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「あー、本日はお天気も良く……」
「?」
「兄さん!」
夕食後、私は二人を呼び止めて、部屋のソファに座ってもらった。
そして、二人にあの日のことを尋ねようとした時、ネイトが私の目の前に手を上げてから、話し出した。
でも、天気の話? 何故?
訳が分からなくて、サイラスに顔を向けるが、両手を上げて肩をすくめるばかりだった。
「あの……」
「ああ、わかっている。ちょっとだけ待て」
「はぁ」
そのままネイトのいう通り待つこと数分、いや数十分?
「アンジュ、お前は俺の妹だ。お前の行動は全て俺に責任がある。ここにいる誰もお前を責めたり、否定したりしないことを約束する。いいな?」
ネイトの真面目な口調に、私も神妙に頷いた。
「はい」
「じゃあ、話そう。聞きたいのはあの日のことだよな?」
「はい。あの、今日その窓からは庭園を見ました……」
私の言葉に兄達はお互いに顔を見てから、ふぅっと息を吐いた。
「……そうか。何もなくなっていただろう?」
「はい。どうしてあんなことに……」
「まぁ、魔法に魔力が追いつかなくなって、バランスを崩したんだ」
「でも、私のせいじゃ……」
「絶対に違う。ああ、順を追って話そう」
そう言ってから、ネイトはあの日、私が魔力石を壊した後のことを話してくれた。
庭園に入れたこと、花が狂い咲いたこと、そして、全て枯れてしまったこと。
「まあ、そんな感じだ。止まっていた時間が動き出したんだ。草花は枯れて当然だ。ずっと負荷がかかっていたんだからな。お前のおかげで庭園の最期を見ることができた。感謝しているぞ」
ネイトが話を終わらそうとしているので、私はニコルソンから聞いたことを口にする。
「パパが来たって聞きました!」
「……はぁ、ニコルソンか。ああ、アイツも魔力石が壊れたことに気づいてやってきた」
「会ったんですか? 怒ってませんでしたか? 大切な庭園を壊してしまったので、怒ってますよね」
私が俯くと、サイラスが手を握ってくれる。
「いや、お前に対しては怒っていなかったな。俺たちには怒っていたが、それはいいんだ。俺たちもアイツに言いたいことを言ったからな」
「え?」
私は二人の顔を交互に見る。
「俺達はアイツに気を遣っていたんだとつくづく思ったよ。だから、今までの怒りをぶつけちまったんだな」
「そうそう。僕もかなりスッキリしたよ」
サイラスもネイトも笑顔だった。きっと、今言ったことは本当のことだ。
でも、パパはどうだったのかな?
子供に怒りをぶつけられて、パパはどう思ったのかな?
それでも、自分の悲しみだけを抱えているのかな?
まだ、変わらないルーティンで過去を生きているのかな?
「……パパは?」
私が絞り出した言葉に二人は押し黙る。
「知らん」
「え?」
「あの日以来会ってないんだ。元々接点がないからね。僕達と公爵様は」
「まぁ、ニコルソンが、何も言わないんだから元気にしてんだろよ。アイツにとっちゃ母上の庭園なんてあってもなくてもよかったってことだよな」
ネイトはそう言いながらも、眉間に皺が寄っている。
「今日、見ました」
「何を?」
「パパを……」
「「どこでだ!」」
二人が身を乗り出した。
私はびっくりして体を後ろにずらす。
「えっと、庭園があったところで」
「? まさか、アイツ未だに母上とのお茶会をやってるのか?」
ネイトが頭を抱えてつぶやいた。
「まさか! 庭園はないんだよ?」
サイラスもびっくりしているようだ。
「でも、まるで庭園があるかのように歩いていて……」
「誰も疑ってねえよ。それだけか? アイツはいつものように、散歩してただけか?」
「違うと思います。今日はいつものコースとは違って、この窓の下まで来たんです」
「下って……」
ネイトが慌てて窓に近づくと勢いよく窓を開ける。
「どの辺にいたんだ?」
「えっと、あの木とあの木の間くらい」
「なるほどな」
ネイトが窓から下を覗き込むと、何かに納得したように頷いた。
「どうしたんですか?」
「お前は半分くらい成功したみたいだな」
ネイトの言葉に私は首を傾げる。
「え?」
「ほら、あの木とあの木の根本を見てみろ。光っているのがわからないか?」
よく見ると確かにボーッと淡い光が見える。
「なんでしょう?」
私が聞くと、後ろからサイラスが覗き込む。
「魔力石だね」
「ああ、おそらくあの魔力石のかけらだろうな」
「あの! あそこに魔力石があるのはわかったんですけど、それが何かあるんですか?」
私が手を上げて質問すると、ネイトは大きくため息を吐いてから、私の頭に手を置いた。
「ははは、これから勉強が必要だな。アンジュは」
「魔力石があるということは、そこには魔法が展開してるということだよ。しかも、持続的なものがね」
