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新しい家族
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「あいつは何か隠してるぞ」
シャール兄様と別れて自分たちの部屋に戻る途中あいつがそんなことを言い出した。
「確かに少し変な感じはしたけど、そんなに?」
「お前は見えなかったのか? あいつの目全く笑ってなかった。特にお前を見る目なんて危ないストーカーみたいだった」
「え? そう? 優しい兄様だったじゃない」
私が不安を隠して答える。どうも私もおかしく感じたと言うとあいつに負けた感じがするのだ。
「何が兄様だよ。お前も懐柔されてるんじゃないぞ」
「そんなんじゃないけど、ほら、いろいろ教えてくれたじゃない? 家族のこととか?」
「はっ! 兄弟六人の大家族ですって話かよ。それになんだよ。許可しないとかあいつがそんなに偉いのか?」
「偉いんじゃないの? 王太子殿下だっていってたじゃん。それって次の王様でしょ?」
「さぁさぁ。姫様、王子様、お部屋に着きましたよ。王太子殿下と仲良く過ごされて偉かったですねぇ」
メイドさん達は私達の会話をとめて頭を良い子良い子と撫でる。
あいつは手でその手を払っていたけれど、私は撫でられるのは好きだ。
「姫様、どうか、どうか元気に大きくなってくださいませね」
少し涙ぐんだメイドさんに真顔でお願いされてしまった。無理したからまた熱が出ると思われているのかな? まぁ確かに今日は疲れたわ。
私がふぁぁぁと大きなあくびをするとメイドさんたちが慌てたように昼寝の準備を始める。
こういうところは自分がお姫様だなって思うよね。
それでも私はその夜再び熱を出した。
「はぁ、はぁ、はぁ」
夜中に息苦しくて目が覚める。泣き声を上げたいけれどその気力も出ないほどの高熱だ。
「はぁ、はぁ、はぁ」
すると冷たい手が額に当てられた。メイドさんが気づいてくれた?
「大丈夫か?」
あいつの声が遠くに聞こえる。
「おい!! しっかりしろ! 今人を呼ぶからな」
額から離れゆく手が嫌でその手をパシッと掴む。
「おい! 離せ! もっとひどくなるぞ! なんでお前ばっかり熱がでるんだよ!!」
「た…すけ……おに……ちゃ」
「くそ!」
その声を最後に私の意識は闇の中に落ちていった。その時あいつが今まで聞いたこともないような声で泣いていたような気がする。そう、プライドをかなぐり捨てたような赤ちゃんのギャン泣きだったような。そして、プツリと記憶が途切れた。
「やはり、金髪は体が弱いのか?」
そんな声が遠くから聞こえる。あの声はシャール兄様の声? なんでここに?
「絶対に助けろ!! やっと生まれた王家の金髪なんだぞ!!」
言葉遣いが違うから別の人かも……
「折角父上からこの宮殿の権利を貰ったんだ! おい、もっと子供の病気に詳しい医師を連れてこい!!」
金髪、金髪うるさいなぁ。そりゃあいつもシャール兄様も綺麗な黒髪だけど、そんなに言わなくてもいいじゃない。
私は意識のずっと奥から音だけを聞いていた。そして、また、闇に落ちる。
ああ、喉が渇いた。カラカラだよ。誰か!
その時口から無理矢理水が入ってくるのを感じる。誰? ありがとう!
私はゴクゴクと飲み続ける。ぷはぁと息を吐くと額に冷たい手が当てられる。その手は今の私と同じくらいの大きさのような気がした。
やっと体が楽になって来た。
どれくらいだったんだろう? 私はピタリとくっついている瞼を開けて見る。
眩しい……
「ひ、ひめさまが、姫様が目を開けられました!!」
すぐ隣で何かが落ちる音が響くと同時にメイドさんの大きな声が聞こえて来た。
「姫様!! 姫様!! もう大丈夫でございますよ。姫様!!」
うるさいなぁ。一体全体なんの騒ぎなの?
