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16、天国と地獄

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翌日由梨は朝からご機嫌だった。
もちろんハーフアップした髪には昨日優司から渡された真珠のバレッタがキラキラと光を反射している。
朝食の席で両親にも優司に告白された事とそれをお受けしようと思っている事を伝えると母親は大喜び、父親は淋しさ半分という顔で良かったねと言ってくれた。
由梨は自分の世界がパーッと広がったように感じられて全身がふわふわと浮いているような気分だった。

学校に登校してもその興奮は収まらずいつになく笑顔で歩いている由梨はとても目立っていた。

海斗と共に特別教室が入っている校舎に向かっていると珍しく背後から海斗を呼ぶ声がした。

「海斗ー!!」

慌てて走ってきたのは同じクラスの健だった。海斗が由梨といる時は見て見ぬ振りをしてくれている友人が今声をかけてきた事に驚いた海斗は由梨を背後に隠して走ってくる健を迎えた。

「海斗!大変なんだ。」

健は海斗を少し引っ張って由梨から距離をとって今掴んだ情報を海斗に提供した。

「今聞いたんだか、二年の女子がどうも由梨ちゃんに呼び出しかけようとしているらしい。やっぱり会長が由梨ちゃんにご執心でクラスにも顔を出さなくなった事に不満が溜まってるらしいぞ。あの人特別は作らなかったから逆にファンは多いからな!由梨ちゃん、マズイだろ。それは。」

海斗は健から聞いた話を反芻して日本でもそんな事があるのかと半ば呆れて頷いた。

「わざわざ、ありがとう。やっぱり日本でもスイスでも人間は変わらないんだな。それって大体いつくらいの話なんだい?」

「多分だけど、実行は今日、明日って話だ。この学園にしてはちょっと行動が行き過ぎる手合いなんだよ。」

海斗の妙な冷静さを見て、健もやっと冷静になり今この由梨のいる場所で言わなくてもよかったかと後悔を浮かべた。

「えっと、、、その、、まぁ、、すまん、、。」

海斗は健の様子から自分達を気遣ってくれている事を感じ取り、健を引っ張って由梨の前に立たせた。

「姉さん、突然すみません。彼が僕の友人の須藤健です。今クラスで色々教えてくれているんですよ。」

にっこりと笑顔を作って健を由梨に紹介した海斗の隣で当事者の健が緊張してしどろもどろになっていた。

「えっと、、はじめまして、、同じクラスの須藤健です。よろしく、、、。」

そう言って頭を下げた健を見て、先程から無表情になっていた由梨はぎこちなく笑顔を作った。

「よ、、、よ、ろ、しくお願いします。」

聞こえるか聞こえないかという声で呟いた由梨をビックリと凝視してから健が叫んだ。

「ゆ、、由梨ちゃんがしゃべった~」

海斗から由梨の症状を聞いていた健は海斗が自分を紹介してくれるとも由梨の笑顔を見たり声を聞けると思っていなかったのだ。それが海斗から紹介され由梨からお言葉を貰えるとは、、、、とフルフル震え感動していた。
由梨の笑顔は、一瞬で消えたし、声は本当に小さかったが健は嬉しくて海斗に抱きついた。

「おい!海斗!聞いたか?由梨ちゃんからお言葉頂いちゃったぜ!!しかも笑顔付き!!」

海斗はうるさそうに健を引き剥がすと由梨に向かって言い放す。

「姉さん、健に声なんか聞かせると会長が嫉妬に狂って健が不幸になるのでやめてくださいね。」

その言葉で由梨は真っ赤になったし、健は一人でえっやっぱり会長と?マジか?と呟いていたが、海斗は健を放置しさっさと由梨を連れて校舎の中に消えた。

「海斗、須藤様は大丈夫かしら?一体何のお話だったの?急用なら私一人で生徒会準備室に行けるわよ?」

由梨は校舎内に入って人がいなくなると緊張を解いて海斗に話しかけた。

「いえ、大した事ありませんよ。人間は世界共通だという話でした。彼はほって置いても勝手戻るから全然気にしないで下さい。それより姉さんも気をつけてくださいね。会長は平気になってもやっぱり治ったわけではないんですから。絶対一人で行動しないでくださいね。」

海斗は健からの情報は由梨には伝えずそのまま由梨を部屋まで送り届け、諸悪の根源のいる隣の生徒会室を心のまま乱暴にノックした。



朝から優司は鼻歌をする程機嫌が良かった。そう圭一郎がある話を持ち込むまではこの世の春を満喫していたのだ。昨日のお茶会での由梨の姿を思い出すだけで天国だった。早すぎるかとも思った告白も感触的にはうまくいきそうだったし、本当に何もかもうまく言っていたのだ。

こいつが来るまでは!!

優司は恨みがましげに圭一郎を睨むと圭一郎がビクっと振り向いた。

「おい!やめろよ、その目は!俺のせいじゃないんだからな!逆に感謝して欲しいくらいだよ。」

圭一郎がもたらした情報は健と同じ由梨に絡んだ不穏な噂だった。由梨の身の安全が脅かされているという内容に優司の肝が冷えた。ついでに頭も心も冷えったらどうしても圭一郎に当たりたくなってしまうのだと再度圭一郎を睨む。

「だからやめろ!その目を!」

圭一郎がたまらないとばかり文句を言ったその時生徒会室のドアが乱暴にノックされた。常ならぬその乱暴さに今ドアの向こうにいる人物の機嫌がありありとわかったが、優司は肩をすくめて入室を促した。
そして、圭一郎が開けた扉の向こうには怒りのオーラを全開にした海斗が物凄い笑顔で佇んでいたのだった。
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