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番外編
アンネマリーの運命9
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「まぁ、美味しいですわ。ね? ヘンリー様」
お茶とお菓子を楽しみながらキャロラインはヘンリーに話しかける。
「ああ、本当だ。これはキャロライン嬢が好きなお菓子だね。取ってあげよう」
ヘンリーも満更ではない様子でキャロラインの世話を焼いている。
「あのお二人は既に恋愛状態ではないのですか?」
アンネマリーは横にいるスティーブンに小声で話しかける。
「残念ながらヘンリーは未だにキャロラインを小さな妹だと思っていてね。幼馴染というのはこういう時に厄介なんだよ」
「妹ですか?」
「ああ、しかもヘンリーの中ではキャロラインは三歳くらいのままだ」
確かにそう言われるとキャロラインのことはうんうんと頷いてにこにこ笑ってお菓子を取ってあげているところも兄と言われればそうなのかもしれない。
そして何よりキャロラインが残念そうなもどかしそうな顔をしているのだ。
「確かにそのようですわね」
「まぁ、もし君に幼馴染との恋についてのアドバイスがあればキャロラインに教えてやってくれ」
「はい」
四人でのお茶会は和やかな雰囲気に包まれていた。
アンネマリーは自分でもこんなに穏やかな時間が過ごせることにとても驚いた。ヘンリーは兎も角スティーブンは口を開けば嫌味ばかりと思っていたのだ。それが笑顔を浮かべて妹のキャロラインの話に相槌を打っている。
「……笑うのね」
「え?」
思わず呟いた言葉をキャロラインに聞き返されて口に手を添えた。
「あの……申し訳ありません。……スティーブン様が笑われているので……」
「お兄様……いったいどういうことですの? アンネマリー様に嫌われていますわよ」
「いえ、別に嫌っているわけでは……。ただ、スティーブン様はいつも不機嫌だと……」
アンネマリーが下を向いてしどろもどろに話すと妹に責められたスティーブンが弁解を始めた。
「笑わない? いや、そんなことはないはずだ。そうだな……。あまりにくだらないことを言われたら呆れて笑う。えっと、後はアンネマリー嬢が我が身を顧みずに危険なことをしていることを聞いた時も……」
「嘲笑ったんですか?」
絶妙なキャロラインのツッコミにはははと乾いた笑いをかえす。
「確かに話が合わないと笑顔にはならないな。申し訳ないがアンネマリー嬢とは話が合わないんだ」
「まぁ! どうしてですの? アンネマリー様はとてもお美しいですし、とても頭の良い方だと聞いておりますわ」
「まぁ、そうなんだがね」
スティーブンはそういうとアンネマリーの瞳をしっかりと合わせて話し出した。
「アンネマリー嬢、君は体が弱いのか?」
単刀直入に切り出したスティーブンの言葉にドキッとする。
「確かに体調が整わない事はあります」
「では、何故防御魔法をきちんと練習しないんだ?」
「防御魔法?」
「君は体が弱い。なのに何の策も講じていない。昨日のように倒れる可能性があるのならきちんと防御魔法を身につけるべきだ。それだけで危険は格段に減らせる」
「はぁ……」
するとスティーブンは徐に立ち上がりアンネマリーの前にやってきた。そして、手を差し出したのだ。
アンネマリーは首を傾げながらもその手を取ったその瞬間。体中を何かが駆け巡る。
「え?」
「最低でもこれくらいの防御魔法は練習するべきだ」
ホワッと何かに包まれる感覚と共に体中が隙間なく覆われたようだ。
「まぁ! お兄様、素晴らしいですわ」
「おい! スティーブン! いつの間にこんな……」
キャロラインとヘンリーからも驚きの声が上がる。それくらい完璧な防御魔法だった。
「これが……防御魔法……」
普段自分がかけている防御魔法とはあまりに違う。違いすぎる。
隙間がまったくないし、何というか分厚さが違う。
「そうだ。いいか? 最低でもこれくらいの防御魔法をかけるべきだ。最低でもだ」
「最低でも……」
「いや……これは僕でも……」
ヘンリーが声を上げるとスティーブンが睨みつけた。
「……お兄様」
「キャロラインも黙ってくれ。アンネマリー嬢、君は無鉄砲でお転婆だ。なのに体が弱い。これくらいは最低でも必要だと思う。もし、このレベルまでかけられないのなら、僕が毎朝かけに行く。いいね」
「え? 毎朝……」
