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第八章 不穏な繋がり
73、コーデリアの行方(シモン視点)
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シモンはミアの家の前に立っていた。
本当は王子として来た方が話も早かったかもしれないが、今コーデリアが行方不明だと騒ぎが大きくならないようにしなくてはならない。コーデリアの名誉のためにも。
平民が切るようなシャツとスラックスという軽装で護衛も目立たないように配置した。目的はコーデリアの居場所。ミアには口を軽くしてもらわなくては。
その時通りの向こうからミアの声が聞こえてきた。思わずシモンは隠れてしまった。隠れる必要はなかったのに。
「えぇー。そんなぁ。私はそんな大それたことは、考えていませんよー」
ミアは見知らぬ男と手を組んで歩いている。見たことはないが服装と立ち振る舞いから貴族であることはうかがえる。
「誰だ?」
シモンは更に物陰に隠れると二人の会話に聞き耳を立てた。
「いえ、ミアさんは本当にお優しいです。ミアさんのような方が王室に入られたら私達も安心して過ごせます」
「確かにぃ、コーデリア様はぁ、厳し方ですよねぇ。怖い思いしましたものぉ」
気持ち悪い話し方にシモンは身震いするのを我慢する。
「ミアさんは当然の権利を行使されただけですから今日はゆっくりと休んでくださいね。あの方は明日スキャンダルと共に丁重にお返ししますから」
「はい! 絶対に怪我とかはやめてくださいね。私、悪者にはなりたくないんです!」
シモンは手を握りしめる。あの方とはコーデリアのことだ。あいつ、なんてことを!
「もちろんです。快適な部屋で一晩お預かりするだけです。安心なさってください」
「はい! あのぉ、それでシモン様は本当に来てくれます?」
「ええ、あの方が相応しくないとなったらミアさんしかいないじゃないですか?」
その男はニコリと微笑むとミアの手の甲にキスを落とした。
「それでは、今日はありがとうございました」
「こちらこそ!」
挨拶をしてミアは家の中に入って行った。シモンは目配せして護衛のうちの二人を男に付けると深呼吸を繰り返す。
ミアからの証言が必要だ。
笑顔だ。笑顔になれ! シモン!!
シモンは無理矢理笑顔を作る。あの男がコーデリアの行方は知っているはずだ。それは直ぐにわかるだろう。護衛は騎士団の精鋭だ。それならば自分は証拠固めをするべきなのだ。
直ぐにでもあの男の後を追いかけて殴り倒したいと言う衝動をなんとか抑える。
「よし! 行くぞ」
「シモン様!!!」
ミアを呼び出すと早速やってきた。シモンは、全力の笑顔で彼女を迎える。
「やぁ、ミア。元気だったかい?」
「はい! でも、一体どうして? もうお怒りではないんですか?」
シュンとしたミアは少し俯いて見せた。シモンはわざとらしさに顔がひきつる。
「いや、少し感情的になってしまったと反省しているんだ。コーデリアの我儘に疲れてしまったようだ」
「まあ! シモン様、お可哀想に。やっぱりコーデリア様との婚約は簡単には破棄できないですよね」
「ああ、そうだね」
「私に任せてください! 来週には婚約破棄できますよ」
「…………」
意気揚々とかたるミアにシモンは何も言えなくなる。
勝手に僕の気持ちを理解して、勝手に動く。一番嫌いな人種だ。
でも、今ミアの怒りを買うとコーデリアに危険が迫るかもしれない。きっとあの男とはなんらかの連絡を取り合っているはずだ。
シモンは貼り付けた笑顔のまま頷いた。
「それに! 私凄い方と知り合いになったんです。これからはその方が後見人になってくれるので、学校にも明日から復帰できるんです。シモン様とも仲直りできたし、これで安心して学校に行けます!」
「その人は誰なんだい?」
「えっと、確か南の方の伯爵でした。お名前はクラーシンス様です」
「クラーシンス……」
シモンは背筋が凍る。クラーシンス伯爵家といえば辺境伯とも言われる国境を守る要の家だ。それ故中々王都には来ることは出来ずシモンも隠居した前伯爵としか会ったことはない。
「今この時期に伯爵が?」
「えっと、何か? ああ、シモン様との約束は破ってしまったのは本当なので、もう援助はいりませんよ。ご安心を」
ミアは知らないだろうが、クラーシンス伯爵家の騎士団は王宮の騎士団に匹敵するという。もし本当にクラーシンスが前王原理主義者だとすると行き着く先は内戦しかない。
ゾクリ
シモンの背に冷たいものが流れる。
コーデリアや婚約、魔法などと言っていられない。
シモンはこれからどうすべきかを考える。やはり父上とバルターク公爵に意見を仰ぐしかない。
「ミア、申し訳ないが今日は失礼する」
シモンはミアと別れて歩きながら今の話を反芻した。
まずはコーデリアとアルバートの安全確保だ。そして、クラーシンス家の動向、今後の考えられる問題の洗い出し。内戦は避けたいがクラーシンスが本気ならこちらも用意しないとやられる。
