20 / 36
女神様と私
20
しおりを挟む
「どう思った?」
初めての神殿に関する授業からの帰り道、私はユアンに訪ねた。
「そうだな。まぁ宗教っていうのはどんな世界でも似ているって感じ?」
そうなのだ。この女神様信仰はどこかで聞いたことがあるようなお話だった。
何もなかったこの世界に女神様が降り立って、生物を造り、植物を造り、海や山も造った。
そしてそこに生きる者は皆女神様に感謝を捧げた。
そのための祈りの場が神殿だ。もう記録もない時代から神殿は存在しているという。
司祭には女神様の生まれ変わりとされた金色の髪をもつ人間がなる。そして、一族に一人でも司祭となった者がいれば、女神様からの祝福を受けた家として栄える。ありがちといえばありがちだ。
「ただ、この国の建国史は何というか悪意を感じるよね」
「神殿の?」
「ああ」
女神信仰だけで成り立っていた世の中だが、やはり国というものが出来始める。それは別に悪いことではなく、どの国も女神信仰を捨てたわけでもないし、常に神殿を王の上に置いて優遇してきた。
そんな世界の常識を覆したのがこの国の建国者、私達のご先祖様だったらしい。
ご先祖様は神殿を上には置かずに保護したのだ。やっていることは同じだが、保護だと神殿が王の下になってしまう。神殿は国王に抗議したらしい。内戦になったからかなり強い抗議だったんだろう。それでもご先祖様は負けなかった。そして神殿も終わりのない戦いに民が怒りを神殿にぶつける前に鉾を収めた。その時に言った捨て台詞が今の私の多大な影響を与えたのだ。
『この国は女神様から許されない。この国の王族には絶対に女神様の生まれ変わりは生まれない』
それからこの国は女神に許されることのない大国として存在してきたのだ。
神殿に唯一膝をつかない国として、神殿と対等に話をする王国だった。
私が生まれるまでは!!
この国の王族は現実派だった。神殿を武力で押さえ付けることができない代わりに神殿の言葉を逆手に取って代々の王妃には金髪に近い髪の者を据えてきた。
それでも元々黒髪の家系だったのか、王家の子どもたちは総じて黒髪だった。
貴族に嫁いた姫の子供達も黒髪しか生まれない。
すると、司祭の生まれない家系、即ち黒髪に近い人達がこの国に集まってきた。
それはそうだよね。黒髪家系から金髪が生まれるなんて中々難しい気がするもの。それなのに他の国では髪の毛の色だけで成功しちゃうんだもん。嫌になるよ。
で、この国には黒髪が溢れ、めったに司祭なんて生まれない故に実力主義の強い国になった。
それでも王族は諦めてなかったんだ。国としてよりも王家のプライドとして神殿に一泡吹かせたかったんだと思う。全員ではなかったけれど、王妃の内の何人かは金髪に近い人だった。
先生はそこまでは言わなかったけれど、そういうことなんだと歴代の王妃の絵を見て理解した。
「執念だよな。ここまで来ると」
「だよねぇ。だって数百年だよ。この金髪計画」
「確かに第二王妃の髪も茶色だったよな」
「ほんとだー。そういえば私達のお母さんはどんな人だったんだろうね」
「絵も見たことないな」
私達はそんなことを話しながら部屋に戻った。でも、そんなに待ちに待った金髪なのになんで父親の陛下は私を無視するんだろう。猫可愛がりしても良さそうなのにね。
私は少し不思議に思った。
「パーティの時に双子や第二王妃がそんなに嫌がらせしてこなかったのは司祭がいたからか」
「ああ、なるほどね。あの日はきっと司祭にぎゃふんと言わせたかったのね。皆が!!」
「だな」
私はあの日は双子も静かだったし、第二王妃には可愛いとか言われたことを思い出した。
「で、今は神殿がこっちをやり込めようと躍起になってるってことか」
「シャール兄様が神殿関係者に会わせなかったのがよくわかるわ」
「だなーー」
私達は廊下を歩きながら、ふと壁に掛かっている鏡を覗き込んだ。そこには見事な対となった双子の姿がある。
