め出そうとしてみるがその声はドンドン大きくなる。
「おい、アーデル! アーデルハイド!」
クラウス様の声さえも遠い。私は目の前が真っ暗になった。
「あ……」
グラリ揺れた体から一気に力が抜けていく。薄れゆく意識の中でがっしりとした腕の感触だけを感じたが直ぐにブラックアウトして何もわからなくなった。
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