ドンドン足速になったシモンは知らずにバルターク公爵家を目指していた。
本当は王子として来た方が話も早かったかもしれないが、今コーデリアが行方不明だと騒ぎが大きくならないようにしなくてはならない。コーデリアの名誉のためにも。
平民が切るようなシャツとスラックスという軽装で護衛も目立たないように配置した。目的はコーデリアの居場所。ミアには口を軽くしてもらわなくては。
その時通りの向こうからミアの声が聞こえてきた。思わずシモンは隠れてしまった。隠れる必要はなかったのに。
「えぇー。そんなぁ。私はそんな大それたことは、考えていませんよー」
ミアは見知らぬ男と手を組んで歩いている。見たことはないが服装と立ち振る舞いから貴族であることはうかがえる。
「誰だ?」
シモンは更に物陰に隠れると二人の会話に聞き耳を立てた。
「いえ、ミアさんは本当にお優しいです。ミアさんのような方が王室に入られたら私達も安心して過ごせます」
「確かにぃ、コーデリア様はぁ、厳し方ですよねぇ。怖い思いしましたものぉ」
気持ち悪い話し方にシモンは身震いするのを我慢する。
「ミアさんは当然の権利を行使されただけですから今日はゆっくりと休んでくださいね。あの方は明日スキャンダルと共に丁重にお返ししますから」
「はい! 絶対に怪我とかはやめてくださいね。私、悪者にはなりたくないんです!」
シモンは手を握りしめる。あの方とはコーデリアのことだ。あいつ、なんてことを!
「もちろんです。快適な部屋で一晩お預かりするだけです。安心なさってください」
「はい! あのぉ、それでシモン様は本当に来てくれます?」
「ええ、あの方が相応しくないとなったらミアさんしかいないじゃないですか?」
その男はニコリと微笑むとミアの手の甲にキスを落とした。
「それでは、今日はありがとうございました」
「こちらこそ!」
挨拶をしてミアは家の中に入って行った。シモンは目配せして護衛のうちの二人を男に付けると深呼吸を繰り返す。
ミアからの証言が必要だ。
笑顔だ。笑顔になれ! シモン!!
シモンは無理矢理笑顔を作る。あの男がコーデリアの行方は知っているはずだ。それは直ぐにわかるだろう。護衛は騎士団の精鋭だ。それならば自分は証拠固めをするべきなのだ。
直ぐにでもあの男の後を追いかけて殴り倒したいと言う衝動をなんとか抑える。
「よし! 行くぞ」
「シモン様!!!」
ミアを呼び出すと早速やってきた。シモンは、全力の笑顔で彼女を迎える。
「やぁ、ミア。元気だったかい?」
「はい! でも、一体どうして? もうお怒りではないんですか?」
シュンとしたミアは少し俯いて見せた。シモンはわざとらしさに顔がひきつる。
「いや、少し感情的になってしまったと反省しているんだ。コーデリアの我儘に疲れてしまったようだ」
「まあ! シモン様、お可哀想に。やっぱりコーデリア様との婚約は簡単には破棄できないですよね」
「ああ、そうだね」
「私に任せてください! 来週には婚約破棄できますよ」
「…………」
意気揚々とかたるミアにシモンは何も言えなくなる。
勝手に僕の気持ちを理解して、勝手に動く。一番嫌いな人種だ。
でも、今ミアの怒りを買うとコーデリアに危険が迫るかもしれない。きっとあの男とはなんらかの連絡を取り合っているはずだ。
シモンは貼り付けた笑顔のまま頷いた。
「それに! 私凄い方と知り合いになったんです。これからはその方が後見人になってくれるので、学校にも明日から復帰できるんです。シモン様とも仲直りできたし、これで安心して学校に行けます!」
「その人は誰なんだい?」
「えっと、確か南の方の伯爵でした。お名前はクラーシンス様です」
「クラーシンス……」
シモンは背筋が凍る。クラーシンス伯爵家といえば辺境伯とも言われる国境を守る要の家だ。それ故中々王都には来ることは出来ずシモンも隠居した前伯爵としか会ったことはない。
「今この時期に伯爵が?」
「えっと、何か? ああ、シモン様との約束は破ってしまったのは本当なので、もう援助はいりませんよ。ご安心を」
ミアは知らないだろうが、クラーシンス伯爵家の騎士団は王宮の騎士団に匹敵するという。もし本当にクラーシンスが前王原理主義者だとすると行き着く先は内戦しかない。
ゾクリ
シモンの背に冷たいものが流れる。
コーデリアや婚約、魔法などと言っていられない。
シモンはこれからどうすべきかを考える。やはり父上とバルターク公爵に意見を仰ぐしかない。
「ミア、申し訳ないが今日は失礼する」
シモンはミアと別れて歩きながら今の話を反芻した。
まずはコーデリアとアルバートの安全確保だ。そして、クラーシンス家の動向、今後の考えられる問題の洗い出し。内戦は避けたいがクラーシンスが本気ならこちらも用意しないとやられる。
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