7 / 36
新しい家族
7
しおりを挟む
私は順調に回復していった。ただ一つを除いて。
あいつが話せるようになったことでメイドさん達との意思疎通が格段によくなったのに私はまだ話すことができない。日本語は相変わらず話せるのにここの言葉はいくら練習しても話せなかった。
「もう!! なんでよ!! 言ってることはわかるのになんで発音できないのよ!」
私が枕元にあるぬいぐるみに当たり散らしているとあいつがニヤニヤしながら近づいて来た。
「なによ!!」
「いやーなんでもない。へぇーまだ、話せないの? もし何か伝えたいことがあったらいつでも言っていいですよぉ~」
「ふん!! あっちいっててよ!」
「おーこわ。はいはい」
そして私はまた発音の練習に勤しむ。うーん出来そうなんだけどなぁ。なんで出来ないんだろう?
「まぁ! 姫様、お話してるんですかぁ」
にこにこと近づいてきたメイドさんに話しかけてみる。
「おはよう。今日のよろしくね」
「はいはい、もうすぐお食事をお持ちしますね」
ちがーう!!
「ぷぷぷ」
あいつが吹き出して笑い始める。私はこの国の言葉を話したのに全然伝わらない! 何が悪いのよ!!
「ユアン様、姫様はなんと?」
「お腹すいたで合ってるじゃないかな?」
にこっと笑って答えたあいつの言葉はもはやこの国のネイティブスピーカーだ。
「なんでよ!!」
ガックリと落ち込んだ私を見てあいつが近づいてくる。そして頭を撫でてポンポンと叩いた。
「俺が天才なんだから気にするな。お前は凡人の歩みを進めよ」
「それがムカつくのよーーー」
私の叫びはメイドさんにお腹すいたの催促に聞こえたらしい。がっかり。
私の体調が戻って一週間がたったある日、シャール兄様がやってきた。今度は応接室まで私達を呼ぶことはなく、直接この部屋のドアを叩いたようだ。それはそうよね。あの遠出が熱の原因だもの。
「やあ、二人共元気にしてたかい?」
シャール兄様はニコニコと私達のそばまでやってきて腰を下ろした。そして私達の手を取るとキュッと握る。
「兄上、今日はどうしたのですか?」
もうすでに敬語までマスターしているあいつが兄様に声をかける。
「もうすっかり話せるようになったんだね。ユアンは優秀だなぁ」
シャール兄様はあいつの頭を撫でる。ふん! どうせ私はまだ話せないわよ!!
「ユーデットも元気になって本当によかったよ」
その言葉で一瞬思い出したのは熱でうなされている時に聞いた兄様の声。あの声は怖かった……
ギュッと体を竦めるとあいつが私の手を引いた。
「なんだい? ユアン、ヤキモチかい?」
私の変化には気づかなかった兄様はあいつが私を独占しようとしているように思ったみたいだ。
私は深呼吸して気持ちを落ち着ける。あの時の内容は後であいつに相談しよう。
私は体から力を抜いて笑顔を作った。
この小さな体なのだ。兄様とは仲良くしておこう。
「さぁ、二人共一緒に御飯を食べよう。ちょうど食事の時間だったのだろう?」
「はーい」
元気よくあいつが答える。あいつも子供のふりを続けることにしたらしい。その辺は話さなくても伝わるのは双子の便利なところだった。
私も勢いよく頷いた。
「ところで、そろそろ君達を他の兄弟にも引き合わせようと思うんだ」
私達はスプーンを持つ手を止める。
確か私達は六人兄弟。後三人いるってことよね。
「ミカとミケ、それにエリーだよ。どうかな?」
私とあいつは顔を見合わせる。うん、そうだよね。会いたい。
私達はシャール兄様に向かって頷く。
「あと、まぁ君達、いやユーデットにとってとても大切な人達も呼ぶ予定なんだ。いいかな?」
私にとって大事な人? 訳もわからないが私は頷いた。そろそろこの部屋から外に出たかったのだ。丁度いい。
