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第八章 不穏な繋がり
74、わたくしも戦う、、、なの?
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「という訳です」
シモン王子が慌てたようにやって来て話してくれたのは思ってもみなかったことでした。いえ、可能性は勿論ありましたが最悪のことなので考えていませんでした。
「では、辺境伯も前王原理主義者だというのですか?」
「残念ですが、その通りです」
わたくしはハッとしてレオポルト様に視線を移しました。辺境伯の父だった前伯爵と彼は学生時代からのライバルだったはず。
「ダミアンが…‥前王原理主義者……だと?」
確か前伯爵は数年前に事故で亡くなられた。だからレオポルド様は少なくとも前伯爵の葬儀で現辺境伯に会っているはずだ。
「レオポルド様?」
呆然とされているレオポルド様に近寄るとその頬に手を当てた。
「確かにあの家の忠誠心は計り知れないがリーデカーは現王家にも同様の忠誠を捧げていた。なのに何故息子のダミアンが原理主義者なんかに……」
「では、以前は違ったのでしょうか?」
「ああ、葬儀では私が持参した陛下のお言葉を涙ながらに受け取っていたぞ」
「そうなんですか」
「し、しかし、私は確かに聞きました。今部下にその男のつけさせています。髪は金髪で青い瞳でした」
「確かにダミアンの色はその通りです。友人の息子ですから居場所が分かり次第私が行きます」
「それでは、わたくしも参りますわ」
「アリアドネおば様!!」
慌てるシモン王子に向かってにっこりと微笑んだ。
「わたくし、レオポルド様とは生死を共にする覚悟で一緒になりましたの」
「アリアドネ……」
呆れたようにため息を吐いたレオポルド様はそれでもわたくしを止めることはありませんでした。
わたくし達はいつ連絡が来てもいいように一旦部屋に下がって出かける準備を始めました。
私室にさがると早速衣裳部屋に向かいます。そして、その部屋の一番奥にあるクローゼットの前に立ちました。ここには王女時代の服が入っているのです。
わたくしは中を確認して一着の服を取り出しました。それはこの世界では珍しい女性用の騎士服です。王女時代には騎士団の演習にも参加していましたし、模擬戦にも同行していたため、お父様に特別に作っていただいたのです。
「また、これを着るなんて……」
それでも、わたくしくの可愛い子供達のためですもの。わたくしはそう考えて騎士服を握りしめた。
「バルターク公爵、本当にアリアドネおば様を連れて行くのですか?」
「しかたがないのですよ。殿下」
「しかし、公爵だって辺境伯家の武力は心得ているでしょう! 危険です!」
「それでも今囚われているのは私達の子供なのです。私達は絶対に子供達を見捨てることはしません。もちろん政治的な意味合いでも大事になるかもしれませんが、今はバルターク家の全力で対応します。そして、妻も我が公爵家の一員です」
グイッと顔を上げて真剣に宣言したレオポルド様はとっても素敵でした。わたくしはドアの前でこの言葉を聞いて更には気合を入れました。二十年以上前の騎士服は少し若々しすぎますが、ドレスで戦うことはできません。そう、今はただ子供達を救い出すのみ。わたくしはドアを開けて中に入りました。
「お待たせいたしました」
「ああ、待っていたよ。懐かしい格好だね」
「ええ、やはりこの服の方が動きやすいんですもの」
「おば様、危険です!!」
シモン王子がわたくしに駆け寄って来ますが、それを避けてレオポルドさまの隣に腰を下ろしました。レオポルド様は今は王宮騎士団の服ではなくバルターク公爵家の家紋が入った服を着ていました。それは即ちこの戦いは公爵家の問題ということです。
わたくしはその姿を見て笑みを浮かべました。
「レオポルド様も素敵ですわ」
「ふむ、君のレイピアを持ってきた」
「まぁ! ありがとうございます」
わたくし達の様子を見ていたシモン王子はため息を吐いて席についた。
