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番外編
アンネマリーの運命3
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「お嬢様、大丈夫でございますか?」
朝ベッドから起きられずぐったりしていると侍女が心配そうに話しかけてきた。
「目眩がするの……。今日はもう少し休んでいるわ」
「かしこまりました。学校はどうなさいますか?」
「遅刻していくしかなさそうね。今日はダメな日だわ……」
アンネマリーが弱々しく返事を返すとそのまま目を閉じた。
普段が元気なのであまり知られていないがアンネマリーは体が弱かった。
病気というわけではないが、治癒魔法師によると血の巡りと魔力の巡りのバランスが悪いらしい。
だから、そのバランスによって体調が良い日と悪い日でかなりの差が生まれてしまう。
アンネマリーは目を開けるとベッドの天蓋を見つめた。
幼い頃から見飽きた景色。魔力が今よりも安定しない子供の頃はよくこうやって寝込んでいた。
今でこそバランスが崩れる前兆がわかるようになってきたので、倒れる前に休んだり出来るのだ。
アンネマリーは今王太子が生徒をふるいに掛けているのは知っていた。しかも自分をエレオノーラ様の側近候補と考えてくれていることも知っている。
ヘンリーがそのことも踏まえて彼らへの注意を止めてくれたと理解しているが、アンネマリーには無理なのだ。
いつどこで体調が悪くなるのかわからない。そんな人間は王妃様の近くにいない方がいい。それよりも使える人間を増やす方が遥かに有意義なことだと考えていた。彼らの中には魔法で秀でている者もいる。今行動を改めればふるいに残れるのだ。
アンネマリーは信念をもって行動していた。
本来ならば王太子達に自分の体調を話せばいいのかもしれないが、それは両親から止められている。王妃にはなれなくとも一般的な貴族との結婚には差し支えないと考えられている。だから、変に病気だと言われることを嫌っている。
アンネマリーは自分はふるいから落ち、その代わりに少しでも多くの人間を残す為に行動すると決めていた。
学校ではふるいに落ちそうな人に近づいてどこを直すべきか、どこを伸ばすべきかを教えていた。
人によってアプローチは変えて、ある人には甘えるように、ある人には姉のように優しく、ある人には叱咤激励した。
それによって今の生徒の中でふるいから落ちてしまう生徒はかなり減ったはずだ。
アンネマリーはふぅーと息を吐き出した。くるくると回っていた視界が次第にピッタリと焦点があってくる。
「おさまったわね」
アンネマリーはベッドから起き上がると両手を頭の上に伸ばして、んーっと伸びた。
「さてと、学校、間に合うかしら?」
ピョンとベッドから降りて、スタスタと身支度を整えるアンネマリーの様子は先程とは全く違って元気そのものだった。
「治ったわ。今から学校に行くから朝食をお願い」
アンネマリーは元気な声で控えていた侍女に指示を出すとそのまま部屋を後にした。
「さぁ、今日も頑張らないと! 彼らへのふるいはもう始まっているころよね!」
アンネマリーはパンと頬を叩くと気合を入れて学校に向かった。
アンネマリーが学校に少し遅れて登校すると丁度今更生を薦めている男子生徒が歩いてきた。
「ハイドナークさん、ご機嫌よう。もう授業は始まっておりますわ。校舎に戻りましょう」
するとその生徒はアンネマリーを無視して通り過ぎる。
「ハイドナーク子爵はご存知なんですか? いまは大切な時期ですわ」
アンネマリーの言葉に立ち止まりくるりと向きを変えた。
「俺には関係ないし、あんたにはもっと関係ないだろう! どうせあんたは王子と婚約するんだろ? 未来の王妃様は慈悲深いとでも思われたいのか!」
そう言ってアンネマリーを小突いた。その力は本来なら少しバランスを崩す程度のものだったが、今日は朝から体調を崩したアンネマリーにとっては少しでは済まなかった。
バッターン
小突かれた時にふらりと目眩を感じたアンネマリーはそのまま後ろに倒れ込んだ。
「え? おい! 俺はそんなに強くは……」
「貴方は……早く‥‥お逃げなさい……。わたくしは……大丈夫です……」
元々侍女は、寮生活のサポートなので授業には連れてこない。今ここを立ち去れば問題ない。それにこれはアンネマリーの問題なのだ。
「え? いや、それは……」
それでもアンネマリーに手を伸ばそうとしている男子生徒の瞳は心配そうに揺れる。
思った通り今は反抗しているだけで本当は優しいのだ。
アンネマリーは薄れゆく意識の中、自分の見込みに間違いないと微笑んだ。