「それと、まぁ君達も会ったことはあるだろうが父上も同席されるよ」
父上ってことは陛下ね。全然子供に会いにこない父親ね。私は死にかけの時しか会ったことないしあいつは一度もないわ。
思わず顔をしかめてしまった。
「ハハハ。父上のことは嫌いかい?」
「僕は会ったことないです」
「え? そうなのかい? ユアン」
「はい。ユーデットの病室には何回か来たみたいですけど、僕は健康なので」
「じゃあ、ユアンにとっては父上も初めましてだねぇ。楽しみだ」
そう言って笑顔で答えた兄様は人畜無害という顔だった。
この人が一番怖いかもしれない。
シャール兄様が十日後に面会を設定して私達の部屋を去っていった。
私達は昼寝のために寝かされたベッドの上で今日のことは話した。
「おい、なんでお前あの兄貴を見た時に固まったんだ? この前は理想のお兄様とか言ってたじゃないか」
「うん、そうなんだけど、熱でうなされていた時にあの人が来た気がするの」
「病室にか?」
「うん、その時にまぁ死なせるなとは言ってくれたんだけど……。なんかね。声がね。怖かったような感じだったの」
「そうか。まぁ真剣に医師たちに叱咤していた可能性もあるけどな。他に何か聞かなかったか?」
「やっと生まれた王家の金髪って言ってた……」
「? なんだそれ? 珍しいのか?」
「知らないよ! なんかそれを聞いたら私じゃなくて王家の金髪が大事な気がしたの!!」
「ふーん。まぁ元々俺はあいつは気に食わないけどな」
「それもどうして? いい人じゃない?」
「胡散臭い」
「そんな……」
「俺はいつも自分の感を信じてきたんだ」
そういったあいつはまっすぐ天井を見つめていた。そうだった。前世のあいつもよくこういう目をしていた。いつもその目がムカついていたけど、今は……
「そっか、兎に角あの人要注意人物ってことで」
「おう」
「あとは面会だね」
「そうだな。確か上にも双子がいるって言ってたな」
「ミカとミケだっけ?」
「ああ、そう。猫みたいな名前の奴ら。そいつらが俺たちが日本語でこんなに話すのがおかしいとか言わないといいな。今は赤ちゃん語で話してると思われてるけど、そんな双子いないとかいわれて日本語に注目が集まるのはまずい」
「そうだね。面会のときはなるべく日本語話さないようにしよう」
「でも、そうするとお前意思疎通が出来ないだろ?」
「そこは表情で察してよ。双子なんでしょ? お兄ちゃん」
「ここではお前がお姉様だろ。まぁ、しょうがねぇな」
そうして私達は面会の日を迎えた。
あいつが話せるようになったことでメイドさん達との意思疎通が格段によくなったのに私はまだ話すことができない。日本語は相変わらず話せるのにここの言葉はいくら練習しても話せなかった。
「もう!! なんでよ!! 言ってることはわかるのになんで発音できないのよ!」
私が枕元にあるぬいぐるみに当たり散らしているとあいつがニヤニヤしながら近づいて来た。
「なによ!!」
「いやーなんでもない。へぇーまだ、話せないの? もし何か伝えたいことがあったらいつでも言っていいですよぉ~」
「ふん!! あっちいっててよ!」
「おーこわ。はいはい」
そして私はまた発音の練習に勤しむ。うーん出来そうなんだけどなぁ。なんで出来ないんだろう?
「まぁ! 姫様、お話してるんですかぁ」
にこにこと近づいてきたメイドさんに話しかけてみる。
「おはよう。今日のよろしくね」
「はいはい、もうすぐお食事をお持ちしますね」
ちがーう!!
「ぷぷぷ」
あいつが吹き出して笑い始める。私はこの国の言葉を話したのに全然伝わらない! 何が悪いのよ!!
