双子になんかなりたくない

波湖 真

文字の大きさ
上 下
5 / 36
新しい家族

しおりを挟む
一歳を過ぎた頃、私達の部屋の外が騒がしくなった。
本当に一歳を過ぎたのかは誰も誕生日を祝ってくれなかったのでわからなかったがあいつは生まれた日からの日数を数えていたらしい。信じらんない。
私も今ではしっかりと自分の足で歩けるようになった。ただ、相変わらず体は弱くすぐに熱がでてお馴染みの病室のお世話になっている。
それでも今まで沢山のメイドさんに囲まれて何不自由なく過ごしているが、家族と呼べる人との交流はない。
陛下と呼ばれる父親が今までに二回くらい私が死にそうになると様子を見に来たくらいだ。逆に健康なあいつは陛下にも会ったことがないらしい。
そんな私達の元に誰かがやってくると聞いて私はワクワクドキドキが止まらない。
お兄さんかな? お姉さんかな? どんな感じなんだろう? なんで今さらやってきたんだろう? 
疑問は尽きないが、兎に角ここでの家族に会うのは楽しみだ。
「ユーデット姫様、ユアン王子様、今日は特別な日ですからこちらのお洋服を着ましょうねぇ」
いい子でお座りしているとメイドさんが新しい服をもってやってきた。私とあいつはその服を見てため息を吐く。完璧な双子コーデだった。黄色と白を基調としたセーラ服で私の服はスカート、あいつのものは半ズボンだった。だから双子だからってお揃いにしないでほしい。
「きゃあ! とってもお似合いですわ!!」
相変わらず可愛いの連発で大変だったが、私達は代表のメイドさんに抱っこされて部屋を出る。はっきり言って病気以外で部屋から出るのは初めてだ。
私は思わず周りをキョロキョロしてしまう。それはあいつも同じらしく、私の方を見ようともしないで周りを見回している。
私達の部屋から長い廊下を渡り、二つの部屋を通り過ぎてたどり着いたのは私達の住んでいる場所よりも豪華だった。いや私にとってあの部屋だって豪華絢爛だったがこちらは桁が違う。
「王太子殿下、ユーデット姫様とユアン王子様をお連れしました」
一際大きくて豪華な部屋に入るとメイドさんが私達を抱いたまま深々と頭を下げる。
ん? 王太子ってことはこの国の次期王様ってことよね。普通に考えると一番上の兄弟ってこと?
私は窓を背に立っている背の高い人を見つめる。髪は長いが男の人らしい。顔は逆光でよく見えない。
「二人は歩けるのかい?」
優しい声をしている。
「ユアン様はかなりお上手です。ユーデット様はご病気気味でしたので数歩でしたら……」
「わかった。では、こちらの椅子に座らせてあげておくれ」
メイドさんは緊張した面持ちで私達をソファにササッと下ろすとそそくさとドアの前に控える。
こんなに緊張しているのは初めて見た。
私が不思議そうにメイドさんを見ていると突然視界が遮られると同時にえらく整った顔が目の前に現れた。
「???」
「ふふふ、可愛いね」
私はその顔に見入ってしまった。それほど整っている。黒髪はあいつと同じだが目の色は澄んだブルーだ。あのとっても綺麗な湖の色。顔の彫りは深いが濃くはない。目だって切れ長だし。ただ、見上げるほどに背が高い。もちろん一歳の私達にとってはメイドさんも大きいんだけれど、ほぅって声が出る。
「何見とれてるんだよ」
隣からあいつが手を振り回して私の腕をパシンと叩いた。
「こら! ユアン、女の子を叩いたら駄目だろう?」
尽かさず王太子殿下がユアンを抱き上げて注意する。うん、紳士! これがお兄様よ!
あいつは腕を振り回すが所詮一歳児。全然届かない。
「おおぉ。やる気かい? 可愛いねぇ」
王太子殿下はあいつのことなど全く気にすることなく、私から少し離して座らせた。
「君達が理解しているかわからないけれど、一応自己紹介するね」
そう言って王太子殿下は立ち上がると手を胸に当てて、腰を折った。
「初めまして、僕は君達の長兄、えっと一番上のお兄様のシャールだよ。よろしくね」
ニコッと笑った顔の破壊力で一瞬固まってしまう。
「僕のことはシャール兄様と呼んでね。あぁ、話せるようになったら?」
シャール、シャール、シャール兄様ね! 私はコクコクと頷いた。
「なんだよ。カッコつけてさ」
あいつがふんとそっぽを向いてしまう。そりゃそうよね。あいつは自分で兄貴だとか言ってても優しかったことなんかなかったもん。恥じ入りなさいよ。
「やっぱりこんなお兄様が夢だったよねぇ」
私はそう言ってこの新しいお兄様に両手を伸ばした。シャール兄様は慣れた様子で私を抱き上げる。ん? なんで慣れてるの? まさか子持ち? まだ高校生くらいに見えるけど……
「へぇ、面白いね。何を言っているのかは分からないけれど二人だけで話が通じてるみたいだ。ミカとミケとは違うんだなぁ」
私達の日本語はやっぱり赤ちゃん語に聞こえるらしい。
ミカとミケ? 猫? 私の顔を見てあぁと話を続ける。
「君達には後三人兄弟がいるんだよ。その内の二人は君達と同じ双子なんだ」
え? とういうことは全部で六人兄弟ってこと? すごいわね。
「ねぇ、すごい大家族みたいよ」
「へーそうですか。もっと憧れのお兄様と仲良くすればいいだろ」
未だに拗ねてるあいつを見てはぁとため息を吐く。本当にガキなんだから。
「あれ? ユアンも抱っこしてほしいのかな? よいしょ」
シャール兄様が私を右手で抱き直すとあいつを左手で抱っこしてそのまま腰を下ろした。そして、私達を膝に乗せて抱きしめる。
「んーいい匂いだ。懐かしいな。エリー以来だね。可愛いなぁ」
また、新しい名前だ。エリーって誰よ?
「エリーというのは君達の直ぐ上のお姉様だよ。今十歳かな。因みにミカエルとミケイルは十三歳、僕は十八歳だよ」
シャール兄様は私の髪に顎を乗せた。
「ユーデット、君の髪は綺麗な金髪だね。そう綺麗すぎるほどに……」
最後の言葉のときに声が変わったのを感じて私はシャール兄様の方に顔を向けた。でも、あの真剣声はすぐに消えて先程の優しい声が帰ってきた。
「どうしたんだい? あぁ他の兄弟にはまだしばらく会えないかなぁ。少なくても君達が話せるようになるまでは許可しない予定だよ」
許可しないってシャール兄様が私達のことを管理してるみたい。
「そうだな。大体二歳位で話せるようになるはずだから後一年は我慢しておくれ。その代わりにこれからは僕がちょくちょく来るね。仲良くしよう」
そう言ってにっこり微笑んだシャール兄様はなんとなく侮れない気がした。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私の入る余地なんてないことはわかってる。だけど……。