私が顔を顰めるとメイドさんがガバリと近くにきた。
「大丈夫でございますか? 何かお飲みになられますか? あぁ、おうじさまを! ユアン王子様をお連れして!!」
なぜかメイドさんは大慌てであいつを呼んできて私の前にすわらせる。
「さぁ、ユアン王子様、姫様が目を覚まされました。なんとおっしゃてますか?」
「おい、大丈夫か?」
いつものぶっきら棒のあいつだ。
「うん、一体どうしたの? 今まであんたが病室まで来たことなかったじゃん」
「まあな。でも、今回は長かったからな」
「どれくらい……寝てた?」
「三ヶ月」
「嘘でしょ?」
「ほんと」
「生きてるよね?」
「ああ、なんとかな」
「一体どうやって」
赤ちゃんが三ヶ月も目を覚さなかったら死んじゃうんじゃ。
「経口補水液作らせて、母乳を搾乳させてお前の口から入れたんだ」
「そんなこと、どうやって……」
「見てろ」
あいつはそういうとメイドさんの方を振り向いて何事かを話し始めた。そう、話したのだ。
「あんた……まさか」
「ああ、この国の言葉を話せるようになった。だから、お前の通訳としてここにいる」
「経口補水液も?」
「お前が水に砂糖と塩入れたのが飲みたいと言っていると伝えた」
「だから、今お前の通訳としてここに連れられて来たってことだ」
すると程なくしてとろとろのスープが運ばれて来た。
「まさか」
「ああ、そう。お前がトロトロしたいろんな野菜の出汁が出たスープが飲みたいと言っていると伝えた」
なるほど、だからこれなのね。確かにお腹が空いているし、食べようかな。
「まあ、それなら頂くわ。でも、三ヶ月も意識不明なんてまた死にそうね」
「全くだ。いい加減にしてくれ」
「はいはい、わかりました。あーあ、私も早く話せるようにならなくちゃ。いろいろ伝わらないと不便なのよね」
そう言いながら私はスープを口に運んだ。
まずは健康を回復しよう!
シャール兄様と別れて自分たちの部屋に戻る途中あいつがそんなことを言い出した。
「確かに少し変な感じはしたけど、そんなに?」
「お前は見えなかったのか? あいつの目全く笑ってなかった。特にお前を見る目なんて危ないストーカーみたいだった」
「え? そう? 優しい兄様だったじゃない」
私が不安を隠して答える。どうも私もおかしく感じたと言うとあいつに負けた感じがするのだ。
「何が兄様だよ。お前も懐柔されてるんじゃないぞ」
「そんなんじゃないけど、ほら、いろいろ教えてくれたじゃない? 家族のこととか?」
「はっ! 兄弟六人の大家族ですって話かよ。それになんだよ。許可しないとかあいつがそんなに偉いのか?」
「偉いんじゃないの? 王太子殿下だっていってたじゃん。それって次の王様でしょ?」
「さぁさぁ。姫様、王子様、お部屋に着きましたよ。王太子殿下と仲良く過ごされて偉かったですねぇ」
メイドさん達は私達の会話をとめて頭を良い子良い子と撫でる。
あいつは手でその手を払っていたけれど、私は撫でられるのは好きだ。
「姫様、どうか、どうか元気に大きくなってくださいませね」
少し涙ぐんだメイドさんに真顔でお願いされてしまった。無理したからまた熱が出ると思われているのかな? まぁ確かに今日は疲れたわ。
私がふぁぁぁと大きなあくびをするとメイドさんたちが慌てたように昼寝の準備を始める。
こういうところは自分がお姫様だなって思うよね。
それでも私はその夜再び熱を出した。
「はぁ、はぁ、はぁ」
夜中に息苦しくて目が覚める。泣き声を上げたいけれどその気力も出ないほどの高熱だ。
「はぁ、はぁ、はぁ」
すると冷たい手が額に当てられた。メイドさんが気づいてくれた?
