上 下
64 / 65
記念SS

もう我慢できない

しおりを挟む
文庫版発売記念SS

ちょっとびっくりな番外編を書き下ろしてますのでよろしくお願いします
===================

カイルはいつものガゼボで婚約者であるアリシアを眩しそうに見つめている。

色々あった事件も解決し、問題となったエミリアやフレトケヒト男爵はその罪を償っている。そんな中カイル達は再び学校に戻り日常に戻りつつあった。アリシアの周りには今までエミリアと一緒になって彼女を批判していた者たちがひっきりなしにやってきて謝罪している。そんな中でもアリシアは笑顔でその者達を許してしまっているらしい。

更にお友達が増えたと喜んでしまう始末なのだ。カイルは持っていたティーカップをギュッと握りしめる。

「君は優しすぎるよ」

カイルの呟きは耳の良いアリシアには聞こえてしまったようだ。

「カイル? どうしたの?」

少し首を傾げたアリシアの美しさにカイルは息を呑んだ。今まではエミリアの心無い噂で隠れていたアリシアの素晴らしさが学校内に広まるのは時間の問題だろう。

「アリシア、これからは謝罪に来た者を許す必要はないよ」

カイルの心は複雑だ。アリシアにはこのままでいて欲しいけれど、彼女に付け入る隙きは作ってほしくない。何よりアリシアの素晴らしさは自分だけが知っていればいいのだ。

「でも、エミリアさんだって前世の記憶に翻弄されていただけみたいだし、その彼女に先導されてしまった方々なんだもの。しようがないわ」

そういってため息を吐いたアリシアは天女のごとく慈悲深い。

ああ、その笑顔は誰にも見せないでほしい!

カイルはカップをテーブルに置くとその手を伸ばして目の前に座るアリシアのそのほっそりとした手に重ねる。

「カイル?」

突然手を触れられてアリシアは少しだけ戸惑いを感じているようだ。普段は盲目のアリシアを驚かせないように体に触れるときは前もって声をかけいるのた。

カイルは何も言わずに立ち上がるとアリシアの手を引いて彼女も椅子から立たせた。

「カイル? 何かあったの? 雨でも振りそう?」

完全に安心しきってカイルに手を引かれるままに立ち上がったアリシアはそのままカイルの腕に体を寄せる。

カイルはその様子に自分が今イライラしている原因は不特定多数の自称友人達に嫉妬しているのだと自覚する。

僕だけのアリシアだったのに。今は皆に知られてしまった。婚約者という立場だけではなんとも心もとない。いつか君の素晴らしさに皆が引き寄せられるかもしれない……

「もうその時は我慢できない」

「え?」

「その時は君を閉じ込めて僕だけのアリシアに戻してしまいたい!!」

アリシアは漸くカイルの様子がおかしいことに気がついた。

「カイル? どうしたの? 何かあったの? 大丈夫?」

アリシアは手を伸ばしてカイルの頬に触れる。これがアリシアにとって他人表情を知る手段だとは分かっていても今のカイルにはどうしようもない。

「アリシア!!」

カイルはグイッとアリシアを抱き寄せるとそのほっそりとした体を何者からも隠すように抱きすくめる。

「カイル、何かあったのなら話して」

カイルの胸に押し付けられながらもアリシアの優しい声が耳朶に響く。

「アリシア、僕は君が大好きなんだ。誰にも取られたくないし、誰にも見せたくないくらい好きなんだよ」

するとアリシアの柔らかな笑い声に包まれる。

「アリシア?」

「ふふふ、カイルも私と一緒ね。私だって王都でカイルの噂話を聞いたときはとても悲しかったし、心配だったもの。私だけのカイルじゃないんだって。私だけが取り残された気分だったのよ」

「そうなのかい?」

「ええ、私達は同じこと考えているのね」

そう言ってにっこりと微笑んたアリシアは今まで見た中でも飛び抜けて美しかった。

「私だってカイルが、あの、その……女の子に囲まれていたら……嫌だわ」

そう言って顔を真っ赤にして俯いた彼女の可愛らしさは凶悪なほどだ。

「ああああぁ。アリシア……はぁ。もう……僕は……」

「ん? カイル?」

「我慢できないよ!!」

カイルはそう叫ぶとまだ見ぬアリシアの崇拝者達から隠すように強く抱きしめた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

断罪されているのは私の妻なんですが?

すずまる
恋愛
 仕事の都合もあり王家のパーティーに遅れて会場入りすると何やら第一王子殿下が群衆の中の1人を指差し叫んでいた。 「貴様の様に地味なくせに身分とプライドだけは高い女は王太子である俺の婚約者に相応しくない!俺にはこのジャスミンの様に可憐で美しい女性こそが似合うのだ!しかも貴様はジャスミンの美貌に嫉妬して彼女を虐めていたと聞いている!貴様との婚約などこの場で破棄してくれるわ!」  ん?第一王子殿下に婚約者なんていたか?  そう思い指さされていた女性を見ると⋯⋯? *-=-*-=-*-=-*-=-* 本編は1話完結です‪(꒪ㅂ꒪)‬ …が、設定ゆるゆる過ぎたと反省したのでちょっと色付けを鋭意執筆中(; ̄∀ ̄)スミマセン

三年目の離縁、「白い結婚」を申し立てます! 幼な妻のたった一度の反撃

紫月 由良
恋愛
【書籍化】5月30日発行されました。イラストは天城望先生です。 【本編】十三歳で政略のために婚姻を結んだエミリアは、夫に顧みられない日々を過ごす。夫の好みは肉感的で色香漂う大人の女性。子供のエミリアはお呼びではなかった。ある日、参加した夜会で、夫が愛人に対して、妻を襲わせた上でそれを浮気とし家から追い出すと、楽しそうに言ってるのを聞いてしまう。エミリアは孤児院への慰問や教会への寄付で培った人脈を味方に、婚姻無効を申し立て、夫の非を詳らかにする。従順(見かけだけ)妻の、夫への最初で最後の反撃に出る。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜

白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。 舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。 王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。 「ヒナコのノートを汚したな!」 「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。