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番外編

アンネマリーの運命4

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スティーブンは血相を変えて走ってくる生徒の肩を掴んだ。
丁度今先生に頼まれて資料を持って歩いていたのだ。
「おい! どうしたんだ?」
肩を掴まれた生徒は青い顔をして逆にスティーブンの胸倉を掴んだ。
「だ、だ、大変だ。た、た、た、倒れたんだ。俺は、そんな……」
焦って要領を得ない生徒に根気よく耳を傾ける。
「どうしたんだ? 何があった? 何か倒れたのか?」
「違う!! 人が!」
人と聞いてスティーブンは不測の事態が起こったのだと理解した。
王太子在学中に事件や事故は不味い。
「君はこれを教室にもっていってくれ! 倒れたのはあっちか?」
スティーブンは、もっていた資料を生徒に渡すと場所を確かめて走り出した。

果たしてその場所には女生徒が倒れているのが見えた。
しかも、最近よく目にしている女生徒だ。
「アンネマリー嬢!!!」
スティーブンは倒れているアンネマリーに駆け寄るとその体を抱き上げた。
ぐったりとしている体からは力が抜け、顔も真っ青だった。
倒れた拍子に怪我をしたのか擦り傷があちらこちらに見られる。
「チッ」
自分が何に怒っているのか、何故こんなに焦っているのか分からずにスティーブンは舌打ちした。
ただ、体はしっかりとアンネマリーを抱きしめて、なるべく早く、なるべく揺れないように医務室へ向かった。

バタン
「先生!!!!」
スティーブンは医務室に駆け込むと先生を呼んだ。
スティーブンの腕に抱かれてぐったりとしているアンネマリーを見て先生の顔色が変わる。
「どうしたんです!!」
「原因はわかりません。既に倒れていたので」
「とにかくこちらに寝かせてくだい」
スティーブンは先生に言われるままにアンネマリーをベットに降ろした。
改めて顔色を確認しても尋常じゃない青白さだった。
「っ、せ、先生」
「これは……アンネマリー嬢ですね」
「はい」
先生は倒れたのがアンネマリーだと確認すると何もせずに何かのファイルを確認し始めた。
「先生! 治療を! 治癒魔法をお願いします」
「スティーブン君、落ち着いて下さい。彼女は大丈夫です。彼女のことは入学時から説明を受けています。治癒魔法は使ってはいけないのです」
「え? どうしてですか?」
スティーブンの問いかけに先生は一瞬声を詰まらせた。
「……本来は個人のことは話さない方針なんですが、君が心配するのもよくわかりますので、事情を説明しましょう。確かに通常は私も治癒魔法を使います。しかし、彼女、アンネマリー嬢は違うのです。生まれつき血流と魔力の流れのバランスが悪く、そこに治癒魔法を掛けると更にそのバランスを乱してしまうそうなんです。学内で倒れたときは何もせずに寝かせるように申し送りがしてあります」
「え? そんな……」
いつも元気に動き回っている印象のアンネマリーが病気なのかと顔を顰める。
「ああ、でも、病気とかではないんです。それがこの症状の厄介なところです。いつも元気なんです。ただ、時々倒れる。そして、最大の難点は治癒魔法を使えないということですね。私も心配していたんです。もし大きな怪我をした場合どうするべきなのか……。専門家でも意見が分かれるところです」
スティーブンは未だに青白い顔で意識を失っているアンネマリーに視線を落として、先生の言ったことを反芻する。
(一体どういうことなんだ! 治癒魔法を使えない体だと! そんな! そんな体で暴力に訴えそうな奴らに注意してたのか!)
「馬鹿……だな」
ポツリとスティーブンはつぶやいた。そして、今度はアンネマリーの防御魔法を確認する。防御魔法とは一日で効果が切れる魔法で毎日自分でかけることが必要となる魔法だ。
だがしかし、スティーブンが確認したところ、アンネマリーの防御魔法はいささか心許ないものだった。
「先生、防御魔法もかけない方が良いんですか? あまり強くかけていないようです」
「防御魔法ですか……。確かに倒れただけにしては擦り傷が多いですね。ああ、本当だ。あまり上手ではないんですね。でも、この症状はあくまで体内の問題なので、体の表面を包む防御魔法を掛けるのは問題ないはずですよ」
「成る程、わかりました。ありがとうございます」
スティーブンはそう言うとアンネマリーのぐったりとした手を取った。
そして、スティーブンの防御魔法でアンネマリーを包み込んだ。
「……すごい」
後ろで先生が感嘆の声を出す程の防御魔法だが、スティーブンは自分の防御魔法が完璧ではないことを知っていた。
「先生、彼女をお願いします」
「え? スティーブン君」
スティーブンは拳を握りしめて医務室を後にした。目指すは学校始まって以来の天才のところだった。
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