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女神様と私

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あのパーティから数ヶ月、私達は6歳になった。
この王国では誕生日はお祝いしないようで今までも誕生日だからといって特に何があるわけではない。まぁ、どうせ毎日ケーキは食べてるしね。
そして、なんと私達は外を散歩できるようになった。これは凄いことなの。今までは運動は広い部屋でやっていた。もちろん普通の公園くらいの広さとブランコなどの遊具もあったので不便ではなかったけれど、やっぱり外に出るというのは素晴らしい。
今日も私達は散歩の準備をウキウキしながら待っている。
「でもさぁ。なんで突然外オッケーになったんだろうね?」
「ああ、それな。お前の金髪を隠してたけど、あのパーティで大体的にお披露目したから隠す必要がなくなったらしいぞ」
「なんであんたはそれを知ってるのよ!!」
「なんでって、兄上と男同士の話があるんだよ!!」
そうなのだ。最近、いやもしかしたら結構前からユアンはシャール兄様と何か話している。何の話なのかは教えてくれないし、その話し合いはいつも私が体調を崩した時に行われているらしく、元気になると新しい情報を教えてもらう事が多い。そう考えると幼児の時からなのかも……
「まぁいいだろ? 外に出たいって言ってたじゃないか」
「それはそうだけど……」
ぷぅっと膨らませた頬をユアンが指で突いた。
「やめて!!」
「ほら行くぞ」
言い合っている内に出かける準備が出来たのかドアの前でメイドさん達が待っている。
ユアンがサッと手を出した。やっぱりこういう場合ユアンの王子様化が進んでいて、最近は不自然なくエスコートしてくれるようになった。教育大事!! 
私も慣れた仕草でその手を取った。私だってお姫様教育を受けているのだ。任せて!
六歳をすぎると授業も私だけ別に教育を受けている。お辞儀の仕方や歩き方、エスコートのされ方に笑い方。レディになるのも大変。
そして私達が並んで廊下を歩いているといつものようにメイドさん達からの声援が上がる。
「きゃー!! 可愛らしい!!」
「ご立派な紳士と淑女だわ!!」
うん、今日も平和ね。私は満足して頷いた。

「うわーーー」
目の前に色とりどりの花が咲き誇っている。私はユアンの手を離して、その中に走り出す。
ガーデンは私達専用のお庭だ。シャール兄様が私達の部屋の近くの庭園を高い垣根で区切って私達専用にしてくれた。こういうところが私達溺愛説につながるのだろう。
まぁ確かに可愛がってくれるけど、それには兄様の思惑もあって私的には協力関係に近いと考えている。
兎に角、私はこのガーデンが気に入っているし、ここを散歩するのは最大の楽しみだ。
「おい! こけるぞ!」
ユアンが私の後ろから走ってくる。ガーデンは花壇の間に芝生の道が伸びていて思いっきり走れるし、ころんだって大して痛くもない。私はユアンの言葉は無視して思いっきり走る。
病弱な私はあまり体を動かしてこなかったし、運動も好きではない。でも、ここで走ると本当に気持がいい。
「きゃーー」
足元に気を取られて転んでしまった私は芝生の上に横になった。そして、空を見上げる。
青く澄んだ空はジェイクの瞳を思い出す。
はぁはぁと息を切らしながら動かなくなった私の隣にユアンが腰を下ろした。
「だから言っただろ!! こけるって!」
「いいの。気持ちいいんだもん」
「? どうした?」
「あの子、どうしてるかな?」
今ならわかる。ジェイクは生贄だ。私という女神に許された証の王族との婚姻は私を神殿に渡さないためのもの。私を縛る縄であり、錨だ。
そこにはジェイクの意志は全く考慮されていない。ただ単に私と年が近くて王太子側の子供だっただけ。きっと元公爵夫人が離縁していなかったら私の婚約者はジェイクの弟になっていただろう。
だから、あのパーティの後からなんとなくよそよそしくしか話せていない。
「はぁ。そんなに気になるならちゃんと話せばいいだろ! 最近はわざと避けてるくせに! お前が倒れた時なんてあいつ真っ青になってたぞ」
「だって、私が金髪だったからあの子は……」
「それでも、元公爵夫人は離縁したし、ジェイクは公子になった。それはお前のせいじゃない!」
「でもっ!」
「ジェイクだって、そんなことは百も承知で兄上の手を取ったんだ。それが自分と母親を守る術だと思ったからだろ! お前があいつの決断をどうこういう資格はないんだよ! 自惚れるな!」
ユアンが本気の声を出した。いつもは少し茶化したように話すのに……
「ごめん」
「ほんとにお前は考えすぎて空回るんだよ。誰もそんなふうに思ってないっての」
「そうかな?」
「そうに決まってるだろ! それに最近あいつ、俺に冷たすぎなんだぜ」
「は?」
「お前に避けられ始めてから、あいつ、俺にも他人行儀になりやがってるんだ」
「どうして?」
「どうせ自分が俺達の迷惑になってるとでも考えてんだろ! ほんとにお前たちはよく似てるよ。悪いことは全部自分のせいって考えるところとかな!」
「ハハ、ごめんね」
ユアンは寝っ転がって手足を伸ばした。
「はぁ、もういい加減しっかりしろよ。お前がどうしたって状況はかわらないんだ。今、いやこれから出来ることをすりゃあいいんだよ」
ユアンの言葉を反芻する。そうだよね。現状は変えられないけど、未来は変えられる。私はジェイクに何が出来るかな。ジェイクには自由になってほしい。でも、公爵達に負けてほしくない。
「ジェイクを公爵にしてあげたい」
「そうだな」
「誰にも恐れなくていい地位と権力をしっかり握ってほしい」
「将来的にはそうなるだろ」
「でも、好きな人と結婚させてあげたい」
「ん? それって?」
「もちろん今は兄様の保護が必要だし、私の婚約者ということが有利だと思う。でも、大きくなったらジェイクを自由にしてあげたい」
「兄上が許さないだろうなぁ」
ユアンがボソリと呟いた。
「だから! 神殿に諦めてもらえばいいと思うの!!」
「はっ?」
私は起き上がって寝ているユアンの顔を覗き込んだ。
「神殿に私を連れて行くことを諦めてもらって、この国は既に女神から許されたといってもらうのよ。そうすれば私の価値は下がるわ。私がいなくても、もう許されているんだから」
「出来んのか? そんなこと?」
「だって、ユアンなら金髪の子供が生まれるなんて、只の確率の問題だってわかるでしょ。きっとご先祖にも金髪がいたのよ。その遺伝子が私に受け継がれただけで女神とは無関係だもん」
「どんな世界でも信仰ってのはやっかいだぞ」
「そうだね。まずは神殿と女神様と司祭様について調べようよ」
「……俺も……だよなぁ」
「もちろん一緒にがんばろーー!!」
ユアンは思いっきり顔を歪めたが、私は強引にその手を取った。こういうときのための双子なのだ。協力してもらいましょ。
「敵を知って弱みを握って脅して言うこと聞かせるわよ!!」
私は高らかに拳を上げた。
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