黒髪のきつい瞳の男の子と金髪で甘い顔立ちの女の子。
「ま! 私って可愛いもんね。そりゃ、皆で取り合うわ」
するとユアンが顔をしかめて私の頭をぽんと叩く。
「言ってろよ。大体事情がわかったからこれからはもうちょっと慎重に動くぞ」
「うん」
すると後ろから誰かが追いかけてきた。ユアンがスッと私の前に立つ。
「……エリー姉様?」
ユアンの肩越しに見えたのは真っ黒いカールした髪を揺らしたエリー姉様だった。
「お待ちなさい」
そういえば新しい情報に夢中でエリー姉様のことを忘れていた。
「どうしましたか? 姉上」
はぁはぁと肩で息をしている姉様は私達の前までやってくると両手を腰に当てた。
美少女がやると様になるものだ。
「これで貴女が皆にチヤホヤされる理由がわかったでしょ!! 貴女はただ金髪に生まれただけなのよ!!」
「……はぁ」
チヤホヤされた覚えはないし、何言ってるんだろう? この人は?
「だ、だから貴女自身にはなんの価値もないのよ!! お、思い上がらないで頂戴!!」
顔を真赤にしてそう叫ぶと姉様は再び走って行ってしまった。大丈夫かな?
「ねぇ、あの姉様、可愛くない?」
私は思ったことをそのまま口に出した。
「ああ、そこまでの暴言でもないのに顔が真っ赤だったな」
「あれが精一杯の悪口なんだよ。しかも陰で言わずにわざわざ走って追いかけてきて目の前で言うなんてどんだけ良い子なの!」
「お前のその言い方、六歳に聞こえないから気をつけろよ。そして、姉上に暴言吐くなよ」
ユアンの言い方を聞いて、私達は同時に姉様を気に入ってしまったようだ。
「からかうくらいは良いかな? きっと可愛い反応してくれそう」
「なるほど、程々にしとけよ。姉上の後ろには兄上がいるぞ」
確かにシャール兄様の同腹の妹だもんね。きっと可愛がった結果があの純粋培養お姫様なんだ。
「はーい、次の授業が楽しみになってきたわ」
「でも、今日でもう知りたいことはわかったじゃないか」
「今度は違う楽しみに通うわ。折角兄様のお許しが出たんだもん」
「しょうがねぇな。付き合うしかないな」
私達はこの世界での癒やしを見つけた気分だった。
初めての神殿に関する授業からの帰り道、私はユアンに訪ねた。
「そうだな。まぁ宗教っていうのはどんな世界でも似ているって感じ?」
そうなのだ。この女神様信仰はどこかで聞いたことがあるようなお話だった。
何もなかったこの世界に女神様が降り立って、生物を造り、植物を造り、海や山も造った。
そしてそこに生きる者は皆女神様に感謝を捧げた。
そのための祈りの場が神殿だ。もう記録もない時代から神殿は存在しているという。
司祭には女神様の生まれ変わりとされた金色の髪をもつ人間がなる。そして、一族に一人でも司祭となった者がいれば、女神様からの祝福を受けた家として栄える。ありがちといえばありがちだ。
「ただ、この国の建国史は何というか悪意を感じるよね」
「神殿の?」
「ああ」
女神信仰だけで成り立っていた世の中だが、やはり国というものが出来始める。それは別に悪いことではなく、どの国も女神信仰を捨てたわけでもないし、常に神殿を王の上に置いて優遇してきた。
そんな世界の常識を覆したのがこの国の建国者、私達のご先祖様だったらしい。
ご先祖様は神殿を上には置かずに保護したのだ。やっていることは同じだが、保護だと神殿が王の下になってしまう。神殿は国王に抗議したらしい。内戦になったからかなり強い抗議だったんだろう。それでもご先祖様は負けなかった。そして神殿も終わりのない戦いに民が怒りを神殿にぶつける前に鉾を収めた。その時に言った捨て台詞が今の私の多大な影響を与えたのだ。
『この国は女神様から許されない。この国の王族には絶対に女神様の生まれ変わりは生まれない』
それからこの国は女神に許されることのない大国として存在してきたのだ。
神殿に唯一膝をつかない国として、神殿と対等に話をする王国だった。
私が生まれるまでは!!
