63 / 82
第七章 王族の力
62、愛しいコーデリア(シモン視点)
しおりを挟む
腕の中で気を失ってしまったコーデリアを見つめて顔がニヤけるのを止められない。
嬉しい……だと
たった今ドア越しに聞いたいつになく素直なコーデリアの言葉に我を忘れてしまった。気がついたら部屋の中に移動していたのだ。
華奢なコーデリアを横抱きにするとそのまま立ち上がった。
「細いな……。少し痩せてしまったか」
自分が原因でコーデリアが痩せてしまったことに罪悪感と歓喜が湧き上がる。
「重症だな」
コーデリアをベッドにそっと寝かせると自分の上着をそっと掛けた。
自分のせいで痩せてしまったコーデリアが愛おしくて堪らない。
それだけの影響力を自分が持っていることが嬉しくて堪らないのだ。
シモンはベッドに腰掛けるとコーデリアの美しい輪郭を指でなぞる。
「起きていなければ古代魔法に影響されないのか?」
コーデリアの顔を見て頬に触れても前のような嫌悪感は湧いてこない。
シモンは顔をコーデリアに近づけた。
「よく顔を見せておくれ」
最近は怒っているところばかりを見ていた気がする。
でも、本来のコーデリアは寂しがり屋で恥ずかしがり屋だ。
そのことを最近復活した文通で思い出した。
手紙から感じるコーデリアは幼い頃と何ら変わってはいない。
まぁ、もちろん何倍も美しくはなったが。
シモン王子はそっとコーデリアの唇を指でなぞる。
「うーん、悩ましいね」
今ここで奪ってしまいたいという衝動が湧き上がる。
「コーデリア、君の魅力は底なし沼のようだよ。いつも新しい君が見つかる」
シモン王子は名残惜しげにコーデリアの唇を撫でると顔をそっと近づけてその頬にキスを落とした。
「やっぱりキスは君の瞳を見つめてからだな」
そう言って立ち上がるとそのままドアに向かう。
その時ふと思ったのだ。僕はどうやって室内で移動魔法を使ったのだ?
シモンは自分の手のひらを見つめる。
コーデリアの声が聞こえたあの時、ドアの向こうの部屋の中が透けて見えた気がする。そして、誰もいない、家具もない空間に向かって移動魔法を使ったのだ。
「……探索魔法……」
あれだけ練習しても出来なかった探索魔法がコーデリアのたった一言を切っ掛けに出来るようになってしまった。
その事実にシモンは見ていた手のひらを握りしめる。
「コーデリア、やはり君は僕に必要な人だよ」
シモンはコーデリアが自分にとって大切な人だと自覚した。そして、同時に守るべき人だと覚悟を決める。
もう既にコーデリアはシモンの弱点になってしまった。
前王だけを崇拝する前王原理主義者達にとっては格好の的になるだろう。
でも、もう前のように距離を取ることでコーデリアを守ることはしない。
今度こそコーデリアの隣で君を守りたい。
シモンは決意を新たにドア見つめる。そして、シモンの体はその場から消えたのだった。
その場所には探索魔法と移動魔法の残滓がキラキラと煌めいていた。
「「シモン王子!!」」
突然目の前に現れたシモンにアリアドネとアルバートは声を上げた。
シモンは自分の体を確認した。
よし! 洋服の飾りひとつも落としていないな。
既に自分のものした探索魔法にシモンは頷いた。
「まあ!! 探索魔法がお出来なったのですか!」
「はい、そのようです。この屋敷の中が透けて見えるような感じです」
「そう! そうなのよ! あっ、それよりもコーデリアは?」
アリアドネおば様を差し置いてコーデリアの後を追わせてもらったのだ。
シモンはコーデリアのことを説明すべく二人をソファに促した。
「誤解は解けました」
「そう、良かったわ」
にっこり笑ったアリアドネおば様はコーデリアとよく似ているな。
シモンがそんなことを考えているとアルバートがシモンの前に立ち塞がる。
「シモン王子、一体どうなっているんだ! 母上から君がコーデリアを好いていて古代魔法を攻略する為に学校を休んで特訓していると聞いていたのにミアにまでいい顔をしていたとは見損なったぞ!!」
アルバートの顔には嫉妬の表情が浮かんでいる。今まで気づかなかったがミアに気があるのかもしれない。いや、今はそんなことよりも学校に広まってしまった噂の収束が先だ。僕は何だってあの時不用意に頷いてしまったんだ。
