悪役令嬢のお母様……でしたの

波湖 真

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第六章 婚約破棄にむかって

55、先生になる、、、なの?

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「シモン王子!!」
バーンを開け放った扉を潜るとシモン王子が膝をついて頭を下げていました。わたくしはその姿を見てわたくし自身の行動を省みる。いくら怒りに任せても王族相手に無礼だったわ。なんとか少しだけ冷静さを取り戻すと今度は頭を下げたままのシモン王子に話しかけます。
「シモン王子、それは一体なんなのですか?」
シモン王子は頭を下げたまま答えました。
「まずは僕の言動で婚約者であるコーデリアに大変失礼なことをしてしまい申し訳ございませんでした」
「それは婚約破棄のことでしょうか?」
「……それも含めた全てです」
あまりの潔さにわたくしは拍子抜けしてしまいます。
「シモン王子からことの経緯を話してくれますか?」
「もちろんです。但し、話した後おば様にお願いがあります」
「お願いですか?」
「はい」
「…………わかりましたわ。兎に角今はこちらにお座りくださいませ」
わたくしがそう言うとシモン王子は少し考えた後に立ち上がるとソファに腰を下ろしてくれました。
わたくしは扉の向こうでウロウロしている執事にお茶を頼むと目の前に座るシモン王子を睨みつけました。いくら怒りのままに行動することは控えたにしてもコーデリアがシモン王子の言動に傷ついたことは嘘ではないのです。
わたくしはティーセットが運ばれてくる間もずっとシモン王子を見つめ続けました。少し頬がやつれているようですが気にしてはいけませんわ。
全ての用意が整うと護衛も含めて全員を部屋から出ていくよう指示しました。
そして、誰もいなくなった部屋で改めてシモン王子に話しかけました。
「シモン王子、お話ししていただけますか?」
「……はい」
そうして話し始めたシモン王子の言葉にわたくしは驚愕を隠せませんでした。
まさかシモン王子が前王原理主義からコーデリアを守るために公爵家に来なかっただなんて!
コーデリアを本当に好いてくださっているだなんて!
コーデリアとの街中デートのためにミアに話しかけただけだなんて!
そのくらいまではわたくしはシモン王子の言葉を聞きながらもキュンキュンしていましたが次の言葉に心臓が止まりそうになりました。
「コーデリアを見ると何故か嫌悪感が湧き上がり思ってもみない言動をとってしまうようになったんです」
「シモン王子……」
「僕にも何が何だかわからないのです。城の魔法の専門家に聞いても駄目でした。ですが決して僕の意思ではないのにコーデリアを傷つけてしまうのです!!」
シモン王子はそう言うとポツポツと婚約破棄に至った経緯を話してくれました。
やはりコーデリアはワザとミアに意地悪したように感じました。そしてそれを見たシモン王子が古代魔法に未だに囚われている確信したのです。アルバートも暴力暴力といってたので叩いたり殴ったり突き落としたりしたのかと思っていたのにどうも手を引いた時にミアが勝手に転んだといっても差し支えない程度のことでした。それなのに婚約破棄まで話すのは正しく古代魔法の影響でしょう。
「あの……シモン王子」
「はい、なんでしょうか?」
「お父様に、いえ、国王陛下に相談はされなかったのですか?」
私は国王陛下であれば古代魔法を知っているはずだとシモン王子に尋ねました。古代魔法を知っていればあの言葉の影響は一週間程で収まるはずなのです。それなのに既に三ヶ月以上も影響を受けたままなのは解せません。
「しました。専門家からも王族にのみ伝わる古代魔法が怪しいといわれました」
「では、何故……」
「父は知らないそうです」
「え? 本当に?」
「はい、前王からこれからは必要ない物だと言われたと」
「お父様……」
全く!!! いくら古い魔法でも王家を渡すのですからきちんと引き継がなくてはならないのに!! お父様はそれを断ち切ってしまったのですわ。確かにあれは王族にしか効力はないかもしれませんが、コーデリアのように偶然口にしてしまうこともあるんですもの。きちんと引き継いで対応できるようにしなくては!
わたくしがお父様への怒りで手をギュッと握ると目の前のシモン王子がビクッとなります。
わたくしは一旦目を閉じて息を吐きました。お父様への叱責は本人にしてやりますわ。
「……そうですのね。では、シモン王子はどうされますか?」
わたくしがシモン王子の顔を見つめるとシモン王子もしっかりと見返して来ました。先程のような困惑した様子もありません。
「そこでおば様にお願いがあります」
「なんでしょうか?」
「僕にその古代魔法を教えてください」
「…………」
わたくしは少し迷いました。本来ならば現王が前王から説明を受けるべき内容だ。前王の娘であるわたくしが現王の王子にしてもいいものなのだろうか?
「父からも許可を得ております」
その時トントンとドアがノックされました。
「なにかしら?」
「国王陛下よりお手紙です」
わたくしが執事から手紙を受け取り中を確認すると今シモン王子が話した内容が書かれていた。
自分が今から習うよりシモンに直接教えてほしいと言う内容だ。
「……そうね。一応お父様にも確認しますが、大丈夫であればわたくしからシモン王子に説明いたします」
「よろしくお願いします。アリアドネ先生」
「先生だなんて……。それにこれとコーデリアのことは別ですわよ!」
「はい。今の状態から脱したら今度は僕の気持ちのままコーデリアと接することを誓います」
そう言ってシモン王子は再びわたくしの前に膝をついた。
わたくしはその様子を見て頷きました。先程のシモン王子の話しでは王子もコーデリアのことが好きと言うことですもの。魔法を解いてしまえば当初の予定通りコーデリアの幸せに繋がりますわ。
「そうしてくださると約束してくださいね。コーデリアは可哀想な子なんです。自らの意思ではなく暴言を言ってしまう癇癪なんですの」
「はい。分かっています。僕は本来のコーデリアのことも分かっているつもりです。どうか信じてください」
わたくしはシモン王子に手を差し出しました。悪役令嬢の母と攻略者が手を組むのです。強制力にも負けませんわ!!
がっしりと掴んだ手にわたくしは未来をも掴んだ気がいたします。
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