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番外編

アンネマリーの運命2

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「おい! ヘンリー、どういうことだ?」
スティーブンはヘンリーの寮の部屋に入ると同時に詰め寄った。
「え? どうしたんだ?」
スティーブンのあまりの剣幕にヘンリーは顔を引きつらせた。
「どうしたって、彼女は行動を改めていないぞ」
「彼女? ああ、アンネマリー嬢か……。そうなんだよね。結構ストレートに注意したと思うんだけど、伝わらなかったみたいなんだ。護衛を一人連れて歩くようになっただけだ」
ヘンリーは詰め寄るスティーブンから離れてソファに腰を下ろした。
それを見てスティーブンも向いに座る。
「だから、初めから殿下の計画をアンネマリー嬢に話した方がいいといったんだぞ。スティーブン」
ヘンリーの言葉に珍しく計算通りにことが進んでいないスティーブンは顔をしかめる。
今王太子は学校内の生徒をふるいにかけていた。将来の側近、護衛、政治に政策、外交に福祉。適材適所となる人材を見極めていたのだ。その為の学校であるといっても過言ではない。
サーナイン王国の優秀な人材は全てこの学校にやってくるのだ。
そのふるいで何処にも行き場所がなかった者達の行き着く先は閑職となる。
だから、今は放っておけばいい。
王太子はその者達が優秀な人材となるアンネマリーへ危害を加える可能性を気にしていた。
「アンネマリー嬢は次期王妃エレオノーラ様の側近候補だったよな」
「ああ、そう聞いている。お前は外交、俺は裏方だな」
「まぁ、家業といえばそうなるか……」
ヘンリーのアラカニール公爵家は代々外交を、スティーブンのホースタイン公爵家は代々王直属の組織を取り仕切っている。 
もちろんこのふるいで相応しくないとなれば、その通りにはならないがなんとか自分達も家業通りになりそうでホッとしていた。
「とにかく、彼女は熱くなりすぎる。このままでは王妃の側近候補からも外れるぞ」
スティーブンが苦虫を噛んだような顔をする。
「まぁね。でも、そうならそれで仕方がないのかとも思っているんだよ。その為のふるいだろう?」
明るく言い放ったヘンリーに原因はわからないがスティーブンの心がザワザワと騒いだのだった。

スティーブンはサーナイン王国のホースタイン公爵家の嫡男だ。昔から神童と言われている。更に自分で言うのもなんだがモテると思う。珍しい色を持っているのだ。透けるような銀の髪とアメジストのような紫色の瞳が神秘的らしい。
自分でも何故かは分からないが、先を見通すことが出来ると自負していた。
周りを見て、人々の表情を見て、状況を確認すると大体先に起こることが分析できる。それはスティーブンが子供の時に気づいたことだった。
それからは『つまらない』日々を過ごしている。
殿下は冷静だと言ってくれているが、スティーブンはいくつかある選択肢から可能性が高いものを選んでいるだけだった。
それなのに今話題にしているアンネマリーは少し違った。
見た目は大人しい美少女なのだ。それも絶世の。エレオノーラ様のことを知らない人間が殿下とアンネマリーを疑うのもよくわかる程次期王妃になり得る美貌だった。
それなのにその性格がわからない。
スティーブンにははじめてのことだが、聞く人聞く人によって彼女の性格が全く違う。
ある者はすぐに倒れてしまいそうなほどか弱い。ある者はしっかり者。ある者は甘え上手。ある者は正義の人。姉のようだ。妹のようだ。頭が切れるのか、人の言うことさえ理解できないのかがわからない。
印象が全く違うのだ。
そして、ヘンリーはすでにアンネマリーを見限ってエレオノーラ様の側近候補からも外れると言っている。
スティーブンの印象は可愛らいお転婆姫だ。行動は褒められないが、ドロップアウトしそうな人間を救おうと言う慈悲の心は王妃の側近として必要だと考えていた。
スティーブンに突っかかってくるのも可愛らしい。スティーブンが少し反論するとムキになる所などは内心好ましく思っていた。
「スティーブンももう彼女には関わるなよ。今はふるいの真っ最中だ。彼女は正に今ふるいに掛けられている」
ヘンリーはアンネマリーのことはこれで終わりと別の話を始めた。
「……そうだな」
スティーブンは釈然としないまでも頷いた。
今までだと自分の方がヘンリーに注意していはずだ。自分達の利にならない人間とは揉める前に距離を取る方が頭がいい。
なのに今はヘンリーから注意されている。
この現実だけでスティーブンは自分の分析が狂っているのだと感じていた。
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