「はぁ、僕はもう何も言いません。おば様僕にアルバートの服と剣を貸して下さい」
諦めたシモン王子がそういうと流石にレオポルド様が首を横に振った。
「いけません。これは我が公爵家の問題です。シモン殿下は関わるべきではありません」
確かに子供達が囚われているわたくしとレオポルド様が前に出ても内輪の問題にできる。しかしシモン王子が来てしまうとそれは国の問題になってしまうのです。
「しかし……」
「シモン王子、レオポルド様の言うとうりですわ。今はここでお待ちいただけませんか?」
わたくしは愛用のレイピアを腰に挿してからシモン王子に向き直りました。
「……」
シモン王子が不満を全面に押し出した表情をしている。
何かを考えてから常に陰のように付いている護衛を呼び寄せると何かを伝えたようだ。
「公爵、僕に少しだけ時間をください」
「いかほどですか?」
「十分間です」
「……わかりました。アリアドネ、出かける前に軽食を取ろう。食べねば力もでない」
わたくしは二人を交互に見比べてから頷いた。
「そうですわね。急いで何か用意させますわ」
わたくしは直ぐにそのことを伝えるとあっという間にサンドイッチとフルーツが盛られたプレートが用意された。
わたくし達が報告を待ちつつ今後のプランを詰めていると先ずは辺境伯についていた護衛が戻ってきた。
「どこに行ったんだ?」
シモン王子が尋ねる。
「は! あの男は王都の西にある森へ向かいました。森の奥に随分前に空き家になった元別荘がありそちらに入って行ったのを確認しました。その建物の周辺にはかなりの人数が警戒にあたっていました。ですから近くには寄れませんでした」
「ご苦労だった」
シモン王子の言葉で護衛が下がるとサンドイッチを片手にレオポルド様が地図を広げた。
「今報告にあった空き家はこちらのものです」
少し古い地図には確かに貴族の別荘が建っている。
「そうだな。では、ここにコーデリアが……」
シモン王子が手をギュッと握る。直接助けに行けないことが悔しいのだろう。
その時、先程シモン王子から何かを命じられていた護衛が戻った。そして、何かの包みをシモン王子に手渡したのだった
シモン王子が慌てたようにやって来て話してくれたのは思ってもみなかったことでした。いえ、可能性は勿論ありましたが最悪のことなので考えていませんでした。
「では、辺境伯も前王原理主義者だというのですか?」
「残念ですが、その通りです」
わたくしはハッとしてレオポルト様に視線を移しました。辺境伯の父だった前伯爵と彼は学生時代からのライバルだったはず。
「ダミアンが…‥前王原理主義者……だと?」
確か前伯爵は数年前に事故で亡くなられた。だからレオポルド様は少なくとも前伯爵の葬儀で現辺境伯に会っているはずだ。
「レオポルド様?」
呆然とされているレオポルド様に近寄るとその頬に手を当てた。
「確かにあの家の忠誠心は計り知れないがリーデカーは現王家にも同様の忠誠を捧げていた。なのに何故息子のダミアンが原理主義者なんかに……」
「では、以前は違ったのでしょうか?」
「ああ、葬儀では私が持参した陛下のお言葉を涙ながらに受け取っていたぞ」
「そうなんですか」
「し、しかし、私は確かに聞きました。今部下にその男のつけさせています。髪は金髪で青い瞳でした」
「確かにダミアンの色はその通りです。友人の息子ですから居場所が分かり次第私が行きます」
「それでは、わたくしも参りますわ」
「アリアドネおば様!!」
慌てるシモン王子に向かってにっこりと微笑んだ。
「わたくし、レオポルド様とは生死を共にする覚悟で一緒になりましたの」
「アリアドネ……」
呆れたようにため息を吐いたレオポルド様はそれでもわたくしを止めることはありませんでした。
わたくし達はいつ連絡が来てもいいように一旦部屋に下がって出かける準備を始めました。
私室にさがると早速衣裳部屋に向かいます。そして、その部屋の一番奥にあるクローゼットの前に立ちました。ここには王女時代の服が入っているのです。