さくしゃ
恋愛
キャロルは知っていた。 許嫁であるリオンと、親友のサンが互いを想い合っていることを。 幼い頃からずっと想ってきたリオン、失いたくない大切な親友であるサン。キャロルは苦悩の末に、リオンへの想いを封じ、身を引くと決めていた——はずだった。 (ああ、もう、) やり過ごせると思ってた。でも、そんなことを言われたら。 (ずるいよ……) リオンはサンのことだけを見ていると思っていた。けれど——違った。 こんな私なんかのことを。 友情と恋情の狭間で揺れ動くキャロル、リオン、サンの想い。 彼らが最後に選ぶ答えとは——? ⚠️好みが非常に分かれる作品となっております。

「気になる人」

愛理
恋愛
人生初の出勤日に偶然に見かけた笑顔が素敵な男性……でも、それだけだと思っていた主人公の職場にそのだ男性が現れる。だけど、さっき見た人物とは到底同じ人物とは思えなくて……。 素直で明るく純粋な性格の新米女性会社員とその女性の職場の先輩にあたるクールな性格の男性との恋の物語です。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

初恋の人と再会したら、妹の取り巻きになっていました

山科ひさき
恋愛
物心ついた頃から美しい双子の妹の陰に隠れ、実の両親にすら愛されることのなかったエミリー。彼女は妹のみの誕生日会を開いている最中の家から抜け出し、その先で出会った少年に恋をする。 だが再会した彼は美しい妹の言葉を信じ、エミリーを「妹を執拗にいじめる最低な姉」だと思い込んでいた。 なろうにも投稿しています。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

愛など初めからありませんが。

ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。 お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。 「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」 「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」 「……何を言っている?」 仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに? ✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

皇帝の番~2度目の人生謳歌します!~

saku
恋愛
竜人族が治める国で、生まれたルミエールは前世の記憶を持っていた。 前世では、一国の姫として生まれた。両親に愛されずに育った。 国が戦で負けた後、敵だった竜人に自分の番だと言われ。遠く離れたこの国へと連れてこられ、婚約したのだ……。 自分に優しく接してくれる婚約者を、直ぐに大好きになった。その婚約者は、竜人族が治めている帝国の皇帝だった。 幸せな日々が続くと思っていたある日、婚約者である皇帝と一人の令嬢との密会を噂で知ってしまい、裏切られた悲しさでどんどんと痩せ細り死んでしまった……。 自分が死んでしまった後、婚約者である皇帝は何十年もの間深い眠りについていると知った。 前世の記憶を持っているルミエールが、皇帝が眠っている王都に足を踏み入れた時、止まっていた歯車が動き出す……。 ※小説家になろう様でも公開しています

処理中です...