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第七章 王族の力
64、アルバートという男(シモン視点)
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僕はアリアドネおば様の後ろ姿を見送った。
「では、シモン王子。今度は私がお相手しましょう」
そういって来たのは幼馴染の公爵家嫡男アルバートだ。
「ああ、でも、アルバートは魔法が使えたか?」
学年は違うがアルバートも同じ学校に通っているのだ。
もしアリアドネおば様のような魔法が使えたならば噂になっているだろう。
「シモン王子よりは使えます」
ふんっとそっぽを向くアルバートにこの前のことが頭に浮かぶ。やはりアルバートはミアに気があったのだな。
シモン王子は機嫌の悪そうなアルバートに向かって一つのことを提案した。
「では、魔法を使う模擬戦などどうだろう?」
アリアドネおば様とは流石に剣は交わせないが、騎士達は魔法を駆使した剣を使うのが今の魔法の使い方の主流だった。学校の授業でもあるくらいだ。
「いいですよ。手加減なしでよろしいのでしょうか?」
アルバートが執事に命じて模擬戦で使う木刀を用意させている。
「ああ、構わない。僕も本気でいく!」
「わかりました」
執事から木刀を受け取ったアルバートはビュンと一振りするとニヤリと笑う。
僕はそんなアルバートを見たことがなかった。そして、その顔を見た時に背筋に悪寒が走ったことも初めてだった。
カンカンカン
お互いに魔力を込めた剣を交わす。
そして、お互いに移動魔法で逃げたり近づいたりを繰り返して、時には水を時には炎を纏わせた剣を振り下ろした。
ガシッと思い剣を受けながら僕は顔を顰める。
アルバートが、強いのだ。僕だって学校では天才と呼ばれるくらいの成績だし、アルバートは優秀だが特別なわけではないと思っていた。それが、今は……押されている。
ガキン
目の前に現れたアルバートの剣を受けながら声をかける。
「アルバート、お前は学校では本気を出していないだろう?」
ずっと離れてその姿がかき消える。そしてすぐに背後から剣が振り下ろされた。
カジンッ
「そうですね。息は上がらない程度で授業を受けていたことは否定しません」
「何故だ?」
「それを貴方が私に聞きますか?」
そうだ。このバルターク公爵家は家自体が隠遁しているようなものだ。今の国王、父上の御代を邪魔しないように表には出ないことを心情にしている。
ガギンッ
アルバートの振り下ろした剣が僕の剣を吹き飛ばした。
「参った」
ヒュンと剣を振って鞘に収めて背を向けた。
「シモン王子、申し訳ありませんでした」
「どうしたんだ?」
「…‥八つ当たりしました」
「わかっている。僕も余計なお世話をしたとは思っている。だが、悪いがあのような者を僕にもそしてコーデリアの周りにもいて欲しくないんだ」
アルバートはグッと拳を握って下を向いた。
「理性では理解しています。バルタークとしても彼女は相応しくない。この家は決して表にでてはいけないのですから。魔法も勉学もある程度を目指しています。公爵家として優秀だなという位置をキープすることを幼い頃から言い含められてきましたし、事情を理解した今は自らそうすべきだと考えています」
そう言ってアルバートは悔しそうに顔を顰める。
「しかし、しかし! 恋してしまったのです。ミアの笑顔を見ると胸が高鳴るのです! 私など見ていなくともシモン王子しか見えていなくともミアを見ていたいと思ってしまったのです」
「アルバート‥‥兄様」
思わず昔の呼び方をしてしまった。僕は手を上げて……そのまま下ろす。
これはどうしようも無いことなのだ。あのように虚栄心が強く、秘密も守れない人間はいくら好きになっても離れなくてはならない。それが王家であり、公爵家なのだ。
「心配しないでください。この気持ちは自分でなんとかします。思う存分魔法を使ってスッキリしましたし」
「あ、ああ、そうか」
少しだけ上を向いたアルバートの目元がキラリと光ったのは僕の見間違えだったのだろう。
僕たちの恋はなかなか上手くいかないようだ。
僕はため息を吐きながらアルバートの背中をポンポンと叩いた。
「それじゃぁ、もうひと試合どうかな?」
「いいですね。ここで貴方とであれば手加減しなくてもいいですから」
