双子になんかなりたくない

波湖 真

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女神様と私

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「公子、そちらの資料を取ってもらえるかしら?」
「はい、エリザベス姫様」
今日も授業終わりに四人で集まって資料の確認と整理に勤しんでいる。
エリー姉様とジェイクは多少硬い部分はあるが作業に支障が出ることはなく、そう何というか、姫と側近? お嬢様と執事? そんな感じで落ち着いた。
もうエリー姉様がジェイクに頬を染めることもなく、気まずさからくる羞恥心も払拭されたようだった。
元々二人でやろうと思った物を四人でやっているので作業が進むこと進むこと。ホクホクです。
それでも、毎日のように追加資料がやってくるのでシャール兄様に遊ばれている感も否めない。
「ユーデット、そっちの取ってくれ」
「はい、どうぞ」
ユアンに資料を渡そうとして、私はその題名に釘付けになる。
『女神様の生まれ変わりと転生による能力差』
「え? これって?」
一旦ユアンに差し出した本を引き寄せるとその題名をもう一度読んだ。
「おい!! どうしたんだよ!」
ユアンが席を立って私の側までやってくる。
私はふるふると震えるままにその本を掲げた。
今まで資料で女神様の生まれ変わりについての記述は山とあった。
曰く、金髪だ。
曰く、奇跡の能力がある。
曰く、容姿端麗である。
でも、転生という言葉を聞いたのは初めてだ。
「転生……だって」
ユアンが私の手から本を奪い取るとパラパラと中を確認し始める。
私もユアンの側に寄って横から盗み見る。
「…………」
「…………」
二人で転生という言葉を探す。
「あっ!」
「どこだ?」
「ここ!! ここにある」
私は本の中にあった転生という単語を指差した。
「転生とは、魂の生まれ変わり……」
その後には生まれ変わりとは違い、外見に左右されないと書いてある。
しかも、生まれ変わりよりも転生の方が正しく女神様の力が引き継がれる。ただし、外見からは分からないため転生したものを発見した例はごく僅か。
「ねぇ、これって……」
「ああ、この話はなんで広まってないんだ?」
「どうしたの? 突然大声を上げると驚くでしょう」
エリー姉様が突然声を上げた私達に近づいて来た。
その後ろからジェイクも駆け寄ってくる。
「如何されましたか? ユーデット姫様」
私とユアンは顔を見合わせる。そして、うんっと頷いた。
「姉上、この話はご存知ですか?」
「見せてみなさい」
エリー姉様はユアンに渡された本に目を走らせる。
「てん……せい?」
「はい」
「私は聞いたことがないわ。公子はどうかしら」
エリー姉様から今度はジェイクに本が渡される。
「‥‥僕も聞いたことがありません」
私達よりも世間を知っているジェイクも知らないことだとすると大変だ。
これがいい手札になるかもしれない。
「一度シャール兄上に聞いてみます。それにこの作者にも会いたいですね」
ユアンの言葉に私も手を上げる。
「私も会って話したい!」
女神様のことはもちろんだけど、この世界にも転生という概念があるのなら私達のような人間が他にもいる? いた? かもしれない。

「成る程ね。この転生? という言葉は聞いたことがないな」
私達から連絡してシャール兄様に来てもらったのだ。
そして、あの本を見せると固唾を飲んで反応を待っていた。
「本当ですか?」
「ああ、だってこの本の意味は外見だけの生まれ変わりだけではなく、魂の生まれ変わりを認めているってことだろう?」
「はい! だから、黒髪の中に転生者がいるかもしれないんです」
「ふん、あんなに許されざる黒と言って蔑んでいたのにな」
シャール兄様の瞳がキラリと煌く。うわ!! 黒オーラが出てるわ。
「兄様……、あのそれで確認のためにこの作者に会いたいんです。出典自体は過去の逸話からなのですが本にまとめた人がこの王都に住んでいるみたいなんです」
私は兄様の手から本を取って最後のページを開いた。そこには編纂者として氏名と住所が書かれている。
「だから、僕にこの本を見せたのかい? ユーデットも行く気なんだね」
シャール兄様は黒オーラを収めて私の前に膝を着いた。
「残念だけど、許可できない」
「どうしてですか!! 最近は熱だって出してないし、健康になってきました」
私は兄様の襟を掴んだ。
「体ももちろん心配だけど、それだけじゃない」
そういったシャール兄様の瞳には強い決意が見える。
「君をまだ外に出すわけにはいかない。これは変えられない」
硬い声は許可は絶対にもらえないと理解するのには十分だった。


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