「アルバート、少し黙っていてくれ」
シモンはアルバートを出て制するとその後ろにいるアリアドネおば様に頭を下げる。
「おば様、今回のことは僕の不徳と致すところです。大変申し訳ありませんでした」
「そうですわね。確かに軽率だったと思いますわ」
「ついては今の特訓を二倍、いえ、三倍の速度で進めてもらえませんか?」
「え?」
「アルバートもよく聞いてくれ。僕はミアにはなんの感情も抱いていない。初めは疎ましく思っていたくらいだ。もちろん最近はよく話すようになったし、まぁ友人くらいとは考えていたが決してコーデリアとは並ぶことはない」
「ほ、本当か!!」
アルバートが前のめりに確認してきた。やはりミアが気に入っているのか。しかし、今回の件でミアは危険人物だ。アルバートには悪いがコーデリアの近くには置いておけないな。潰しておくか……
「よく考えみてくれ。王子の僕の婚約者が怒ってしまったその場で次の婚約者の話を持ち出すようなものを王家、いや高位貴族の伴侶にするような人間がいるはずもないだろう?」
アルバートの瞳が不安に揺らめく。
「ミアは確かに容姿は可愛らしいがそれだけで王家や高位貴族の相手が出来るわけではない。貴族の模範になるべき存在なのだぞ。私達は」
アルバートがアリアドネおば様をチラリと見た。
「もし、あのような不用意な発言を人前でする者がいたら大変なことが起きるだろう。だから僕はミアとは絶対に婚約などしない」
「そ、そうか。……そうだな」
アルバートの瞳に冷静さを見て僕は再度アリアドネおば様に向き直った。
「だから、この悪質な噂は僕とコーデリアの仲睦まじい姿を見せることで払拭したいのです。それにはまず古代魔法を跳ね返す必要があります」
「そういうことですのね。わかりましたわ。それでは今から始めましょう」
そう言ってアリアドネおば様は庭に向かって歩き出した。僕はその後を追う。そして、未だに呆然としているアルバートの肩をポンっと叩いた。まるで今まで呪縛されていたようだったアルバートがハッとして僕の方を見た。
「恋愛は大切だけど、国や家も大切だと思わないか? 僕はたまたまコーデリアが公私共に最高だからラッキーだけどね」
その言葉にアルバートは黙って頷いた。
無理矢理失恋させてしまったようだが、諦めてくれ。君はコーデリアの兄なのだから。
シモンはそう心の中で言うとそのままアリアドネおば様の後を追ったのだった。
嬉しい……だと
たった今ドア越しに聞いたいつになく素直なコーデリアの言葉に我を忘れてしまった。気がついたら部屋の中に移動していたのだ。
華奢なコーデリアを横抱きにするとそのまま立ち上がった。
「細いな……。少し痩せてしまったか」
自分が原因でコーデリアが痩せてしまったことに罪悪感と歓喜が湧き上がる。
「重症だな」
コーデリアをベッドにそっと寝かせると自分の上着をそっと掛けた。
自分のせいで痩せてしまったコーデリアが愛おしくて堪らない。
それだけの影響力を自分が持っていることが嬉しくて堪らないのだ。
シモンはベッドに腰掛けるとコーデリアの美しい輪郭を指でなぞる。
「起きていなければ古代魔法に影響されないのか?」
コーデリアの顔を見て頬に触れても前のような嫌悪感は湧いてこない。
シモンは顔をコーデリアに近づけた。
「よく顔を見せておくれ」
最近は怒っているところばかりを見ていた気がする。
でも、本来のコーデリアは寂しがり屋で恥ずかしがり屋だ。
そのことを最近復活した文通で思い出した。
手紙から感じるコーデリアは幼い頃と何ら変わってはいない。
まぁ、もちろん何倍も美しくはなったが。
シモン王子はそっとコーデリアの唇を指でなぞる。
「うーん、悩ましいね」
今ここで奪ってしまいたいという衝動が湧き上がる。
「コーデリア、君の魅力は底なし沼のようだよ。いつも新しい君が見つかる」
シモン王子は名残惜しげにコーデリアの唇を撫でると顔をそっと近づけてその頬にキスを落とした。
「やっぱりキスは君の瞳を見つめてからだな」
そう言って立ち上がるとそのままドアに向かう。
その時ふと思ったのだ。僕はどうやって室内で移動魔法を使ったのだ?