「そう何度も負けると思うな! 行くぞ」
そうして、暫く僕達は剣を突き合わせていたのだった。
「では、シモン王子。今度は私がお相手しましょう」
そういって来たのは幼馴染の公爵家嫡男アルバートだ。
「ああ、でも、アルバートは魔法が使えたか?」
学年は違うがアルバートも同じ学校に通っているのだ。
もしアリアドネおば様のような魔法が使えたならば噂になっているだろう。
「シモン王子よりは使えます」
ふんっとそっぽを向くアルバートにこの前のことが頭に浮かぶ。やはりアルバートはミアに気があったのだな。
シモン王子は機嫌の悪そうなアルバートに向かって一つのことを提案した。
「では、魔法を使う模擬戦などどうだろう?」
アリアドネおば様とは流石に剣は交わせないが、騎士達は魔法を駆使した剣を使うのが今の魔法の使い方の主流だった。学校の授業でもあるくらいだ。
「いいですよ。手加減なしでよろしいのでしょうか?」
アルバートが執事に命じて模擬戦で使う木刀を用意させている。
「ああ、構わない。僕も本気でいく!」
「わかりました」
執事から木刀を受け取ったアルバートはビュンと一振りするとニヤリと笑う。
僕はそんなアルバートを見たことがなかった。そして、その顔を見た時に背筋に悪寒が走ったことも初めてだった。
カンカンカン
お互いに魔力を込めた剣を交わす。
そして、お互いに移動魔法で逃げたり近づいたりを繰り返して、時には水を時には炎を纏わせた剣を振り下ろした。
ガシッと思い剣を受けながら僕は顔を顰める。
アルバートが、強いのだ。僕だって学校では天才と呼ばれるくらいの成績だし、アルバートは優秀だが特別なわけではないと思っていた。それが、今は……押されている。
ガキン
目の前に現れたアルバートの剣を受けながら声をかける。
「アルバート、お前は学校では本気を出していないだろう?」
ずっと離れてその姿がかき消える。そしてすぐに背後から剣が振り下ろされた。
カジンッ
「そうですね。息は上がらない程度で授業を受けていたことは否定しません」
「何故だ?」
「それを貴方が私に聞きますか?」
そうだ。このバルターク公爵家は家自体が隠遁しているようなものだ。今の国王、父上の御代を邪魔しないように表には出ないことを心情にしている。
ガギンッ
アルバートの振り下ろした剣が僕の剣を吹き飛ばした。
「参った」
ヒュンと剣を振って鞘に収めて背を向けた。
「シモン王子、申し訳ありませんでした」
「どうしたんだ?」
「…‥八つ当たりしました」
「わかっている。僕も余計なお世話をしたとは思っている。だが、悪いがあのような者を僕にもそしてコーデリアの周りにもいて欲しくないんだ」
アルバートはグッと拳を握って下を向いた。
「理性では理解しています。バルタークとしても彼女は相応しくない。この家は決して表にでてはいけないのですから。魔法も勉学もある程度を目指しています。公爵家として優秀だなという位置をキープすることを幼い頃から言い含められてきましたし、事情を理解した今は自らそうすべきだと考えています」
そう言ってアルバートは悔しそうに顔を顰める。
「しかし、しかし! 恋してしまったのです。ミアの笑顔を見ると胸が高鳴るのです! 私など見ていなくともシモン王子しか見えていなくともミアを見ていたいと思ってしまったのです」
「アルバート‥‥兄様」
思わず昔の呼び方をしてしまった。僕は手を上げて……そのまま下ろす。
これはどうしようも無いことなのだ。あのように虚栄心が強く、秘密も守れない人間はいくら好きになっても離れなくてはならない。それが王家であり、公爵家なのだ。
「心配しないでください。この気持ちは自分でなんとかします。思う存分魔法を使ってスッキリしましたし」
「あ、ああ、そうか」
少しだけ上を向いたアルバートの目元がキラリと光ったのは僕の見間違えだったのだろう。
僕たちの恋はなかなか上手くいかないようだ。
僕はため息を吐きながらアルバートの背中をポンポンと叩いた。
「それじゃぁ、もうひと試合どうかな?」
「いいですね。ここで貴方とであれば手加減しなくてもいいですから」
「そう何度も負けると思うな! 行くぞ」
そうして、暫く僕達は剣を突き合わせていたのだった。
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