双子になんかなりたくない

波湖 真

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新しい家族

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私は順調に回復していった。ただ一つを除いて。
あいつが話せるようになったことでメイドさん達との意思疎通が格段によくなったのに私はまだ話すことができない。日本語は相変わらず話せるのにここの言葉はいくら練習しても話せなかった。
「もう!! なんでよ!! 言ってることはわかるのになんで発音できないのよ!」
私が枕元にあるぬいぐるみに当たり散らしているとあいつがニヤニヤしながら近づいて来た。
「なによ!!」
「いやーなんでもない。へぇーまだ、話せないの? もし何か伝えたいことがあったらいつでも言っていいですよぉ~」
「ふん!! あっちいっててよ!」
「おーこわ。はいはい」
そして私はまた発音の練習に勤しむ。うーん出来そうなんだけどなぁ。なんで出来ないんだろう?
「まぁ! 姫様、お話してるんですかぁ」
にこにこと近づいてきたメイドさんに話しかけてみる。
「おはよう。今日のよろしくね」
「はいはい、もうすぐお食事をお持ちしますね」
ちがーう!!
「ぷぷぷ」
あいつが吹き出して笑い始める。私はこの国の言葉を話したのに全然伝わらない! 何が悪いのよ!!
「ユアン様、姫様はなんと?」
「お腹すいたで合ってるじゃないかな?」
にこっと笑って答えたあいつの言葉はもはやこの国のネイティブスピーカーだ。
「なんでよ!!」
ガックリと落ち込んだ私を見てあいつが近づいてくる。そして頭を撫でてポンポンと叩いた。
「俺が天才なんだから気にするな。お前は凡人の歩みを進めよ」
「それがムカつくのよーーー」
私の叫びはメイドさんにお腹すいたの催促に聞こえたらしい。がっかり。

私の体調が戻って一週間がたったある日、シャール兄様がやってきた。今度は応接室まで私達を呼ぶことはなく、直接この部屋のドアを叩いたようだ。それはそうよね。あの遠出が熱の原因だもの。
「やあ、二人共元気にしてたかい?」
シャール兄様はニコニコと私達のそばまでやってきて腰を下ろした。そして私達の手を取るとキュッと握る。
「兄上、今日はどうしたのですか?」
もうすでに敬語までマスターしているあいつが兄様に声をかける。
「もうすっかり話せるようになったんだね。ユアンは優秀だなぁ」
シャール兄様はあいつの頭を撫でる。ふん! どうせ私はまだ話せないわよ!!
「ユーデットも元気になって本当によかったよ」
その言葉で一瞬思い出したのは熱でうなされている時に聞いた兄様の声。あの声は怖かった……
ギュッと体を竦めるとあいつが私の手を引いた。
「なんだい? ユアン、ヤキモチかい?」
私の変化には気づかなかった兄様はあいつが私を独占しようとしているように思ったみたいだ。
私は深呼吸して気持ちを落ち着ける。あの時の内容は後であいつに相談しよう。
私は体から力を抜いて笑顔を作った。
この小さな体なのだ。兄様とは仲良くしておこう。
「さぁ、二人共一緒に御飯を食べよう。ちょうど食事の時間だったのだろう?」
「はーい」
元気よくあいつが答える。あいつも子供のふりを続けることにしたらしい。その辺は話さなくても伝わるのは双子の便利なところだった。
私も勢いよく頷いた。
「ところで、そろそろ君達を他の兄弟にも引き合わせようと思うんだ」
私達はスプーンを持つ手を止める。
確か私達は六人兄弟。後三人いるってことよね。
「ミカとミケ、それにエリーだよ。どうかな?」
私とあいつは顔を見合わせる。うん、そうだよね。会いたい。
私達はシャール兄様に向かって頷く。
「あと、まぁ君達、いやユーデットにとってとても大切な人達も呼ぶ予定なんだ。いいかな?」
私にとって大事な人? 訳もわからないが私は頷いた。そろそろこの部屋から外に出たかったのだ。丁度いい。
「それと、まぁ君達も会ったことはあるだろうが父上も同席されるよ」
父上ってことは陛下ね。全然子供に会いにこない父親ね。私は死にかけの時しか会ったことないしあいつは一度もないわ。
思わず顔をしかめてしまった。
「ハハハ。父上のことは嫌いかい?」
「僕は会ったことないです」
「え? そうなのかい? ユアン」
「はい。ユーデットの病室には何回か来たみたいですけど、僕は健康なので」
「じゃあ、ユアンにとっては父上も初めましてだねぇ。楽しみだ」
そう言って笑顔で答えた兄様は人畜無害という顔だった。
この人が一番怖いかもしれない。
シャール兄様が十日後に面会を設定して私達の部屋を去っていった。
私達は昼寝のために寝かされたベッドの上で今日のことは話した。
「おい、なんでお前あの兄貴を見た時に固まったんだ? この前は理想のお兄様とか言ってたじゃないか」
「うん、そうなんだけど、熱でうなされていた時にあの人が来た気がするの」
「病室にか?」
「うん、その時にまぁ死なせるなとは言ってくれたんだけど……。なんかね。声がね。怖かったような感じだったの」
「そうか。まぁ真剣に医師たちに叱咤していた可能性もあるけどな。他に何か聞かなかったか?」
「やっと生まれた王家の金髪って言ってた……」
「? なんだそれ? 珍しいのか?」
「知らないよ! なんかそれを聞いたら私じゃなくて王家の金髪が大事な気がしたの!!」
「ふーん。まぁ元々俺はあいつは気に食わないけどな」
「それもどうして? いい人じゃない?」
「胡散臭い」
「そんな……」
「俺はいつも自分の感を信じてきたんだ」
そういったあいつはまっすぐ天井を見つめていた。そうだった。前世のあいつもよくこういう目をしていた。いつもその目がムカついていたけど、今は……
「そっか、兎に角あの人要注意人物ってことで」
「おう」
「あとは面会だね」
「そうだな。確か上にも双子がいるって言ってたな」
「ミカとミケだっけ?」
「ああ、そう。猫みたいな名前の奴ら。そいつらが俺たちが日本語でこんなに話すのがおかしいとか言わないといいな。今は赤ちゃん語で話してると思われてるけど、そんな双子いないとかいわれて日本語に注目が集まるのはまずい」
「そうだね。面会のときはなるべく日本語話さないようにしよう」
「でも、そうするとお前意思疎通が出来ないだろ?」
「そこは表情で察してよ。双子なんでしょ? お兄ちゃん」
「ここではお前がお姉様だろ。まぁ、しょうがねぇな」
そうして私達は面会の日を迎えた。

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