双子になんかなりたくない

波湖 真

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それぞれの事情

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面会からしばらく経ったある日、もちろん私は今病室にいる。やっぱりあの後また熱が出てやっと昨日から起き上がれるようになったところだ。
それでも毎日あいつがやってきて私に色々話してくれるし、私の要望を通訳してくれる。それでQOLが上がったのは確かだった。
「それで? 何かあの子について分かったことある?」
私はりんごをシャクリと噛みながら聞いてみる。
「まぁ、色々とね。メイドさん達にお前の婚約者の子はどんな子なのか? って可愛く聞いたら色々教えてくれた」
なるほど確かに今の私達は可愛い二歳児だもんね。一歩、いや二歩くらい引けば私にもあいつが可愛くみえる?
私が余程変な顔をしていたのだろう。あいつは私の額をペシッと叩く。
「痛ー」
「変な想像するな。お前には絶対可愛くお願いなんかしねーよ」
「ハハハ、ごめん。それで?」
「あのお母さんがいただろ?」
「公爵夫人?」
「ああ、元々はメイドだったらしい。まぁお手つきってやつだな」
ああ、だから昨日も殆ど話さなかったのかな?
「それであの子が生まれたわけだが、まずいことにその時点であの公爵にはご立派な正妻がいたらしい」
「そうか、じゃあ、あの、うーんなんで言うんだっけ?」
「庶子」
「そうそう、婚外子……。それってまずいんじゃない? ちょっとここの人と話すとわかるけど結構権威主義的な世界よね」
「ああ。ただ、幸か不幸かその正妻が激怒して離縁を申し出て、あの母親はめでたく正妻の座に着き、あの子も公子となったってわけだ」
「じゃあ、まぁ正妻さんには可哀想だけど、良かったんじゃ?」
「その正妻が離縁した後にあの公爵の子を産んだから大変なんだよ」
「え? なんなのよぉ。大人って汚い!!」
「あの子には一つ下の弟がいて、その弟は離縁の後に生まれたから今は婚外子ってことになってる。でも元正妻は有力な伯爵家の娘で色々公爵も世話になっている。だから」
「だから?」
「今は公爵と元正妻が、現正妻とあの子を追い出そうと躍起になっている。そんな中でも王太子の従兄弟であるあの子には縁談話は色々持ち上がるし、しかも今回はお前との縁談だから追い出すにも追い出せなくなったって感じかな」
「エリー姉さまのことは?」
「エリーの一目惚れらしい。でものらりくらりと公爵も頷かなかったみたいだ。ジェイクを追い出すつもりだったからだろうな。だから、公爵も血が近いとか言って断っていたんだと」
「ふーん、でもよくそこまで話してくれたね」
「俺に話すわけないだろうが幼児だぞ。ただ、俺が可愛く聞いたことで、メイド達がわらわら集まって来て勝手に話してくれたよ。元メイドの公爵夫人だから、つてや噂もメイド達には回ってたみたいだ」
「なるほどねぇ。だから、なんとなくあの子寄りの噂だよね」
「まぁな。あいつがどう思ってるかわからないけど、自分をかばって母親が殴られてるんじゃたまらないな。俺なら家を出ていくな。そうすれば母親が公爵夫人の地位に固執する必要がなくなる」
ん? 今あいつが言ったことに何か引っかかる。
「まぁ、今はそんな感じだな」
「ん? ああ、わかったわ。ありがとう。でも、頭が痛くなるくらいのドロドロ関係だね」
「なんで、あの日あの場であんなことをあいつが言ったのかはわからないけどな」
「そうだね。父親の横暴をシャール兄様に見せたかったのかな?」
「それも有り得るけどなぁ」
私達はそれ以上考えるのはやめた。だってあの子ではないのだ。何を考えているのかなんてわからないもの。
「いつごろ、あっちに戻れるんだ?」
暫しの沈黙の後、あいつがボソリと呟いた。私はニパッと笑うとあいつの頭を撫でる。
「やっぱり弟くんはお姉さまがいないと寂しいのね?」
「う、うるせー」
「すぐ良くなって部屋に帰るね。ありがとう。ユアン」
私はこの時初めてあいつの名前を呼んだ。

その後の数ヶ月は平和だった。相変わらずユアンと二人で過ごした。たまにシャール兄様が来てくれるがあの子や公爵については何も話してくれなかった。
一つ変化があったとすれば私もやっと話せるようになったことだ。いやー長かった。毎日の発声練習は無駄ではなかった。
「ユアン、こっちみて」
「見る?」
「きて」
「はいはい」
まだ間違えちゃうけど、それが可愛いとメイドさん達に言われているから良しとしよう。
私はユアンと顔を寄せてこれからのことの話した。
「ねぇ、これから日本語はどうする? もう話せるのに日本語で話してたらおかしいよね」
「そうだなぁ。ここの言葉にも慣れてきたけど、やっぱり日本語が便利なんだよな。誰にもわからないし」
そうなのだ。私達はこれから日本語を話すか捨てるかしかない。
「でも、話さなくなったら日本語も忘れちゃうんじゃない?」
私達は生まれてから沢山のことを忘れて来た。赤ちゃんの頃結構頑張ったけれど結局は殆どを忘れてしまっている。
覚えているのは転生したという事実くらいなのだ。相変わらずあいつとの関係は覚えているが両親や友人の顔は全く思い出せない。その上日本語まで忘れるなんて精神的にキツい。
「その可能性は高いな。うーん、そうだなぁ。よし!!」
そう言ってあいつは手をパンっと叩いた。
「何?」
「お前はこれ以上話せるようにならないってことにするのはどうだ? 赤ちゃん語は話せるのに、この国の言葉はあまり上手くならない。だから、俺たちはいつまでも赤ちゃん語を話す」
「えーー、折角話せるようになったのにーー」
「でも、まだまだだし、お前は何度も熱が出たからその影響だと思われるだけだ」
「酷い!! 自分ばっかり話せるくせに!!」
「こういう時は兄貴の言うことを聞け!」
「ちょっと何で今更兄貴ヅラなのよ!」
「まぁまぁ、とにかく一年だけ試してみよう。それでお前が不便だって言うなら日本語は諦めよう」
「‥‥一年だけだよ」
「ああ」
「約束だからね」
「もちろんだ」
「……わかった! わかりました!」
私は日本語維持のために暫くは話せないという状態をキープすることにした。
なんか上手く丸め込まれた気がするけどね。
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