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番外編
アンネマリーの運命19
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アンネマリーの頭の中はパニックに陥っていた。ほんの数時間前この目の前で自分を見つめるスティーブンから頬を叩かれたのだ。
確かに痛かったし、生まれて初めて叩かれた。しかし、同時に目が覚めた思いだった。
その後ハロルドから聞いた話で、スティーブンの優しさや真っ直ぐさに気付いて自分の投げやりな気持ちが恥ずかしくなるほどだった。
これからはスティーブンとも仲良くしようと思ってはいた。
思っていたが、突然プロポーズを受けるほどではない!
もちろんスティーブンの気持ちは嬉しいし、やっと自分に価値を見出せそうではある。
しかし、プロポーズを受けるには早すぎる。
「あの……」
「ああ、これを……」
そう言ってスティーブンは懐から小さな花束を取り出して前に差し出した。
「す、好きです」
「は、はい?」
震える花束を見つめてアンネマリーはため息を吐いた。
もう、どうしようもない。
こんなに真っ直ぐに気持ちをぶつけられては逃げる事は出来ない。
そして、プルプルと震える花束を真底嬉しいと感じる自分がいる。
「わたくしでいいのですか?」
「君がいいんだよ」
スティーブンの心のこもった言葉にアンネマリーの瞳から涙が溢れる。
「わたくし……」
「ああ、泣かないでくれ。やはり、叩いことは許してもらえないか……」
アンネマリーの涙を見てスティーブンがガックリと肩を落とした。
「い、いえ、そうではありませんの。確かに叩かれたのはびっくりしました。でも、わたくしも悪かったと今では理解しております。わたくしが泣いてしまったのは……嬉しくて……ですわ」
「そうだよな。やはり叩くような男は君には相応しくないよな……え? 嬉しいだって」
「はい」
そういってアンネマリーはにっこりとそれはもう久しぶりに心からの笑顔を見せた。
「あ……うっ……そ、そうだ。き、君に何かを」
「わたくしはこのお花をいただければ嬉しいですわ」
「いや、そんなものでは……記念になるものを……」
顔を真っ赤にしたスティーブンがパタパタも服の上から何か持っていないかを確認した。それでも記念になるようなものはないようだった。
「あああ! あれがいい」
何かを思いついたスティーブンはアンネマリーの前に跪くとその手をとった。
「我、スティーブン・ホースタインは騎士の誓いをアンネマリー・カタナリオに捧げる」
突然始まった騎士の誓いにアンネマリーは悲鳴を上げた。
「や、やめてください!! それはわたくしではなく王太子殿下に!!」
アンネマリーが何度言ってもスティーブンはアンネマリーの手を掴んだまま動かなかった。
「スティーブン様、そんなことをしていただかなくても大丈夫ですわ。だから本当にお辞めになって!」
それでも、スティーブンは誓いの体勢を崩そうとしなかった。
「スティーブン様!!」
「…………」
沈黙が続く。
とうとう周りがガヤガヤと騒ぎ出してくる。
「殿下にはきちんと説明する。大丈夫だ」
「そ、それでも!!! 今は受けられませんわ!!!」
そう叫ぶとアンネマリーはガタッと立ち上がって部屋から走り去ってしまった。外からガヤガヤする声が聞こえたがそれよりもスティーブンは跪いたままだ。
「あ、あの……せんぱい?」
ある意味一番近くて見ていたのはアンネマリーの隣にいたハロルドだ。
「先輩……大丈夫ですか? 大丈夫なわけないか……。あれは不味いですよ。突然のプロポーズだけでもびっくりなのに騎士の誓いまで……。何考えてるんですか?」
はぁというため息と共にハロルドは憐れみの目でスティーブンを見つめた。
「に、逃げ、逃げられてしまった」
ようやく跪いた体制からハロルドの向かいの席に腰を下ろした。
そして、そのまま頭を抱える。
「先輩……」
ハロルドがスティーブンの肩に手を置こうとした時、すぐ後ろから学校長の声が響いた。
「スティーブン・ホースタイン! 説明を!」
その厳しい声にスティーブンは顔を上げてここが学校長室であることを思い出す。
のろりと立ち上がると学校長が座る机の前に立った。
「お騒がせして申し訳ありません。状況は……見ての通りです。プロポーズしたのにフラれた哀れな男がいるだけです」
「…………」
流石の学校長も何と言えなくなり、一言だけ呟いた。
「……皆、下がりなさい」
その言葉を合図に学校長室に集まっていた野次馬がいなくなった。
ハロルドは未だにソファから立ち上がらないスティーブンの腕を引っ張って立たせると肩を貸してなんとか学校長室から退室した。
その時に見た学校長の苦み走った顔は一生忘れられそうもなかった。
「先輩、とにかく寮の部屋まで送ります」
ハロルドは呆然としてあるスティーブンを引きずるようにして寮に戻ったのだった。
確かに痛かったし、生まれて初めて叩かれた。しかし、同時に目が覚めた思いだった。
その後ハロルドから聞いた話で、スティーブンの優しさや真っ直ぐさに気付いて自分の投げやりな気持ちが恥ずかしくなるほどだった。
これからはスティーブンとも仲良くしようと思ってはいた。
思っていたが、突然プロポーズを受けるほどではない!
