双子になんかなりたくない

波湖 真

文字の大きさ
上 下
21 / 36
女神様と私

21

しおりを挟む
姉様との授業も回を重ねるとなんとなく距離も近づいてきた。
八歳も年上とはいえ、私達は前世持ちだ。精神年齢では逆転しているはず。
だからなのかエリー姉様は例えるなら懐かない猫のようだった。
挨拶すると無視されるのに私とユアンが話していると怒って近づいてくる。
「二人で私の悪口を言っているのね!」
私とユアンが先程の授業内容について話していると姉様がやってきた。
週三回はジェイクと、週一回はエリー姉様と残りはお姫様教育というスケジュールなので習って疑問に思ったことはその場で確認しないとついていけないのだ。
私達はまたかとは顔に出さずにエリー姉様の方を向いた。二人で打ち合わせをした訳ではないのに作った顔は泣き顔だつた。
「酷いです。私はエリー姉様が好きなのに……」
私がそう言うと姉様が一歩引いた。
「姉上の悪口なんて、そんなこと、僕……」
私とユアンがシュンと肩を落として俯く。
「いいのよ! 私もそれくらいしてもらった方がやりがいもあるのよ! あなた達なんか何も出来ない子供だもの!!」
フンと腕を組んだエリー姉様は私達の方を見て、顔をしかめる。
「本当にだらしないわ。金髪しか取り柄がないって本当に憐れよね」
そう言いながらも私達の服についたホコリを払い、曲がったリボンやネクタイを直す。
「いい、私はあなた達なんて大嫌いよ!」
言葉では嫌いと言いながらも手を止めずに今度は私達の机の上を整理し始める。
「本当にこんな弟と妹だなんて恥ずかしいわ!!」
パタンと開いたままだった資料を閉じてから再び腰に手を当てる。多分このポーズは姉様的には威厳のあるポーズなのだ。
私はキッチリを片付けられた机と埃一つ着いていない服を見てニッコリと微笑んだ。
「エリー姉様、いつもありがとうございます」
「ふん、罵られてお礼を言うなんて嫌味な子ね!」
エリー姉様は真っ赤になった顔を隠して授業を受けていた部屋をそそくさと後にした。
「可愛いよね」
「ああ」
「きっと、ああやって俺たちの世話をすることで暴言を吐く罪悪感を払拭してるんだなぁ」
私達は姉様が去った方と見ながらしみじみと話す。いい人なのだ。初めに履き違えただけで。
「やぁ。授業は終わったかい?」
ドアから入ってきたのはあの姉様の兄とは思えないくらい腹黒なシャール兄様だ。最近私達が事情を理解したからか前にも増して遠慮がなくなってきた。
「はい」
ユアンももう取り繕うこともなく、投げやりに返事を返す。
「またまた、ユアンはご機嫌斜めかな?」
シャール兄様はそういって私の頭を撫でる。
「ユーデット、元気かい?」
「はい、兄様」
「エリーとは仲良くしてる?」
「まぁ、なんとか?」
「ハハハ、エリーは良い子だからそんなに心配してなかったけど、本人は君達をいじめてるといってたから少し様子を見に来たんだよ」
エリー姉様、そこは黙っていじめようよ……
私とユアンは顔を見合わせる。ここはいじめられている振りをした方がエリー姉様は喜ぶのかもしれないとも思うのだ。
私達はうんっと頷き合った。
「兄様!! エリー姉様は酷いんです。いつも汚いとかだらしないとか言うんです」
「そうです。姉上は僕達を恥ずかしいと言って……」
「言って?」
「お世話をするんです」
シャール兄様は一点の乱れもない私達の格好と机を見て、盛大に溜息を吐いた。
「わかった。君達が困っているとエリーに伝えよう」
「お願いします」
「ところで、授業はどうだい? ジェイクとの授業もあるし、大変ならば調整する」
「そっちは全く問題ありません。それよりも民間の伝承や信仰に使われている逸話があったら知りたいんですが……」
「理由を聞いても?」
ユアンが私に許可を求めてきた。私はうんと頷く。やっぱりこの人を巻き込まないと情報は集まらない。
「神殿の弱みを知りたいです」
「何故?」
シャール兄様が畳み掛ける。
「私の価値を下げるため、もしくはそれを神殿に認めさせるためにです」
「ユーデットの価値を下げたくないな。僕は」
シャール兄様の目がキラリン光る。やっぱりこわい!
「い、今じゃないです!! 早くてもジェイクが大きくなってから……」
そうジェイクが無事大きくなって公爵家を継ぐまでは私という価値ある婚約者は必要だと思う。
「なるほど、じゃあ、まぁいいかな。わかったよ。必要なものは僕に言うように。いいね?」
「はい!!」
「はい!!」
私達は元気に返事を返した。
きっと兄様はジェイクが公爵家を継ぐころには自分の王太子の地位も盤石だと計算したんだろう。そして自分が王位を継ぐ時には神殿の力が弱ければ弱いほど良いはず。
私がそう考えていると、兄様はニヤリを笑った。こわ!!
「頑張って神殿の弱みを握るんだよ。それが君達の自由に繋がるんだから」
ひえぇっぇやっぱり全て見透かされたよ!!
まだまだ、シャール兄様には敵わないみたい。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私の入る余地なんてないことはわかってる。だけど……。