シモンは自分の手のひらを見つめる。
コーデリアの声が聞こえたあの時、ドアの向こうの部屋の中が透けて見えた気がする。そして、誰もいない、家具もない空間に向かって移動魔法を使ったのだ。
「……探索魔法……」
あれだけ練習しても出来なかった探索魔法がコーデリアのたった一言を切っ掛けに出来るようになってしまった。
その事実にシモンは見ていた手のひらを握りしめる。
「コーデリア、やはり君は僕に必要な人だよ」
シモンはコーデリアが自分にとって大切な人だと自覚した。そして、同時に守るべき人だと覚悟を決める。
もう既にコーデリアはシモンの弱点になってしまった。
前王だけを崇拝する前王原理主義者達にとっては格好の的になるだろう。
でも、もう前のように距離を取ることでコーデリアを守ることはしない。
今度こそコーデリアの隣で君を守りたい。
シモンは決意を新たにドア見つめる。そして、シモンの体はその場から消えたのだった。
その場所には探索魔法と移動魔法の残滓がキラキラと煌めいていた。
「「シモン王子!!」」
突然目の前に現れたシモンにアリアドネとアルバートは声を上げた。
シモンは自分の体を確認した。
よし! 洋服の飾りひとつも落としていないな。
既に自分のものした探索魔法にシモンは頷いた。
「まあ!! 探索魔法がお出来なったのですか!」
「はい、そのようです。この屋敷の中が透けて見えるような感じです」
「そう! そうなのよ! あっ、それよりもコーデリアは?」
アリアドネおば様を差し置いてコーデリアの後を追わせてもらったのだ。
シモンはコーデリアのことを説明すべく二人をソファに促した。
「誤解は解けました」
「そう、良かったわ」
にっこり笑ったアリアドネおば様はコーデリアとよく似ているな。
シモンがそんなことを考えているとアルバートがシモンの前に立ち塞がる。
「シモン王子、一体どうなっているんだ! 母上から君がコーデリアを好いていて古代魔法を攻略する為に学校を休んで特訓していると聞いていたのにミアにまでいい顔をしていたとは見損なったぞ!!」
アルバートの顔には嫉妬の表情が浮かんでいる。今まで気づかなかったがミアに気があるのかもしれない。いや、今はそんなことよりも学校に広まってしまった噂の収束が先だ。僕は何だってあの時不用意に頷いてしまったんだ。
「アルバート、少し黙っていてくれ」
シモンはアルバートを出て制するとその後ろにいるアリアドネおば様に頭を下げる。
「おば様、今回のことは僕の不徳と致すところです。大変申し訳ありませんでした」
「そうですわね。確かに軽率だったと思いますわ」
「ついては今の特訓を二倍、いえ、三倍の速度で進めてもらえませんか?」
「え?」
「アルバートもよく聞いてくれ。僕はミアにはなんの感情も抱いていない。初めは疎ましく思っていたくらいだ。もちろん最近はよく話すようになったし、まぁ友人くらいとは考えていたが決してコーデリアとは並ぶことはない」
「ほ、本当か!!」
アルバートが前のめりに確認してきた。やはりミアが気に入っているのか。しかし、今回の件でミアは危険人物だ。アルバートには悪いがコーデリアの近くには置いておけないな。潰しておくか……
「よく考えみてくれ。王子の僕の婚約者が怒ってしまったその場で次の婚約者の話を持ち出すようなものを王家、いや高位貴族の伴侶にするような人間がいるはずもないだろう?」
アルバートの瞳が不安に揺らめく。
「ミアは確かに容姿は可愛らしいがそれだけで王家や高位貴族の相手が出来るわけではない。貴族の模範になるべき存在なのだぞ。私達は」
アルバートがアリアドネおば様をチラリと見た。
「もし、あのような不用意な発言を人前でする者がいたら大変なことが起きるだろう。だから僕はミアとは絶対に婚約などしない」
「そ、そうか。……そうだな」
アルバートの瞳に冷静さを見て僕は再度アリアドネおば様に向き直った。
「だから、この悪質な噂は僕とコーデリアの仲睦まじい姿を見せることで払拭したいのです。それにはまず古代魔法を跳ね返す必要があります」
「そういうことですのね。わかりましたわ。それでは今から始めましょう」
そう言ってアリアドネおば様は庭に向かって歩き出した。僕はその後を追う。そして、未だに呆然としているアルバートの肩をポンっと叩いた。まるで今まで呪縛されていたようだったアルバートがハッとして僕の方を見た。
「恋愛は大切だけど、国や家も大切だと思わないか? 僕はたまたまコーデリアが公私共に最高だからラッキーだけどね」
その言葉にアルバートは黙って頷いた。
無理矢理失恋させてしまったようだが、諦めてくれ。君はコーデリアの兄なのだから。
シモンはそう心の中で言うとそのままアリアドネおば様の後を追ったのだった。
0
お気に入りに追加
413
あなたにおすすめの小説

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?
こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。
「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」
そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。
【毒を検知しました】
「え?」
私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。
※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

【完結】悪役令嬢の反撃の日々
くも
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。
「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。
お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。
「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。


深窓の悪役令嬢~死にたくないので仮病を使って逃げ切ります~
白金ひよこ
恋愛
熱で魘された私が夢で見たのは前世の記憶。そこで思い出した。私がトワール侯爵家の令嬢として生まれる前は平凡なOLだったことを。そして気づいた。この世界が乙女ゲームの世界で、私がそのゲームの悪役令嬢であることを!
しかもシンディ・トワールはどのルートであっても死ぬ運命! そんなのあんまりだ! もうこうなったらこのまま病弱になって学校も行けないような深窓の令嬢になるしかない!
物語の全てを放棄し逃げ切ることだけに全力を注いだ、悪役令嬢の全力逃走ストーリー! え? シナリオ? そんなの知ったこっちゃありませんけど?

前世を思い出しました。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。
棚から現ナマ
恋愛
前世を思い出したフィオナは、今までの自分の所業に、恥ずかしすぎて身もだえてしまう。自分は痛い女だったのだ。いままでの黒歴史から目を背けたい。黒歴史を思い出したくない。黒歴史関係の人々と接触したくない。
これからは、まっとうに地味に生きていきたいの。
それなのに、王子様や公爵令嬢、王子の側近と今まで迷惑をかけてきた人たちが向こうからやって来る。何でぇ?ほっといて下さい。お願いします。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。
いつか彼女を手に入れる日まで
月山 歩
恋愛
伯爵令嬢の私は、婚約者の邸に馬車で向かっている途中で、馬車が転倒する事故に遭い、治療院に運ばれる。医師に良くなったとしても、足を引きずるようになると言われてしまい、傷物になったからと、格下の私は一方的に婚約破棄される。私はこの先誰かと結婚できるのだろうか?

成人したのであなたから卒業させていただきます。
ぽんぽこ狸
恋愛
フィオナはデビュタント用に仕立てた可愛いドレスを婚約者であるメルヴィンに見せた。
すると彼は、とても怒った顔をしてフィオナのドレスを引き裂いた。
メルヴィンは自由に仕立てていいとは言ったが、それは流行にのっとった範囲でなのだから、こんなドレスは着させられないという事を言う。
しかしフィオナから見れば若い令嬢たちは皆愛らしい色合いのドレスに身を包んでいるし、彼の言葉に正当性を感じない。
それでも子供なのだから言う事を聞けと年上の彼に言われてしまうとこれ以上文句も言えない、そんな鬱屈とした気持ちを抱えていた。
そんな中、ある日、王宮でのお茶会で変わり者の王子に出会い、その素直な言葉に、フィオナの価値観はがらりと変わっていくのだった。
変わり者の王子と大人になりたい主人公のお話です。

悪役令嬢は皇帝の溺愛を受けて宮入りする~夜も放さないなんて言わないで~
sweetheart
恋愛
公爵令嬢のリラ・スフィンクスは、婚約者である第一王子セトから婚約破棄を言い渡される。
ショックを受けたリラだったが、彼女はある夜会に出席した際、皇帝陛下である、に見初められてしまう。
そのまま後宮へと入ることになったリラは、皇帝の寵愛を受けるようになるが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる