双子になんかなりたくない

波湖 真

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別れ

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私は暗い暗い暗い道を歩いていた。
気づいたらここにいたのだ。確かパーティでユアン、ジェイクと私で乾杯したはずだ。
そうしたら気分が悪くなって……。思い出せない。
その時、道に明るい光が指す。窓?
「なに?」
私はその場所に近づいた。ここは暗いのに窓の向こうは酷く明るい。否、白いのだ。
「誰かいるみたいね」
私はその窓に顔を近づける。すると見慣れた後ろ姿と見たこともない美人が立っている。
「ユアン?」
私は窓をドンドンと叩くがびくともしない。声を上げるも向こう側には聞こえないようだ。
私は耳を窓につける。二人は何かを話しているのに聞こえない。
ユアンが何かを叫ぶ。
「なんて言ってるの? ユアン! 私はここよ!!!」
バンバン叩くが全く反応がない。
「なによ、これ!!」
その時ユアンと話していた金髪美女が私の方を向いてニヤリと笑ったのだ。
ゾワッと全身に鳥肌が立つ。
「うわ! 嫌な感じ!!」
もう金髪美人を綺麗だとは思えなかった。どちらかと言うと悪魔の微笑みだったからだ。
「ユアン!! その人は駄目!! 絶対騙されてるよ!!」
私が手が痛くなるくらい窓を叩いているとその女が手を振り上げた。
すると私の体が淡く光出す。
「え? 何? これ?」
私は体をあちこち眺めるがどんどん光が強くなるばかりだ。
「ちょっと!! 貴女、何したのよ!」
私は窓の向こうにいる女に向かって大声で怒鳴るが届かない。
そうこうしているうちに目の前にも光が現れて全身を包み込むようだ。
「ユアン!! 助けて!!」
私が窓に向かって両手を伸ばすが、その前に何かに吸い込まれるような衝撃を感じる。
「や、やだ!! 何これ! やめて!!」
私は闇雲に手を振り回す。その時、ガシッと誰かが私の手を掴んだ。
「誰!」
私が叫んだ声はうめき声にしかならなかった。
「ユーデット姫!!」
この声はジェイク?
あれ? ここはどこ? ユアンは? あの女の人は?
私はゆっくりと目を開けようとするが、瞼が鉛のように重い。
駄目だわ。全然開けられない。体も重い。息が苦しい。でも、あの燃えるような喉の痛みはなくなっていた。
懸命に動かそうとしていた手を誰かが掴む。よく知っている手だった。
ユアン? じゃあ、さっきの人は?
もう! 何が何だかわからないわ!
混乱している。そう自分に言い聞かせるが焦燥感だけが募る。
しかし、私の体からはどんどん力が抜けていく。懸命に意識を保とうとするが、無理だった。それでも、その眠りは先程の暗闇に堕ちるようなものではなく休息の眠りに落ちるものだった。

「ん……」
「ユーデット!」
私はゆっくりと瞼を上げる。あまりの眩しさに目を細めるがそれも次第に落ち着いてきた。
そして、目の前には見慣れた私の片割れがものすごい顔をしていた。
思わず笑顔になってその顔を見つめる。
「ど…したの? すごい顔……」
目の下には隈があるし、目も落ち窪んでいるようだ。なんか痩せてるし……
「うるさい。お前は心配を掛けすぎなんだよ。三日も目覚めないなんて、あいつに騙されたのかと」
「え?」
「いや、体の調子はどうだ?」
私はブランケットの中で少し動かしてみる。
「どこも痛くないわ」
「ふぅ、まずは一安心というところか……」
ユアンはフラフラを立ち上がるとドアに向かって声をかける。
「おい! いつまでそこにいるんだよ!!」
するとドアの隙間からこれまたユアンと同じような顔をしているジェイクが顔を出した。
「ジェイク?」
「サッサと来い!!」
ユアンに言われてズコズコとやってきたジェイクはユアンよりも酷い身なりだった。
あのパーティの時と同じ服で頭はボサボサ、もちろん一目で寝ていないことがわかる顔色。更にジャケットにはところどころに黒ずんだ血がついている。
「あ……私……」
私はやっと今あのときのことを思い出した。私は毒を飲まされたはずだ。血が口から……
私はユアンの首元をグイッと掴むと顔を寄せる。
「一体何があったのか説明して!!!」
するとユアンではなくジェイクが床に這いつくばった。そうまさに這いつくばっている。前世で言う土下座ってやつだ。
「申し訳ございません!!! 私に盛られた毒を姫様に飲ませてしまいました!!」
あっ! そういえば私は乾杯の直前にジェイクとグラスを交換したんだった。
「ジェイク、兎に角起きろ。説明しづらい」
ユアンに腕を引っ張られてジェイクがうつ向いて立ち上がる。そして、その肩が震えている?
「泣いてるの?」
私はあの私以外には無表情を貫くジェイクの涙にびっくりして聞いてしまう。
ジェイクはうつ向いたまま腕でグイッと涙を拭う。
「いえ、取り乱して申し訳ありません」
顔を上げたときには既にいつものジェイクだったがその頬には涙の後がしっかりとついている。
私はそのことには触れずにユアンに話しかける。
「ユアンは泣かないの?」
「泣くかよ!!」
ふんっと横を向いているがユアンの疲れた顔から心配してくれたんだと心が温かくなった。
「コホン、取り敢えず今わかっていることを説明する。いいな?」
「うん」
「お前は毒を飲まされた。その毒はジェイクを狙ったものだ」
私はうんと頷いた。
「お前がジェイクとグラスを交換していなければ、何も起こらなかったはずだ。そうだな? ジェイク」
「はい、姫様が飲まれた毒は僕には効きません。犯人も嫌がらせくらいの気持だったと思います」
ジェイクの頭はまた下がり始める。
「ウエイターは既に捕縛済だ。今尋問しているが十中八九ジェイクの弟一派の仕業だろうな」
「はい、本当に申し訳ありません」
「でも……それって……」
私は今気づいたことを考えると笑顔になる。
「それって、ジェイクの跡取り問題が解決するってことじゃない!!」
理由はどうあれ私を、許された姫である私を害そうとしたのだ。ジェイクの弟一派は絶対にシャール兄様が許さないだろう。勿論弟の母である元公爵夫人も夫人の実家の伯爵家ももう終わりなんじゃ……
「まぁ、そうなるだろうな。兄上もすごい顔で証拠を押さえてるところだ」
「それじゃあ……」
「ああ、ウスマール公爵もジェイクを後継者と宣言したし、元夫人も弟も自分とは関わりない者だと切り捨てた」
「まぁ、そうなるよね」
見るとジェイクの頭はもう膝くらいまで下がっている。
「姫様を危険に晒してまで……」
悔しそうにぐっと握られた拳を見て、私はジェイクに手を伸ばした。
「ジェイク、私はもう大丈夫だし、ただ苦しかっただけじゃなくてジェイクにとって長い戦いが終わったんなら本当に良かったわ」
私が伸ばした手をジェイクは膝を付いて両手で掴むとそのまま自分の額に当てた。
「僕はまだ未熟です。自分で生き残ることだけしか出来ません。しかし、これからは決してユーデット姫を危険に晒すことはありません。全身全霊、地位も権力も全てをとしてお守りいたします」
そう言って私の手の甲に恭しくキスを落とした。
「ちょっ! ちょっとジェイク!!!」
私は初めてのキスに驚いてさっと手を引いた。
「ユーデット、お前真っ赤だぞ」
からかうように言うユアンに私は両手を振り上げる。
「ユアン!!」
その時、軽いノックと同時にドアが開かれたのだった。
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