双子になんかなりたくない

波湖 真

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女神様と私

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「ほら!」
私はユアンに背中を押されて一歩前にでる。
目の前には不安そうなジェイクの姿。そう、まず初めにとやってきたのはいつもの授業で、今は休憩時間だった。最近はこの時間になると私はお姫様教育のためにさっさとこの部屋を後にしていた。
もちろんジェイクに合わせる顔がなかったから。
そんな私にユアンが協力と引き換えに要求したのがジェイクとの仲の改善だった。
こういう喧嘩したわけでもないのに、少し気まずい時ってのが一番難しい。
謝るのもおかしいし、突然馴れ馴れしく話すのも違うしと迷っていたら、今ユアンに突き出されたのだ。
「えっと、元気?」
何ということでしょう。私の口から出たのはまさかの『元気』。ガックリしてしまう。
でも、ジェイクはそんな私を見てふっと微笑んだ。可愛い。ジェイクの笑顔は貴重なので私も微笑む。
「はい、元気にしております。姫様」
「へへへ、そっかー。よかったーー」
きっとジェイクは無理してることも一杯あると思うけど、私には元気だと微笑むんだから私はそれを受け入れよう。私がジェイクを自由にしてあげるのはまだ先なのだ。
「ジェイク、今度は私が美味しいお菓子を用意するね。楽しみにしてて」
「はい、ありがとうございます」
「じゃあ、姫様教育にいってくる!!」
ユアンは軽く手を上げて、ジェイクは深々と頭を下げた。
「おう!」
「いってらっしゃいませ」
うん、昨日までとは違ういい雰囲気だった。たぶん、これでいい。ユアンも何も言わなかったし、子供はこれで仲直りだ。喧嘩してないけど。
私は足を弾ませて、部屋を後にした。

「よかったな」
ユアンはいつもの無表情とは違い、少し笑顔が漏れるジェイクに声を掛けた。
「なんのことでしょうか? ユアン王子」
その瞬間、冷たく言い放ったジェイクにユアンは舌打ちをする。それでも昨日までの無視状態からは脱したのだ。よしとするか。
ユアンからは、ジェイクはユーデットに依存して見える。多分、ユーデットとの婚約は暗闇に差した一筋の光だったのだろう。だからユーデットに嫌われるのを恐れているようだ。
ユーデットの突拍子のない計画にはびっくりだが、ジェイクの自由がユーデット以外にあるのかは甚だ疑問に思うユアンだった。


「神殿について勉強したいのかい?」
シャール兄様の迷惑そうな顔見て一瞬怯んだが、私はコクコクと頷いた。
「だって、私は女神様の許しなんでしょう? それなのに私は何も知らなくて……」
「知らなくていいんだよ。あんなものは無くてもいいものだ。弱い人間のためのもので僕達には必要ない」
思いの外シャール兄様の態度は強固だった。
私はちらりとユアンを見た。ユアンは軽く肩を竦めると兄様に耳打ちした。なんと言ったのかはわからない。
「……わかったよ。でも司祭達に君達を会わせるわけにはいかない。うーん。そうだ、エリーの授業を一緒に受けるといいよ」
「エリー姉様ですか?」
「ああ、丁度今エリーはこの国の成り立ちや神話、女神について勉強しているはずだ。そこに行くのはどうだい?」
私はユアンと顔を見合わせる。
「あの……エリー姉上は僕達のことをお嫌いでは……」
ユアンが不安そうな顔で兄様に尋ねる。
兄様は私達の頭に手をおいて、撫でながらハハハと声を立てて笑った。
「なんだ。そんなことを気にしてたのかい? もう何年も前の話だし、エリーとの婚約は話に出ただけで具体的にもなっていなかったんだよ。もうエリーも気にしてないさ」
うそだ!! パーティのときだって睨んでたもん。
まぁユアンのことは怒ってないかもだけど、私のことは絶対嫌いだよ!!
私は声を大にして言いたかったが、言ってもしょうがないことなので、ぐっと飲み込んだ。
「わかりました」
だって、折角神殿についての勉強を許可してもらったのだ。
ここで無しになるのは嫌だ。
そうして私達は週に一回エリー姉様の授業に参加することになった。

「どうして貴女がここにいるの!!」
私を睨みつけるエリー姉様を前に、私はシャール兄様に向かって、心のなかで暴言を吐いた。
ほらーーーー!!! 全然大丈夫じゃないじゃない!!!
「聞いてるの!!!!」
「はひ!!」
私がビクッと返事をするとエリー姉様は腕を組んで一歩前にでる。
私がジリっと後ろに下がると後ろから肩を支えられた。ユアンだ。
「姉上、今日から一緒に授業を受けに来ました。よろしくおねがいします」
「貴方は良いのよ。ユアン。私はこの子のことを言っているの」
エリー姉様は私から視線を外さずにユアンに答える。
「僕達は一緒に受けるとお伝えしたはずですが!」
「私はユアンだけならいいわと答えたわ!」
「そんな……」
シャール兄様、仕事が雑すぎます!! ちゃんと報連相してくだい!!
「姉上がそんなに心が狭い方だとは思いませんでした」
ユアンの言葉にエリー姉様がぐりんと顔の向きを変えてユアンを睨む。
「何を言っているの? 私は貴方は良いわといったのよ」
「僕達もシャール兄様が参加して良いと仰ったのでここにいるんです!」
きっとした目でユアンはエリー姉様を睨み返す。もうトラとライオンのにらみ合いだ。
私は二人の間でどう声をかけるべきか悩むばかり。
「あの……」
「黙ってなさい」
「黙ってろよ」
二人からのお叱りにガックリを肩を落とす。
もう!! どうすればいいのよ!!!
「あれーー? どうかしたのかい?」
のんびりとした声でやってきたのはシャール兄様だ。私は慌ててシャール兄様に歩み寄る。
「兄様!!」
シャール兄様は涙目の私と睨み合っている十三歳の少女と六歳子供を見比べた。
「エリー、君が悪い」
エリー姉様は今度はシャール兄様に顔を向ける。
「兄様!!! どうしてですの! 私は嫌だとお伝えしました」
「何故だい? お前がジェイクを好いているのは知っているが、これは決まったことだ。それにその原因はユーデットにはない。全て僕が決めたことだよ」
「でも!! その子は私に恥を掻かせたんですわ!! しかも、ジェイクの前で!!!」
なるほど、エリー姉様の気にしているのはそれなのか。私はエリー姉様の前に立った。
「エリー姉様、ごめんなさい。ユーデットが悪かったです」
ちょこんと頭を下げる。頭くらいいくらでも下げるよ。女のプライドを傷つけちゃったんだもんね。
好きだった子の前だったんだもん。兄様も全くフォロー出来てないってことじゃん。
自分の胸にも満たない身長の子供が自分に頭を下げているのを見てエリー姉様が怯んだ。
「もう、いいわ。でも、忘れないで。私はお前が嫌いよ!!」
フンと顔を反らして言ってしまった姉様の後ろ姿を見て、少し可愛いと思ったのは内緒だ。
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