双子になんかなりたくない

波湖 真

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それぞれの事情

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あの衝撃的なパーティから数日が経った。
みっともなく会場で倒れた私は、その場にいた男性という唯一の選択肢であった陛下に抱きかかえられて運ばれたらしい。
しょうがないよ。シャール兄様は司祭様を案内してたし、双子は私に好意的ではないしね。
ユアンやジェイクにはまだ私を運ぶほどの力はない。だから、父親である陛下が運ぶのは不可抗力よね。
きっと嫌々だったと思うけど……
やっと熱が下がって目覚めた私は倒れた時の状況を聞いて、懸命に自己正当化に走っているという訳だ。
「はぁ、ただでさえ嫌われているのにもっと嫌われてしまったわ」
まぁあの陛下を父親と思うこと自体をもう放棄しているけれど、一応ここに住まわしてくれてるし、病気になったら医者に見せてくれるし、基本的なお世話はしてくれているからこれ以上は嫌われたくないのが本音だ。
「ん? 大丈夫だと思うぞ」
私のベットに腰掛けて呑気に本を読んでいるのはユアンだ。なんだかずっと機嫌が悪い。
「どうして?」
「……秘密」
「何よ、それ!!」
私がぷんと頬をふくらませるとユアンが読んでいた本をパタンと閉じる。
「まだ、治ったばかりだからと思ったけど、お前は危機感がなさすぎる」
「なにがよ!!」
「今、気にすべきは陛下じゃないだろう!」
「えっと、貴族たち?」
「ふざけてるのか?」
私は思い出したくなくて避けていたあの目を思い出す。
「司祭達……」
「そうだ。やっと現実を見る気になったようだな」
「私の金髪が珍しいのは貴族たちを見てわかったけど、司祭たちは皆金髪だったし、特別でもないのかなと思ったんだけど、違うの?」
シャール兄様の言っていたパーティに行けばわかるというのがよくわからない。
「お前が寝込んでいる間に兄上に聞いた」
「何を?」
「金髪と司祭についてだ」
何となく知りたいような知りたくないような……
「……なんだって?」
「金髪は女神の使いとして成人するまでには神殿に所属することになっているそうだ」
「え? なにそれ?」
「金髪っても色々あるからな。白に近い方が高貴な存在なんだと」
私は、自分の髪を引っ張った。キラキラと光る髪は限りなく白に近い……
「じゃあ、私も?」
「それが違うらしいんだよなぁ。神殿はこの国が建国されるよりも前から存在しているんだと。で、その神殿支配に反発したのがこの国の始まりだ。だから、王家には神の許しがない。即ち金髪は生まれない。それが今までの常識だった」
ああ、それで司祭達は陛下と対等に話していたのね。
妙に態度のでかい司祭達を思い出してうんうんと頷いた。
「それでお前だよ。お前は王家が女神から許された証だ。それって凄い事らしい」
「うげ! 何それ!」
「神殿はもちろんそんなことは認めたくないからお前を取り込んで、王家が養子を取ったくらいにしたいと思ってて、王家は神殿にお前を取られないように、婚約を早めに決めたということだ」
なんだか話が大きくなってきた。第二王妃だけでも大変なのに神殿までとは頭が痛い。
「お前、大人気だな」
「うるさいわね! なんだか混乱してきたわ」
私は頭を整理してみる。
「まず、王家と神殿の取り合いでしょ? それからシャール兄様と第二王妃との争いでしょ? ジェイクと元公爵夫人の攻防でしょ? それ全部に私が絡んでるの凄くない?」
「まあな。で、兄上が神殿の方はなんとかするけど、あっちが落ち着くまで第二王妃に気をつけろだって」
「なんで? 今まで何もなかったのに?」
「お前の金髪がバレちゃったからな。次期国王になるにはお前を取り込んだ方が支持されやすいらしい。なんと言っても女神様の許しだからな」
「こわ! 取り込むってなによ!」
「たぶん、取り入ろうと色々送ってくるだろうだって。でも、兄上が食べ物は絶対に食べるなって言ってたぞ」
「毒?」
「いや、これからは催眠剤とか洗脳薬だろうだって」
「何それ! 怖すぎる」
「まぁ俺からみたら兄上も中々食わせ者だよ。ちゃっかり俺たちと仲良くなってさ。ユーデットの婚約者は自分の従兄弟だろ? 俺達完全に王太子派だぞ」
「うーん、確かにそうだね。神殿は私という存在が女神が王家を許した証にはしたくないし、第二王妃はシャール兄様にこれ以上の権力を与えたくないけど、私がいることで許された王家につく貴族も多いってことでしょう? やっぱり第二王妃は双子のどちらかを王位につけたいのかな?」
「そりゃあそうだろ。王子が二人もいるのに王位につけないなんて許せないって感じのおばさんだったし」
私はパーティで見たゴージャスな姿を思い出した。確かに気は強そうだったなぁ。
「それにメイド達が言うには第一王妃や俺達の母親の死にも不審点があるらしい」
「本当? それにあの第二王妃が関わっているの?」
「そういう噂もあるって聞いた。なんといっても今健在なのはあの人だけだからな」
私は頭を抱えてベッドに潜り込んだ。
「おい! どうした? また熱が……」
「違うけど、考えることが多すぎて頭痛くなってきたよ」
「まぁな」
ブランケットの上からユアンが私の頭をポンポンと叩いた。
「取り敢えず、今は兄上の保護の元早く大きくなるしかないな」
そうなのだ。この複雑な状況だとシャール兄様しか私達を守ることが出来ないと思う。きっと今までもそうやって守ってもらったのだろう。もちろん私という最高の戦利品を身近に起きながらだけど。
それでも今はシャール兄様の側にいるしかない。
「そうだね。それしかないね」
私達は自分がまだ小さな子供で何も出来ないということを実感したのだった。
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