「そうだ。君が寮から出たところでこの防御魔法を上掛けさせてもらう。僕は本気だ」
スティーブンはアンネマリーの手を握ったまま瞳を見つめた。
そのアメジストの瞳には強い意志が浮かんでいる。
後ろからヘンリーとキャロラインの話し声が聞こえて来た。
「スティーブン……おまえ」
「ヘンリー様、あの、もしかして、これ……」
「まぁ、そうだろうね。冷めた奴だと思っていたが、全く違ったよ」
「お兄様ったら。フフフ」
何故か二人で頷き合うヘンリー達に困惑した瞳でアンネマリーは助けを求める。
「キ、キャロライン様、ヘンリー様。あの……これは?」
「アンネマリー嬢、まあ、いいじゃないですか? これで貴女の身の安全は格段に上がりますよ」
「そうですわ! アンネマリー様ならわたくしも全く問題ございませんわ!」
「えっと……」
アンネマリーは助けてくれない二人から再びスティーブンに視線を戻す。
スティーブンは未だに手をしっかりと握ってアンネマリーを見つめていた。
アンネマリーは仕方なく頷いた。
「わ、わかりましたわ。よろしくお願いします。ただ、わたくしが防御魔法を練習する間だけ、ですわよ」
「ああ」
そういうとスティーブンはやっとアンネマリーの手を離した。
アンネマリーはスティーブンが掴んでいた場所を反対の手で掴むと胸の前に持ってきた。
「明日は何時だ?」
突然聞かれ、アンネマリーは明日の予定を確認してから答える。
「明日は一時間目からですわ」
「わかった」
スティーブンは頷くと席にも戻らずそのままテラスから立ち去ってしまった。
残された三人はフゥッと息を吐き出した。
「過激だなぁ。スティーブンはああなるのか」
「本当に、こんな情報はなかったのに……」
「ん? 情報?」
「いえ、何でもありませんわ。ヘンリー様。それより、アンネマリー様、兄が申し訳ございません」
「いえ、大丈夫ですわ。でも、スティーブン様は一体どうされたんでしょう?」
アンネマリーが首を傾げるとヘンリーとキャロラインはお互いの顔を見合わせてから頷いた。
「まぁ、これは二人の問題かな」
「そうですわね。ここはお兄様がきちんとしなくてはいけませんわ」
未だに腑に落ちないといつ顔をしているアンネマリーにお礼を述べるとヘンリーとキャロラインもその場を辞した。
一人になったアンネマリーは読めなさ過ぎるスティーブンの行動を考えて天を仰いだのだった。
お茶とお菓子を楽しみながらキャロラインはヘンリーに話しかける。
「ああ、本当だ。これはキャロライン嬢が好きなお菓子だね。取ってあげよう」
ヘンリーも満更ではない様子でキャロラインの世話を焼いている。
「あのお二人は既に恋愛状態ではないのですか?」
アンネマリーは横にいるスティーブンに小声で話しかける。
「残念ながらヘンリーは未だにキャロラインを小さな妹だと思っていてね。幼馴染というのはこういう時に厄介なんだよ」
「妹ですか?」
「ああ、しかもヘンリーの中ではキャロラインは三歳くらいのままだ」
確かにそう言われるとキャロラインのことはうんうんと頷いてにこにこ笑ってお菓子を取ってあげているところも兄と言われればそうなのかもしれない。
そして何よりキャロラインが残念そうなもどかしそうな顔をしているのだ。
「確かにそのようですわね」
「まぁ、もし君に幼馴染との恋についてのアドバイスがあればキャロラインに教えてやってくれ」
「はい」
四人でのお茶会は和やかな雰囲気に包まれていた。
アンネマリーは自分でもこんなに穏やかな時間が過ごせることにとても驚いた。ヘンリーは兎も角スティーブンは口を開けば嫌味ばかりと思っていたのだ。それが笑顔を浮かべて妹のキャロラインの話に相槌を打っている。
「……笑うのね」
「え?」
思わず呟いた言葉をキャロラインに聞き返されて口に手を添えた。
「あの……申し訳ありません。……スティーブン様が笑われているので……」
「お兄様……いったいどういうことですの? アンネマリー様に嫌われていますわよ」
「いえ、別に嫌っているわけでは……。ただ、スティーブン様はいつも不機嫌だと……」
アンネマリーが下を向いてしどろもどろに話すと妹に責められたスティーブンが弁解を始めた。
「笑わない? いや、そんなことはないはずだ。そうだな……。あまりにくだらないことを言われたら呆れて笑う。えっと、後はアンネマリー嬢が我が身を顧みずに危険なことをしていることを聞いた時も……」
「嘲笑ったんですか?」