「一体どんな魔法が?」
「わからんが、この部屋のすぐ下なんだから、この部屋に関係しているだろうな」
「ええぇ!! 怖いです。やっぱり私はパパを怒らせちゃったんです! どうしよう……」
パパに近寄るどころか、どんどん嫌われていく。
私は俯いて、きゅっと手を握りしめる。
「俺達にもどんな魔法が展開しているかは分からない。これからは監視されているくらいの気持ちで過ごしたほうがいい」
「監視……」
私は視線だけでクローゼットを見つめる。
あそこには宝物が入っているのだ。絶対に誰にも言えない。
「どうしたの? アンジュ」
サイラスの声にハッとして笑顔を作る。
「大丈夫です! 怪しい行動なんてしてないし! きっとパパもすぐにやめてくれます!」
ネイトがその言葉を聞いて、もう一度大きくため息を吐いた。
「わかってるか? 今、この部屋で俺達と話しているお前は、十分に怪しいぞ」
「え? あ! どうしよう……ああ、お兄様達! 早く帰ってください!! 私はパパの記憶を戻したいんです!! このままじゃ会えないままです!!」
私は二人の手を引いてドアまで連れて行くと、そのまま部屋の外に押し出した。
「えっと、お話は明日図書室でしましょう!! いいですか?」
「ああ」
「わかったよ。おやすみ」
二人はなんか笑いを堪えたように、言って部屋から出て行った。
「ふぅ……これからは部屋で話さないようにしないと!」
私は胸を撫で下ろしたのだった。
「クククっ、俺達の妹は面白いやつだな」
「そうですね。自分が起こした変化には気づかないところがまた、可愛いです」
ネイトとサイラスはゆっくりと歩いて自分達の部屋に向かう。
「俺達は、寮に帰るか……」
「そうですね。きっと、僕達では近すぎるんですよ。思い出も、恨みも」
サイラスはそう自嘲気味に笑う。
アンジュは気づいていないが、アイツがあの部屋に何かしらの魔法を展開するということは、凄いことなのだ。
それは今まであの過去のあの日以外を生きていなかった父親が、初めて起こしたアクションだった。
もしかしたら、アンジュの言うように怒って何かしらの魔法を展開した可能性もあるが、自分と死んだ母親以外に関心を示すと言うことが珍しい。
きっと、俺たちがいたら、動くことも止まってしまうだろう。
あの小さな妹に全てを委ねるのは気が引けるが、今は任せてみてもいいのかもしれない。
そうして、その夜は更けていった。
「?」
「兄さん!」
夕食後、私は二人を呼び止めて、部屋のソファに座ってもらった。
そして、二人にあの日のことを尋ねようとした時、ネイトが私の目の前に手を上げてから、話し出した。
でも、天気の話? 何故?
訳が分からなくて、サイラスに顔を向けるが、両手を上げて肩をすくめるばかりだった。
「あの……」
「ああ、わかっている。ちょっとだけ待て」
「はぁ」
そのままネイトのいう通り待つこと数分、いや数十分?
「アンジュ、お前は俺の妹だ。お前の行動は全て俺に責任がある。ここにいる誰もお前を責めたり、否定したりしないことを約束する。いいな?」
ネイトの真面目な口調に、私も神妙に頷いた。
「はい」
「じゃあ、話そう。聞きたいのはあの日のことだよな?」
「はい。あの、今日その窓からは庭園を見ました……」
私の言葉に兄達はお互いに顔を見てから、ふぅっと息を吐いた。
「……そうか。何もなくなっていただろう?」
「はい。どうしてあんなことに……」
「まぁ、魔法に魔力が追いつかなくなって、バランスを崩したんだ」
「でも、私のせいじゃ……」
「絶対に違う。ああ、順を追って話そう」
そう言ってから、ネイトはあの日、私が魔力石を壊した後のことを話してくれた。
庭園に入れたこと、花が狂い咲いたこと、そして、全て枯れてしまったこと。
「まあ、そんな感じだ。止まっていた時間が動き出したんだ。草花は枯れて当然だ。ずっと負荷がかかっていたんだからな。お前のおかげで庭園の最期を見ることができた。感謝しているぞ」
ネイトが話を終わらそうとしているので、私はニコルソンから聞いたことを口にする。
「パパが来たって聞きました!」
「……はぁ、ニコルソンか。ああ、アイツも魔力石が壊れたことに気づいてやってきた」
「会ったんですか? 怒ってませんでしたか? 大切な庭園を壊してしまったので、怒ってますよね」
私が俯くと、サイラスが手を握ってくれる。
「いや、お前に対しては怒っていなかったな。俺たちには怒っていたが、それはいいんだ。俺たちもアイツに言いたいことを言ったからな」
「え?」
私は二人の顔を交互に見る。
「俺達はアイツに気を遣っていたんだとつくづく思ったよ。だから、今までの怒りをぶつけちまったんだな」
「そうそう。僕もかなりスッキリしたよ」
サイラスもネイトも笑顔だった。きっと、今言ったことは本当のことだ。
でも、パパはどうだったのかな?
子供に怒りをぶつけられて、パパはどう思ったのかな?
それでも、自分の悲しみだけを抱えているのかな?
まだ、変わらないルーティンで過去を生きているのかな?
「……パパは?」
私が絞り出した言葉に二人は押し黙る。
「知らん」
「え?」
「あの日以来会ってないんだ。元々接点がないからね。僕達と公爵様は」
「まぁ、ニコルソンが、何も言わないんだから元気にしてんだろよ。アイツにとっちゃ母上の庭園なんてあってもなくてもよかったってことだよな」
ネイトはそう言いながらも、眉間に皺が寄っている。
「今日、見ました」
「何を?」
「パパを……」
「「どこでだ!」」
二人が身を乗り出した。
私はびっくりして体を後ろにずらす。
「えっと、庭園があったところで」
「? まさか、アイツ未だに母上とのお茶会をやってるのか?」
ネイトが頭を抱えてつぶやいた。
「まさか! 庭園はないんだよ?」
サイラスもびっくりしているようだ。
「でも、まるで庭園があるかのように歩いていて……」
「誰も疑ってねえよ。それだけか? アイツはいつものように、散歩してただけか?」
「違うと思います。今日はいつものコースとは違って、この窓の下まで来たんです」
「下って……」
ネイトが慌てて窓に近づくと勢いよく窓を開ける。
「どの辺にいたんだ?」
「えっと、あの木とあの木の間くらい」
「なるほどな」
ネイトが窓から下を覗き込むと、何かに納得したように頷いた。
「どうしたんですか?」
「お前は半分くらい成功したみたいだな」
ネイトの言葉に私は首を傾げる。
「え?」
「ほら、あの木とあの木の根本を見てみろ。光っているのがわからないか?」
よく見ると確かにボーッと淡い光が見える。
「なんでしょう?」
私が聞くと、後ろからサイラスが覗き込む。
「魔力石だね」
「ああ、おそらくあの魔力石のかけらだろうな」
「あの! あそこに魔力石があるのはわかったんですけど、それが何かあるんですか?」
私が手を上げて質問すると、ネイトは大きくため息を吐いてから、私の頭に手を置いた。
「ははは、これから勉強が必要だな。アンジュは」
「魔力石があるということは、そこには魔法が展開してるということだよ。しかも、持続的なものがね」
「一体どんな魔法が?」
「わからんが、この部屋のすぐ下なんだから、この部屋に関係しているだろうな」
「ええぇ!! 怖いです。やっぱり私はパパを怒らせちゃったんです! どうしよう……」
パパに近寄るどころか、どんどん嫌われていく。
私は俯いて、きゅっと手を握りしめる。
「俺達にもどんな魔法が展開しているかは分からない。これからは監視されているくらいの気持ちで過ごしたほうがいい」
「監視……」
私は視線だけでクローゼットを見つめる。
あそこには宝物が入っているのだ。絶対に誰にも言えない。
「どうしたの? アンジュ」
サイラスの声にハッとして笑顔を作る。
「大丈夫です! 怪しい行動なんてしてないし! きっとパパもすぐにやめてくれます!」
ネイトがその言葉を聞いて、もう一度大きくため息を吐いた。
「わかってるか? 今、この部屋で俺達と話しているお前は、十分に怪しいぞ」
「え? あ! どうしよう……ああ、お兄様達! 早く帰ってください!! 私はパパの記憶を戻したいんです!! このままじゃ会えないままです!!」
私は二人の手を引いてドアまで連れて行くと、そのまま部屋の外に押し出した。
「えっと、お話は明日図書室でしましょう!! いいですか?」
「ああ」
「わかったよ。おやすみ」
二人はなんか笑いを堪えたように、言って部屋から出て行った。
「ふぅ……これからは部屋で話さないようにしないと!」
私は胸を撫で下ろしたのだった。
「クククっ、俺達の妹は面白いやつだな」
「そうですね。自分が起こした変化には気づかないところがまた、可愛いです」
ネイトとサイラスはゆっくりと歩いて自分達の部屋に向かう。
「俺達は、寮に帰るか……」
「そうですね。きっと、僕達では近すぎるんですよ。思い出も、恨みも」
サイラスはそう自嘲気味に笑う。
アンジュは気づいていないが、アイツがあの部屋に何かしらの魔法を展開するということは、凄いことなのだ。
それは今まであの過去のあの日以外を生きていなかった父親が、初めて起こしたアクションだった。
もしかしたら、アンジュの言うように怒って何かしらの魔法を展開した可能性もあるが、自分と死んだ母親以外に関心を示すと言うことが珍しい。
きっと、俺たちがいたら、動くことも止まってしまうだろう。
あの小さな妹に全てを委ねるのは気が引けるが、今は任せてみてもいいのかもしれない。
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