双子になんかなりたくない

波湖 真

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初めての外出

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「えっと、君があの手紙を?」
正面から男の顔を見る。歳は三十代くらいかな。無精髭が生えていて、目も髪も黒い典型的な王国人だ。それでもその瞳には好奇心が宿る。
「はい。私が書きました。まずはこの不躾なお呼び出しに応じて下さりありがとうございます」
私は軽く頭を下げる。
「あ、いや、大したことねぇし。っていうか子供だったら来なかったな。いや、まぁ……話を聞こう」
一周回って、好奇心には勝てなかったのか姿勢を正して私を真っ直ぐに見つめてくる。
「実は私は神殿と女神について調べております。素性は明かせませんがお許しください」
そうして私は調べたことと生まれ変わりと転生について興味がある旨を説明した。
「なるほどねぇ。転生について知りたいのか。まぁそうだよな。あれは禁忌だから他の資料には載ってないもんなぁ」
何故か一人でウンウンと納得して顔を上げた。
「俺の名前はヘンリー・ウィンスだ。先ずはあの本に興味を持ってくれて礼を言う。ほんとに売れなかったんだよ。あれ」
「はぁ」
「おお、後ろに立ってる小僧も座れよ。ほら!」
そういって私の後ろにいるユアンにも声をかける。結構気さくな人なのかも。ユアンは軽く会釈をすると私の隣の腰を下ろした。
「まぁ、素性は明かせなくとも何故は聞いていいか?」
私とユアンは顔を見合わせる。そして、頷くと私はブランケットを少し捲った。
「なっ! あぁ、なるほど。そうか……」
そう言ってヘンリーさんは顔に手を当てて考え込んだ。
「だから、生まれ変わりよりも転生なんだな」
私は黙って頷く。
「わかった。聞きたいことを聞いてくれ」
何か吹っ切れたように言うとヘンリーさんは肘をテーブルについて腕を組んだ。
「転生者の定義とはなんですか?」
そう、見た目では判断できない転生者に見分ける何かがあるのか?
「定義ね。転生者には祈りの力が宿ると言われている」
「祈りの力?」
「ああ、俺も実際には会ったことねぇから分からないが女神の生まれ変わりには外見が転生者には能力が引き継がれる」
「本にもそうありましたね」
「で、引き継がれる能力ってのが祈りの力らしい」
「その力はどんなことが出来るんですか?」
「心から祈れば大概ことが出来る。例えば、雨が降って欲しいとか、晴れて欲しいとかそういう自然現象もな」
突然頭の中に神社の前で祈る女性が思い浮かぶ。前世のことは忘れているが偶にこうしてフラッシュバックしてくるのだ。巫女? だっけな。
「凄いですね」
「そうなんだが、転生者に心から祈るほどの欲求がなければ一生祈りの力を使わないこともあるみたいだぞ」
「じゃあその人は気付かずに?」
「多分な」
ユアンが手を上げる。
「僕も質問してもいいですか?」
「おう! いいぞ」
「転生者には女神の記憶は引き継がれるんでしょうか?」
「記憶?」
「はい」
「うーん、面白いことを考えるな。お前。確かに生まれ変わりも転生も女神が始まりだもんな。記憶があってもおかしくねぇか……。でも、そんな話は聞いたことがねぇ」
じゃあ、女神じゃなくても転生して記憶もある私達はかなりレアなのか。
「ま、でも、転生者が祈りの力を使ったら可能かもな」
「え?」
「人生やり直したい。転生したい。その時記憶を持っていたい。そう転生者が祈ったらそうなるんじゃないか?」
「転生者の転生?」
「ああ、言い得て妙だな。ハハハ」
「…‥祈りの力」
ユアンがボソボソ呟いている。きっと、何か気になるのだろう。
「ユアン? どうしたの?」
ユアンはハッとして私に顔を向ける。
「いや、なんでもない」
「おい、他に聞きたいことはあるか?」
「ヘンリーさんは、何故神殿に睨まれるような本を出版したんですか?」
「俺か? まぁ、色々あんだよ。俺にも」
あれ? 聞いちゃいけなかったかな?
「ごめんなさい」
「いや、いいんだ。まぁ、生まれ変わりがいても幸せになる家門だけじゃないってこった」
そう言ったヘンリーさんは少し寂しそうに笑った。
「おう! 折角来たんだ。名物でも食っていけよ」
「え? 名物?」
「女神の涙だよ! ここでしか食えねぇよ」
私はいま何か思ったことが全て頭の中から吹っ飛んだ。
「食べます!!! 食べたいです!!」
「よし!! 本を買ってくれた礼だ。奢ってやるよ」
そう言ってヘンリーさんは私達の分の女神の涙を注文してくれた。いい人だ! 変人なんて絶対皆誤解してるわ!!

