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番外編
アンネマリーの運命18
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アンネマリーは学校に戻ってから説明に追われていた。
もちろんハロルドも一緒だったのだが、彼はこういうことには向いていない。
「はーーーー」
アンネマリーは大きく深呼吸をして最後の説明となるはずの学校長室のドアをノックした。
「アンネマリー・カタナリオとハロルド・マクスターです」
「入りなさい」
アンネマリーは「失礼します」といってその重厚な扉を開いた。
「よく来ましたね。アンネマリーさん、マクスターさん」
学校長は机に肘をついて手を組みながら厳しい表情で出迎えた。
ハロルドはその雰囲気に呑まれてアンネマリーの背後に隠れ小さくなっている。
その様子にため息を吐きながらアンネマリーは話し始めた。
「学校長、お騒がせして申し訳ありません。早速ですが、今日のことを説明いたします」
すると学校長は立ち上がると二人をソファに座るように促した。
「ああ、説明は結構ですよ。すでにお二人から連絡を頂いています」
「え? お二人とは……?」
「王太子殿下とホースタイン公爵家からです」
「殿下とホースタイン様からですか?」
「ええ、今日は大変な一日でしたね。本来ならば表彰されるべき行動です。ただ、残念なことに箝口令が引かれてしまい貴女を褒めることはできません」
「はい、承知しております」
「ただ、ホースタイン公爵家から騒ぎが収まるまでここで休ませて欲しいと言われているのです」
「まぁ!」
「暫くはこの騒ぎの渦中になるでしょうが……」
そう言って学校長はドアの方に視線を、投げた。
ドアの向こうからはガヤガヤとした声が聞こえる。未だに誰かが待っていてアンネマリーに、事情を聞こうとしているのが伺える。
「はい、覚悟しております」
決意を新たにアンネマリーは頷いた。
「ここでは皆が新しい話題に飢えているのです。王太子殿下やスティーブンさん、更にはあなた方のような有名人が絡むと歯止めが効かないのかもしれません」
学校長は申し訳なさそうに話す。アンネマリーは学校長が用意してくれたお茶を一口頂くと頷いた。
「わかっております」
「まぁ、スティーブンさんがきっと上手く……」
その時、ドアがバァンという音と共に豪快に開かれた。
「何事です! 学校長室ですよ!」
学校長が立ち上がってドアを見つめると、そこには血相を変えてスティーブンが立っていた。
「スティーブンさんともあろう方が!」
するとスティーブンはアンネマリーを見つめながら学校長へ頭を下げた。
「学校長、失礼は重々承知の上です。それでも僕は彼女に話があるのです。お叱りは後程受けますので、失礼します」
そう言ってスティーブンはアンネマリーを見つめたままズカズカと部屋に入ってきてアンネマリーが呆然としているソファの前に立った。
「ス、スティーブン様……」
スティーブンは無言のまま膝をついてアンネマリーに首を垂れた。
「アンネマリー、本当に申し訳なかった。僕の顔も見たくないかもしれないが、馬鹿な僕もようやく気がついたんだ」
「はい?」
「アンネマリー、君を愛していることに!」
「え?」
スティーブンはアンネマリーの手を取ってその手を自分の額に当てた。
「アンネマリー、僕がどうしようもなく怒ってしまったのは君の身の安全を守れなかったことに対してだ。僕は君に怒りをぶつけるのではなく、君自身からも君を守ることを誓うべきだった」
「えっと、お待ちください。スティーブン様」
「そして、僕は気づいてしまった。なぜ僕が君の身をここまで案じてしまうのか! 漸くわかったんだよ!」
「は、はい」
突然の展開についていけないアンネマリーはただただ頷くばかりだった。
「僕は君を愛している。だからこそ、君を守りたいし、君の身が愛しいんだ」
「え?」
「結婚して欲しい」
そう言ってスティーブンはアンネマリーの手の甲にキスを落とした。そして、そのまま顔を上げてしっかりとアンネマリーの瞳を見つめた。
アンネマリーはスティーブンの真剣な眼差しに息を止めた。
「で、でも、わたくしは……」
「いいんだ。何も心配することはない。僕は君自身が欲しい。君との将来が欲しい。ただ、それだけだ」
「でも……」
「跡取りは気にする必要はない。キャロラインもいるし、どうにかなるだろう。まだ見ぬ誰かより僕は君を、目の前にいる君を大切にしたいんだ」
そういうとスティーブンはアンネマリーの返事を待つように沈黙したのだった。
もちろんハロルドも一緒だったのだが、彼はこういうことには向いていない。
「はーーーー」
アンネマリーは大きく深呼吸をして最後の説明となるはずの学校長室のドアをノックした。
「アンネマリー・カタナリオとハロルド・マクスターです」
「入りなさい」
アンネマリーは「失礼します」といってその重厚な扉を開いた。
「よく来ましたね。アンネマリーさん、マクスターさん」
学校長は机に肘をついて手を組みながら厳しい表情で出迎えた。
ハロルドはその雰囲気に呑まれてアンネマリーの背後に隠れ小さくなっている。
その様子にため息を吐きながらアンネマリーは話し始めた。
「学校長、お騒がせして申し訳ありません。早速ですが、今日のことを説明いたします」
すると学校長は立ち上がると二人をソファに座るように促した。
「ああ、説明は結構ですよ。すでにお二人から連絡を頂いています」
「え? お二人とは……?」
「王太子殿下とホースタイン公爵家からです」
「殿下とホースタイン様からですか?」
「ええ、今日は大変な一日でしたね。本来ならば表彰されるべき行動です。ただ、残念なことに箝口令が引かれてしまい貴女を褒めることはできません」
「はい、承知しております」
「ただ、ホースタイン公爵家から騒ぎが収まるまでここで休ませて欲しいと言われているのです」
「まぁ!」
「暫くはこの騒ぎの渦中になるでしょうが……」
そう言って学校長はドアの方に視線を、投げた。
ドアの向こうからはガヤガヤとした声が聞こえる。未だに誰かが待っていてアンネマリーに、事情を聞こうとしているのが伺える。
「はい、覚悟しております」
決意を新たにアンネマリーは頷いた。
「ここでは皆が新しい話題に飢えているのです。王太子殿下やスティーブンさん、更にはあなた方のような有名人が絡むと歯止めが効かないのかもしれません」
学校長は申し訳なさそうに話す。アンネマリーは学校長が用意してくれたお茶を一口頂くと頷いた。
「わかっております」
「まぁ、スティーブンさんがきっと上手く……」
その時、ドアがバァンという音と共に豪快に開かれた。
「何事です! 学校長室ですよ!」
学校長が立ち上がってドアを見つめると、そこには血相を変えてスティーブンが立っていた。
「スティーブンさんともあろう方が!」
するとスティーブンはアンネマリーを見つめながら学校長へ頭を下げた。
「学校長、失礼は重々承知の上です。それでも僕は彼女に話があるのです。お叱りは後程受けますので、失礼します」
そう言ってスティーブンはアンネマリーを見つめたままズカズカと部屋に入ってきてアンネマリーが呆然としているソファの前に立った。
「ス、スティーブン様……」
スティーブンは無言のまま膝をついてアンネマリーに首を垂れた。
「アンネマリー、本当に申し訳なかった。僕の顔も見たくないかもしれないが、馬鹿な僕もようやく気がついたんだ」
「はい?」
「アンネマリー、君を愛していることに!」
「え?」
スティーブンはアンネマリーの手を取ってその手を自分の額に当てた。
「アンネマリー、僕がどうしようもなく怒ってしまったのは君の身の安全を守れなかったことに対してだ。僕は君に怒りをぶつけるのではなく、君自身からも君を守ることを誓うべきだった」
「えっと、お待ちください。スティーブン様」
「そして、僕は気づいてしまった。なぜ僕が君の身をここまで案じてしまうのか! 漸くわかったんだよ!」
「は、はい」
突然の展開についていけないアンネマリーはただただ頷くばかりだった。
「僕は君を愛している。だからこそ、君を守りたいし、君の身が愛しいんだ」
「え?」
「結婚して欲しい」
そう言ってスティーブンはアンネマリーの手の甲にキスを落とした。そして、そのまま顔を上げてしっかりとアンネマリーの瞳を見つめた。
アンネマリーはスティーブンの真剣な眼差しに息を止めた。
「で、でも、わたくしは……」
「いいんだ。何も心配することはない。僕は君自身が欲しい。君との将来が欲しい。ただ、それだけだ」
「でも……」
「跡取りは気にする必要はない。キャロラインもいるし、どうにかなるだろう。まだ見ぬ誰かより僕は君を、目の前にいる君を大切にしたいんだ」
そういうとスティーブンはアンネマリーの返事を待つように沈黙したのだった。
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