「わ、わたく、しは、大丈夫……。人を……よんで……」
そうしてアンネマリーは意識を手放したのだった。
朝ベッドから起きられずぐったりしていると侍女が心配そうに話しかけてきた。
「目眩がするの……。今日はもう少し休んでいるわ」
「かしこまりました。学校はどうなさいますか?」
「遅刻していくしかなさそうね。今日はダメな日だわ……」
アンネマリーが弱々しく返事を返すとそのまま目を閉じた。
普段が元気なのであまり知られていないがアンネマリーは体が弱かった。
病気というわけではないが、治癒魔法師によると血の巡りと魔力の巡りのバランスが悪いらしい。
だから、そのバランスによって体調が良い日と悪い日でかなりの差が生まれてしまう。
アンネマリーは目を開けるとベッドの天蓋を見つめた。
幼い頃から見飽きた景色。魔力が今よりも安定しない子供の頃はよくこうやって寝込んでいた。
今でこそバランスが崩れる前兆がわかるようになってきたので、倒れる前に休んだり出来るのだ。
アンネマリーは今王太子が生徒をふるいに掛けているのは知っていた。しかも自分をエレオノーラ様の側近候補と考えてくれていることも知っている。
ヘンリーがそのことも踏まえて彼らへの注意を止めてくれたと理解しているが、アンネマリーには無理なのだ。
いつどこで体調が悪くなるのかわからない。そんな人間は王妃様の近くにいない方がいい。それよりも使える人間を増やす方が遥かに有意義なことだと考えていた。彼らの中には魔法で秀でている者もいる。今行動を改めればふるいに残れるのだ。
アンネマリーは信念をもって行動していた。
本来ならば王太子達に自分の体調を話せばいいのかもしれないが、それは両親から止められている。王妃にはなれなくとも一般的な貴族との結婚には差し支えないと考えられている。だから、変に病気だと言われることを嫌っている。
アンネマリーは自分はふるいから落ち、その代わりに少しでも多くの人間を残す為に行動すると決めていた。
学校ではふるいに落ちそうな人に近づいてどこを直すべきか、どこを伸ばすべきかを教えていた。
人によってアプローチは変えて、ある人には甘えるように、ある人には姉のように優しく、ある人には叱咤激励した。
それによって今の生徒の中でふるいから落ちてしまう生徒はかなり減ったはずだ。
アンネマリーはふぅーと息を吐き出した。くるくると回っていた視界が次第にピッタリと焦点があってくる。
「おさまったわね」
アンネマリーはベッドから起き上がると両手を頭の上に伸ばして、んーっと伸びた。
「さてと、学校、間に合うかしら?」
ピョンとベッドから降りて、スタスタと身支度を整えるアンネマリーの様子は先程とは全く違って元気そのものだった。
「治ったわ。今から学校に行くから朝食をお願い」
アンネマリーは元気な声で控えていた侍女に指示を出すとそのまま部屋を後にした。
「さぁ、今日も頑張らないと! 彼らへのふるいはもう始まっているころよね!」
アンネマリーはパンと頬を叩くと気合を入れて学校に向かった。
アンネマリーが学校に少し遅れて登校すると丁度今更生を薦めている男子生徒が歩いてきた。
「ハイドナークさん、ご機嫌よう。もう授業は始まっておりますわ。校舎に戻りましょう」
するとその生徒はアンネマリーを無視して通り過ぎる。
「ハイドナーク子爵はご存知なんですか? いまは大切な時期ですわ」
アンネマリーの言葉に立ち止まりくるりと向きを変えた。
「俺には関係ないし、あんたにはもっと関係ないだろう! どうせあんたは王子と婚約するんだろ? 未来の王妃様は慈悲深いとでも思われたいのか!」
そう言ってアンネマリーを小突いた。その力は本来なら少しバランスを崩す程度のものだったが、今日は朝から体調を崩したアンネマリーにとっては少しでは済まなかった。
バッターン
小突かれた時にふらりと目眩を感じたアンネマリーはそのまま後ろに倒れ込んだ。
「え? おい! 俺はそんなに強くは……」
「貴方は……早く‥‥お逃げなさい……。わたくしは……大丈夫です……」
元々侍女は、寮生活のサポートなので授業には連れてこない。今ここを立ち去れば問題ない。それにこれはアンネマリーの問題なのだ。
「え? いや、それは……」
それでもアンネマリーに手を伸ばそうとしている男子生徒の瞳は心配そうに揺れる。
思った通り今は反抗しているだけで本当は優しいのだ。
アンネマリーは薄れゆく意識の中、自分の見込みに間違いないと微笑んだ。
「わ、わたく、しは、大丈夫……。人を……よんで……」
そうしてアンネマリーは意識を手放したのだった。
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