「ユアン様、姫様はなんと?」
「お腹すいたで合ってるじゃないかな?」
にこっと笑って答えたあいつの言葉はもはやこの国のネイティブスピーカーだ。
「なんでよ!!」
ガックリと落ち込んだ私を見てあいつが近づいてくる。そして頭を撫でてポンポンと叩いた。
「俺が天才なんだから気にするな。お前は凡人の歩みを進めよ」
「それがムカつくのよーーー」
私の叫びはメイドさんにお腹すいたの催促に聞こえたらしい。がっかり。
私の体調が戻って一週間がたったある日、シャール兄様がやってきた。今度は応接室まで私達を呼ぶことはなく、直接この部屋のドアを叩いたようだ。それはそうよね。あの遠出が熱の原因だもの。
「やあ、二人共元気にしてたかい?」
シャール兄様はニコニコと私達のそばまでやってきて腰を下ろした。そして私達の手を取るとキュッと握る。
「兄上、今日はどうしたのですか?」
もうすでに敬語までマスターしているあいつが兄様に声をかける。
「もうすっかり話せるようになったんだね。ユアンは優秀だなぁ」
シャール兄様はあいつの頭を撫でる。ふん! どうせ私はまだ話せないわよ!!
「ユーデットも元気になって本当によかったよ」
その言葉で一瞬思い出したのは熱でうなされている時に聞いた兄様の声。あの声は怖かった……
ギュッと体を竦めるとあいつが私の手を引いた。
「なんだい? ユアン、ヤキモチかい?」
私の変化には気づかなかった兄様はあいつが私を独占しようとしているように思ったみたいだ。
私は深呼吸して気持ちを落ち着ける。あの時の内容は後であいつに相談しよう。
私は体から力を抜いて笑顔を作った。
この小さな体なのだ。兄様とは仲良くしておこう。
「さぁ、二人共一緒に御飯を食べよう。ちょうど食事の時間だったのだろう?」
「はーい」
元気よくあいつが答える。あいつも子供のふりを続けることにしたらしい。その辺は話さなくても伝わるのは双子の便利なところだった。
私も勢いよく頷いた。
「ところで、そろそろ君達を他の兄弟にも引き合わせようと思うんだ」
私達はスプーンを持つ手を止める。
確か私達は六人兄弟。後三人いるってことよね。
「ミカとミケ、それにエリーだよ。どうかな?」
私とあいつは顔を見合わせる。うん、そうだよね。会いたい。
私達はシャール兄様に向かって頷く。
「あと、まぁ君達、いやユーデットにとってとても大切な人達も呼ぶ予定なんだ。いいかな?」
私にとって大事な人? 訳もわからないが私は頷いた。そろそろこの部屋から外に出たかったのだ。丁度いい。
「それと、まぁ君達も会ったことはあるだろうが父上も同席されるよ」
父上ってことは陛下ね。全然子供に会いにこない父親ね。私は死にかけの時しか会ったことないしあいつは一度もないわ。
思わず顔をしかめてしまった。
「ハハハ。父上のことは嫌いかい?」
「僕は会ったことないです」
「え? そうなのかい? ユアン」
「はい。ユーデットの病室には何回か来たみたいですけど、僕は健康なので」
「じゃあ、ユアンにとっては父上も初めましてだねぇ。楽しみだ」
そう言って笑顔で答えた兄様は人畜無害という顔だった。
この人が一番怖いかもしれない。
シャール兄様が十日後に面会を設定して私達の部屋を去っていった。
私達は昼寝のために寝かされたベッドの上で今日のことは話した。
「おい、なんでお前あの兄貴を見た時に固まったんだ? この前は理想のお兄様とか言ってたじゃないか」
「うん、そうなんだけど、熱でうなされていた時にあの人が来た気がするの」
「病室にか?」
「うん、その時にまぁ死なせるなとは言ってくれたんだけど……。なんかね。声がね。怖かったような感じだったの」
「そうか。まぁ真剣に医師たちに叱咤していた可能性もあるけどな。他に何か聞かなかったか?」
「やっと生まれた王家の金髪って言ってた……」
「? なんだそれ? 珍しいのか?」
「知らないよ! なんかそれを聞いたら私じゃなくて王家の金髪が大事な気がしたの!!」
「ふーん。まぁ元々俺はあいつは気に食わないけどな」
「それもどうして? いい人じゃない?」
「胡散臭い」
「そんな……」
「俺はいつも自分の感を信じてきたんだ」
そういったあいつはまっすぐ天井を見つめていた。そうだった。前世のあいつもよくこういう目をしていた。いつもその目がムカついていたけど、今は……
「そっか、兎に角あの人要注意人物ってことで」
「おう」
「あとは面会だね」