「女神の涙でございます」
運ばれてきたお菓子はふわふわでトロトロで熱々で甘ーくて最高に美味しかった。
私はハフハフしながら、それを頬張ると笑顔が溢れる。
「ゆっくり食え。火傷するぞ」
そう言って私の頭を撫でるヘンリーさんは何処か違う場所を見ているようだった。何かを懐かしむような。そんな感じ。
私がジーッと見つめるとヘンリーさんが手を引っ込めて頭を掻く。
「すまん。昔、弟が好きだったんだよ」
ふーん。弟さんの大好物か。私は現時点での弟に目を向ける。
「ユアン、食べないの?」
「あ、ああ。食べていいぞ。甘すぎる」
ユアンはそう言って一口しか食べていない女神の涙を私の前に押し出した。
もう自分の分は食べ終わってしまっている私はありがたく頂きます!
「ごちそうさまでした!!」
「ところで、俺をめちゃくちゃ睨んでるお子様と騎士は誰なんだ?」
あっ! ジェイクとアダムスさんを忘れてた。私は振り向いて二人を見た。二人から不穏な空気が漏れている。ヤバいかも!!
私は顔を引きつらせて手を軽く振った。
「ヘンリーさん、もう行かないと駄目みたい」
「やっぱり連れなのか? まぁ、お子様だけってより安心だけどな」
「で? お嬢様は神殿に行くのかい?」
そうこの世界では二十歳までに女神の生まれ変わりは神殿に入ることになっている。入らないなんてありえないという風潮なのだ。でも、強制では……ない。
「まだ、わかりません」
「そうか。まぁ、許されるとは思うがあんまり我儘言うなよ! こんな新月に外出だってするもんじゃないんだからな! わかったか?」
「はい」
意外に心配性なヘンリーさんに私は素直に返事をする。
「ユーデット、行こう」
ずっと黙っていたユアンが席から立つと私の方に手を差し出した。私はその手を取って立ち上がる。
「では、ありがとうございました。失礼します」
「おう! また何か聞きたかったらここに連絡しろ」
ヘンリーさんはそう言うと髪にサラサラと何かを書いた紙を差し出した。
「ありがとう」
「いや、許された姫がご所望ならな」
「え?」
ヘンリーさんはさっさと立ち上がると片手を上げてホテルから出ていってしまう。
最後の一言って私の正体がバレたってことよね? なんで? どうして?
私がワタワタしているとジェイクが側に寄ってきた。
「大丈夫か?」
後ろのアダムスさんを気にしながらジェイクが話しかけてくる。私はワタワタしたままジェイクに顔を向ける。どうしよう。バレたってことよね? 大丈夫かな?
その時、私の手をユアンがギュッと掴む。
「ユアン?」
そして顔を横に振る。何も言うなってことよね。
「大丈夫です。話は終わりました。ここまで送っていただいた上に待っていていただいてありがとうございます」
ユアンがそう言って頭を下げる。その姿は我儘お嬢様に振り回された侍従という感じがよく出ている。よし! 私も!
「もう帰るわ!! あなた、送りなさい!!」
「おい! お前、この方は公子……」
「アダムス、いいんだ。馬車を呼べ」
「しかし……」
「早く!」
「はい、わかりました」
アダムスさんは渋々とホテルの外に歩いていった。
「ユーデット姫様、ご無礼、申し訳ありません」
「いいの。気にしないで。今日わかったことは今度話すね」
「はい。今馬車を用意します。先程の通用橋までお送りしますので、そこで降りてお戻りください」
「うん、ありがとう。ジェイク」
そうして私達は初めての外出から無事帰還したのだった。
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