わたくしは中を確認して一着の服を取り出しました。それはこの世界では珍しい女性用の騎士服です。王女時代には騎士団の演習にも参加していましたし、模擬戦にも同行していたため、お父様に特別に作っていただいたのです。
「また、これを着るなんて……」
それでも、わたくしくの可愛い子供達のためですもの。わたくしはそう考えて騎士服を握りしめた。
「バルターク公爵、本当にアリアドネおば様を連れて行くのですか?」
「しかたがないのですよ。殿下」
「しかし、公爵だって辺境伯家の武力は心得ているでしょう! 危険です!」
「それでも今囚われているのは私達の子供なのです。私達は絶対に子供達を見捨てることはしません。もちろん政治的な意味合いでも大事になるかもしれませんが、今はバルターク家の全力で対応します。そして、妻も我が公爵家の一員です」
グイッと顔を上げて真剣に宣言したレオポルド様はとっても素敵でした。わたくしはドアの前でこの言葉を聞いて更には気合を入れました。二十年以上前の騎士服は少し若々しすぎますが、ドレスで戦うことはできません。そう、今はただ子供達を救い出すのみ。わたくしはドアを開けて中に入りました。
「お待たせいたしました」
「ああ、待っていたよ。懐かしい格好だね」
「ええ、やはりこの服の方が動きやすいんですもの」
「おば様、危険です!!」
シモン王子がわたくしに駆け寄って来ますが、それを避けてレオポルドさまの隣に腰を下ろしました。レオポルド様は今は王宮騎士団の服ではなくバルターク公爵家の家紋が入った服を着ていました。それは即ちこの戦いは公爵家の問題ということです。
わたくしはその姿を見て笑みを浮かべました。
「レオポルド様も素敵ですわ」
「ふむ、君のレイピアを持ってきた」
「まぁ! ありがとうございます」
わたくし達の様子を見ていたシモン王子はため息を吐いて席についた。
「はぁ、僕はもう何も言いません。おば様僕にアルバートの服と剣を貸して下さい」
諦めたシモン王子がそういうと流石にレオポルド様が首を横に振った。
「いけません。これは我が公爵家の問題です。シモン殿下は関わるべきではありません」
確かに子供達が囚われているわたくしとレオポルド様が前に出ても内輪の問題にできる。しかしシモン王子が来てしまうとそれは国の問題になってしまうのです。
「しかし……」
「シモン王子、レオポルド様の言うとうりですわ。今はここでお待ちいただけませんか?」
わたくしは愛用のレイピアを腰に挿してからシモン王子に向き直りました。
「……」
シモン王子が不満を全面に押し出した表情をしている。
何かを考えてから常に陰のように付いている護衛を呼び寄せると何かを伝えたようだ。
「公爵、僕に少しだけ時間をください」
「いかほどですか?」
「十分間です」
「……わかりました。アリアドネ、出かける前に軽食を取ろう。食べねば力もでない」
わたくしは二人を交互に見比べてから頷いた。
「そうですわね。急いで何か用意させますわ」
わたくしは直ぐにそのことを伝えるとあっという間にサンドイッチとフルーツが盛られたプレートが用意された。
わたくし達が報告を待ちつつ今後のプランを詰めていると先ずは辺境伯についていた護衛が戻ってきた。
「どこに行ったんだ?」
シモン王子が尋ねる。
「は! あの男は王都の西にある森へ向かいました。森の奥に随分前に空き家になった元別荘がありそちらに入って行ったのを確認しました。その建物の周辺にはかなりの人数が警戒にあたっていました。ですから近くには寄れませんでした」
「ご苦労だった」
シモン王子の言葉で護衛が下がるとサンドイッチを片手にレオポルド様が地図を広げた。
「今報告にあった空き家はこちらのものです」
少し古い地図には確かに貴族の別荘が建っている。
「そうだな。では、ここにコーデリアが……」
シモン王子が手をギュッと握る。直接助けに行けないことが悔しいのだろう。
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