この国の王族は現実派だった。神殿を武力で押さえ付けることができない代わりに神殿の言葉を逆手に取って代々の王妃には金髪に近い髪の者を据えてきた。
それでも元々黒髪の家系だったのか、王家の子どもたちは総じて黒髪だった。
貴族に嫁いた姫の子供達も黒髪しか生まれない。
すると、司祭の生まれない家系、即ち黒髪に近い人達がこの国に集まってきた。
それはそうだよね。黒髪家系から金髪が生まれるなんて中々難しい気がするもの。それなのに他の国では髪の毛の色だけで成功しちゃうんだもん。嫌になるよ。
で、この国には黒髪が溢れ、めったに司祭なんて生まれない故に実力主義の強い国になった。
それでも王族は諦めてなかったんだ。国としてよりも王家のプライドとして神殿に一泡吹かせたかったんだと思う。全員ではなかったけれど、王妃の内の何人かは金髪に近い人だった。
先生はそこまでは言わなかったけれど、そういうことなんだと歴代の王妃の絵を見て理解した。
「執念だよな。ここまで来ると」
「だよねぇ。だって数百年だよ。この金髪計画」
「確かに第二王妃の髪も茶色だったよな」
「ほんとだー。そういえば私達のお母さんはどんな人だったんだろうね」
「絵も見たことないな」
私達はそんなことを話しながら部屋に戻った。でも、そんなに待ちに待った金髪なのになんで父親の陛下は私を無視するんだろう。猫可愛がりしても良さそうなのにね。
私は少し不思議に思った。
「パーティの時に双子や第二王妃がそんなに嫌がらせしてこなかったのは司祭がいたからか」
「ああ、なるほどね。あの日はきっと司祭にぎゃふんと言わせたかったのね。皆が!!」
「だな」
私はあの日は双子も静かだったし、第二王妃には可愛いとか言われたことを思い出した。
「で、今は神殿がこっちをやり込めようと躍起になってるってことか」
「シャール兄様が神殿関係者に会わせなかったのがよくわかるわ」
「だなーー」
私達は廊下を歩きながら、ふと壁に掛かっている鏡を覗き込んだ。そこには見事な対となった双子の姿がある。
黒髪のきつい瞳の男の子と金髪で甘い顔立ちの女の子。
「ま! 私って可愛いもんね。そりゃ、皆で取り合うわ」
するとユアンが顔をしかめて私の頭をぽんと叩く。
「言ってろよ。大体事情がわかったからこれからはもうちょっと慎重に動くぞ」
「うん」
すると後ろから誰かが追いかけてきた。ユアンがスッと私の前に立つ。
「……エリー姉様?」
ユアンの肩越しに見えたのは真っ黒いカールした髪を揺らしたエリー姉様だった。
「お待ちなさい」
そういえば新しい情報に夢中でエリー姉様のことを忘れていた。
「どうしましたか? 姉上」
はぁはぁと肩で息をしている姉様は私達の前までやってくると両手を腰に当てた。
美少女がやると様になるものだ。
「これで貴女が皆にチヤホヤされる理由がわかったでしょ!! 貴女はただ金髪に生まれただけなのよ!!」
「……はぁ」
チヤホヤされた覚えはないし、何言ってるんだろう? この人は?
「だ、だから貴女自身にはなんの価値もないのよ!! お、思い上がらないで頂戴!!」
顔を真赤にしてそう叫ぶと姉様は再び走って行ってしまった。大丈夫かな?
