昨日の敵は今日のパパ!

波湖 真

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「じゃあ、作戦会議といこうか」
ネイトの言葉に私とサイラスは頷いた。
「まずはお互いのゴールを確認するぞ」
私は手を上げる。
「はい! 私はパパにママのことを思い出してほしいです! そうすればママが犯罪者ではないってわかるから」
私の言葉に二人は顔を見合わせる。
「別にアンジュちゃんのことを疑っているわけではないけど、君のママが犯人一味である可能性がないわけじゃないんだよ」
「もし、アイツが思い出した上でお前の母親が犯人だったらどうするんだよ」
私はテーブルを、手でバンッと叩く。
「大丈夫です! ママは嘘はつきません! ママが言ってました。パパが怪我してるのを助けて、恋に落ちたって!」
「ふーん」
「パパはとっても優しくて、素敵だったって!」
「……優しい? 本当に公爵様かな? 不安になって来たよ」
「まあまあ、遺伝魔法が証明しているんだ。こいつが妹であることには変わらないぞ」
「まあね。とにかく君のゴールはわかったよ。僕達のゴールは、公爵様の過去をぶち壊すこと。もう母はいないし、時は戻らない。公爵様にはそれをわかってほしい」
「そうそう。ぶん殴るにしても今にいる奴じゃないとな」
私は深く頷いた。
「よし。まぁ、お互いにアイツを刺激することが必要ってこった。それでいいな!」
「はい」
「うん」
ネイトが顎に手を当てて、天井を見上げる。
「んー。まずはアイツのルーティンを壊さないとな」
「そうですね。あのルーティンの中にいると何も始まりませんから」
そう言って二人は頭を抱える。
どうも、二人はこの家を出る前に結構色々試したらしいのだ。
ワザと問題を起こしたり、執務室の鍵を壊したり、家の中で大騒ぎしたりしたが、パパは見向きもしなかった。
問題は一言ニコルソンに言いつけ、仕事は別の部屋で行い、いくら騒いでも叱りにさえこない。
「僕が風邪をこじらせても、顔を見にもこなかったよ」
サイラスはかなり悲しそうに呟いた。
「かなり、強敵ですね」
「ああ」
その時、私はポンっと手を叩く。
「お二人が庭園に入れないっとどういうことですが?」
「ああ、僕達が入ろうとすると入り口と出口が繋がってしまうんだ」
「え? そんなことができるんですか?」
「まぁ、僕達は公爵家の人間だからね。使える魔法も他家よりも多い」
確かに魔法は許可制だ。王様から許可を受けると使えるようになる。
個人のちょっとした魔法であれば、問題ないが、大規模魔法が許可されているのは高位貴族のみだ。
「神殿の遺伝魔法も本来ならかなり貴重なんだよ」
サイラスの言葉にネイトも頷いた。
「そうそう。この国は魔法が国の基盤になってるからな」
私は少し考え込んだ。
「あの、ではお二人は庭園にある迷路とか池とかはご存知ないのですか?」
「え! お前……迷路まで行ったのか?」
「しかも池って……最深部だよ!!」
二人は興奮して答えた。
「あの……それが何か……」
「迷路や池があるのは、もちろん知っているよ。なんといっても母が僕達のために作ってくれたら庭なんだから。でも、その庭から閉め出されて、久しぶりに聞いたよ。迷路も池も」
「おい、サイラス。こいつが池まで行けるなら、あれを壊れせるんじゃないか?」
「そうだね。兄さん。僕もそれを考えていたよ」
「あれ?」
二人がグイッと前に乗り出した。
「ああ、魔力補完装置だ!」
「なんですか? それ?」
「知らないの?」
二人は信じられないという目を向けてくる。
私はシドロモドロになりながらも、言葉を続けた。
「はい、はっきり言ってこの国に来たのは最近ですし、前にいたところでは魔法はあまり使われていなくて……」
二人は頷くとペンと紙を持って来てスラスラと何かを描き始める。
「魔法について、基本的なことを説明するね。まず、魔力は基準量までは個人の能力とされているけど、それ以上のものは家門に振り分けられるんだ。ここランバート公爵家にはかなりよ魔力が振り分けられている。まぁ、そうはいっても今は公爵様がその殆どをあの庭園に注ぎ込んでるんだけどね」
私はコクンと頷いた。
「それでも、常時あの大規模な魔法を展開しているには魔力はたりない。だから、魔力補完装置を設置して展開した魔法の維持に使っているはずだ」
ネイトが付け足すとサイラスも頷いた。
「僕の計算では、装置場所は庭園の中央にある東屋だと思うんだよ」
「東屋?」
「ああ、池の奥に小さな屋根付きの休憩所があるんだ。気付かなかった?」
私は池の風景を思い出そうとするが、あの時はいっぱいいっぱいでよく覚えていない。
「……ごめんなさい」
「大丈夫だ。本当に小さな小屋みたいなもんだからな」
ネイトが私の頭をワシャワシャと撫でる
「えっと、その装置をどうするんですか?」
「止める。もしくは、壊す」
「え?」
「そうすると、魔法の維持が難しくなるんだよ。そうすると、取り敢えず、庭園の時間は流れ始める」
「え? それってどういうことですか?」
「だから、止まって時間を動かすってことだよ。さっき、話したよね?」
私はその言葉を聞いて叫び声を上げる。
「ええええええぇぇぇ!!」
「なんだ? どうした?」
「時間が止まってるって、なんというか精神的にとか例え話とかじゃなくて、本当に止まってるんですか?」
「ん? そうだよ。そう言ったよね?」
私はブンブンと顔を横に振る。
「あの庭園は母が死んだ時、というか公爵様が帰ってきた時点から変わってないんだ。花も、草も、何もかもあの時のままだよ。なんなら、空気だって……」
私はハッとした。確かにあの庭園に入っと時、新しいものがないと感じたのだ。
それは、こういうことだったのかと納得した。
「だから……花も古く感じたんですね」
「そうだと思うよ」
「でも、そうすると、その装置を止めたら、えっと、お二人のお母様が育てたお花が枯れてしまうんじゃないですか?」
「まあ、そうだろうな。でも、それでいいんだ。花は枯れるものだろ?」
「そうそう」
そういって笑った二人は、少し寂しそうに見えたのだった。
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