双子になんかなりたくない

波湖 真

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それぞれの事情

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「ユーデット姫様、ユアン王子様、そしてウスマール公子様のご来席です」
大きな声に案内されて目の前のドアが開かれる。私は両腕を軽く握った。右手にはジェイクが左手にはユアンの手が握られているのだ。私達は三人仲良くパーティに入場したのだった。
ユアンも不安だったみたい。手が震えているもの。こういうときはやっぱり可愛い弟くんね。私はユアンの手をギュッと更に握りしめる。
「ユーデット、ユアン、よく来たね。ジェイクも迎えをありがとう」
すぐにシャール兄様がやってきた。私はほっと息を吐き出す。ジェイクはそっと私の手を話すと胸に手を当てて膝を折った。
「王太子殿下、本日はユーデット姫様のエスコートをご下命いただきありがとうございました」
「ああ、僕が行ければよかったんだけど、難しそうだったからね。ご苦労さま」
ジェイクはもう一度頭を下げると私達の後ろに下がった。なんだ。ジェイクのお迎えは兄様が頼んだのか。なんとなくがっかりしている自分がいる。なんというか野良猫を飼い慣らしたと思ったのにフーっと警戒されたような?
「ユーデット?」
ユアンが考え事をしている私の思考を呼び止める。いけない。今はパーティだった。
「ん?」
「ほら行くよ」
シャール兄様が少し前で私達を待っていてくれる。いつもだったら抱っこしてくれるところだけどここは公の場だからね。私は返事を返して兄様に追いついた。
シャール兄様は私とユアンの手を取り、後ろにはジェイクを従えて壇上に上がる。そこには数年ぶりに見る兄弟たちと父親の陛下、そして、初めて見る絶世の美女がいた。
「うわーーー」
思わず声が上がる。豪華な美貌にため息が出る。髪はハニーブラウンで、瞳は魅惑的は青い瞳。心を捉えて離さない妖艶な雰囲気がよく似合っている。
「アルメディア第二王妃だよ」
シャール兄様が小声で教えてくれる。そうか、あの美女が第二王妃なのね。
「シャール、その者たちをこちらに」
ワオ、兄様を呼び捨てにする人は初めてかも!! 陛下は名前を呼ばなかったし。
「はい、さぁアルメディア様にご挨拶しよう」
兄様に手を引かれるまま私達は壇上の中央に連れて行かれる。もちろん台の前には大勢の人がこちらを見ているのを感じた。緊張感が半端ない!
私達は陛下と第二王妃の前に立った。
「ユアンです」
あいつはそう言って頭をさげる。
「ユーデットです」
もう転んだりしないもんね。私も自分の名前を言ってからドレスを摘んで膝を折った。
「なんと可愛らしいのじゃ。特に姫の金髪はまるで伝説の女神様のようだのぉ」
王妃がそう言うと会場の空気がピキッと固まったように感じる。ナニ? なんなの?
「今までユーデットは病弱でなかなかご挨拶に伺えませんでした。今日という日があり喜ばしい限りです」
シャール兄様が黒い笑顔で王妃に言った。
「ほんに、人が悪いのぉ。こんな金髪ならばもっと早い時期に会いたかったものだ」
ひぇ、あの兄様に負けませんよ!! この王妃様!! 怖いよぉ。
まるで蛇とマングースのにらみ合いだ。
「よい、下がれ」
陛下の気の抜けた声でこの戦いは幕を閉じた。
一気に会場の緊張感が緩み、音楽も奏でられる。意外に陛下って凄いのかもしれない。
「さぁ、行こう」
シャール兄様に手を引かれて席に着いた。私達の隣はエリー姉さまだったけど、目も合わせてくれない。それよりも後ろに控えているジェイクが気になっているようだ。チラチラ見ている。一目惚れっていうのは本当だったのかも知れない。あれから三年も経ったのになぁ。
私はそして初めて会場に目を向けた。そして、ビクッと体をすくめた。
ほぼ、黒髪で埋め尽くされているのだ。え? 日本ですか? ここ? そんな中にほんの少し明るい髪の人がチラホラいる程度だった。
そして、私のような金髪はいないと言ってもいいだろう。流石にこれはおかしい気がする。
私は隣のユアンの袖を引いた。
「ねぇ。これって?」
「ああ、おかしいよな。兄上がパーティに出ればわかるってこういうことか?」
「私の金髪って目立つよね……」
「否定はしない」
その時、バタンという音とともにドアが開いた。
「司祭様がお見えになりました」
お付き人が王族に伝えに来た。司祭様? 宗教? 訳がわかない私はそちらに目を向けて更に退けぞった。
司祭様とよばれた集団は十名ほどだが、全ての人が素晴らしい金髪だったのだ。
「ユ、ユアン」
私は不安になってユアンの手を探す。すると直ぐにあいつは私の手を掴んでくれた。
黒い集団の中に金髪の人々。これは異常だ。何がどうなってこんなことに……
金髪集団は人々の中を真っ直ぐに壇上に向かって歩いてくる。そればまるで真っ黒い波が二つに割れているようだった。
「モーゼみてぇ」
ボソリとしたユアンの声に私は頷いた。
そして、壇上の前で立ち止まる。
「国王陛下、お招きありがとうございます」
司祭集団の先頭に経っていた男性が一際鮮やかな長く真っ直ぐな金髪を靡かせて軽く会釈をした。
それは決して遜った態度ではなく対等な立場の人が行う礼に見える。
私は周りを見渡した。この態度を誰一人として咎めないし、当然のこととして受け取っている。
この国の国王である陛下までもが……
「よく参った。ゆっくりしていくがよい」
「はい」
にっこり笑った司祭様の笑顔はシャール兄様に負けない黒さを感じる。私は思わずユアンの手を探していた。
そして、握られたのは手ではなく肩だった。私の後ろに立っていたジェイクが私の肩にそっと手を当てたのだ。
私はその温かさにほぅっと息を吐いた。
「……陛下、そちらが末の姫様でしょうか?」
その司祭様はくるりと向きを変えて私の方に顔を向ける。ドキッとするほどの美形だった。輝く金髪に黒? いや紺色の瞳。なんか金髪も青掛かって見える。
私は体を固くする。じっと見つめてくる視線が痛いほどなのだ。
「そうだ」
「お名前は?」
「言う必要はない」
「……あの髪を見てもですか?」
「ああ、下がって楽しむがよかろう。シャール、案内せよ」
「はい、父上。マダスカル司祭、こちらへ」
シャール兄様が前に出て司祭様に声をかけるが司祭様の視線はずっと私に注がれたままだった。
シャール兄様とユアンが同時に動いてその視線を遮るまで私は蛇に睨まれた蛙のようだった。
「こちらへ!」
漸く司祭様は私から視線を外すと兄様の後について歩いていった。怖かった。なんかわからないけれどメチャメチャ怖い人だった。司祭ってことは聖職者だよね。あんなに怖くていいの!!
私はまだドキドキする胸を抑えて下を向いた。
「おい、大丈夫か?」
「姫様、お顔の色が優れません」
ユアンとジェイクが私の顔を覗き込む。そうだね。なんかもう疲れたわ。なんだか強烈すぎる。なんだかフラフラして……
ガタン
「ユーデット!!」
「姫様!!」
二人の声を聞きながら私はそのまま倒れてしまったようだった。
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