「ねぇ、あの姉様、可愛くない?」
私は思ったことをそのまま口に出した。
「ああ、そこまでの暴言でもないのに顔が真っ赤だったな」
「あれが精一杯の悪口なんだよ。しかも陰で言わずにわざわざ走って追いかけてきて目の前で言うなんてどんだけ良い子なの!」
「お前のその言い方、六歳に聞こえないから気をつけろよ。そして、姉上に暴言吐くなよ」
ユアンの言い方を聞いて、私達は同時に姉様を気に入ってしまったようだ。
「からかうくらいは良いかな? きっと可愛い反応してくれそう」
「なるほど、程々にしとけよ。姉上の後ろには兄上がいるぞ」
確かにシャール兄様の同腹の妹だもんね。きっと可愛がった結果があの純粋培養お姫様なんだ。
「はーい、次の授業が楽しみになってきたわ」
「でも、今日でもう知りたいことはわかったじゃないか」
「今度は違う楽しみに通うわ。折角兄様のお許しが出たんだもん」
「しょうがねぇな。付き合うしかないな」
私達はこの世界での癒やしを見つけた気分だった。
0
お気に入りに追加
37
あなたにおすすめの小説
私の入る余地なんてないことはわかってる。だけど……。
さくしゃ
恋愛
キャロルは知っていた。
許嫁であるリオンと、親友のサンが互いを想い合っていることを。
幼い頃からずっと想ってきたリオン、失いたくない大切な親友であるサン。キャロルは苦悩の末に、リオンへの想いを封じ、身を引くと決めていた——はずだった。
(ああ、もう、)
やり過ごせると思ってた。でも、そんなことを言われたら。
(ずるいよ……)
リオンはサンのことだけを見ていると思っていた。けれど——違った。
こんな私なんかのことを。
友情と恋情の狭間で揺れ動くキャロル、リオン、サンの想い。
彼らが最後に選ぶ答えとは——?
⚠️好みが非常に分かれる作品となっております。
皇帝は虐げられた身代わり妃の瞳に溺れる
えくれあ
恋愛
丞相の娘として生まれながら、蔡 重華は生まれ持った髪の色によりそれを認められず使用人のような扱いを受けて育った。
一方、母違いの妹である蔡 鈴麗は父親の愛情を一身に受け、何不自由なく育った。そんな鈴麗は、破格の待遇での皇帝への輿入れが決まる。
しかし、わがまま放題で育った鈴麗は輿入れ当日、後先を考えることなく逃げ出してしまった。困った父は、こんな時だけ重華を娘扱いし、鈴麗が見つかるまで身代わりを務めるように命じる。
皇帝である李 晧月は、後宮の妃嬪たちに全く興味を示さないことで有名だ。きっと重華にも興味は示さず、身代わりだと気づかれることなくやり過ごせると思っていたのだが……

もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。

初恋の人と再会したら、妹の取り巻きになっていました
山科ひさき
恋愛
物心ついた頃から美しい双子の妹の陰に隠れ、実の両親にすら愛されることのなかったエミリー。彼女は妹のみの誕生日会を開いている最中の家から抜け出し、その先で出会った少年に恋をする。
だが再会した彼は美しい妹の言葉を信じ、エミリーを「妹を執拗にいじめる最低な姉」だと思い込んでいた。
なろうにも投稿しています。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

愛など初めからありませんが。
ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。
お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。
「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」
「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」
「……何を言っている?」
仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに?
✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

もう尽くして耐えるのは辞めます!!
月居 結深
恋愛
国のために決められた婚約者。私は彼のことが好きだったけど、彼が恋したのは第二皇女殿下。振り向いて欲しくて努力したけど、無駄だったみたい。
婚約者に蔑ろにされて、それを令嬢達に蔑まれて。もう耐えられない。私は我慢してきた。国のため、身を粉にしてきた。
こんなにも報われないのなら、自由になってもいいでしょう?
小説家になろうの方でも公開しています。
2024/08/27
なろうと合わせるために、ちょこちょこいじりました。大筋は変わっていません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる