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番外編

アンネマリーの運命6

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「成る程、マクスターは進路に悩んでいるのか……」
妹の話を聞いたスティーブンはカップを傾けながら考えていた。
キャロラインが言うには、ハロルド・マクスターのところには二年後の卒業を見据えて既に魔法研究所から声がかかっているのだ。
だが、ハロルドは魔法研究所には行きたくない。自由な研究が出来ないことを何より嫌っているのだ。
しかし、ハロルドの実家は学校に通える程裕福ではあるが貴族ではないため魔法研究所の申し出を断ることは難しい。
ハロルド自身も自分の研究は金がかかるし、場所も必要ということで悩んでいるらしい。
「有意義な話だね。でも、どうしてこんなことまで知っているんだ?」
ハロルドの実家の話まで把握している妹に不気味ささえ感じてしまう。
「だって、マクスターさんはヘンリー様の側近にしようと思っていたんですもの! でも、お兄様のお願いですから断腸の思いてお譲りしていますのよ」
「ありがとう。可愛い妹がいて僕は幸せだよ。で? お前はどうやってマクスターを落とす予定だったんだ?」
キャロラインは少し困った顔をした。
「それをわたくしも悩んでいましたの。彼はとても変わっているもの。卒業後は公爵家に連れてきてもと思っていたんですが、やはり魔法研究所に恨まれるのは得策ではございません。それに彼はもう既に四度も部屋を吹き飛ばしてますのよ」
そう言ってため息を吐いた。
「確かにな。我が公爵家としても魔法研究所との関係は壊したくないね。更に天才を囲うというのも外聞が良くない。でも、今のままだと確実に魔法研究所に絡みとられてしまう……か」
「はい! その通りです」
「良くわかったよ。ありがとう、キャロライン。後は僕の方で引き取るよ」
「お兄様」
キャロラインに見つめられたスティーブンは近くにいたボーイを呼び止めた。
「君! ヘンリー・アラカニールにこのメモを渡してくれないか?」
そう言ってスティーブンはサラサラと紙に何かを書くと手渡した。
「はい、かしこまりました」
ボーイが去った後、キャロラインの方を見て肩をすくめる。
「今ここにヘンリーがくるよ。僕が大事な話があると呼び出したんだ。でも、残念ながら別の用事が出来てしまった。キャロライン、悪いけどヘンリーに謝罪してお詫びにお茶をご馳走してもらえるかい?」
キャロラインは満面の笑顔になって頷いた。
「大切な用事では仕方がありませんわ。ヘンリー様には兄の不手際をお詫びしておきます」
「頼んだよ」
そう言ってスティーブンは席を立った。
我が妹ながら、怖い女性に好かれたものだな。ヘンリーは。
スティーブンは、心の中でヘンリーに謝ると自分はハロルド獲得に向けて動き始めたのだった。

しばらくするとヘンリーがカフェにやってきた。
キョロキョロしているヘンリーを見て、キャロラインは立ち上がると、軽く手を振った。
その顔は今までスティーブンと話していた時とはガラリと変わり、恋する乙女そのものだ。
キャロラインに気づいたヘンリーがやってきた。
「キャロライン嬢、ご機嫌よう。スティーブンを見なかったかい?」
「ヘンリー様、ご機嫌よう。それがお兄様は別のご用事が出来てしまったらしく……。先程行ってしまいましたの」
「え? そうなのかい? 全く人を呼び出しておいて。しょうがないなぁ」
「あの……ヘンリー様」
モジモジしたようにキャロラインが話しかけた。
「ん? どうしたんだい? キャロライン嬢」
ヘンリーにとってもキャロラインは可愛い幼なじみなのだ。
「お兄様が、その、ヘンリー様にお詫びにとお茶を……」
そう言ってキャロラインは恥ずかしそうにヘンリーにお茶をすすめた。
「そんな、キャロライン嬢が気にする必要はないよ。……ん、でも、そうだね。呼び出したのはスティーブンだからね。急ぐ必要はないか。キャロライン嬢、それではお言葉に甘えてお茶にお邪魔してもよろしいですか?」
ヘンリーはそう言って膝を折って手を胸に当て頭を下げた。
キャロラインはヘンリーのこういうとこころが大好きだった。
確かに昔から知っているから女性というよりも妹のように見られているのは知っている。それでも、きちんとレディとして、扱ってくれるのだ。
「はい! ヘンリー様、是非お座りください」
キャロラインは年相応の初々しさでヘンリーの申し出に頷いた。
そうして、二人は楽しい時間を過ごしたのだった。
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