もちろんスティーブンの気持ちは嬉しいし、やっと自分に価値を見出せそうではある。
しかし、プロポーズを受けるには早すぎる。
「あの……」
「ああ、これを……」
そう言ってスティーブンは懐から小さな花束を取り出して前に差し出した。
「す、好きです」
「は、はい?」
震える花束を見つめてアンネマリーはため息を吐いた。
もう、どうしようもない。
こんなに真っ直ぐに気持ちをぶつけられては逃げる事は出来ない。
そして、プルプルと震える花束を真底嬉しいと感じる自分がいる。
「わたくしでいいのですか?」
「君がいいんだよ」
スティーブンの心のこもった言葉にアンネマリーの瞳から涙が溢れる。
「わたくし……」
「ああ、泣かないでくれ。やはり、叩いことは許してもらえないか……」
アンネマリーの涙を見てスティーブンがガックリと肩を落とした。
「い、いえ、そうではありませんの。確かに叩かれたのはびっくりしました。でも、わたくしも悪かったと今では理解しております。わたくしが泣いてしまったのは……嬉しくて……ですわ」
「そうだよな。やはり叩くような男は君には相応しくないよな……え? 嬉しいだって」
「はい」
そういってアンネマリーはにっこりとそれはもう久しぶりに心からの笑顔を見せた。
「あ……うっ……そ、そうだ。き、君に何かを」
「わたくしはこのお花をいただければ嬉しいですわ」
「いや、そんなものでは……記念になるものを……」
顔を真っ赤にしたスティーブンがパタパタも服の上から何か持っていないかを確認した。それでも記念になるようなものはないようだった。
「あああ! あれがいい」
何かを思いついたスティーブンはアンネマリーの前に跪くとその手をとった。
「我、スティーブン・ホースタインは騎士の誓いをアンネマリー・カタナリオに捧げる」
突然始まった騎士の誓いにアンネマリーは悲鳴を上げた。
「や、やめてください!! それはわたくしではなく王太子殿下に!!」
アンネマリーが何度言ってもスティーブンはアンネマリーの手を掴んだまま動かなかった。
「スティーブン様、そんなことをしていただかなくても大丈夫ですわ。だから本当にお辞めになって!」
それでも、スティーブンは誓いの体勢を崩そうとしなかった。
「スティーブン様!!」
「…………」
沈黙が続く。
とうとう周りがガヤガヤと騒ぎ出してくる。
「殿下にはきちんと説明する。大丈夫だ」
「そ、それでも!!! 今は受けられませんわ!!!」
そう叫ぶとアンネマリーはガタッと立ち上がって部屋から走り去ってしまった。外からガヤガヤする声が聞こえたがそれよりもスティーブンは跪いたままだ。
「あ、あの……せんぱい?」
ある意味一番近くて見ていたのはアンネマリーの隣にいたハロルドだ。
「先輩……大丈夫ですか? 大丈夫なわけないか……。あれは不味いですよ。突然のプロポーズだけでもびっくりなのに騎士の誓いまで……。何考えてるんですか?」
はぁというため息と共にハロルドは憐れみの目でスティーブンを見つめた。
「に、逃げ、逃げられてしまった」
ようやく跪いた体制からハロルドの向かいの席に腰を下ろした。
そして、そのまま頭を抱える。
「先輩……」
ハロルドがスティーブンの肩に手を置こうとした時、すぐ後ろから学校長の声が響いた。
「スティーブン・ホースタイン! 説明を!」
その厳しい声にスティーブンは顔を上げてここが学校長室であることを思い出す。
のろりと立ち上がると学校長が座る机の前に立った。
「お騒がせして申し訳ありません。状況は……見ての通りです。プロポーズしたのにフラれた哀れな男がいるだけです」
「…………」
流石の学校長も何と言えなくなり、一言だけ呟いた。
「……皆、下がりなさい」
その言葉を合図に学校長室に集まっていた野次馬がいなくなった。
ハロルドは未だにソファから立ち上がらないスティーブンの腕を引っ張って立たせると肩を貸してなんとか学校長室から退室した。
その時に見た学校長の苦み走った顔は一生忘れられそうもなかった。
「先輩、とにかく寮の部屋まで送ります」
ハロルドは呆然としてあるスティーブンを引きずるようにして寮に戻ったのだった。
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