「大丈夫か?」
あいつの声が遠くに聞こえる。
「おい!! しっかりしろ! 今人を呼ぶからな」
額から離れゆく手が嫌でその手をパシッと掴む。
「おい! 離せ! もっとひどくなるぞ! なんでお前ばっかり熱がでるんだよ!!」
「た…すけ……おに……ちゃ」
「くそ!」
その声を最後に私の意識は闇の中に落ちていった。その時あいつが今まで聞いたこともないような声で泣いていたような気がする。そう、プライドをかなぐり捨てたような赤ちゃんのギャン泣きだったような。そして、プツリと記憶が途切れた。
「やはり、金髪は体が弱いのか?」
そんな声が遠くから聞こえる。あの声はシャール兄様の声? なんでここに?
「絶対に助けろ!! やっと生まれた王家の金髪なんだぞ!!」
言葉遣いが違うから別の人かも……
「折角父上からこの宮殿の権利を貰ったんだ! おい、もっと子供の病気に詳しい医師を連れてこい!!」
金髪、金髪うるさいなぁ。そりゃあいつもシャール兄様も綺麗な黒髪だけど、そんなに言わなくてもいいじゃない。
私は意識のずっと奥から音だけを聞いていた。そして、また、闇に落ちる。
ああ、喉が渇いた。カラカラだよ。誰か!
その時口から無理矢理水が入ってくるのを感じる。誰? ありがとう!
私はゴクゴクと飲み続ける。ぷはぁと息を吐くと額に冷たい手が当てられる。その手は今の私と同じくらいの大きさのような気がした。
やっと体が楽になって来た。
どれくらいだったんだろう? 私はピタリとくっついている瞼を開けて見る。
眩しい……
「ひ、ひめさまが、姫様が目を開けられました!!」
すぐ隣で何かが落ちる音が響くと同時にメイドさんの大きな声が聞こえて来た。
「姫様!! 姫様!! もう大丈夫でございますよ。姫様!!」
うるさいなぁ。一体全体なんの騒ぎなの?
私が顔を顰めるとメイドさんがガバリと近くにきた。
「大丈夫でございますか? 何かお飲みになられますか? あぁ、おうじさまを! ユアン王子様をお連れして!!」
なぜかメイドさんは大慌てであいつを呼んできて私の前にすわらせる。
「さぁ、ユアン王子様、姫様が目を覚まされました。なんとおっしゃてますか?」
「おい、大丈夫か?」
いつものぶっきら棒のあいつだ。
「うん、一体どうしたの? 今まであんたが病室まで来たことなかったじゃん」
「まあな。でも、今回は長かったからな」
「どれくらい……寝てた?」
「三ヶ月」
「嘘でしょ?」
「ほんと」
「生きてるよね?」
「ああ、なんとかな」
「一体どうやって」
赤ちゃんが三ヶ月も目を覚さなかったら死んじゃうんじゃ。
「経口補水液作らせて、母乳を搾乳させてお前の口から入れたんだ」
「そんなこと、どうやって……」
「見てろ」
あいつはそういうとメイドさんの方を振り向いて何事かを話し始めた。そう、話したのだ。
「あんた……まさか」
「ああ、この国の言葉を話せるようになった。だから、お前の通訳としてここにいる」
「経口補水液も?」
「お前が水に砂糖と塩入れたのが飲みたいと言っていると伝えた」
「だから、今お前の通訳としてここに連れられて来たってことだ」
すると程なくしてとろとろのスープが運ばれて来た。
「まさか」
「ああ、そう。お前がトロトロしたいろんな野菜の出汁が出たスープが飲みたいと言っていると伝えた」
なるほど、だからこれなのね。確かにお腹が空いているし、食べようかな。
「まあ、それなら頂くわ。でも、三ヶ月も意識不明なんてまた死にそうね」
「全くだ。いい加減にしてくれ」
「はいはい、わかりました。あーあ、私も早く話せるようにならなくちゃ。いろいろ伝わらないと不便なのよね」
そう言いながら私はスープを口に運んだ。
まずは健康を回復しよう!
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