絶妙なキャロラインのツッコミにはははと乾いた笑いをかえす。
「確かに話が合わないと笑顔にはならないな。申し訳ないがアンネマリー嬢とは話が合わないんだ」
「まぁ! どうしてですの? アンネマリー様はとてもお美しいですし、とても頭の良い方だと聞いておりますわ」
「まぁ、そうなんだがね」
スティーブンはそういうとアンネマリーの瞳をしっかりと合わせて話し出した。
「アンネマリー嬢、君は体が弱いのか?」
単刀直入に切り出したスティーブンの言葉にドキッとする。
「確かに体調が整わない事はあります」
「では、何故防御魔法をきちんと練習しないんだ?」
「防御魔法?」
「君は体が弱い。なのに何の策も講じていない。昨日のように倒れる可能性があるのならきちんと防御魔法を身につけるべきだ。それだけで危険は格段に減らせる」
「はぁ……」
するとスティーブンは徐に立ち上がりアンネマリーの前にやってきた。そして、手を差し出したのだ。
アンネマリーは首を傾げながらもその手を取ったその瞬間。体中を何かが駆け巡る。
「え?」
「最低でもこれくらいの防御魔法は練習するべきだ」
ホワッと何かに包まれる感覚と共に体中が隙間なく覆われたようだ。
「まぁ! お兄様、素晴らしいですわ」
「おい! スティーブン! いつの間にこんな……」
キャロラインとヘンリーからも驚きの声が上がる。それくらい完璧な防御魔法だった。
「これが……防御魔法……」
普段自分がかけている防御魔法とはあまりに違う。違いすぎる。
隙間がまったくないし、何というか分厚さが違う。
「そうだ。いいか? 最低でもこれくらいの防御魔法をかけるべきだ。最低でもだ」
「最低でも……」
「いや……これは僕でも……」
ヘンリーが声を上げるとスティーブンが睨みつけた。
「……お兄様」
「キャロラインも黙ってくれ。アンネマリー嬢、君は無鉄砲でお転婆だ。なのに体が弱い。これくらいは最低でも必要だと思う。もし、このレベルまでかけられないのなら、僕が毎朝かけに行く。いいね」
「え? 毎朝……」
「そうだ。君が寮から出たところでこの防御魔法を上掛けさせてもらう。僕は本気だ」
スティーブンはアンネマリーの手を握ったまま瞳を見つめた。
そのアメジストの瞳には強い意志が浮かんでいる。
後ろからヘンリーとキャロラインの話し声が聞こえて来た。
「スティーブン……おまえ」
「ヘンリー様、あの、もしかして、これ……」
「まぁ、そうだろうね。冷めた奴だと思っていたが、全く違ったよ」
「お兄様ったら。フフフ」
何故か二人で頷き合うヘンリー達に困惑した瞳でアンネマリーは助けを求める。
「キ、キャロライン様、ヘンリー様。あの……これは?」
「アンネマリー嬢、まあ、いいじゃないですか? これで貴女の身の安全は格段に上がりますよ」
「そうですわ! アンネマリー様ならわたくしも全く問題ございませんわ!」
「えっと……」
アンネマリーは助けてくれない二人から再びスティーブンに視線を戻す。
スティーブンは未だに手をしっかりと握ってアンネマリーを見つめていた。
アンネマリーは仕方なく頷いた。
「わ、わかりましたわ。よろしくお願いします。ただ、わたくしが防御魔法を練習する間だけ、ですわよ」
「ああ」
そういうとスティーブンはやっとアンネマリーの手を離した。
アンネマリーはスティーブンが掴んでいた場所を反対の手で掴むと胸の前に持ってきた。
「明日は何時だ?」
突然聞かれ、アンネマリーは明日の予定を確認してから答える。
「明日は一時間目からですわ」
「わかった」
スティーブンは頷くと席にも戻らずそのままテラスから立ち去ってしまった。
残された三人はフゥッと息を吐き出した。
「過激だなぁ。スティーブンはああなるのか」
「本当に、こんな情報はなかったのに……」
「ん? 情報?」
「いえ、何でもありませんわ。ヘンリー様。それより、アンネマリー様、兄が申し訳ございません」
「いえ、大丈夫ですわ。でも、スティーブン様は一体どうされたんでしょう?」
アンネマリーが首を傾げるとヘンリーとキャロラインはお互いの顔を見合わせてから頷いた。
「まぁ、これは二人の問題かな」
「そうですわね。ここはお兄様がきちんとしなくてはいけませんわ」
未だに腑に落ちないといつ顔をしているアンネマリーにお礼を述べるとヘンリーとキャロラインもその場を辞した。
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