双子になんかなりたくない

波湖 真

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新しい家族

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「なんでまたあんたがいるのよ!!!」
由美は動けない体で手足を懸命にバタつかせた。
「あんたとやっとすっぱり別れられると思ったのに!! どうして、また一緒なの!!」
由美の叫びは言葉にはならず、大きな泣き声となって豪華絢爛な部屋の中に響き渡ったのだった。

大川由美は真面目に真っ当な人生を歩んできた。家は典型的な中流家庭だったが、優しい両親はいつも由美を応援してくれた。
学校生活も友人に恵まれて楽しい日々を過ごしたし、弓道部では県大会で優勝したこともある。そんな順風満帆な由美には、たった一つだけ不幸なことがあった。
それは双子の兄の存在だった。
なにせこの兄は性格が悪かった。いや、破綻していた。行く先々で問題を起こし、友人と呼べる人は誰もいない。果てはあの優しい両親でさえ匙を投げる始末だ。
ただ、頭だけはいいので勝手に海外の学校の奨学金を受けて、中学校から一人日本を離れ、殆ど家にも戻らず。家族の中では、既にいないもの扱いだった。
それでも、この兄は由美にだけは連絡してきた。多分兄の連絡先を知っている日本人は私だけかもしれない。
いつも由美を馬鹿にするようなメールを送ってくるし、何か自慢しようものならその上を行く自慢をされ返す。ムカツク兄に他ならない。
双子で生まれたことを心底恨んでいたと言っても過言ではない。なにせ小さい頃天才の兄と比べに比べられた。容姿は双子だけあってよく似ていたから差はなかったが頭の出来が違いすぎた。
相手は中学から海外の大学に奨学金を受けて入学するような怪物なのだ。それを知らずに賢明に張り合ってきた幼稚園と小学校時代を返せと言いたい。
兄がいなくなってからの中学高校時代のなんと平和だったことか……
一般人の中に入れば由美も十分に優秀だった。友人も多く、部活に勉強に充実していた。
そう、それで由美は念願の大学に合格して…‥確か友人達とお祝いを……?? 
ん? それでどうしたんだろう? 兎に角そのお祝いに行くために家を出たところまでしか記憶にないのだ。そして、次に目覚めたら……ここはどこ? 状態だった。
そう、ここは由美の知らない世界で、知らない国で、知らない家で、知らない言葉で話す人々に囲まれていたのだ。赤ちゃんとして!!
これには参った。何が何だかわからない。
まぁ普通に考えれば生まれ変わったんだと思う。そして由美の人生は何らかのアクシデントで終了したと考えるべきだろう。ううう、折角勉強頑張ったのに……
それからは由美の人生燃え尽き症候群に陥った。なんというか、何も考えられないし、ある種のパニックの内に既に数ヶ月が経過してしまったくらいだ。
現状を把握するよりも行けなかった大学や会えなくなった両親、話せなくなった友人たちを思って一日を過ごした。そうしてやっと前世、そう由美の人生を前世と割り切ることが出来たのはつい最近だった。
そしてやっとこの新しい人生に向き合った。
ぼーっと過ごした数ヶ月殆ど流されるままにお世話されてきた。漸く周りを見渡して見るが、現代ではなさそうだった。何故なら服装がおかしい。メイドみたいな服を着ているのだ。まぁあの有名な不思議の国の〇〇○の黒服版というものだ。
そして、数ヶ月聞いて理解できるようになった言葉は明らかに聞いたことがないものだ。
もちろん世界中の言葉を知っているわけではないのでもしかしたらヨーロッパの片隅にメイド服を皆で着用する国があるのかも知れないが、兎に角日本ではない。
その上、まだここの言葉は話せないので日本語でいくら叫んでも赤ちゃん語にしか聞こえないみたい。
生まれて数ヶ月ぼーっと生きてきて不思議に思われなかった原因でもあるが、この赤ちゃんは体が弱い。生まれてから何度も高い熱に冒されている。何度か死にかけたようだし、今までは前世が恋しくて生きる気力もなかった。
やっと今になって私は考えるより生きることに重点を当てたと言っても過言ではない。
それからが大変だった。まずは今まで受け身だった食事を頑張って食べるようにした。といってもやっと離乳食くらいだけど。
ミルクがない国なのか、母乳をくれる人は全部で三人いて交代で飲ませてくれる。ええ、もう羞恥心は捨てましたよ。この生を生きるって決めたんだから! その時に重要なことにも気づいたけれど今は置いておくことにしよう。健康第一だ。
漸く体調も落ち着いて、自分の現状を確認できるようになった時、驚愕の事実に気づいてしまったのだ。いや、気付かされた。
ずっと寝かされていた病室のような部屋から抱っこされて移動したのは豪華絢爛な部屋。
何というかベルサイユ宮殿みたいだ。やっぱりヨーロッパのどこか?
うわー、薔薇の壁紙って初めて見た。家具も全部猫足だぁ。北欧かな?
あまりに凄すぎてキョロキョロしている私に私を抱っこしていた女性(メイドさん?)が優しくある一点を指差して教えてくれた。生きる気力とやる気を削ぎ落とすような言葉だった。
「さぁ、姫様。あちらにいらっしゃるのが姫様の双子の弟様ですよー」
もう、驚愕したね。また、双子ですか? 呪われてるわ。マジで。
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