さくしゃ
恋愛
キャロルは知っていた。 許嫁であるリオンと、親友のサンが互いを想い合っていることを。 幼い頃からずっと想ってきたリオン、失いたくない大切な親友であるサン。キャロルは苦悩の末に、リオンへの想いを封じ、身を引くと決めていた——はずだった。 (ああ、もう、) やり過ごせると思ってた。でも、そんなことを言われたら。 (ずるいよ……) リオンはサンのことだけを見ていると思っていた。けれど——違った。 こんな私なんかのことを。 友情と恋情の狭間で揺れ動くキャロル、リオン、サンの想い。 彼らが最後に選ぶ答えとは——? ⚠️好みが非常に分かれる作品となっております。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

召喚された2人〜大聖女様はどっち?

咲雪
恋愛
日本の大学生、神代清良(かみしろきよら)は異世界に召喚された。同時に後輩と思われる黒髪黒目の美少女の高校生津島花恋(つしまかれん)も召喚された。花恋が大聖女として扱われた。放置された清良を見放せなかった聖騎士クリスフォード・ランディックは、清良を保護することにした。 ※番外編(後日談)含め、全23話完結、予約投稿済みです。 ※ヒロインとヒーローは純然たる善人ではないです。 ※騎士の上位が聖騎士という設定です。 ※下品かも知れません。 ※甘々(当社比) ※ご都合展開あり。

愛など初めからありませんが。

ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。 お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。 「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」 「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」 「……何を言っている?」 仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに? ✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

皇帝の番~2度目の人生謳歌します!~

saku
恋愛
竜人族が治める国で、生まれたルミエールは前世の記憶を持っていた。 前世では、一国の姫として生まれた。両親に愛されずに育った。 国が戦で負けた後、敵だった竜人に自分の番だと言われ。遠く離れたこの国へと連れてこられ、婚約したのだ……。 自分に優しく接してくれる婚約者を、直ぐに大好きになった。その婚約者は、竜人族が治めている帝国の皇帝だった。 幸せな日々が続くと思っていたある日、婚約者である皇帝と一人の令嬢との密会を噂で知ってしまい、裏切られた悲しさでどんどんと痩せ細り死んでしまった……。 自分が死んでしまった後、婚約者である皇帝は何十年もの間深い眠りについていると知った。 前世の記憶を持っているルミエールが、皇帝が眠っている王都に足を踏み入れた時、止まっていた歯車が動き出す……。 ※小説家になろう様でも公開しています

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

処理中です...