双子になんかなりたくない

波湖 真

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別れ

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俺は倒れていくユーデットを呆然と見つめることしか出来なかった。
まただ。また、見ていることしか出来なかった。
あの時と同じだ。そう、同じだ。前世の最期の瞬間と。
血を吐いて倒れたユーデットをジェイクが顔面真っ青で抱き上げている。そりゃそうだろ。お前の救いだ。光だろ? しっかり守れよ。俺には出来なかったから。
周りがうるさい。なんだ? 俺の妹が倒れたんだ。いっぱい血を吐いて倒れたんだ。あの時と同じ様に。
誰か……誰か……あいつを助けてくれ……。俺はいつもいつも失敗してしまうから。誰か!
「ユアン!!!!」
誰かが俺の体を揺する。俺よりあいつをどうにかしてくれ。目だけで追うユーデットはバタバタと運ばれていった。
何が起こった? なんだ? 一体何が? ユーデットが? いや、あいつが?
その時忘れたと思っていた記憶が蘇る。忘れたいと思っていた記憶が蘇る。前世のあの忌まわしい記憶が!
「う、う、う、うわーーーーーーーーー!!!!」
頭を抱えて座り込んだ俺を誰かが支えている。だが、俺にはそれが誰なのかを確認する気にも慣れない。それよりも目の前に広がる記憶の波に飲み込まれそうだ。嫌だ! やめろ! やめてくれ!!
そして、俺は俺の記憶を見せられたのだ。

その日の東京は雪だった。
由美から大学合格のメールを受け取るとその足で日本行きの飛行機に乗った。もちろん由美に会うためだ。『おめでとう』の一言が言えればあそこまで嫌われなかったかも知れないが、きっと今回も嫌味を言ってしまうのだろう。
自分の行動がわかっても尚双子の片割れに会いたいと思ってしまう。
あいつだけが俺を普通の人間だと言ってくれる。
あいつだけが俺を特別扱いしない。
今回だってあいつが合格したと自慢してきた大学は日本国内であれば優秀な方ではあるが俺が研究している大学は世界レベルなのだ。それを自慢気にメールを送ってくることが俺には救いだった。
両親でさえ俺には一歩もニ歩も引いて化け物を見るように見ていたし、それが嫌だったからこそ家を出た。
この世界は簡単であいつだけがわからない。
俺は飛行機のファーストクラスでそんなことを考えていた。

雪が降りしきる中、俺は懐かしの家の前に到着した。しかし、この敷居を跨ぐ気はせず、暫し様子を伺った。
その時カチャという音と共に由美が出て来たのだ。俺は一歩を踏み出した。
その時、あの男が走ってきた。そうあの男だ。由美が彼氏だといって送ってきた写真の男。
俺は歩みを止めて二人を見守る。
二人は何か揉めていた。男の顔色がサッと変わるのが見える。そして、その手には鈍く光る……なにか。
「おい!!」
思わず走り出す。俺の声にビクッとなった男がその手を振り上げる。
「やめろ!! 由美!! 逃げろ!!!」
呆然をしてその手を見つめる由美が俺の方を向いたその時男の手が振り落とされた。
「やめろーーーーーーー」
「え?」
由美が小さく呟くとその胸から血が滴る。そのシミはどんどん大きくなる。薄っすらと積もった雪が赤く染まる。
俺はその男に飛びかかった。もう目が尋常じゃない。ヤバいやつだ。
「由美に何しやがる!!!」
それでも俺はそいつを由美から引き離す為にそいつにタックルをかます。
そして、男が抵抗して振り上げたナイフが自分に向かってくるのが見えた。

「ユアン!! 大丈夫!!」
俺はその声に顔を顰める。なんだ、何があった? 由美は……
「由美は?」
「え? 何?」
薄っすらと目を開けるとそこにはエリー姉上の心配そうな顔が見える。
そうエリー姉上。俺はユアン。あいつはユーデット……
ガバっと起き上がるとズキンと頭が痛んだ。手を額に当てて姉上に今一番聞くべきことを聞く。
「姉上、ユーデットは?」
「今病室に運ばれたわ。ユアンも倒れてしまって、私は貴方を見るようにシャール兄様に言われたの。貴方、真っ青になって倒れたのよ。大丈夫なの?」
姉上の顔には心配と書いてある。それでも俺はふらつく体を起き上がらせる。
「いかないと……」
「まだ、顔色が悪いわ。ユーデットはきっと大丈夫よ。今司祭を呼んでいるの」
「いったい、何が……」
「まだよくわからないけれど、グラスに毒が盛られていたようよ」
そうだ。三人で乾杯したらあいつが血を吐いて。ユーデットの金髪と由美の黒髪が重なる。
「イッ」
「ほら、ショックで貧血を起こしたのよ。少し休めば歩けるわ」
「でも」
「今は何も出来ないのよ!! 盛られた毒は神殿の司祭しか取り除けない! 待つしかないの!!」
そう言って今まで冷静に見えていたエリー姉上が泣き出した。俺の面倒を見るという使命感が冷静さを保っていたようだ。それはそうだ。俺だって手が震える。前世の記憶が戻った今となっては二倍だ。あっちでも俺はあいつを目の前で亡くしたのだ。そして、その時……
俺は何もかも思い出した。転生者の話を聞いた時に感じた違和感。何か大事なことを忘れているという感覚。そうだ。俺は忘れていた。
「姉上、僕をユーデットのところに連れて行ってください」
「でも……」
「もう倒れたりしません。僕ならユーデットを救えるんです」
俺は自信をもって姉上を見上げる。
「貴方が?」
「はい」
少し考えた姉上は大きく息を吐くと近くに待機していた護衛を呼びつける。
「貴方と貴方、ユアンをユーデットの元に連れて行くのを手伝いなさい」
そう言って王女らしく命じた。
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