「そうだな。確か上にも双子がいるって言ってたな」
「ミカとミケだっけ?」
「ああ、そう。猫みたいな名前の奴ら。そいつらが俺たちが日本語でこんなに話すのがおかしいとか言わないといいな。今は赤ちゃん語で話してると思われてるけど、そんな双子いないとかいわれて日本語に注目が集まるのはまずい」
「そうだね。面会のときはなるべく日本語話さないようにしよう」
「でも、そうするとお前意思疎通が出来ないだろ?」
「そこは表情で察してよ。双子なんでしょ? お兄ちゃん」
「ここではお前がお姉様だろ。まぁ、しょうがねぇな」
そうして私達は面会の日を迎えた。
0
お気に入りに追加
37
あなたにおすすめの小説
私の入る余地なんてないことはわかってる。だけど……。
さくしゃ
恋愛
キャロルは知っていた。
許嫁であるリオンと、親友のサンが互いを想い合っていることを。
幼い頃からずっと想ってきたリオン、失いたくない大切な親友であるサン。キャロルは苦悩の末に、リオンへの想いを封じ、身を引くと決めていた——はずだった。
(ああ、もう、)
やり過ごせると思ってた。でも、そんなことを言われたら。
(ずるいよ……)
リオンはサンのことだけを見ていると思っていた。けれど——違った。
こんな私なんかのことを。
友情と恋情の狭間で揺れ動くキャロル、リオン、サンの想い。
彼らが最後に選ぶ答えとは——?
⚠️好みが非常に分かれる作品となっております。

「気になる人」
愛理
恋愛
人生初の出勤日に偶然に見かけた笑顔が素敵な男性……でも、それだけだと思っていた主人公の職場にそのだ男性が現れる。だけど、さっき見た人物とは到底同じ人物とは思えなくて……。
素直で明るく純粋な性格の新米女性会社員とその女性の職場の先輩にあたるクールな性格の男性との恋の物語です。

もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。

初恋の人と再会したら、妹の取り巻きになっていました
山科ひさき
恋愛
物心ついた頃から美しい双子の妹の陰に隠れ、実の両親にすら愛されることのなかったエミリー。彼女は妹のみの誕生日会を開いている最中の家から抜け出し、その先で出会った少年に恋をする。
だが再会した彼は美しい妹の言葉を信じ、エミリーを「妹を執拗にいじめる最低な姉」だと思い込んでいた。
なろうにも投稿しています。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

愛など初めからありませんが。
ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。
お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。
「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」
「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」
「……何を言っている?」
仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに?
✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
皇帝の番~2度目の人生謳歌します!~
saku
恋愛
竜人族が治める国で、生まれたルミエールは前世の記憶を持っていた。
前世では、一国の姫として生まれた。両親に愛されずに育った。
国が戦で負けた後、敵だった竜人に自分の番だと言われ。遠く離れたこの国へと連れてこられ、婚約したのだ……。
自分に優しく接してくれる婚約者を、直ぐに大好きになった。その婚約者は、竜人族が治めている帝国の皇帝だった。
幸せな日々が続くと思っていたある日、婚約者である皇帝と一人の令嬢との密会を噂で知ってしまい、裏切られた悲しさでどんどんと痩せ細り死んでしまった……。
自分が死んでしまった後、婚約者である皇帝は何十年もの間深い眠りについていると知った。
前世の記憶を持っているルミエールが、皇帝が眠っている王都に足を踏み入れた時、止まっていた歯車が動き出す……。
※小説家になろう様でも公開しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる