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番外編

アンネマリーの運命15

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「ん……」
アンネマリーはまだ少しクラクラする頭を手で押さえると目が覚めた。
「目覚めたかい?」
目を開けると目の前にはスティーブンの顔がある。
「え? ス、スティーブン様!!」
「おはよう。アンネマリー」
それでやっとアンネマリーは今までのことを思い出した。
そして、ゆっくりと起き上がる。
そんなアンネマリーの背に手を添えてスティーブンが心配気に話しかける。
「どうだい? 気分は良くなったかい?」
「はい、申し訳ありません」
「いや、いいんだ。君に無理をさせたのは僕の方だ」
「そんなことはございませんわ」
「君が魔力の制御が難しいことは知っていたのに馬の操作を任せてしまった。それで君の魔力が枯渇して倒れたのだろう? 僕の責任だ」
「そんなことは……。あっそういえばマクスター様はどちらに?」
「ああ、ハロルドは馬を調整しているよ」
アンネマリーそう言われて馬の方を確認すると確かにハロルドが何かをガチャガチャいじっているのが見えた。
「追手は、マクスター様は大丈夫なのですか?」
「ああ、何とかなりそうだ。それよりも君だよ」
するとスティーブンが眉を上げてアンネマリーを見つめる。その顔は久しぶりに見る不機嫌なスティーブンだった。
「わたくし……ですか?」
「ああ、そうだ。いくらエレオノーラ様を助けるためとはいえ、一人で暴漢に立ち向かうのはどうかと思う。もう少し僕達の到着が遅かったら君は暴漢に襲われていた」
「で、でも、スティーブン様は来てくれたじゃありませんか」
「たまたまだ。ハロルドが馬を作ってなかったら場所がわかっても間に合わなかった。君は無謀すぎる」
「でも、エレオノーラ様は次期王妃様です!!」
「それでも、君は自分の身も大切にすべきだ」
スティーブンに冷たく反論されるとアンネマリーは自らの拳を握りしめる。
「それでも、わたくしができることはこれくらいなのです!!」
「そんなことは、ないだろう?」
「いいえ! 貴方はご存知なのでしょう? わたくしは体が弱いのです。王太子殿下が望むような王妃様の側近にはなれません。子も望めないかもしれません。嫁ぐことさえ難しいのです。そんなわたくしがエレオノーラ様をお守り出来るのなら本望ですわ」
バシッ
「イタ」
アンネマリーは叩かれた頬に、手を添えた。
「君は君自身の価値がわかっていない。叩いたことは謝罪しない」
スティーブンはそれだけいうとその場から離れてハロルドに何か言ってからその場から立ち去ってしまった。
アンネマリーは立ち去るスティーブンの背中を見つめていた。

「あの、アンネマリー様」
ハロルドが遠慮がちに聞いて来た。
「……はい」
「馬が動くようになりました。学校までお送りします」
「スティーブン様は……」
「ああ、大丈夫です。もう結構学校に近いんです。一時間も歩けば着くはずですから」
「では、わたくしも歩きます」
「そ、それはいけません。先輩にも頼まれましたし。お送りします」
ハロルドはそう言ってアンネマリーを馬まで案内すると座らせた。
「ゆっくり行きますね」
「ありがとうございます」
ゆっくりと浮き上がる馬に乗りながらアンネマリーは、スティーブンのことを考えていた。

わたくしの価値。

アンネマリーは自分が嫌いだった。いつ倒れるかドキドキしながら生活している。
両親には秘密にしているが、嫁ぐつもりはなかった。先程口走ってしまった通り子供は出来ないだろう。そんなアンネマリーを妻に欲しがる貴族など居るはずがない。
仕事をしたくてもそれも無理だ。
そんな自分に価値など見出せない。
「あのーーアンネマリー様」
馬を操作しながらハロルドが話しかけてきた。
「はい。なんでしょう。マクスター様」
「僕もさっきのはダメだと思います」
「さっきの?」
「自分なんか……です」
「でも、わたくしは本当に……」
「僕も自分なんかだったんです」
「え?」
「ほら? 僕は天才なんです」
「そうですわね」
「だから、自分なんかが自由を求めちゃダメだと思ってました。どんなに逃げてもいつか捕まると」
「魔法研究所にですか?」
「はい」
「でも、先輩は、僕のために真剣に考えてくれました。僕なんかのために」
「でも、それはマクスター様が大切な方だからですわ」
「それなら! それなら、アンネマリー様だってです!」
「え?」
驚くアンネマリーにハロルドはスティーブンのことを話した。アンネマリーのために防御魔法を完璧にする目的を持ってハロルドの元に通ったこと。二人で有効な設定を模索したこと。効果的に上書きする方法を練習したこと。
「先輩はアンネマリー様を守るために必死でしたよ。そんな必死に守ろうとしていた人が自分を大切にしていなかったら……僕も怒りますから」
アンネマリーは、馬に揺られながらまだ少し痛む頬を押さえた。
「そんなことが……」
「だから、僕達は僕もアンネマリー様も先輩が大切にしてくれる自分を大切にすべきなんじゃないかと思うんです」
そう言ったハロルドの顔は希望に満ちていた。
アンネマリーはその顔を、羨望の眼差しで見つめていたのだった。
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