双子になんかなりたくない

波湖 真

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それぞれの事情

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「それではユーデット姫様、ユアン王子様、ジェイク公子様、これから皆さんに学問をお教えするワイドン博士です。まずは何からお教えいたしましょう?」
私達の先生ワイドン博士はこの国での有名な学者さんということだった。それなのにこんな子ども達に読み書きから教えるなんて嫌だろうなと思っていたのにこの博士はとてもいい人だった。
私とあいつが文字を知らないと言っても、私は話すことが出来ないと言っても全く怒らなかった。そんなことよりも私達の話す日本語にすごい興味を覚えたみたいだ。目がキラキラしている。
「先生やばくない?」
「ああ、ああいう純粋に興味がある人には日本語を聞かせたくないな。研究とかされたら面倒だし」
「だよね。なるべく話さないようにするね」
「ああ、そうだな」
私達がピタッと日本語を話さなくなってしまって心底残念がっている様子だ。
「ユアン王子、ユーデット姫の答えを聞いてください」
「大丈夫。僕が分かっていることはユーデットも分かってるから」
「ユアン王子、この文章をユーデット姫に伝えてください」
「音読の練習はジェイク公子とやるから必要ない」
「そんなぁ」
先生はなんとか私に日本語を話させようと躍起になるがなんとあいつが防いでくれる。
先生も諦めたのか授業の最後にはそんなことはせずにこの国の言葉の成り立ちや文字の種類について教えてくれた。
その間、ほぼユアンと先生の声のみが教室に響いていた。私は話さなかったし、あの子も殆どの時間をうつ向いて過ごしていた。
私は休憩時間のときにユアンの袖を引いた。
「なに?」
私は話さずに顎でクイッとあの子を指した。
「わかったよ」
ユアンがあの子の前に手をついた。あの子はのっそりと顔をあげる。やばい生気が抜けてるわ。
「ジェイク、お前もちゃんと話せ」
「はい?」
「一緒に授業を受けるんだろ。ずっと下向いてるだけじゃないか!」
「はぁ、でもこの内容は既に理解しておりますで……」
「はぁぁぁ? それでもノートくらいとれよ!」
「とっております。ユアン王子」
そう言ってユアンに差し出したノートには本当に授業内容が詳細に記載されていた。
「だ、だけどなぁ!!」
私は再びユアンの袖を引いた。
「だから、何!!」
私はユアンの向けて顔を横に振った。
駄目よ! そんな言い方! という意味だ。
ユアンはコホンと咳払いして気を取り直したようだ。四歳だけど。
「いいか、俺たちはお前とまぁ友達くらいにはなってやろうとしてるんだ。わかったか」
「……」
「なんだよ!」
「…必要ありません」
消え入るような声であの子は私達を拒絶した。
「おい! なんだよ。その言い方!」
「僕は王太子殿下に呼ばれてここに来ました。一緒に授業を受けろと言われたのでここにいます。ユーデット姫とは婚約者なので多少の理解はする予定です。何故話せないのかも含めて。ですが、ユアン王子とは特に仲良くなる予定はございません。前にも言いましたが僕は子供が嫌いなので」
初めて話した長文があんまりな内容だったので私達はあんぐりと口を開けてしまった。
今にもあいつが殴り掛かりそうだったので、私はユアンの肩を掴んだ。
「ユーデット、なんだよ?」
私は一歩前に出て、周りを見渡す、先生は休憩から戻っていないし警護の騎士は部屋の外だ。私達三人しかいない。
「ユアンとも仲良くして。そうしないと私のことは何も教えないし、理解できないよ」
私はジェイクの顔をキッと見つめて言い放つ。
暫し沈黙が支配する。ジェイクは何かを考えているようだ。
「……わかりました。ユアン王子、よろしくお願いします」
突然立ち上がるとジェイクはユアンに頭を下げる。きっと頭の良い子なんだろう。この一瞬でどうするべきかを判断するんだから。でも、よろしくと言った顔は仏頂面で子供が嫌いってのは本当なんだろう。自分だってまだまだ子供のくせに!!
ユアンはなんとも言えない顔をしてジェイクを指さしたが、ふぅと息を吐くとその手を下ろした。
「まぁいい。よろしくな」
そう言ってユアンが差し出した手は誰にも握られることはなかった。ジェイクはすぐに下を向いてしまったからだ。
だけど、休憩後の授業からは少し雰囲気が変わった。ジェイクが質問したり、初心者の私達が躓きそうな場所があると先に質問してくれるようになったのだ。
「できるんなら初めからやれよ」
ぶすっと呟いたあいつの悔しそうな顔は少し胸がすく。
前世ではあいつの天才ぶりにいつも私がされていたことだからだ。少しは自分よりも出来る人と勉強する気持ちを思い知れ!! 私は忍び笑いを洩らした。
その時、にやにやしている私の顔をあの子がじっと見ていることに私はこの時気が付かなかった。
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